冬木市新卒ガス社員 作:菌糸類に脳を焼かれた海洋生物
生まれて初めて感じる激情に身を任せ、目の前の男に向き合う。あるのは純粋な殺意のみであり、向けられるプレッシャーに言峰は静かな笑みを浮かべる。
「……嗚呼、何とも心地良い眼差しを向けるものだ。君も少しは笑ったらどうかね?」
彼の言葉は全て届かない。脳内で殺害手段を構築し、速く正確に出力することのみが最大の命である。弾丸を込め、黒鍵を繰り出し、多次元的な戦術を展開する。空を駆け、一歩、また一歩と間合いを詰め、その命を刈り取るように虚実を混ぜた致命を叩き込もうとするが、落胆の表情を以て、全てを防がれる。
「代行者仕込みの黒鍵に、あの男譲りの銃火器か。……私は貴様にカタログスペックを見せろと言った訳ではないのだがな。……基本が出来ていようと、その程度では想定の域を出ない。」
シエルとの特訓は無駄ではない。確かに基本的な扱いは習得し、実践を通して、銃の当て感も養われた。だが、いずれの武器も先達には些か劣る。シエルより、切嗣よりも未熟。代行者として一線を駆け抜けてきた言峰には随分と拍子抜けするものだった。
必死に食らいつこうと機械的に仕掛けるがその悉くが防がれる。我慢の限界に達した言峰が渾身の一撃を守に撃ちこむ。スピードもあったせいか、体に深く拳がめり込み、壁に叩きつけられた。想定以上の弱さに言峰は落胆を禁じ得ない。
「……何ともつまらん、幕切れだ、衛宮守。継ぎはぎだらけの信念と技でこの場に立ち、あまつさえ守るべき者の前で無様を晒している。」
守は何も答えない。沈黙が辺りを満たす。
「期待された責務も、宿命も貴様は何も果たせない。はぐれものとして存在を許された理由すらも貴様は放棄しようとしているのだ。」
淡々と紡がれる言葉は守の事実を示していた。彼がこの世界にいることが許される理由と価値を。意識は微睡み、過去が甦る。誰もいなかったあの頃へ。
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物心ついたときから、どこか自分がいてはいけない存在だと思っていた。皆と見た目は同じだけど、決定的に何かが違うと感じていた。
じいさんに俺と士郎は拾われた。十年前の事故の前の記憶はないけど、きっと同じような思いを抱えていたと思う。男の勘は当てになるか分からないが、俺と士郎は多分兄弟だと思う。大事なのは俺は本来、此処にはいなかっただろうことだ。……あそこで死んでいるはずの存在が俺なんだ。
そこから続く人生は空白に等しかった。当然だろう、居ないはずの人間に用意されたエピソードなど神が描くはずも無いのだから。誰かに心を奪われること、何かに熱中することもない。ただ其処にあるだけ。いなくても構わない程度の存在が俺だった。
じいさんや士郎には感謝してる。この二人だけが俺を意識し、面倒を見てくれたからだ。彼らがいなかったら、何処かで野垂死んでだろうな。学校も進級できるようには過ごし、迷惑をかけないために就職を選んだ。少しでも金を残して、二人に幸せになってほしかった。……士郎の料理が食べられなくなったのは痛かった。
だが、社会は甘くない。空白の人生を過ごし、今後の展望が見えない者を雇うところなどある筈がなかった。誰かの捨て石になるのでもいい、使い潰されてもいい。そう思い片っ端から応募したが、濁流のようにお祈りメールが届いた。
まぁそうだろうなという気持ちはあった。俺でもこんな不気味な奴は採らないと分かっていたからである。……それはそれとして、一人の人間(であるつもり)だから、それなりにショックも受けた。
……もう死のう。何処かに臓器を買い取ってもらって、全部士郎の財産にしてもらおう。アイツは俺がいなくても生きていける。……明日どこか探してみよう。そう考えた時だった。
見れば、前に女の子が倒れているではないか。それも何かハァハァ言ってる集団に。よく見ると目も血走ってるし、完全に事案である。真夜中に近い時間帯に、これは流石にまずいだろう。でも、部外者が立ち入ってよいものか。考えているうちに、声が聞こえた。
「……誰か助けて。」
