あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】   作:ゼリ_Xerionic

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第32話 1-32 裏話 彼女に送られたもの

(どれくらい経っただろう、ランダー魔法学院から逃げ出して)

アーニャは大きな窓に寄りかかり、魔術師の図書館でもある塔の中で、ひとり寂しくため息をついた。

今日も他のパーティメンバーは全員、魔物討伐の依頼に出払ってしまっていて、ランタナの魔術塔に彼女だけが取り残されている。

魔術塔とは何かと聞かれれば……まあ、ギルドみたいなものだ。

いや、正確には下級魔術師たちの溜まり場だ。

高位の魔法使いが冒険者になることなんて、ほとんどありえない。

なぜなら、高等魔法を学べる魔法学院に入学できるのは、ほぼ全員が貴族や王族、あるいは名門家の子息ばかりだからだ。

卒業すれば大抵は大貴族の私兵団にスカウトされたり、王宮や貴族家の賢者として迎えられたりする。

そう、アーニャだって昔は貴族だった。

『アーニャ・ヴァレリアーナ・オーレリア』それが彼女の本当の名前だ。

そしてアーニャの友人のひとりは、今や「大賢者」とまで呼ばれるようになっている。

アーニャが魔法を教えた相手なのに、追い抜かれてしまった。

(笑えるよね? いや、当然の結果だ。あの子には最初から「大賢者」の加護がついていたんだから)

悔しくて、アーニャはランタナに逃げてきた。

出自を全部嘘をつき、年齢も二歳サバ読んだ。

今は表向き十四歳だけど、本当はもっと上だ。

 

加護の話をするなら、それは一般社会では徹底的に秘匿されている。

上流階級だけで共有される情報で、聖なる鏡か魔水晶でも使わなければ判別できない。

だから庶民は一生、自分の内に秘めた加護があることすら知らないまま死んでいく。

なのにヴィクターだけは、パーティ全員の加護をまるで見えているかのように知っていた。まるで瞳に聖遺物でも埋め込まれているかのように。

本人は「自分には加護がない」と言いはるけれど、実際のヴィクターの加護は誰よりも特別で……しかも言葉に翻訳すらできないものだった。

アーニャはそれを確かめた。

ランダー学院からこっそり持ち出した聖なる鏡で、ヴィクターを映したことがあるから。

だからヴィクターは強い。

(加護持ちって、本当に羨ましいよね……)

アーニャはもう完全に暗記してしまった魔導書を、気にも留めずにパラパラめくった。

破壊力だけはあるけど洗練性に欠ける、冒険者向けの粗雑な魔法ばかり。

学ぶ価値なんてないはずなのに……ここではこれが手に入る最高峰の魔導書なのだ。

だって、冒険者たちが使う魔法と、貴族が独占している高等魔法は、もう完全に別次元のものなのだから。

結局、彼女は本をバタンと閉じて、テーブルの上に放り投げた。

そして窓辺で大きくため息をついた。

少女はぼんやりと昔を思い出していた。

かつてパーティにいた、あのリースという少年のこと。

自分が追い出した相手だ。

別に嫌いだったわけじゃない。むしろ「うざい」としか言いようがない。

だってあの子、いつもアーニャを邪魔してくるんだもん。

 

「アーニャさん、朝ごはんですよ」

 

「アーニャさん、遠征の準備してくださいね」

 

「アーニャさん、もう寝ましょう」

「アーニャさん、掃除するんで部屋から出ててください」

 

そんなのが毎日毎日で、さすがにイラッときた。

でも正直に言うと、たまーに信じられないくらい面白いネタを持ってきてくれたのも事実だ。

ある日、アーニャが新しく作った氷魔法の調整に没頭していると、ノックが鳴った。

 

「なに? リース、今忙しいんだけど」

 

「アーニャさん、ちょっとお願いがあるんです!」

 

彼が指差したのは、ダンジョンで拾ってきた腰くらいの高さの小型ゴーレム。

重すぎて台車じゃないと運べないやつだ。

 

「このゴーレムでお掃除させたいんです!」

 

「今ならまだやめられるよ?」

 

アーニャはゴーレムを一瞥して即答した。

でもあの頑固者はまだ子犬みたいな目で訴えてくる。

これがアーニャの最大の天敵だ。

リース本人じゃなくて、あの「どうかお願いします」目線が!

結局、抵抗できずに手を止めて付き合ってやった。

さんざん試行錯誤した末、ようやくゴーレムが両手を上げて立った。

ほんの一瞬だけ意志に反応して動いたかと思うと、人もゴーレムも同時にドサッと倒れた。

 

「ほらね、難しいって言ったでしょ。いくら練習しても、あれで家がキレイになると思ってる?」

 

アーニャはリースが連れてきたゴーレムの最大の弱点を指差した。

 

「あ……確かに。動くけど手がないから何も持てませんね……でも! 手があるゴーレムが見つかれば!」

 

「いい? もうやめなさい。そういうのは冒険者が一生稼いでも買えない値段よ」

 

そう言ってアーニャは立ち上がった。

それでもリースはまだ子犬目でこちらを見上げている。

 

