あの人、勇者の物語にはいない。【AI翻訳】   作:ゼリ_Xerionic

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第46話 2-13 目に血が入る 1

冒険者のギルドの特別な待合室の中で、

大賢者アルティシアの体は、清らかな白い毛布に包まれて静かに眠っていた。

ベッド周りの調度は豪華とは言えないけれど、この部屋全体を包み込む魔力の気配が確かに感じ取れる。

エリゼは親友の手を固く握りしめていた。

でも、その手から体温をほとんど感じ取れなかった。……それとも、自分の心が震えているせいなのか。

 

「おやすみなさい、アルティシア」

 

「うん……ありがとう、エリゼ……」

 

アルティシアは短くだけ答えた。

その呟き声はかすかで、エリゼはもう一度自分の名前を聞きたくて身を乗り出した。

けれど返ってきたのは、相手の呼吸が規則正しく穏やかになっていく音だけだった。

アルティシアは薬の効果で深い眠りに落ち、マリーナの聖職者がすぐそばで見守っている。

エリゼはそっとその手を下ろし、部屋を出て、廊下の壁に寄りかかっていたエスタのもとへ向かった。

 

「もう眠りましたわ」

 

エリゼはエスタに小さな声で告げた。

手は震え、唇を噛みしめ、視線は相手の足元にしか向けられない。

エスタが近づいてくる。

片方の手で肩を抱き、もう片方の手で小鳥のよう震える手を優しく包み込んだ。

 

「泣きたいなら、泣いてもいいんだよ」

 

「いいえ……まだ泣きませんわ」

 

エスタがそう言うと、エリゼは無理に背筋を伸ばした。二人は冒険者たちのざわめきが響くギルドのホールを通り抜け、長テーブルの端に腰を下ろした。

 

「それで……リースは戻ってくるかしら?」

 

エリゼがリースのことを尋ねる。

ギルドの前に馬車が止まった瞬間、彼は「頼むよ」とだけ言って、どこかへ消えてしまった。

エスタは顎を手に乗せ、遠くをぼんやり見つめながら、長い溜息を漏らした。そして、気乗りしない様子で答えた。

 

「あの人は何も言わなかったけど……もし僕が予想するなら、きっとマリーナの教会へ行って、アルティシアの瞳にかかった呪いを解く方法を探してるはずだよ」

 

そう言いながら、エスタは視線をエリゼに戻し、口元を嘲るように吊り上げた。

そして、最大限の皮肉を込めた声で続けた。

 

「ほらね、私が言ったでしょ。私のこの使いやすい男は……お値段が高いのよ!」

 

エリゼはその言葉を二度目に聞いて、眉をひそめて困った顔をした。

 

「リースは優しいけど……その分、簡単に誘惑されちゃうかも……だからエスタが付き添わないとダメなんですね」

 

エスタは片目をつぶってエリゼを見ながら、礼儀もへったくれもなく大きくあくびをしてみせた。それから続けた。

 

「その通り。だからあんまり一人で放っておけないの」

 

それだけ言って、二人の間にほどよい沈黙が落ちた。

エスタは視線をぼんやりとさまよわせ、エリゼは小さく独り言をつぶやいている。

 

「エスタ、ついてきてくれ」

 

静けさが破られたのは、ギルドマスターのレオが厳しい顔で入ってきたときだった。

彼はいつもの感情のない平坦な声で言った。

エスタにとってこれは珍しいことだ。

普段会うときは大抵、呼び出されて叱られるタイミングだからだ。

こうして静かに呼び出されるということは、『厄介事が来た』という合図に他ならない。

 

「はい」

 

エスタが短く返事をすると、レオは背を向けて歩き始めた。

エスタはエリゼの方を振り返る。

 

「一緒に来て」

 

短くそう言うと、エリゼはほっとしたように微笑んだ。

ギルドマスターが連れて行った先は、彼の執務室ではなく解体場だった。

そこには銅等級の冒険者がもう四人待っていた。

 