知覚するよりも早く、体は動き出していた。周りが彼女に覆いかぶさるよりも速く、体を抱えていた。最初に思った感想はとんでもなく軽い。中身が何にも入ってないんじゃないかってぐらいだった。そして、鼻をくすぐるのは嫌というほど嗅いだ血の匂い。十年前に辺りを満たしたもの。
取り合えず距離を取ろうと思ったのも束の間、完全に囲まれていた。涎を垂らして気持ち悪いし、何よりこの子の体に障りかねない。力を込めて、足を踏み出すと一歩が百歩のごとく、周りを置き去りにした。こんな力があったとは自分でも信じられないが、しつこい輩を押し退け、少々強引にその場を切り抜けた。
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そうこうしてる間に彼女の目は覚めており、お礼を言われた。……昔から人と話すことは得意ではないので若干口ごもってしまった。でも、面接で鍛えたからマシになってるでしょ!!!!(成果ゼロ)
驚いたのは彼女が年上の存在だったことだ。外国の人っぽいが、若見えがすごいということなのだろう。
去り際、うちの会社に来ないかと言われた。憐れみで言ってるんだったら帰ろうと思ったが、どうやら本気らしい。見込みがある、人手不足であるが理由らしいが、流石に即決は無理だった。
帰って、士郎にお金を渡したいから口座を教えてというと訝しんだのか、そのお金の出どころを聞かれた。体を売る予定と聞くと、電話越しに怒られ、翌日、家に来てまで怒られた。
本当に何もない俺ができる事なんてこれしかないが、士郎にも泣かれてしまったので、咄嗟にガス会社に勤めることが決まったー(大嘘)というと大喜びした。手料理をご馳走してくれ、引くに引けなくなり、職場を見に行きたいとか言い出したので、是が非でも彼女を頼らなくなってしまった。
厚かましくも必死の思いで彼女にお願いすると、意外にも了承してくれた。美人で優しいなんて最高じゃんと思い、士郎にも挨拶をしていた。何でも『ご家族の方への挨拶は大事ですもの(暗黒微笑)』らしい。しかし、良くも悪くも俺の平穏は此処までだった。
俺はガス会社というものを舐めていた。もちろん、どの仕事も大変であり、敬意をもって接してるつもりだ。しかし、冬木のガス会社は新入社員の教育からレベルが違った。となりの人は手品なのか手から火を出していたり、空中を歩いている人もいた。俺はというと少し足が速いだけで自己紹介のとき、特技が消えて泣きそうになった。社会の荒波を痛感した瞬間だったと思う。
先輩曰く、『マジシャンや曲芸師の人じゃない?』らしい。世間には疎いので分からないがガス会社には様々な人が集まるのだろうとしみじみ感じた。そこからは形容しがたい地獄が待ち受けていた。先輩直々に指導を頂き、全身の肉をそのまま入れ替えるようなぐらいの訓練を受けた。ひたすら不審者の対処訓練をし、毎日ボコボコにされた。比喩でも何でもなく宙に浮き、壁にめり込む毎日だった。あの小さい体にそんな力があるとは思えないが、本人の言い分では非力な方らしい。絶対嘘だ。
そこから、まぁ大変な日々が続いた。夜まで先輩と働いて、訓練して、ご飯を奢ってもらう。先輩は濃い目の味が好きなのか、ラーメンを作った時とても嬉しそうにしたのを今でも覚えている。休日は少なかったが、周りの人にも先輩にも随分とお世話になった。普通の人間として、生きられた。先輩は空っぽでなければならない俺に色彩を与えてくれたんだ。奇妙な職場で、怖いことも沢山だけど、俺にとってはかけがえのない場所だ。
何時の間にか見知った人が後ろにいた。守の走馬灯を見た彼は呟く。
『守の惚気を聞くのは初めてだな。僕と居た時は良くも悪くも、透明な感じがしてたから意外だったよ。』
……久しぶりに会ったセリフがそれは恥ずかしいな。それに惚気じゃない、感謝だよ。
『フフッ、かわいいところもあるんだね。』
……じいさんは何時からいたの? もしかして最初から?
『
俺、勝てるかな。正直、イメージが浮かばないや。……先輩を失うのが怖いし、負けるのも怖い。
『今のアイツは人というよりは死徒に近い。それも相当に格の高いものだね。聖杯の泥も取り込んでいる器に色んなものが混じっているから、悪性の塊に等しい。……純粋な性能差で勝つのは厳しいだろうね。』
負けたらどうなる?