「まだ何か?」

 

「アーニャさんがゴーレムを操ってる姿、見たいです……!」

 

「ふん」

 

アーニャは小さく鼻を鳴らした。

 

「別に難しいことじゃないわよ」

 

そう言って彼女は少年から短い杖を受け取り、ゴーレムに向かって軽く鼻歌を歌いながら魔力のリズムを刻む。

 

「立て」

 

杖を軽く振るだけで、ゴーレムがスッと立ち上がった。

そのままくるくる回ったり、踊ったり、変なポーズを取ったり。

一通り遊んだあと、アーニャはゴーレムを台車に戻して丸くさせる。

 

「アーニャさん、すごいです!」

 

「こんなのちょっと練習すれば誰でもできるわ。でもその前に、短縮詠唱とか無言詠唱をマスターしないとね」

 

そのときはなんだか楽しくて、アーニャは珍しく張り切って短縮詠唱と無言詠唱を教えてやった。

リースは何ヶ月もかかったけど、ちゃんと身につけた。

…その瞬間、あの女の子の顔が脳裏に浮かんだ。

昔、あの子に残された心の傷が、またチクチクと疼く。

(もしこの子が私を追い越して賢者になっちゃったら……どうやって顔を合わせればいいのよ)

アーニャははっと我に返った。

だから、自分がリースをパーティから追い出したんだ。

(……あの子を捨てた罪が、私を捨てさせたのかな)

アーニャは独り言ちた。

(よく考えたら、私もリースと同じだ。どっちも「いらない子」扱いされてる)

 

リースがいる間は、ギルドの雑用を全部引き受けてくれたから、自分が「余計な人間」に感じなくて済んだ。

あの子がいた頃は、しょぼい魔法だってどんどん改良できたのに……今は完全に頭打ちだ。

(本当はもうわかってる。次に追い出されるのは私だってこと)

ヴィクターが新しい人材を見つけたら、それで終わりだ……

 

「アーニャ!!」

 

明らかに敵意むき出しの声が響いて、アーニャは思わず顔を上げた。

ハンサムパーティの魔術師が立っていた。

鋭くて、めっちゃ嫌そうな目でこっちを睨んでる。

ヴィクターのパーティなんてみんな大嫌いだからね……。

アーニャ自身はヴィクターが街の人と揉めてるときに一度も加勢したことないし、ただ見てるだけだったけど、同じパーティってだけで十分にヘイト買うんだよね。

だから誰も近づいてこない。

 

「いい子が預かってたってよ!!」

 

相手は顔も声もめっちゃトゲトゲにして、アーニャに布包みを押しつけてきた。

 

「……リースから?」

 

アーニャは平坦な声で聞き返す。相手の悪意なんてスルー。

 

「そうよ。あのリースって子、ほんっとにいい子で面白いわよね。

アッシェンブルクのときにこっちで囲ってればよかったのに、って今でも思うもん。

うちのパーティに入れてあげたのに」

 

魔術師の女は言葉の刃をビシバシ飛ばしてくる。

これぞ魔術師の特技ってやつかな。

詠唱が多い分、毒舌のスタミナもバッチリなんだろうね。

でもアーニャは無言詠唱と短縮詠唱がメインだから口数少ないし、人を罵るのもあんまり興味ない。

……たぶん、そういうことなんだろう。

(……無視しよ―)

アーニャは内心でため息をつくと、赤茶色の髪をぱさっと払った。

 

「ふーん、どうぞご自由に。誰が誰と組もうが、私には関係ないし」

 

「ちっ……!」

 

相手の女は顔を真っ赤にして舌打ちすると、踵を返して出て行った。

残されたアーニャは、布包みから取り出したばかりの魔導書をぱらりと開く。

(……読めない。いや、少しだけ読める)

これは古代魔導文字で書かれた魔術師の手書きだ。

もうほとんど失われたはずの文字なのに、ところどころがハッキリと意味を伝えてくる。

『お前はこれを読める!!!』

アーニャは慌てて本をバタンと閉じた。

(あと少し、あと少し知識があれば全部解読できる!!

リース! リース!! これ……何送ってきてるのよ!!!)

心の中で叫びながら、胸がドクドクと鳴り始めた。

まるで初めてランダー魔法学院の無限の資料室に足を踏み入れた日の、あの震えるような興奮が蘇ってくる。

 

「こんな貴重な知識が…私の手に!! リース!!、あんたほんとに面白いヤツね!」

 

今さら激しく後悔した。

あのコを逃がしたことを、心底惜しく思った。

でもすぐにアーニャは笑い出した。

新しい目標が決まった。

 

「あと二年……二年だけ貯金して、このバカパーティ辞めてやる。

そしてランダー魔法学院に帰る!!」

 

彼女は魔導書を高く掲げ、くるくる回りながら叫んだ。

完全に理性が飛んでいる。

そのときの彼女は知らなかった。

 

 

自分が再び学院に戻るとき、そこに待っているのは「絶対に望まない姿」だということを。

けれどそれはまた別の話。

その物語では、彼女こそが間違いなく主人公になる。

 

 

 

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