あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】 作:ゼリ_Xerionic
「……行こう、エスタ」
しばらく泣いた後、リースは弱々しく呟いた。
ヒールポーションを一本飲み干し、右脚に注ぐ。
幸い骨は無事だった。これならまだ歩ける。
エスタが慌てて支え、二人は広間の中央へ。
茶オレンジの魔力塊が、不浄な光を放ちながら鼓動するように脈打っている。
「エスタ……止め方、わかる?」
エスタはリースの背負ったバッグを見て、目を閉じた。
「希望を開き、あるいは閉ざす鍵となるのは、アイゼンが心底憎むルナリス女神の神像だ。」
リースは神像を取り出す。
茶オレンジの光が謎の金属に反射し、対するように像から紫藍の光がリズムを合わせて瞬く。
まるで、会話をしているかのように。
「もし大賢者アイゼンがルナリス女神を心底憎んでいたなら……どうしてここに彼女の神像だけがあるの?」
「直接嘲笑うためか、あるいは正反対の理由か……私にもわからないわ」
エスタは首を振り、わずかに間を置いて続けた。
その答えを聞き、リースは目を閉じた。
見張り人の声が脳裏に蘇る。物語の矛盾かもしれない。
彼が出会った影のアイゼンは、 誰かを憎むにはあまりにも誠実すぎた。
こんな場所を作って泣いていた男が、どうして神を憎めるというのか。
「リース……預言では、ここに来る目的は『希望』が止まった原因を探り、再起動させることだったはずよ。すべてが順調に進むはずだったのに……実際はめちゃくちゃだわ」
「だったら……僕たちで、止めてしまおう」
エスタは小さく頷き、魔力塊の中心を指差した。
「投げて」
リースは神像を肩の上に掲げる。紫藍の光がまだリズムを刻んで踊っている。
その瞬間、彼は心の中で祈った。
(アイゼンの憎しみが本当じゃありませんように..)
神像が宙を舞い、『希望』の中心に触れた瞬間――
不浄な光がぱっと消え、機械の重い駆動音が途切れる。
まるで、もう輝けない心臓が止まったように。
ルナリスの神像は、かつて魔力塊があった場所に静かに浮かび、
夜に泣く少女のように淡い紫藍の光を湛えている。
すると、神像が触れた地点から翠色の輝きがこぼれ落ち、
まるで「こちらへおいで」と呼ぶように床に降り注いだ。
二人が近づき、手を伸ばして触れると――光が解け、真の姿を現した。
黒革の装丁、銀の縁取りに古代文字が刻まれ、
翠の宝石が煌めく、豪奢な一冊の書物だった。
「……くそっ、脳筋の俺たちにぴったりのご褒美じゃねえか」
エスタが、リースの知らない下品な言葉で吐き捨てた。
『希望』が失われた途端、壁や床を這っていた粘液は干からび、命の糸が切れたようにぱらぱらと崩れ落ちていった。
二人は互いを支え合い、神像の間へと戻る。
長く休んだ後、リースは残りのポーションと治癒魔法を総動員し、
なんとか普通に歩けるまでに回復した。
そしてアンダーアイゼンの要塞を出た瞬間――
かつてあった半透明の力の幕は跡形もなく消えていた。
容赦ない昼下がりの陽光が二人を直撃する。
力の幕だけでなく、幻惑の魔法、風の結界、霧までもが消え去り、
残ったのはエスタが「醜い」と言っていた、ただの石造りの要塞だけ。
けれど、あの立地は絶景だ。
冒険者ギルドが聞いたら狂喜するだろうと、リースは確信した。
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少年少女がアンダーアイゼンの門をくぐり抜けていく背中を、一人の男の霊が静かに見送っていた。
深い緑の長コートは飾り気ひとつなく、長い茶色の髪を低いポニーテールに束ね、髭はきれいに剃り落とされている。
端正な顔に大きな丸眼鏡。
手に握られた銀の懐中時計だけが、かすかに時を刻む音を立てていた。
彼の瞳は空虚で、どこまでも悲しげだった。
二人が遠ざかるほど、その手は時計を強く、強く握りしめていく。
「ありがとう…ございます…大賢者アイゼン様…エスタをお救いくださり…リースを導いてくださり…ありがとう…ございました…」
背後から震える声。虚空を裂いて現れたのは、女神ルナリスだった。
彼女は深く腰を折り、男に頭を下げた。だが男は振り返らない。
「女神よ。俺は大賢者ではない。ただの、生意気なだけの価値のない男だ。
古い勇者に追放された愚か者を、称える必要はない。
どうかあなたが大賢者の加護を授けた、あの男を誇ってやってくれ。
三百年前、異世界の魔神を封じた英雄のひとりだ」
静かで、感情を殺した声。一瞥もくれない。
ルナリスの頬を涙が伝う。
「…せめて、最後に…あなたの魂を清め、新しい生へ導かせてください…」
嗚咽混じりの懇願。
「いや」
初めて振り返ったアイゼンは、
痛みを堪えきれないような、壊れてしまいそうな微笑みを浮かべた。
それが最後の言葉だった。
次の瞬間、彼の姿は霧のように溶け、消えていく。
女神の目の前で、完全に。
銀の懐中時計が、乾いた音を立てて石畳に落ちた。
ルナリスは崩れ落ち、それを両手で拾い上げる。
強く、強く握りしめ、丸くなって泣きじゃくった。
「どうして…どうして…アイゼン…どうして私を…ここまで憎むの…?