『皆死ぬ。守も、君の先輩も、士郎も。……あの男はね、執念深いんだ。君に僕を重ねて、イリヤを使って、願いを叶えるだろう。』
遠い眼をして、切嗣は語る。
『それは十年前の冬木の再来。何のためにアレを望むかは分からないけど、確信を持って言える。』
俺みたいなのに皆の命運が掛かってるのか。……何だか申し訳ないな。ぽっと出のよく分からない奴に締めを任されるなんて。
『……僕に言った話、覚えてるかい?』
……ああ、覚えてる。
『悪の敵になりたいなんて、びっくりしたさ。口数少ない守が、珍しく話し出したからね。……僕はね、嬉しかったよ。守が『正義の味方』の味方になるんだって言ってくれたとき、許された気がしたんだ。』
………………………
『僕の人生は終わってみれば何の意味もないものだったのかもしれない。身に余る理想を掲げ、家族すら救えず、こうして争いは続いている。……でも、守や士郎がいてくれた。子供の頃、憧れた正義の味方になってくれた。』
切嗣は目を合わせて言う。
『守は空っぽなんかじゃない。立派な人間だ。僕を救ってくれた英雄だ。……君もそう思うだろ?』
そう言うと渋々といった様子で、影から赤い外套を着た男が現れる。
『……やれやれ、全く貴方にはかなわないな。』
!!、君は……。そうか……、来てくれて嬉しいよ。
『昔から兄者は手が焼ける。人の心配をする前に自分の事を優先しろとあれ程言ったではないか。』
そんなところも変わらないんだね。……随分と大きくなっちゃって、何だか感慨深いよ。
『人生なんてそんなものさ。辛いことも嬉しいことも時に流されていく。一度負けたぐらいで、諦めるのは勿体無いよ。』
切嗣は優しく守に語り掛ける。そして、弓兵は拳を突き出す。守は同じように拳を合わせ、彼の目を見る。
『餞別だ、私が覚えている限りの兄者の姿で叩き直す。何、心配するな。贋作でもこの記憶は紛れもない真実で、私の理想なのだから。……頑張れよ、兄さん』
世界は綻び、崩れていく。彼にもう迷いはない。ガラスのように崩れ去る世界で、二人は最後まで守を見つめていた。
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動かなくなった骸が再び動き出した。その事に、言峰は笑みを浮かべた。そうだろうとも、あの男との時を越えての再戦なのだ。殺しただけで、死んでもらっては困る。
「……おはよう、気分はどうかね?」
……顔見知りに会ってきたよ。何処かナーバスになってたのかな。きっと会社の休みが少ないせいだ。
そう冗談交じりに守は呟く。そこにさっきまでの気負いはない。友人に会ったかのように言峰と向き合う。今、此処に言葉はいらない。闘争こそが唯一の充実であり、会話である。
大きく息を吸って、吐く。そして、冴えた頭で詠唱を始める。
「
コンテンダーに弾を装填し、言峰に放つ。だが、それはもうすでに見た。衛宮切嗣という男の事は誰よりも知っている。それを楽々と躱し、間合いを詰める。守は左手のマシンガンで弾幕を作りながら、刹那の猶予を作り出す。言峰が振り払う間に、黒鍵を構え、肉弾戦に持ち込む。今の彼にそれは悪手に思えたが、言峰はその変化に驚きを禁じ得ない。
(!……この力、先程とはまるで別人だ。どうやら私と渡り合える程度には仕上げてきたようなだな。嗚呼、いつだってお前は、
紙一重で言峰の八極拳を躱し、黒鍵と銃で完全に殺し切る隙を作り出そうとする守。絶対的な強さを持つ先輩が敗れたことに、違和感を覚える。
(確かに強い……!! 肉弾戦では押され気味だし、こちらの手札が割れているのもキツイ……!! ……だけど、この程度で先輩が何も出来ずに負けるのはいくら何でもおかしい。何か切り札が神父にある筈だ。)
言峰綺礼は衛宮守の手札をほぼ把握している。切嗣から一時的に継承した魔術回路、代行者仕込みの黒鍵、おそらくは神秘殺しの魔弾。初見殺しとして運用すべき札の殆どが今の彼には通じない。身を以てその脅威を体験しているからだ。だからこそ、強気に攻めることができる。
「……懐かしいものをお見せしよう。」
手を掲げ、悪性の発露を言祝ぐ。それは十年前、冬木を包んだ聖杯の泥。人類を滅ぼすために形作られた純粋な悪意であり、死徒とも混じった影響か、不協和音のように全てが歪に感じられた。言峰はため息を吐きながら言う。
