あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】 作:ゼリ_Xerionic
二人はマリナの教会から出て、 今や人でごった返す街を抜けていく。エスタがリースの手を引いて歩き、 喧騒の声に囲まれながら、 アッシェンブルクで最も静かな場所へと辿り着いた。
冒険者の食堂。
冒険者のギルドの事務所に隣接し、 安い食事を提供するが、 味もそれ相応に安っぽい。
普段なら金欠の冒険者たちで溢れかえっている。 アッシェンブルクの冒険者はそれほど多くないはずなのに、 ここはいつも人が絶えない。
――ただし、 今は違う。
鉄蜂討伐作戦のため、 ほぼ全ての冒険者が街から出払っている。 だからこそ、 ここは作戦を練るのにぴったりの場所だ。
エスタとリースは、 自分のトレイをテーブルに置く。 エスタの碗に入った泥のようなスープが、 香ばしい匂いを放つ。 だがリースは知っている。 これは罠だ。 警告したのに、 エスタは聞かない。
「うわっ!!」
スプーンを一口入れただけで、 むせ返る。 リースは慌てて水のグラスを差し、 彼女の背中を大きく撫でる。
スープの次はパン。 しかし白い中身を手で裂くと、 砂のように崩れ落ちる。 ここを初めて訪れる冒険者にとって、 悪夢のような記憶を刻む食事だ。
「僕、 警告したよね」
エスタは唇を尖らせ、 涙目で目の前の少年の皿を見つめる。 ソーセージ、 燻製肉、 干し肉を煮込んだもの、 そして煮くずれた野菜。
「少し分けて……ね」
エスタの声は子猫の鳴き声のように甘く、 頬に手を当てて、可愛い「ネコの手ポーズ」を する。
だがリースの視線は、 優しさなど微塵もなく、 昨夜の勇敢で自信たっぷりな女性の面影から信仰を失いつつある男の目だ。
そして彼は自分の皿をエスタに滑らせ、 立ち上がる。
「ちょっと、 どこ行くのよ!!」
彼女が叫ぶ。 リースは振り返って答える。
「追加で買ってくるよ」
それを聞き、 エスタはため息をつき、 頰を膨らませて待つ。 リースが戻るまで。
「あなた、 本当に何も知らないんだね」
彼女は大声で文句を言い、 リースが差し出した皿の食事に取りかかる。 向かいの彼は眉をひそめて彼女を見つめるだけ。
「ところで、 ルナリス女神の像はどこにあるか知ってる?」
皿が空になると、 リースが尋ねる。 エスタは肉の皿から顔を上げ、 口の中のものを急いで飲み込んで答える。
「一番近いのは、 あのサブボスと戦った洞窟よ」
リースは思い出す。 石の隙間から紫の光が閃き、 古風な衣装の女性が出てきた。 彼女こそが……。
「でも、 私はあそこには行かないわ」
エスタは肩をすくめる。
「そうだね。 あそこに行ったら、 キャンプを張ってる連中と出会うかも」
リースは顎に手を当てる。 エスタの言う通り。 出会ったら任務に参加せざるを得ず、 退却すれば逃亡者扱いで罰金だ。
「他に場所はないかな?」
目の前の少女は勝ち誇ったようにくすくす笑い、 チェスの勝者みたいな顔をする。
「ガイドブック、 えっと、 家系の記録によると、 街の南の沼地の先、 古い教会の廃墟と古い井戸があるわ。 そこに行きましょう」
今日三度目の「ガイドブック」に、 リースはエスタが何かを隠しているのではないかと疑う。 聞きたいが、 彼女の知識に頼っている今、 聞けば離れられるかも。 なので、 保留だ。
「でも僕、 装備がないよ。 ギルドもモンスターと戦わせてくれないし」