私が…あの人を選んで…大賢者にしたから…?
アイゼン…ごめんなさい…ごめんなさい…必ず…必ず償いますから……!」
かつて「知恵の女神」と呼ばれた彼女は、ただの一人の女の子のように、
永遠に届かない魂に向かって泣き続けた。
銀の時計は、もう時を刻まない。
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ようやく、二人はボロボロの姿でアッシュェンブルクの北門にたどり着いた。
まるでぼろ布のようだった。
アンダーアイゼンからの帰り道、鎧イノシシの大群、鉄蜂の群れが十数匹、そして馬車ほどの大きさの毒バッタと、次から次へと襲いかかってきたのだ。
薬も道具もない状態で、リースの盾は使い物にならなくなるほど壊れ、エスタの剣も戦闘中に折れてしまった。
もし強化魔法がなければ、二人して抱き合って死んでいただろう。
生きて帰ってこられたのは、まさに奇跡としか言いようがない。
到着するやいなや、二人は冒険者ギルドの医務室に運ばれた。これがまた運の悪いことに。
リースは無理やり上半身を起こす。体中と腕に巻かれた包帯が痛くてほとんど動かせない。冒険者ギルドには常駐の回復魔法使いがいない。今の彼は魔力もすっからかんだった。
(今はまだ回復魔法を使えないけど……あれがなかったら、アンダーアイゼンの中で終わってたよ)
回復魔法があることこそ、人類にとってこれ以上ない幸運だ。
リースは心の底からその発明者に感謝した。
「レオ様、お待ちください! お願いですから!!」
廊下にマーラの叫び声が響き渡り、直後にドアがバンッと勢いよく開いた。
ギルドマスター・レオがドカドカと足音を立てて入ってくる。
その後ろには受付嬢であり彼の秘書も兼ねるマーラが続いた。
「一体何やってきたんだ!! このガキどもがぁぁぁ!!」
「ひゃっ!」
レオの怒号に、眠っていたエスタがビクッと跳ね起きてベッドから転げ落ちた。
「ぼ、僕たちは別に何も……」
「ほ、本当に何もしてないんです!」
レオの迫力に押され、二人は考える間もなく口を揃えて言い訳した。
「嘘つくんじゃねぇ!! 北の森で起きたあの異常現象、あれはてめえらが戻ってくる直前だ! それに門番の兵士が報告してきたぞ。お前らが三叉路の奥から出てきたのをしっかり見てたってな!!」
「うっ!」
エスタが言葉に詰まる。
こっそり行って帰ってきたつもりだったのに、どうして全部バレてるのよ……!
