あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】 作:ゼリ_Xerionic
町から出ることを禁じられ、冒険者ギルドでまた大目玉を食らった後、ようやく二人とも解放された。次の目的地はマリーナの教会だ。
「……お邪魔します……」
エスタの声はかすかだった。顔色を失った少年少女は、まるで魂が抜けたようにふらふらと歩き、教会の地下にある隠し部屋へと降りていく。重い扉が横にスライドして開くと、リースは外から差し込む光を頼りに、中にある魔術灯に火を点けた。
エスタはマリーナの像の台座まで歩み寄り、ルナリスの神像をそっと横に置いて祈りを捧げる。
「ルナリス様……エスタ、神像をお持ちしました……」
少女の声は喉の奥でうめくように震えていた。まるで冒険者ギルドのマーラ受付嬢に叱られた記憶がまだ頭にこびりついているかのようだ。リースも同じだった。彼はエスタの隣に膝をつき、そっとその手を取った。
古い魔術陣が描かれた床が、淡い紫がかった青い光を放ち始める。それはルナリス様の色だった。神像の方も目と口の部分から同じ光が漏れ出す。
「あ、あの……こんにちは……わたくし、女神ルナリスです」
「こんにちはございます」
リースは丁寧に頭を下げて挨拶した。
「ありがとう……その、わざわざ神像をここまで運んでくれて……せっかく隠しておいたのに……」
最後の言葉に、リースはむず痒いものを感じた。彼はエスタを見たが、彼女は視線を逸らしている。仕方なく、リースは率直に尋ねた。
「あの……神像を持って帰るよう命じたのは、女神様ご自身じゃなかったんですか?」
「あ、いえ……そうじゃなくて……」
神像がぱちぱちと瞬きするような音がした。リースはもう一度エスタを見た。今度は完全に顔を背けている。
「あの……エスタを怒らないでくださいね……神像を取り戻してくれたのは、結果的にわたくしを助けることになったんですから」
「……はい」
「だって……泉の中にあるやつ、洪水が起きたら……ここまで流れてきちゃうんですもん……」
(女神の領域に水が流れ込むって……?)
それを聞いて、リースは思わず両手で顔を覆った。
「とにかく……助けてくれてありがとう。でも……でも、まだ全部じゃないんです……」
「全部じゃない、ってどういうことですか?」
「ええ……まだ外に、わたくしの古い神像がいくつも残っていて……ほとんどが、ずっと暗い場所に置かれているんです……お姉様が、全部取り戻してって……」
それを聞いて、二人は顔を見合わせた。
エスタはルナリス様の直属の信徒ではあるけれど、神像に触れられるのはごく近くにいる時だけ。
それに、ルナリス信仰自体がほとんど途絶えている。他の信徒を探すのは極めて難しい。
「実は……この近くに一つあるんです。ずっと暗くて、腐臭がして……獣がうろつきまくっていて、汚物だらけの場所……最近は汚物がさらに増えて、臭いがここまで漂ってくるんです……」
(女神だって悩みはあるんだな……)
リースは心の中で呟いたが、返事をする前に、エスタが先に大声で言った。
「下水道イベントだわ!」
彼女の顔はげんなりしていた。下水道といえば、リースでさえ行きたくない場所だ。掃除の依頼は最も嫌われる仕事の一つ――狭くて、臭くて、ネズミやゴキブリがわき、時にはモンスターまで出る。
「了解しました/です」
嫌々ながらも、二人は同時に答えた。
「あの……リース、少しエスタと二人だけで話したいんですけど……」
「はい」
リースは素直に引き下がり、部屋を出る。重い扉が閉まり、エスタと彼女の女神は二人きりになった。
「エスタ……ごめんなさい、こっそり見てて……あのね、リースのこと……彼の正体について……」
神像の声は、どこかおどおどしていた。
────────
リースは礼拝堂の外に出て、一人でエスタを待っていた。昨夜のことを思い出す。
(どうして森の中に教会が? 神官や村人たちはなぜあんな化け物に……
一体何が起きたんだ……?)