「それは簡単! 私が何とかするわ!」
エスタは立ち上がり、 いつものようにリースの同意を待たずに引っ張っていく。
午後の冒険者のギルドは空っぽだが、 向こう側からペンが紙を削る音が響く。 エスタは明るい声で受付カウンターに近づき、 受付嬢が慌てて対応する。
「南の沼地方面のクエスト、 なんでもいいわ」
「クエスト?」
受付嬢は首を傾げる。 「クエスト」の意味がわからない。
「あっ……依頼のことよ」
「ああ、 依頼ね」
そう言って小さな紙の束をめくり、 一枚を取り出す。
「おお、 これ毒トカゲの皮集めクエストじゃない!」
エスタが大声で喜ぶ。 だが横で見るリースは息が詰まる。
毒トカゲは体長三~五肘の大型トカゲ、 三~五匹の群れで、 毒を吐く。 致命的だ。
「でも、 少し手伝ってもらえる?」
エスタはもう一度口を開き、 銅級のタグを見せる。
「前の作戦で私の武器が壊れたの。 権利で短剣と円盾を追加で借りるわ」
短剣と円盾。 ギルド見習いの標準装備。 たいてい自衛用で、 上級者は他の武器を使う。
今も使っているのは、 リースただ一人。 受付嬢にバレないよう祈る。
――もちろんバレた。 しかも視線を向けられ、 リースは慌てて目を逸らす。
彼女はリースとエスタを交互に見て、 いたずらっぽく微笑む。 カウンターから出て後室に行き、 鉄の円盾と短剣をもう一本持ち、 エスタではなくリースに渡す。 微笑みとともに。
「はい。 あまり悪戯しないでね」
柔らかい声でからかい、 小さく笑ってカウンターに戻る。
「あははは、 始まる前からバレちゃったわね」
エスタが追いつき、 恥ずかしげもなく笑って誤魔化す。 意味のわからないリースは乾いた声で言う。
「だって、 誰も短剣と円盾なんて使わないよ」
「じゃ、 行こう」
「うん」
少年少女はギルドを出る。 二階の窓から一つの視線が追う。
街南の沼地は不潔で、 毒虫や汚物の巣窟。
リースとエスタは湿った道を夕暮れまで進み、 クエストのモンスターが出るはずの地点を遥かに超える。
リースは立ち止まり、 左右を見回して言う。
「ここもか……」
「何が?」
「動物がいなくなってる」
エスタも止まり、 周囲を観察。 音はほとんどなく、 風に葉が揺れるだけ。
「まずいわね。 でも進むしかない」
「うん」
異常が明らかでも、 時間は遅く退却できない。 リースは魔法のランタンを掲げ、 左手に盾を構えて先導。
湿った道が固い土に変わり、 森の中に開かれた道が現れる。
「エスタ、 気をつけて!!」
闇から跳躍する影が後ろから襲う。 リースは振り返ってエスタを庇い、 円盾を掲げる。 爪が盾を削る耳障りな音に歯を食いしばる。
「固まれ、 速くなれ、 強化する」
自分に強化魔法をかけ、 それを叩きつけて影を吹き飛ばす。 ランタンで照らすと、 影は森に消える。
リースは安堵の息を吐く。
「少なくとも追い払えた」
「追い払ったどころか、 逃がしたわよ」
エスタは片手で腰に手を当て、 不満げ。 命の危機をくぐったのに、 もう片方の手は剣を握りしめ、 いつでも切り刻む気だ。
「続けよう」
「少し待って」
エスタが呼ぶが、 リースは従わず。 振り返ると彼は何か座って見ている。 エスタは言葉を失う。
「エスタ、 そいつの足跡……」
一方は靴跡、 もう一方は犬の足跡。
「あなた、 何を追い払ったのよ……」
「僕も見えなかった」
「調査は後! 廃墟の教会に急ぎましょう」
エスタはリースを引っ張って立ち上がらせる。
