冬木市新卒ガス社員 作:菌糸類に脳を焼かれた海洋生物
クレーム対応の基本は最後まで話を聞き、誠実に受け止めること。今までのクレーマーは問答無用で襲い掛かってきたため、会話の余地がなかったがこの人は別だ。何を言ってるかは分からないが、対話が可能である。
であるならば、先輩に教えられた通り、まずは謝罪から入るのが無難だろう。大変申し訳ありません、お気持ちは分かりますので今はどうかご勘弁を』。社会人として刻まれたそれは、まるで魔術の詠唱が如き滑らかな速度で紡がれた。しかし、残念ながら火に油を注ぐだけとなった。
「我の気持ちが分かるだと?……クフフ、クハハハハッ!!!、愚か者もここまで来ると喜劇となるのだな。我が問うているのは貴様がどうソレを捉えているかだ!!!」
財宝の数は増え、闇を金色に彩る。この手の飛び道具を使う輩には的を絞らせないように動き続けることが、徹底指導されている。曲芸じみた動きをしつつ、何とか身を隠す。
「言い方を変えよう。我が聞きたいのは建前ではなく、本音だ。貴様には荷が重すぎる責務をこれからどう背負っていくのか?」
確かに自分は未熟だ。先輩のように多くの仕事を捌けるわけでもなければ、クレーム対応だってまともに出来ない。いつだって先輩たちに守られてばかりで、不甲斐なく感じることなんてしょっちゅうだ。このお客様も冬木で頻発するガス爆発についに耐えきれなかったのだろう。こちらに刃物を投げてくるのも理解できる。……心には心をぶつけるしかない。
「……ほう、ようやく出てきたか。でなければ、ここらを吹き飛ばしていたぞ。……それで、何か言いたいことがありそうな顔だな。我が許す、さぁ言ってみろ。」
「…………………………」
いったか?、最強のテンプレを使った謝罪構文……!!、自分の気持ちを込めつつ、相手にしっかりと謝罪ができる万能性……。頭を下げながら、相手の返答を待つ。頼む、頼むー(懇願)。
「……面を上げよ、貴様の思いは十分伝わった。」
キタコレ!!、初めてのクレーム対応にしては中々だったんじゃないか?先輩にも褒めてもらえるかも!!そう浮かれている彼に帰ってきたのは、剣の雨だった。次々と地面に突き刺さるソレに青ざめたようだ。
自分の渾身の謝罪が通用しなかったことに動揺を隠せないようであるが、目の前の王はそれ以上に怒っていた。
「……よもや、これ程とはな。我の手を煩わさせた挙句、出てきた答えがそれとは。クク、感謝しろよ雑種。そこまで盲目というのなら、我がこの手で見つけさせてやろう。」
瞬間、眩いほどの煌きが空に咲き、彼に向けて放たれる。再び飛び退くが、足に掠ったようなのか血が滴り落ちる。彼は初めて冷や汗をかいた。……このままだと、大怪我をするかもしれない。どこかズレているのはもはやご愛敬だ。そこで彼は気付く。『あれ?、これ正当防衛じゃね?』と。先輩にはまた迷惑をかけるかもしれないが、この際仕方ない。
「漸くやる気になったようだな。……遠慮はいらん、貴様の力を見せてみろ。」
Q、カスハラにはどうしたらいいですか? A、殴って解決しましょう。
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こちとら散々こき使われて、折角の休みだっていうのに……。丁寧な対応をしたにもかかわらず、攻撃をしてくるならば致し方なし。少々手荒な方法で帰ってもらうとしよう。大きく息を吸い込むと、地面が割れるほどの踏み込みをし、一気に駆け出す。その勢いのまま、頭に目掛けて拳を繰り出すが、金色の盾によって防がれてしまった。
「……ほう。」
古代ギリシャの王が何十万もの兵を押しとどめたソレが軋む。くっきりと拳の跡が残り、彼の手からは血が零れる。……硬いな、ならもっと速くいかないと。片足でトントンと跳ね、再び拳を繰り出す。 迫りくる剣の嵐を避ける彼を見ながら、王は愉快そうに嗤う。 姿は掻き消え、地面を踏み込む音だけが響く。それはあるバンパイアの少年が移動の際に使う『フリット』と呼ばれる技であった。吸血鬼の技能を見様見真似でアレンジし、自分の武器として運用する。文字通り、目にも止まらぬ速さが彼の唯一の武器である。
「……悪くはない、悪くはないが、ちと甘いな。」
寸分狂わぬ動きで拳を叩き込むが、同じ手が通用するほど易しい相手ではない。再度盾で防がれるも、すぐさま蹴りを叩き込む。何重にもある盾を次々と吹き飛ばしながら、王へと近づく。あと三歩といったところだろうか、其処まで来たとき、彼は時間をかけ過ぎたことを悟った。すぐさま離脱しようとするも……。
「間合いだ、たわけ。」
冷たい一言と共に、鮮血が噴き出す。何とか致命傷は避けたものの、そのスピードには陰りが見える。必死に黄金の剣を避けるが、高ランク相当の