彼女は必死に助けを求める目でリースを見た。
『助けて!』という視線を受けたリースは、重いため息を一つついて眉を寄せ、やがて覚悟を決めたように表情を緩め、ギルドマスターをまっすぐ見据えた。
「僕たちはアンダーアイゼンに行ってきました」
「アンダーアイゼンだと? 馬鹿言うな、あれは子供だましの昔話だろうが」
リースの言葉にマーラが両手で口を押さえたが、レオは顔色一つ変えず、
「全部話せ!」
と一喝した。だがリースは微塵も怯むことなく、
「はい」
と静かに頷き、今回の冒険のあらましを語り始めた。
もちろん、女神との接触については伏せて。
「つまり……あそこにあったものが、異常な粘液泥と鉄蜂の原因だったってわけか」
レオは予想以上に早く全てを繋ぎ合わせた。
リースとエスタでさえ追いつけないほどの速さだった。
「あの、鉄蜂を討伐に出ていた冒険者の方たちは?」
リースがまとめを聞いて尋ねる。
「あの現象が起きた途端、粘液泥も鉄蜂も融合モンスターも全部死に絶えた。今は死骸の回収作業中だ。二、三日中には討伐隊も順次ギルドに戻ってくる」
レオは事態が収束したことを説明してくれたが、声のトーンは一向に柔らかくならない。
それどころか、二人の子供たちを睨む目はますます鋭さを増していた。
「それとてめえら二人!! アンダーアイゼンでやったことは確かに立派だ。だが俺の命令を無視して勝手に首を縄にかけたのは許さねぇ!! 特にてめぇだエスタ! ランタンから来た冒険者がアッシェンブルクで死んだとなれば、両都市にとって大迷惑なんだよ分かってんのか!!」
「は、はい……大変失礼いたしました……!」
怒鳴りつけられたエスタは体を縮こまらせ、ベッドの横に正座するように膝をついて頭を下げた。
だがギルドマスター・レオの怒りは一向に収まる気配がない。
「レオ様、どうかお子さんたちを少しお許しになって……」
ずっと黙っていたマーラがレオの袖をそっと引いて、甘えるような声で頼んだ。
レオは大きくため息を吐く。
「……分かった。マーラ、こいつらの処分はてめぇに任せる。好きにしろ」
そう言い残すと踵を返して部屋を出て行った。
子供たちはホッとした顔でその背中を見送ったが、マーラは違った。
彼女はゆっくりと振り返り、リースとエスタを見据えると、眼鏡をクイッと持ち上げた。
その瞳はまるで抜き身の刃のように鋭い。
「レオ様があんなに怒ったのはね、あなたたちのことが心配だったからよ。リースも、エスタも」
マーラは静かに微笑みながらも、声の奥に冷たいものが宿っている。
「アンダーアイゼンのことは、当面は絶対に秘密。こちらで後処理はするから。それと――」
彼女は一歩近づき、二人を交互に見つめた。
「あなたたち二人へのお仕置きは、私が決めるわ。覚悟しておいてね」
言い終えると、マーラもまた優雅に踵を返し、レオの後を追って部屋を出て行った。
「はぁ……いいことをしても報われないんだから」
扉が閉まった瞬間、エスタはベッドにどさりと横になり、足を組んで天井を見上げた。
しばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いて、横に座るリースの方へ顔を向ける。
「ねえ、リース。どうして……戻ってきたの?」
リースは彼女の瞳をじっと見つめ返し、数秒間見つめ合った後、静かに口を開いた。
「僕が背を向けて歩き出したとき、ある男の人に出会ったんだ。
その人は僕に教えてくれた。『弱い者』と『価値のない者』が何なのかを……。
そして、こう尋ねてきた。『エスタを一人で死なせていいのか、 僕は?』って」
言葉を終えた途端、リースの顔が歪んだ。
後悔と自責の念が一気に溢れ、大きな涙の粒が頬を伝い落ちる。
「怖かったんです…エスタ…もしあのとき逃げてしまって、あなたをあそこで死なせてしまっていたら…どんなに強くなっても、あの後悔だけは一生消えません。
たとえあなたが無事で、三日後に本当に戻ってきても…僕はもう、二度とあなたの顔をまっすぐ見られなかったと思います…」
少し間を置いて、震える声で続けた。
「エスタ……僕、強くなりたい。どうか、僕を強くしてほしい。」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらも、はっきりと笑顔を浮かべる。
それはもう「いつものリースの作り笑い」ではなく、
一切の偽りのない、本物の笑顔だった。
「バカ……ほんと、バカなんだから……!」
エスタはぱっと背を向け、毛布を頭からかぶって芋虫みたいに丸くなった。
顔は真っ赤、心臓はバクバクと暴れていて、毛布の中で小さく縮こまる。
(やばい、やばい、やばい!!)
黒髪の少女は内側で絶叫していた。