二人で慎重に道を進む。 茂みを掻き分ける音はするが、 悪しきものは現れない。 まるで先ほどのものが知性を持ち、 機会を待っているよう。
道は小さな教会へ。 窓は真っ暗だが、 建物はエスタの言う廃墟とは程遠い。
「え、 ここが廃墟?」
エスタはドアの輪を取り、 恐れげもなく開ける。 中は空っぽ。 住人の痕跡はあるが、 人影なし。
「逃げたのかしら」
リースの意見。 彼は火の跡に近づき、 荷を置く。 エスタはドアを閉め、 木の閂をかける。
「火よ」
リースの小さな魔法の火が古い薪に着火。 強化された腕で椅子を砕き、 燃料にする。
「あなたがいると便利ね」
エスタは座って見るだけ、 平坦な声で言う。 少年は休みなく働く。
鍋をかけ、 空気から精製した水を注ぎ、 干し肉少々とニッシャの宿で貰ったスープの素。
これまでリースはアンジェリカたちと何だった? パーティーメンバー? 使用人? 戦士? 荷物持ち? エスタはスープをかき回す彼を見て思う。
彼の姿は、 知るエス...沈黙のエスの物語と、 前の地平での生活とあまりに違う。
今は自分がエスだ…。 エスタは香る匂いから顔を逸らし、 小窓から星を眺める。
「エスタ、 はい」
小さな碗が差し出される。
「うん、 ありがとう」
受け取り、 少し見て飲む。 濃厚で優しい香り、 少し塩辛く温まる。 柔らかい肉が溶け、 一緒に飲める。
こんなのがいいかも……。 心で思い、 一気に飲み干す。
微風が吹き、 木々が擦れ合う音。 周囲で軋む音。
「エスタ……」
「うん」
リースが小さく呼び、 碗を置き、 腰の短剣に手を、 もう一方で盾を。 エスタも剣を抜く。
怪物の巨体が祈りの台上の窓を突き破り、 飛び込む。 ガラスの破片が散乱。
「ああああああっ!!!!」
それは唸る。 体は醜く捩れる。
リースはスープの鍋を蹴り、 熱い汁と燃える炭が飛び散る。 薄暗い光が銀の帯を映し、 白い司祭服が翻る。
頭は人間だが歪み、 余分な腕脚多数。 一本の脚は古い体、 もう一本は犬。
「またソウルボス!? これ何よ!! データベースにないわ!!」
エスタが叫ぶ。 リースは意味不明だが、 気持ちはわかる。 数日前はヤギ牛馬、 今日は人と犬。
しかもこの人は司祭。 女神の加護を受けるはず。 なぜこんな姿に?
これから世界が乱れる、 本当だ。
「ムーンライトサイト!」
エスタの短い呪文。 リースの目が輝く。 昼のようにではないが、 夜戦に十分。
「僕が囮になる!」
「待って!!」
リースは待たず、 盾を構えて悪魔司祭に突進。 爪が振り下ろされるが、 盾で払う。 事前の強化でわずかによろめかせ、 右の短剣で追撃。
「くそ、 切れない!!」
繰り返し。 短剣は長い腕を貫けず、 傷はつくが無力化せず。
もう一方の爪が死角から。
「固まれ」
自分に防御をかけ、 受ける。 体は裂けず、数歩吹き飛ぶ。 爪痕は浅い擦り傷、 血がにじむ。 すぐに立て直す。
「来い!!」
本能の叫び、 狂った突進。
悪魔司祭は両腕で掴む。 リースは盾で一本を防ぎ、 もう一本の掌を短剣で刺し、 固定。
ズブリ!!
紫青の魔力の剣が後ろから頭を貫く。 数回捻り、 頭が千切れ落ちる。 体が倒れる。
「待ってって言ったのに、 聞けよ」
暗闇から怒った小さな声。 エスタが現れ、 紫青に輝く目が疲れと苛立ちを表す。
彼女は盾を掲げたままの少年を睨む。 彼は静かで、 先ほどの血気は消えている。
洞窟では命令に従う良いフォロワーだった。
これが本当のリース?