(……この手応え。……ふん、人理も過保護よな。可愛い子には旅をさせよというのに、全く……。最低限の能力を有していることは分かった。)
王は拳が刻まれた金色の盾を見る。たった二発の拳を防いだだけでひび割れ、ほとんど使い物にならなくなってしまったようだ。少し騒ぎ過ぎたのか、人がやって来ている。愉悦に興じ、時を見誤ることがこの王にはしばしばあるのだ。
「アレはセイバーと……身の程を弁えぬ雑種か。我が愛しのセイバーに会っても良いが、ここで会うのは少々都合が悪い。……命拾いしたな、雑種。……だが努々、忘れぬなよ。貴様の命はもう自分のモノではないことを。」
そう言って、この場を後にする王。……血が地面に流れ、自身の服を濡らしていく。微かに自分を呼ぶ声が聞こえる。
「……確…こ……辺から、!!、……貴!!、……!!、しっ……り……ろ……!!」
「……シ……ウ…!!、……ここ……険……す!!……ッツツ、早……手……てを!!」
……頭が何故か痛む。守の脳内を巡るのは、亡き父との記憶。温かいような、冷たいようなよく分からない感覚に包まれながら、彼は意識を落とした。
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『……おや、起きてたのかい?』
起きてるも何も、俺は士郎より年上だ。遅い時間もへっちゃらだよ。こんな寒空に一体何やってたのさ。
『実は士郎と話をしていたんだ。』
珍しいね、じいさんは余り自分の事を話す人じゃないと思ってた。何の話?
『……そうだね、僕が憧れていた夢についてだよ。……守は何か夢とかあるかい?』
そう言われるとないな。……でも、俺は士郎やじいさん、藤ねえが元気でいてくれるなら何でもいいや。
『優しい子だね、守は。』
じいさんの夢は何なの?、もったいぶらずに教えてくれよ。
『フフッ、悪かったね。……僕はね子供の頃、正義の味方に憧れていた。』
正義の味方?、なんだかカッコいいね。まるで
『正義の味方はね、期間限定で大人になると名乗るのが難しくなるんだ。……誰かを救うということは、誰かを助けないということなんだよ。』
……でも、良い夢じゃないか。諦めるなんてもったいないよ。
『ありがとね、守。……実は士郎が代わりになってくれるらしいんだ。』
……そうか、士郎が。……うん、あいつならきっとなれるよ。だって俺の弟だもん。
『ああ、きっとね。……本当に安心した。』
でも、ちょっと心配だな。士郎って結構おっちょこちょいなところもあるから。
『ハハ、そうかもね。』
よし、決めた。俺は■■■になる。じいさんの言う通り、正義の味方は難しいんだろ?だったら、一人ぐらいは正義の味方の『味方』が居てもいいんじゃないかなって。……もし士郎が危なくなったら、■■■として助けてやるさ。
『一人ではダメでも、二人ならか。……そうか、そうだね、味方が居てもいいかもしれないね。素敵な夢だと思うよ、守。』
……俺はお兄ちゃんだから、アイツが苦しむようなことはなるべくやらせたくないんだ。正義の味方はアイツに任せて、俺は裏から見届けられたら、それで十分だ。
『随分と大人な考えを持ったんだね。子供の成長は早いなぁ。……そうだね、士郎だけってのも不公平だから、守にも何かプレゼントをしないとな。』
俺の知らない間に士郎に何かあげてたのかよ。ズルいよ、じいさん!!
『フフッ、悪かったって。……本当に今日はいい夜だ。こんなにもいい子達が僕の下にいるとはね。守には僕の願いを託すよ。……頼めるかい?』
どんとこいだ!!じいさんは何でもかんでも一人で抱え込みすぎなんだから、たまには俺を頼ってよ。家族なんだから。
『……ありがとう、守。……僕の……僕の最後のお願いだ。……□□□を助けてくれ、頼んだよ、守。』
あの時、俺はじいさんに何を託されたんだっけ。何になろうとしたんだっけ。……思い出せない、思い出せないけど、俺はこれを知らなきゃならない。そんな気がする。『衛宮守』という存在を形作る芯の部分があの夜あったはずなんだ。青年は自身の原点を想起する。亡き父との誓いと自身の夢。王との会合によって、その記憶の扉は開かれた。間もなく、彼は己の在り方を知るだろう。それまでのほんの僅かな刻、嵐の前の静けさのような穏やかな時間が無くなろうとしていた。
衛宮守
切嗣との誓いを思い出しそうな様子。人理君のサポートがなければ、木っ端微塵になっていた模様。初めてのクレーム対応は失敗。
金ピカ
クレーマーとかよく分かんないけど、多分部分的に合ってる。最後の守くんには少しワクワクした模様。なお滅茶苦茶、手加減していた。
じいさん
自身が抱えていた心残りとプレゼントを守に託した。衛宮守という存在を成す始まりがこの夜だった。
フリット分かる人いるかな……