「人理というものはつくづく厄介だ。悲願を実現する準備が整ったのも束の間、盤外から駒をそろえてくるとはな。もはや反則というものだ。」
これ以上、何かをさせまいと攻撃の密度を強めるが、涼しい顔をして全てを流し切る。虎の子の起源弾を至近距離で撃ちこむ。それを避けようともせず、頭に真っすぐ吸い込まれた。だが、額から流れるのは血ではなく、黒泥だった。
「対策していないと思ったか? 何よりも面倒なのはその弾丸だ。……昔、それに一杯食わされたものでね。」
黒鍵を携え、渾身の力を以て、言峰に突き刺す。しかし、異常なほど堅くなった言峰には素手で掴み取られ、体に右こぶしがめり込む。嫌な音を立てて、壁に叩き込まれた。守の腹には拳の跡がくっきりと刻まれており、口からは滔々と血が零れる。言峰は微かな充実を覚えたがその時間は既に無くなろうとしていた。
(過去の未練はこの手で断ち切った……。あの男との再戦も果たし、こうして勝利を収めた。あとはあの娘を使って、願いを叶えるだけ。)
だが、そこにはどこか消化不良のような感覚が残っていた。因縁の敵にリベンジを果たし、あと少しで願いが叶う。それなのに、己の心は空っぽだ。……あるはずの充実がそこにはない。
「投影開始」
後ろから言の葉が紡がれる。もう立てないはずの彼から、最後の魔術が唱えられる。それは弟からの餞別だった。体は理想に殉じて再構築され、
……情けないな、皆に助けてもらってばかりだ。俺なんかの為にココまでして。
「まだ立ってくれるのか……。そうか、そうだな、此処からだとも……!!!」
瞬間、守の姿がかき消える。後から遅れて音が聞こえ、言峰の懐に拳を叩き込んだ。無論、その巨上の如き堅牢さは健在だったが、泥で作られたからには微かながら罅が入っていた。その力に守は驚きつつも、彼らの理想の高さに心から笑う。
一体、俺の事を何だと思ってるんだ?、魔法使いか何かだと勘違い違いしてない? ……でも、悪い気はしないな。……見せてやるよ、言峰綺礼。俺の全部を。
継ぎはぎだらけの守が唯一誇れるもの。それはフリット、異なる世界のバンパイアたちが使う超常の技だった。何千、何万と繰り返し、魂にまで刻み込まれたそれは本場の吸血鬼たちと比較しても遜色ない程にまで磨き上げられていた。初めて見るそれに言峰は自身を殺す技だと直感する。
(速い……、それも尋常ではない代物だ。何かしらの因果が彼を結んだのか、最後に出てくるのがそれとはな。……だが、先程から感じるこの違和感は一体?)
彼らは今、運命の分岐点にいる。どの道を選ぶかは彼らの手によって委ねられている。しかし、少しその流れに
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最初に気付いたのは守だった。言峰の動きが見覚えのあるものに変わっている。それは次第に膨れ上がり、この空間には虚空を蹴る衝撃が二つ響くようになった。二人とも満面の笑みを浮かべて、致命の一撃を狙いあう。
それはフリットの応酬。この世界では決して実現しなかった光景だった。恐怖の大王を決める際に、最期に行われた戦い。かつて二人の少年はこの流れに身を任せた。影すら置き去りにし、何度も何度も何度も地面を蹴る。フリットは地面を蹴るというよりはを滑るという感覚に近い。よりギリギリに奈落に堕ちれば堕ちるほど、運命はどちらかに近付く。泥の浸食をさらに進め、言峰はより底を目指した。誰も追いつけない領域へと。
独楽がぶつかり合うかのごとく、二人は交差する。幾千万の重なりを経るにつれて、体は削れ、場を赤と黒に染めていく。だが、そこには歓喜と感謝があった。歪な二人だけの空間が。
ありがとう、言峰神父。俺を、この世界に呼んでくれて。今はただ、貴方に死を。
「ありがとう、衛宮守。私の前に立ってくれて。今はただ、君に呪いを。」
心が叫ぶ。この男には負けたくない。この男には最後まで向き合いたい。命も、覚悟も、信念も、想いも全部使って勝ってやる。まだだ、こんなもんじゃない。
「
魔術回路が破裂する勢いで、術式を回す。シエル先輩にやった物体への時制関与を自身に適応……!!! じいさんが俺につけたセーフティを全部取っ払って、全部出力に回せ……!!!