「おう、エスタ」

 

ハンスが、エスタとギルドマスターレオが入ってくるのを見て手を挙げて声をかけた。

 

「おうハンス、今日も一緒か?」

 

「ああ、これが俺のパーティー『猪牙』だ」

 

彼は残りの若い冒険者三人を指し示した。

一人ひとり個性が強く、武器も装いもそれぞれだ。長剣、槍、弓、そしてハンスの双剣。

エスタから見れば、将来有望な面子だ。

 

「いいパーティーじゃない」

 

エスタはそう答えながら一人ひとりを眺め、自信たっぷりに微笑んだ。

 

「もうおしゃべりはいい!」

 

レオが大声でどなりつけた途端、解体場全体が一瞬で静まり返った。

 

「この話は、エスタがさっき仕留めた魔獣に関するものだ」

 

レオの視線がエスタに向けられる。

それは憎悪ではなく、重い憂慮に満ちていた。

 

「ランタンからの情報は偽物だった! 本当のところは、奴らがわざと『持ち込んだ』魔獣が三体もいるんだ!」

 

「三体!?」

 

ハンスが思わず叫んだが、レオに睨みつけられて慌てて口を閉じた。

 

「つまり、魔獣をおびき寄せて、私たちを身代わりに死なせようとしたってことですね?」

 

エスタの声は氷のように冷たく、部屋の空気が一気に重くなった。

彼女はレオと目を合わせる。

 

「残りの一体を、私たちに片付けさせてほしいんですね?」

 

「そうだ。せっかく戻ってきたばかりなのに、また戦わせることになって申し訳ない」

 

レオは頷いた。目は依然として厳しく、エスタはその視線を受け止めながら口を開いた。

 

「わかりました。でも、二つ条件があります」

 

エスタが堂々と宣言すると、周囲の者たちが驚きの表情を浮かべた。

 

「一つ……私が留守の間、エリゼの面倒を見てください。二つ……剣を追加でください!」

 

「いいだろう! お前が何本剣を折ろうとも、一銭も請求しない!」

 

「今日中に終わらせてきます!」

 

エスタが力強く叫ぶと、ギルドマスターレオは満足げに喉の奥でうなるような声を上げた。一方、ハンスとパーティーのメンバーたちは、今や体をすくめて手のひらほどの大きさに縮こまっていた。

 

 

 

「エスタ……」

 

冒険者のギルドの前で、エリゼはこれから出発しようとするエスタとハンスたちを、不安げに見つめていた。

高貴な生まれの少女は手を伸ばし、黒髪の冒険者娘の服をそっと引っ張った。するとその相手が振り返る。

 

「あなた……大丈夫、ですよね?」

 

エリゼは眉を寄せ、瞳を揺れさせ、唇を強く噛みしめた。声が詰まって、言葉にならない。

 

「心配しなくていいよ、お嬢様。私は死なないから」

 

エスタは自信に満ちた目で彼女を見つめ、自分の手をエリゼの頭に置いて軽くくしゃくしゃと撫でた。

それから何も言わずに背を向け、歩き去った。

エリゼは上げた手で乱れた髪を直そうとした。

普段通りの仕草を装いながらも、手が震えて一向に上手くいかない。

エスタの背中は遠ざかり、遠ざかり、見えなくなった。他の四人の冒険者の背中と一緒に消えていく。

エリゼはギルドの入口にただ立ち尽くしていた。

目の前を行き交う人波があっても、まるで空っぽの街に一人だけ残されたような気分だった。

アルティシアは中で眠っている。

リースはどこに行ったのかわからない。

エスタは戦いに出かけた。

まだ宙に浮いていた手がゆっくりと下ろされ、自分の服の裾をぎゅっと握りしめた——まるで溢れ出しそうな空虚を抱きしめて留めようとするように。

 

(私……このまま前に進んで……いいのかな……)

 

 

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