あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】 作:ゼリ_Xerionic
「…すみません。わらわ、ここがアンダーアイゼンだなんて知らなくて…」
女神ルナリスはエスタとリースの前で、まるでバッタのように何度も頭を下げる。
隣にいた女神マリーナは小さくため息をつき、疲れたように首を振った。
「いいえ、ルナリス。あなたは悪くないわ。だってアンダーアイゼンは、あの男が作ったものなんだもの。彼が発明した力の幕は……神の力さえ干渉できないのよ」
それを聞いていたリースに、ふと疑問が浮かんだ。
「神の力が干渉できないなら、どうして皆さんはここに来られたんですか?」
「あれよ」
女神マリーナが指差したのは、ルナリスの神像だった。この場所は腐り果て、朽ち果てているというのに、その神像だけは新品のように美しく、特別な力を持つ素材で作られている。
本物の女神ルナリスと瓜二つで、息をのむほどに美しい。
「これはルナリスの神域と繋がっているの。他の神々の力は完全に遮断されているのに…」
リースが神像を見つめながら呟く。
「そうよ」
女神マリーナが頷いた。
「あの男は、ルナリスだけは入ることを許したの。わらわが一緒に来られたのは、彼女たちがルナリスの神像をマリーナ神殿に安置してくれたから。そのルートを使って繋がったのよ」
「す..すみません!!」
ルナリスが再び深々と頭を下げると、皆がため息をついた。
「とりあえず、今はこの神像を回収して、静かに帰りましょう」
エスタが提案し、皆を見回す。
「わ、わらわ…本当なら喜んでそうしたいんですけど…今は状況が…ひどすぎて…」
女神ルナリスは言葉を詰まらせながら俯き、両手を軽く擦り合わせた。
「あの…その…エスタさんたちが遭遇した異形の中心にいた、眼鏡をかけた男の顔…あれは…わらわの選んだ大賢者アイゼンの、魂を抜かれた抜け殻なんです…わらわを心底憎んでいた男の…
その男は『希望』という名の装置を作り上げた。
わらわが選んだ大賢者を超える存在だと証明するために…わらわを侮辱するために作ったものなのに…それが、三百年前の異世界魔神との戦争で、世界が崩壊しないよう均衡を保ち、修復し続けてくれた…
あの人は、自分の身体すら捨てて『希望』を見守り続けた…でも…わらわがここに来てわかったんです。
『希望』は、もう穢れてしまっている…わらわは怖い…『穢れた希望』は世界を歪め、穢れたものに変えてしまうから…」
女神ルナリスの身体が崩れ落ち、大粒の涙をこぼして泣き出した。
姉である女神マリーナはただ強く抱きしめて、慰めることしかできなかった。
「エスタ…リース…女神として…お願いします…『希望』の機能を…止めてください…」
女神ルナリスは涙に濡れた顔で、目の前の少年少女に懇願した。
だが女神マリーナは苦しげな表情で首を振り、二人を見つめていた。
リースはすぐに理解した。
ルナリスは「止めて」と頼んでいるが、マリーナは「逃げて」と願っている。
女神マリーナはこの先の危険を知っている。
だから二人を巻き込みたくない。
けれど、逃げたら……世界はここと同じ、粘つく泥のような腐敗に飲み込まれる。
(だったら、なぜ世界をそんな目に遭わせる必要がある?)
リースは決意した。
(このまま逃げれば、いずれ『穢れた希望』が世界を腐らせる。
アンジェリカもエスタも、皆がそんな世界で生きていくことになる。
逃げて、そんな世界で生き続けるくらいなら... 今ここで死んだ方がましだ!)
だから彼は膝をつき、両女神に深く頭を下げた。
「女神ルナリス様の依頼……お受けいたします」
その声には熱も確信もなかった。
ただ、感情の抜け落ちた、静かな承諾だった。
顔を上げたリースと目が合うと、女神マリーナは苦しげに顔を背けた。
抱きしめられたままの妹は、その表情を見ていない。
「ありがとう……」
女神ルナリスは抱きしめられたまま呟き、やがて二人の女神の姿が神域の光と共に消えていった。
眩い光が消え、代わりにアンダーアイゼンの腐臭が鼻を突く。
リースとエスタは、再び薄暗い部屋に二人きりで立っていた。
「リース…どうして女神の頼みを引き受けたの?」
「エスタだって…迷わず進むつもりだったじゃないですか」
リースは質問で返した。
その瞬間、エスタは少年の瞳に、ほんのわずかだが違和感を覚えた。
(え…? キャラインタールード発動? 早すぎない? まだボス倒してないのに…?)