(今回助かったのは、敵が洞窟前の連中ほど強くなかったからだ)
リースは脇腹に手をやる。爪で裂かれた傷は浅いはずなのに、まだ血が滲んでいる。自分自身の治療すら忘れていた。
(次に強敵に出会ったら、エスタを危険に晒すかもしれない)
静かに座っていても、心はまるで平静ではなかった。
ぼんやりしていると、突然鼻をぎゅっと摘まれて強く引っ張られた。顔から火が出そうな勢いだ。
「冒険するなって言ったよね?」
鋭い声とともに、レナの鷹のような瞳が睨みつけてくる。彼女はリースの前に仁王立ちになり、もう一度大きな声で言った。
「体だってまだ万全じゃない、魔力だって完全に回復してないのに、また怪我して帰ってくるなんて当然の報いだよ」
「すみませんでした……でもエスタが女神様の許可をもらってて……」
「だから冒険者が早く死ぬんだよ」
レナがばっさり切り捨てる。
叱られて、リースはただ寂しそうに笑うだけだった。
それを見たレナは舌打ちして、さらに苛立った様子で隣に腰を下ろす。
そして、ほんの数日前に弟子にしたばかりの少年のために、ヒールの魔法をかけ始めた。
レナの手から伝わる温かい癒しの魔力は、けれどリースの胸の焦燥を少しも和らげてくれなかった。
「レナさん……僕、もっと強くなれますか?」
温かかった手がぴたりと止まる。
彼女は苛立たしげにリースを見た。
彼女にとって彼はまだ這い這いを始めたばかりの子供だ。
それなのに「強さ」を求めている。
こういうタイプの冒険者は山ほど見てきた――熱に浮かされて、ろくな最期を迎えない。
「お前は何もできてないよ、リース」
言い捨てて、レナは立ち去った。
残されたリースは、その言葉だけを抱えて沈んでいった。
やがてエスタが出てきたが、もうすっかり夜だった。
二人は教会の前で別れ、それぞれの宿に戻った。
────────
冒険者ギルドの食堂に懲りたのか、翌朝、エスタは宿の食堂でリースを待っていた。
席に着くと、ニッシャが料理を運んでくる。
しかし彼女がリースに向ける目は、どこか冷たく鋭い。
ニッシャが厨房に戻ると、エスタが口を開いた。
「昨日、女神様と話した結果……やっぱり下水道っぽいって」
彼女はげんなりした顔でため息をつき、フォークで肉を突つきながら口に運ぶ。
リースは、必死に平静を装う彼女の苦悩を見守ることしかできなかった。
「女神様、場所はご存知ですか?」
「この辺り一帯ってだけで……遠くても半日歩けば着く距離だって」
リースは顎に手を当て、少し考えてから、悲しい現実を告げた。
「でも、アッシュエンブルクにはそんな大きな下水道なんてないですよ」
「えっ!? ないの!?」
エスタが大声で驚き、眉を八の字にして両手で頭を抱え、うめき声を上げる。
「今日中に終わらせたかったのにぃ……!」
リースは乾いた笑いを漏らした。
もし本当に市内にあったら即クリアできて、しかも出町禁止令にも引っかからないのに。
「じゃあ、近隣の別の場所は? たとえば地下牢とか……」
エスタの声は力が抜けていた。
リースはまた彼女の希望を打ち砕く。
「それもないです。ここは一時的な留置場しかなくて、重犯罪者は即ランタナ市に送られちゃうんです」
「じゃあどこに行けばいいのよ……」
「そうだな……街の人たちに片っ端から聞いてみれば何か分かるかもしれない」
「おっ、いい考え!」
エスタの瞳が再び輝いた。
彼女は優雅に立ち上がり、さっきまでの疲れが嘘のように自信たっぷりだ。
「リースはギルドの受付嬢さんたちに聞いて! 私は商人と衛兵さんたちに当たる!」
許可も取らずに指を突きつけると、彼女は振り返ることなく宿を飛び出していった。
リースにとって、エスタはまさに嵐だった。
突然現れて、昔からの知己であるかのように絡みついてくる不思議な少女。
感情のスイッチの切り替えが異常に速く、リースには彼女の思考が全く読めない。
彼女は「リースは死ぬ運命だった」と仄めかした。でも彼女のおかげで助かった。
だから、リースは彼女に大きな借りがある。
だからこそ、彼は朝食の席を立ち、冒険者ギルドへと向かった。
受付カウンターの空気は昨日より落ち着いていた。
(あるいは担当が交代したのか? まあどうでもいい)
リースはそんな疑問を頭の隅に流した。
扉をくぐった瞬間、受付嬢の鋭い視線が突き刺さり、一瞬足が止まる。それでも気を取り直して近づいた。
「ほどほどにしなさいって言ったはずよね……」
彼女はわざとらしいため息をついてみせる。
自分たちのおかげで自分がどれだけ怒られたか、面と向かって言っているのだ。
「はい……本当にすみませんでした」
