嘆きの亡霊は引退させない   作:型破 優位

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嘆きの亡霊は引退させない

 

 

 

 

 

 

 

 そこは宝物殿というには、あまりにも常軌を逸したマナ・マテリアルを有していた。

 今まで幾つもの宝物殿を踏破してきた俺たちからしてもまさしく異次元。今までの宝物殿などあの少女の言葉を借りるなら塵芥としか言いようが無い程、規格外の存在がそこにはいた。

 周りには倒れ伏して意識を失っている幼馴染が五人。

 俺も何とか意識は保っているが、最早動くことも叶わない状態だ。

 マナ・マテリアル酔いが酷く意識も朦朧としている中、超常的存在を前にしてもいつも通りの幼馴染に手を伸ばす。

 

 

「クラ……イ……」

「うんうん、大丈夫だよアルス。僕には必殺技があるからね。任せてよ」

 

 

 いつものように飄々とした表情で笑いかける幼馴染は、その本来の()()に見合わない頼もしさを感じる。

 いや、それも正しくはない。

 むしろこの幼馴染は、こういう時こそ強さを発揮してくれる。

 俺たちのリーダーは過程がどうであれ、最終的には必ず言ったことを守ってくれているのだ。

 だからこそ、安心して意識を失うことができる。

 

 

「悪い……任せた……」

 

 

 十三の尾を持つ狐と向かい合った幼馴染が地面に膝を付けたのを最後に、俺の意識は途切れていった。

 

 

 

 

 

 

 

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 トレジャーハンターの聖地と呼ばれる帝都ゼブルディア。ハンターによって発展したこの国は、帝国法によりトレジャーハンターを保護しており、税金や設備から色々と優遇がある。

 ハンターたちにとって非常に過ごしやすいこの国には多くのハンターが集まっており、拠点として置いているハンターも多い。

 

 そんな中、俺は今クラン『始まりの足跡(ファースト・ステップ)』の五階、クランマスター室のソファーで燦々と煌めく陽の光を浴びながら惰眠を貪っていた。

 正直ここは日当たりが良すぎて凄く気持ちが良い。

 クライが動きたくないというのもよく分かるというものだ。

 そんなクランマスター室のドアノブが、ガチャッと回る。

 

 

「アルスさん、帰っていらしたのですね」

「やあエヴァ」

 

 

 部屋に現れたのは、エヴァ・レンフィード。赤縁のメガネの中にはアメシストのような瞳が輝き、ブラウン色の髪は一つ縛りでしっかりと結われている。まさしく知性と品性を兼ね備えたうちの副クランマスターだ。

 

 

「探協にはちゃんと報告してから来てるからね」

「アルスさんにそのような心配はしてませんよ」

 

 

 探協とは探索者協会の略であり、トレジャーハンターを管理する団体だ。大型のクランでもない限りトレジャーハンターとして活動していく上で所属しないといけないもので、規模的には必要ないのだがクライの意向でうちのクランも所属している。

 俺も宝物殿に行っていたため、帰還報告はしっかりと済ませてここにいる。

 あと今のエヴァの言葉で一応俺のそういう方面で信頼があるというのは安心できた。

 まだ常識人枠は確保できているようで何よりだ。

 いや常識人なんだけどさ。

 

 

「しかし急に帰ってくるなんてどうかしたんですか? 【万魔の城(ナイトパレス)】に行かれていましたよね」

「いや今日ってメンバー募集の日じゃん? 俺もたまには顔出そうかなって思って帰ってきたんだよね」

「そうでしたか。でもそちらは既に始まっているはずですが、どうしてこちらに?」

「クライもいるって聞いたから行くのやめた。クライのことだから一般人に被害は出ないだろうけど、今頃向こうは荒れてるぞ〜?」

 

 

 建物の一つや二つ壊れてるかもね、と言えばエヴァの眼鏡にビシッとヒビが入ったような音が鳴った。

 流石にヒビは入ってないけど。

 

 

「滅多なこと言うのは辞めてください!! アルスさんが言うとシャレにならないんですから!!」

「そんなこと言われてもなぁ。俺はただ事実を言っただけなんだけど」

 

 

 むしろクライが居て何も起きないわけがない。エヴァは副クランマスターとして非常に優秀だが、そういった方面でクライに希望を抱いてしまうのは悪いところだ。

 まあこれはエヴァだけではなく、他の人達にも言えることなんだけどね。

 

 

「あそこにはアークがいるし大丈夫だよ。何が起きても何とかしてくれるさ」

「ダメです。クライさんみたいなこと言わないでください」

 

 

 アーク・ロダン。

 『聖霊の御子(アーク・ブレイブ)』のリーダーで『銀星万雷』の二つ名を持つ、この帝都でも六人しかいないレベル7認定ハンターだ。

 英雄の名を体現している彼は何においても優秀であり、よくクライの後始末をしてくれる。

 イケメンで懐も深いため俺もよく利用———もとい、助力してもらっている。

  初心者から上級者まで幅広くオススメできる超優良物件だ。

 

 ちなみに俺のオススメの使い方はクライの案件を押し付けることである。クライも訳知り顔でうんうんと快く了承してくれるし、アークもなんだかんだ良い笑顔でやってくれる。

 何回か口角が痙攣してた時もあったけど。

 

 あ、でも何か起きるなら探協に予め言っといた方が良いな。

 アークもクライのアレを事前に止めるってことはできないから。

 

 

「エヴァ、ちょっと探協行ってくる」

「……分かりました。一応念の為ですが、何をしに行くんですか?」

 

 

 だいたい何をするのか分かってはいるようだけど、確信が持てないあたりクライ検定1級の道は遠いなエヴァ。

 俺ぐらいクライを理解していれば過程はともかく結末がどうなるかぐらいは想像が付く。

 

 

「当然今回のことを謝りに行くんだよ。それくらい()()()予測できるからね」

「……はぁ。分かりました。よろしくお願いいたします」

 

 

 他の幼馴染たちならどうだろう。

 剣士のルーク・サイコルとスマート兄妹は過程含めて基本全肯定するだろうし、妹のルシア・ロジェはため息付きながらもなんだかんだでクライのことには甘い。

 

 ……うん、幼馴染たちはその過程を楽しむだけで、結末はクライが良ければ何でも良さそうだ。

 いつも通りで何より。

 

 

「もし騒ぎを大きくしたくなければ『ゼブルディア・デイズ』とかにかけあっておきなよ。どうせすっぱ抜かれるだろうし」

「!! はい、早速人を手配します」

 

 

 それじゃあ行ってくるか。

 なんだかんだで俺もクライのことは全肯定だからな。




19時にも投稿します。
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