彼女は、女神像をバックパックにしまい、肩に担ぐリースをじっと見つめた。
「エスタ、作戦はある?」
「えっ」
突然の呼びかけに、エスタは我に返った。
「え、えっと……」
「僕がエスタを抱えて逃げたとき、あのモンスター……いや、アイゼンは追ってこなかった。あの部屋で何かを守ってるみたいだった」
エスタは考え込む。
「今は光がかなり弱まってる……なら影に潜り込めばいいけど、この状態じゃ魔法が使いづらい。ボスは耳がいいし、粘液の床は滑りすぎる」
「大丈夫だよ、エスタ。僕が囮になる」
リースは振り返りもせず答え、剣を腰に吊り、ポーションの入ったベルトを胸に締めた。
「リース、ダメ! 死んじゃうよ!」
エスタが慌てて叫ぶ。
「でもエスタが言ったじゃないか。これが僕の宿命だって。死ぬかもしれないし、別人になるかもしれない。でも、誰かに肩代わりさせるつもりはないって、僕はもう決めた」
そう言って振り返ったリースの瞳は、本当に変わっていた。
それは闘志に燃える目ではなかった。ただ「死ぬのはどうでもいい」と呟くような、感情の抜け落ちた、虚ろな瞳だった。
それがエスタの胸を締めつけた。一人で戦って死ぬことより、ずっと怖い。
でも、もう止められない。
(これは「インタールード発動」じゃない。リースが死にに行く」だけだ。)
二人は神像の間を出て、静かに廊下を進んだ。
途中で落ちていたリースの丸盾を拾い上げる。
歪んでいるが、まだ使える。左手に構え直す。
「あっち」
エスタが指差す崩れた壁には、粘液が長く引きずられた跡があった。
二人でその先へ踏み込むと、広大なホールにモンスター・アイゼンが佇んでいた。
中央に浮かぶのは、茶オレンジに輝く巨大なエネルギー球――『希望』。
無数の物体がその周囲を絶えず回っている。
「古文書によるとあれが『希望』……でも、あれだけ光ってたら影に隠れられない」
「僕が突っ込む」
「待って!」
止めようとしたが、もう遅い。
リースは一歩踏み出し、全力で叫んだ。
「来いよ、このクソ野郎!!!」
「シュウゥゥ~~~~ワザザザザザザザザザ!!!」
モンスター・アイゼンが振り返り、異様な咆哮を上げる。
咆哮というより、威圧そのものが音になったような、恐ろしい響きだった。
次の瞬間、醜悪な巨体が信じられない速度で突進してくる。
「エスタ、頼んだぞ。」
リースはエスタの肩に手を置き、三種の強化魔法を一気にかけると、彼女の体を横に押し転がした。
同時に丸盾を構え、自ら怪物へと突っ込んでいく。
「固まれ!」
盾が魔法で硬化する。
ガァン!!
怪物アイゼンの長腕が盾を薙ぎ払う。衝撃が腕を震わせる。
「速くなれ、強化する!」
リースは衝撃を利用して後方へ跳び、着地と同時に盾を立て直す。
短剣は死角に隠し、ルーシーに教わった戦術眼で鋭く睨む。
あの頃はまだ未熟だった。でも今は魔法強化がある。
怪物が大鎚のような腕を振り上げる。
リースは盾で受け流し、隠し持った短剣を閃かせ。
腕を根元から斬り飛ばした。
「オオオオオ!!!」
モンスター・アイゼンが絶叫し、残った腕で断面を押さえる。
リースはその隙にさらに踏み込もうとした瞬間――
「シュウゥ~~~~ワッ!!!」
断ち切られた腕は信じられない速度で再生し、すぐに新しく生えた腕でリースの剣を再び受け止めてまたもぎ取り、反対の拳を叩き込んで彼を数メートル吹き飛ばした。
「ぐっ……!」
リースは跳び退き、口から血を吐きながらも視線を外さない。
腹の歪んだ顔が、楽しげに笑っている。
何百年も、こんな遊び相手がいなかったのだろう。
―楽しいんだな……よし!! だったら付き合ってやる!!
リースは再び盾を構える。
向こうも腕をぽんと生やし、ボクシングの構えで挑発する。
「来い!!」
「アシュゥゥゥゥ!!」
「固まれ!」
アイゼン・モンスターの二つの右拳が素早く迎撃してきた。
片方は盾に、もう片方は顔面に直撃。
体表強化のおかげで骨は砕けなかったが、衝撃で視界が揺れる。
それでも歯を食いしばって一歩踏み込み、盾で押し返しながら短剣を額の中央に突き刺し、さらに盾ごと叩き込む
だが、そこは急所ではなかった。
残った長腕がリースの体を掴み、壁に叩きつける。
「がっ……!!」
強化魔法をかけていても衝撃は凄まじく、意識が一瞬飛ぶ。
「ヒェィィィ~~ヒェィィィィ!!!!」
怪物が怒りの咆哮を上げ、両脇に魔法陣が二つ浮かぶ。
残った理性が咄嗟に盾を掲げさせた瞬間、無数の光槍が殺到した。
盾で防ぎきれず、右脚を貫かれる。
膝が崩れ、顔を歪めながらも盾を捨てない。
第一波が止み、魔法陣の一つが消えた。
が、すぐに次の魔法陣が展開。
そしてリースは見た。
胴体の顔が歪んで叫んでいるのに、上半身の頭部は唇を震わせ、呪文を紡ごうとしている。
「水よ!」
空いた右手で魔力を放ち、頭部全体を水の膜で包み込む。
詠唱が途切れた。
それで十分だった。
「エスタ!!!!」
次の瞬間、怪物アイゼンの真上から影が落ちる。
紫藍に輝くエスタの剣が、胴体を真っ二つに両断し、首を綺麗に刎ねた!
それでも肉片が蠢いて繋がろうとする。
エスタは容赦なく剣を振り回し、頭部を何度も何度も突き刺し、最後には完全に動きを止めた。
リースは赤く焼けた盾を壁に投げ捨て、エスタを見上げた。
「……終わった?」
紫藍の瞳が揺れ、涙でいっぱいになる。
エスタは嗚咽を漏らし、歩み寄ると、いきなりリースの頬を平手で打った。
「馬鹿!! なんで毎回死にに行くのよ!!」
「僕はエスタに……」
「嫌!! あんたが死んだら、私だって痛いんだから!!」
彼女は強く抱きしめた。もう離さないと決めた。
(ルナリスが言う「感情は偽物」だなんて…知るか!!)