「フフッ、まだ来るか。良いだろう、来い……!!」
弓兵が作った理想の体が崩れていく。腕は綻び、身は赤色に染まっていく。それでも倒れる理由にはなり得ない。俺を信じてくれた人たちの為に、守るべきもの為に、目の前に立つ貴方のために。せめて、自分の全力を尽くしたい……!!!
(……嗚呼、愉しい、愉しいよ、衛宮守。道理も理屈も関係ない、二人だけの空間が今はただただ心地いい。……生は、生きるとは血と闘争を以て実感するものらしい。)
守の魔力回路は八本。時制関与を使うたび、それらを使い潰し、何とか言峰と拮抗していた。その回路も残り一本。これで仕留めきれなかったら、次はない。シエルに貰った黒鍵を構え、言峰の目を見る。血がしみ込んだ黒鍵からは彼女からの激励があるような気がした。
「……次で最後か。早いものだな、時の流れというものは。ずっと続いて欲しいというものに限って、過ぎ去るのはあっという間だ。」
そうですね、何だか名残惜しい感じがしなくもないです。……もう一度、一緒に麻婆食べたかったです。
「……フフッ、私もだよ。」
回路に臨界寸前まで魔力を詰め、発散させる。片腕は粒子となって溶けゆき、理想もほつれつつある。それでも前へ、最期まで相手に応えるために。黒鍵を固く握りしめ、狙いを絞る。対する言峰は半身に構え、確実に人体を破壊するために拳を握る。
地響きが起きるほどの踏み込みから、ズンッと重い音が響く。体は掻き消え、フリットの世界へと二人は飛び込む。周りの景色が異世界のように流れ、濁流の中にいるような負荷が身を蝕む。ギシギシと軋む体は化物を殺すよう、剣を振るっていた。暴風のような黒い拳が身を過ぎり、粘土の中に手を入れたような感覚を覚えた。
「……ちっぽけな心臓だ。」
生暖かいような、冷たいような、そんな感じがした。それでも、確かにそこには一人の人間の熱が感じられて、自分が命を奪ったことがじわじわと実感できた。
「……ああ、やはり、君は強いな。」
……俺だけの力じゃないです。
「……だが、それでも君の勝ちだ。……?、何故、そんな顔をする? 君はやるべきことはやったに過ぎない。」
……本当に分からないんですか。……ここまで戦って、そんなことも分からないんですか。
「……ああ、わからないとも。……だが、これでいいのだよ、私も君も。……きっと、そういう風に私達はできている。」
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「……自分の人生がどのようなものかは最後に分かるとどこかで聞いた。……今なら分かるとも。本当に愉しくて、愉快な一生だった。……願いは叶わなかったが、悪くない、悪くない気分なんだ。」
……最後、わざと外したんですか。
言峰は何も答えない。ただ守の目を見つめて、いつものような笑みを浮かべるのみ。彼の脳裏にあったのは守と自分がよく似た彼女が語り合うあの日の姿で……
「……さてな、ご想像にお任せしよう。」
……勝ったのに納得しませんね。意外と負けず嫌いなんですか?