彼女は黙って考え、 振り払う。 戦いは終わった。
「さて、 次はどうする?」
エスタは強く息を吐き、 何と呼ぶかわからない死体を見る。 リースは剣を収め、 胸に手を当て。
「祈りを捧げたい。 モンスターになっても……」
「いいわよ」
「ありがとう」
彼女は血を払い、 剣を収め、 腕組みでリースの祈りを見るが――
「ギィィィズ」
死体から鋭いトカゲの鳴き声。
祭壇下の隠し扉が開き、 毒トカゲと融合した半人怪物が溢れ出す。 間違った肢でゆっくり這う。
腹にトカゲ頭、 背中に脚など、 ランダムに詰め込んだ融合。
「きゃああ!!!」
エスタの悲鳴。 リースは彼女を抱えて正面ドアへ走る。
融合怪物はゆっくり追う。 頭が無差別に毒を吐く。 リースはエスタを置き、 盾で毒の塊を払う。
「最悪! 無差別毒吐きじゃ近づけない!」
「何とかして! 燃やせばいい!!」
パニックのエスタが叫ぶ。 リースは腰の魔法ランタンを取る。
「ルミネイト」
呪文で光を放つ。 ほぼ全魔力を注ぎ、 眩く輝かせて投げる。
「火よ」
ランタンが空中爆発。 火の粉が椅子に着き、 火災発生。
リースは魔力尽きで崩れ、 エスタが支える。 彼女は閂を蹴り飛ばし、 リースを抱えて外へ。
「あ……だからガイドブックに廃墟って書いてあったのね」
彼女は小さく呟き、 炎を見ながら。リースに聞こえないように。
朝、 火は消えるが煙の匂いが残る。 リースは魔力枯渇の疲労で目覚め、 額を押さえる。
「起きた?」
エスタは少し離れて座り、 腕に女神像を抱く。 リースは驚き、 かすれた声で。
「エスタ、 煙の中に入って取ったの?」
隣の少女は首を振り、 微笑んで答える。
「違うわ。 像は教会横の井戸にあったの」
――
女神像は無事に取り戻せたものの、毒トカゲの皮は一枚も手に入らなかった。
リースの持ち物はすっかり焼け落ち、高価な魔灯までもが即席の爆弾にされてしまった。
これぞまさに「破産」だ。
せめてギルドから借りていた短剣と盾だけは無事で残っていた。
これがなければ、違約金という名の天文学的な請求書が届いていたところだ。
「毒トカゲの皮の依頼、どうしましょう……」
冒険者ギルドの前に戻ってきて、リースは小さく呟いた。
夜も更けて辺りは静まり返っているが、カウンターの奥にはまだ明かりが灯っている。
大丈夫だよ。『魔物が忽然と消えてしまった』って報告すれば、ギルドも納得してくれるはずだから」
そう言って扉を押し開けた二人を迎えたのは――
昨日の優しい受付嬢ではなく、
ギルドマスター・レオと同等かそれ以上に恐ろしい存在、
マーラだった。
「確か厳命したはずだけどね、リース。モンスターとは絶対に戦うなって」
静かで、氷のように冷たく、刃のように鋭い声。
鋼のような視線が少年を射抜く。
眼鏡を中指で押し上げる仕草は、完璧なタイミングで決まっていた。
「え、えっと……その……」
少年の瞳が小刻みに震えた。
モンスターと戦っていない、などと嘘をつけるはずもない。
なぜならリースの盾には巨大な爪痕が刻まれ、服はボロボロに引き裂かれ、体は泥と血にまみれ、しかも目に見える傷だらけだったからだ。
証拠はあまりに強固で、逃げ場などどこにもなかった。
マーラはその二人を、焼き尽くさんばかりの苛烈な視線でじっと見据えていた。
「えっと、ルール上、『ブロンズランク以上の冒険者』が保証人になれば、低ランクの冒険者を連れて行けるはず……ですよね?」
エスタが恐る恐る口を挟んだ。手を頭の上に挙げて、震える仕草で。
彼らのような新人冒険者では、ギルドの上層部に逆らうことなど不可能だ。それが現実だった。
「ルールでは、『ブロンズランクの冒険者パーティ』と指定されているわ。ランタンの冒険者であるあなた一人では、権限がないのよ」
返ってきた声に、エスタはすっかり縮こまってしまい、まるで細い線のように薄くなってしまった。
リースはただ見ているだけで、どう振る舞えばいいのかわからなかった。
「でも、あの辺りの魔物は全部いなくなっちゃったんですよ」
「それはもう知ってるわ」
リースは話題を逸らそうとしたが、まるで相手にされなかった。
彼女の視線は知らず知らずのうちにリースの頭を押し下げ、彼は思わずうつむいてしまった。
「ギルドが、あの異変が起きてから何もしてないとでも思ってるの?」
冷たい声がもう一文、続いた。
マーラは踵を返し、カウンターへ戻ろうとする。その瞬間、昨日エスタに依頼を渡した受付嬢が慌てて机の下に潜り込んだ。
「君たちは処罰を受けることになるわ。私から命じる。掃討作戦が終わるまで、二人とも街外への外出を禁ずる」
マーラの絶対的な宣告に、
リースとエスタは顔面から血の気が引け、まるで紙のように白くなった。