リースは深々と頭を下げた。
本心からの謝罪だったが、相手には「もういいから」と言っているようにしか聞こえなかったらしい。
「ふん……謝ったってどうにもならないわよ……」
それでもリースは顔を上げ、乾いた笑みを浮かべた。
「ギルドは獣が消えていることは既に把握してたから、あの依頼を僕に回したんですよね?」
「だって遊びに出たいって言うから……」
受付嬢の姉さんがそう答えると、視線をそっと逸らした。
頭の中に、苦々しい思いがふっと浮かび上がってきた。
(最初はただの息抜きだと思ったのに、まさか本気で狩りに行くなんて……
帰ってきた姿を見て言葉を失ったわよ……)
「まあ、無事に帰ってこれたからいいわ。で、今日はどんな仕事が欲しい? でも町の外はダメよ」
「仕事じゃなくて、情報が欲しいんです」
「情報?」
「はい。この街か近隣に、大きな下水道か地下牢ってありますか?」
「ないわね……あるとしたら未踏の遺跡くらいよ」
予想通りの答えだった。
次に行くべきは教会だ。
そこにはグレイモアさんたちがいる。
ギルドが知らない場所を、彼なら知っているかもしれない。
「ありがとうございます」
「ちょっと待ちなさい」
振り返った瞬間、受付嬢が一枚の紙の束を差し出した。
「これ、あなたに。預かってて」
リースの顔が青ざめる。
今、街では祭りの準備が佳境に入っていた。
町の内外から人が集まり、倉庫やキャラバン埠頭への荷物運びが人手不足になっていたのだ。
リースは配達地図を見て、近い場所をまとめ、一度で回れるルートを組み、荷物の量と優先順位を頭に叩き込む。
(固まれ、速くなれ、強化する)
口には出さず、三つの強化魔法を同時に発動させてから、木箱を軽々と持ち上げた。周囲の視線が痛いほど突き刺さる。
そして、手押し車を引いて街へ飛び出していった。
ルートは完璧だったが、量が量だ。空が紫に染まる頃にようやく終了。
ギルドに戻り、報告書の大束を提出すると、受付嬢が目を丸くして叫んだ。
「えっ? もう終わったの? これ三日分よ!?」
信じられない様子で書類をめくる。
目の前にいるのは、パーティから「弱い」と追放された問題児のはずだ。
(いくら働き者でも、これはやりすぎでしょ!?)
彼女はもう一度、疑わしげにリースを見上げた。
「どうやって……?」
「魔法で補助して……」
長いため息と、背筋が凍るような笑顔。
「まあいいわ。よくやった」
「ありがとうございます」
────────
ニッシャの宿に戻ると、もうすっかり夜だった。
食堂は人で溢れ、ニッシャと従業員たちは大忙し。
彼女はちらりと笑顔を見せ、すぐに仕事に戻る。
店内を見回すと、隅のテーブルでエスタが突っ伏していた。
料理は置いてあるのに、手つかずのままだ。
リースは向かいに座った。
「どうだった、リース?」
顔を上げたエスタの声は、まるで電池切れのぬいぐるみだ。
「僕の方は成果ゼロ。エスタは?」
「同じくゼロ……」
彼女は顔を上げ、子猫のようなうめき声を漏らす。
フォークがようやく動き出すが、目はまだ寝ぼけている。
そこへニッシャが近づいてきた。
一方に紙、一方に炭筆。でも口を開いたのは注文取りではなかった。
「ねえ、二人で下水道の場所を聞き回ってたって? 何か用?」
「依頼なんです……詳しくは言えなくて」
「ふーん。だったら一つ、いいところ知ってるよ」
彼女は帳簿で顔を隠し、テーブルに身を乗り出して囁いた。
「要塞『アンダーアイゼン』」
リースはくすっと笑い、優しい目でニッシャを見た。
「アンダーアイゼンって、子供だましの昔話じゃないですか」
「ははは、そうだけど、今でも冒険者たちが血眼で探してるじゃない?」
二人が子供のようにはしゃぐ。
が、対面の少女は明らかにノリが違う。
フォークを皿に落として、ガチャン!と大きな音を立てた。
「アンダーアイゼンって……これインタールードキャラの出番じゃん!!!」
「インタールードキャラって?」
リースとニッシャが顔を見合わせ、同時に尋ねる。
また変な言葉だ。
「英雄譚の一篇……」
「へえ、この街の都市伝説がランタナまで届いてるんだ」
ニッシャが軽く笑うが、エスタは真剣に首を振った。
「違う! 本物にあるって! ガイドブックに載ってるもん! 神を憎んだ英雄の……!」
ニッシャの目が悪戯っぽく細まる。
信じたのか、ただ子供扱いしているのか、リースには分からない。
「英雄譚なら、そこを攻略した者は英雄になるってことだよ。リース、攻略したら迎えに来てよね」
くすくす笑いながら去っていくニッシャ。残されたエスタは、じとっとした目でリースを睨んだ。