答えは返ってこない。寂しいような、悲しいようなよくわからない気持ちで一杯になる。きっと、これでよかったのだ。きっと。そう考えてもなぜか気持ちは収まらない。
……それでも俺は奪った分まで、前に進まなければならない。皆が笑える結末に辿り着けるように。
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煌びやかな宝石が立ち並び、大小さまざまな石には多くの結末が映し出されている。今しがた終わったものの一つに金髪の彼はため息をつく。
「……色々とこちらの世界を弄られるのは、運営上に支障が出る。勘弁願いたいものだな。」
そこへコツコツと一人の男が歩いてくる。頬が裂けるのではないかというほど口角を挙げ、黒縁の丸い眼鏡を掛けている。手には心臓の形をした時計を持ち、大きく腹の出た初老の男性は不気味な顔をして言う。
「久々に面白いものが見れると思ったら、随分と残念な邪魔が入ったものだ。風情というものは君は知らないらしい。」
「生憎だが、好き勝手出来るほど、こちらの世界は甘くない。……随分と趣味の悪い終末を貴殿は描くらしいが、私にそのような趣向はない。」
ばっさりと彼の言葉を切り捨てる。フリットに吸血鬼など、縁が出来ているとはいえ、易々と第四の壁を越えられるほど落ちぶれたつもりはないが。そう訝しむ元帥の様子を感じ取ったのか愉快そうに喋る。
「何、君の世界の運営法は完璧だったとも。並行世界の証明と運用?だったかな、非常によ~く出来ていた。芸術的とさえいっていい。」
「……それで?、何が言いたい?」
面倒くさそうにしながらも核心の答えを聞き出そうとする元帥。その威圧と視線は冷たく、老人に向けられていた。
「この世界は
運命の擬人化ともいえる彼には、第四の壁など関係ない。滅亡と終末を好む災害のような彼はその結末に舌打ちする。
「しかし、何ともくだらない終わり方だな。あのような出来損ないにせめて味のあるバットエンドを持たせようとしたのに。君は筋金入りのロマンチストなのかね?」
「……否定はしない。だが、貴殿の成すことは我々にとって余計なお世話以外の何物でもない。そんなザマだから、息子たちに出し抜かれたのではないか?」
手元の貴石には、二人のバンパイアの少年が辿った結末が映っていた。運命に抗い、その結末を否定した勇気ある者だ。意趣返しとしたその言葉に老人はこれ以上ない程、激高する。
「貴様ァ、よくも言ってくれたな……!!! アレはダレンが愚かな選択をしたせいで……!!! 私の息子でありながら、滅亡を拒むとい」
「話が長い。」
瞬間、老人の姿は跡形もなく消え、元帥一人だけが残った。厄介な訪問者を送り返したことに肩の力を抜きつつ、先程見た吸血鬼の少年達の結末に嘆息する。
「理不尽に人間が屈することなどない。貴様が幾ら救いのない結末を作ろうとも、人が希望を捨てることなどないのだ。……万能の力を持ちながら、そんなことも分からない貴様には彼らの覚悟など理解できないだろうがな。」
そして、元帥は手元の宝石を再度見つめる。はぐれ者の彼が果たしてどのような結末を迎えたのだろうか。その光景を見た時、翁は静かに笑っていた。
衛宮守
十年前、冬木で死んでいたはずの少年。彼を構成する全ては継ぎはぎだらけで、全てが偽物だった。しかし、正義の味方による一時的な理想の投影により、贋作らしいエンドへ向かうことができた。
言峰綺礼
死徒に聖杯の泥に色々取り込んでしまった結果、めちゃめちゃ強くなった。首を切っても死なないが、性質が
願いは叶わず、何者かも分からなかったけど、これでいいと言える終わりを迎えられた。どれぐらい堅いかというと異星の死徒戦の言峰ぐらい。殺しても死なない。
正義の味方
俺が考える最強の兄貴を投影した。死んでも死なないし、絶対に諦めない。たったそれだけ。それこそが彼が憧れた兄の姿だった。
魔導元帥
石で観戦してたら、予想とは違う展開に引っ張られて、面倒事ということを察知した。案の定、部外者がこちらに来ており、解釈違いだったのでお帰りしてもらった。
デズモンド・タイニー
運命の擬人化ともいえる存在。面白そうな戦いを見つけて、自身の好む結末にしようとした。しかし、元帥との運命力綱引きに負けて失敗。綱引きに勝つと強制的にバットエンドになる。ダレンのことをいじられてぶち切れ。作者の小さい頃のトラウマ。
来月の魔法使いの夜、マジで楽しみ。キャラしか知らないからどんな話なのか、待ち切れない。最近、嫌なことが沢山あったけど、何とか型月のおかげで生きていけます。次回、最終回です。