嘆きの亡霊は引退させない   作:型破 優位

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千導②

 

 

 

 

 

「報告ご苦労だった———と、言いたいところなんだがな……」

「どうかしました、ガークさん?」

「どうにも上手く煙に巻かれているようにしか思えない……お前とクライは『白狼の巣』で一体何を見た———いや、何を見ている?」

 

 

 宝具のチャージを終えた俺は、探協にてガークさんに『白狼の巣』のことについて、主に地脈と中にいた幻影のレベルの高さについて報告していた。

 勿論ぽよちゃんのことは隠して伝えてある。

 クライがまだ誰にも言うつもりが無いと言っているのだから、その存在を仄めかすようなことは言わないことが正解なのだろうと考えた結果だ。本当はエヴァに相談したかったしたぶん言ったとしても結果はあまり変わらないのだろうが、一応従っておいた方が色々と楽な傾向にあるからな。

 

 ただやはりガークさんには違和感を持たれてしまったらしい。

 伊達に長年ハンターをやっていないということか。

 

 

「何を見ていると言われても、その場で見た事やクライやティノたちから聞いたことをそのまま伝えているだけです」

「だがあのクライが———宝物殿に全く行こうとしなかった男がわざわざ宝物殿に向かったんだ。何もないことは分かったが、クライは何を確認しに行ったのかは聞いても良いだろう」

 

 

 本当はレベル3宝物殿ぐらいティノに任せておけば大丈夫、程度の認識で渡したらレベル5の骨拾いと分かって、慌ててティノだけでも助けに行こうとした、あたりが答えだと思うのだが、恐らく言ってもはぐらかされているとしか思われない。

 それならクライのことは触れずに、俺の所感を述べた方が良いな。

 

 

「クライが何を確認しに行ったのかは分かりませんが、直接見に行った俺の個人的な所感で良ければ話します」

「……聞こう」

「まず『白狼の巣』についてですが、地脈に異常はありませんでした。念の為エヴァにも帝都の地脈の調査を依頼していましたが、同様に異常はありませんでした」

「ちょっと待て。昨日『白狼の巣』から帰ってきてすぐに帝都の地脈の調査を出したのに、もう終わったのか?」

「……? いえ、調査はこの依頼を受け取った後にエヴァにお願いしたものです」

「ッ!! ……続けろ」

 

 

 あ、しまった。

 これだと依頼を受けた時点で地脈に異常があると判断しているように見えてしまう。

 あの時はクライに変なこと言われたから念の為に調べてもらっただけなんだけど……うわ、凄い睨んでる。

 顔が怖いよ顔が。

 

 

「地脈に異常はありませんでしたが、『白狼の巣』では確かに異常が起きていました。そこに俺は外的な要因があると思っています」

 

 

 今回の件、全部では無いにしてもあのぽよちゃんも大きく関わっているはずだ。

 ぽよちゃんがどうして生まれたのかは分からない。

 どこかの宝物殿のルールが変わったのか、人為的に作られたものか、それとも本当にたまたま生まれた偶然の産物か。

 クライが関わった以上、偶然という線はないだろう。

 

 そしてぽよちゃんの存在は何かのヒントになるはずだ。

 マナ・マテリアルに干渉できる魔物が他にもいる可能性とかは追っても損はない。

 最終的には人為的なものに繋がってくる可能性もあるだろうが……そこまでは言うと色々と勘ぐられるから言わない方が良いだろう。

 

 

「思っている、と言っている割には確信しているように見えるのだが?」

「でもあくまで俺の中の仮定です。このあと『万魔の城』に戻るので調査もできない以上、俺から言えるのは外的な要因があるということだけ。俺の所感を過信するよりこれから調べる人達が目で見たものを信じた方が良いと思いました」

「……そうか。分かった」

 

 

 あまり納得はしてなさそうな様子だが、一理あると思ってくれたのか引き下がってくれた。

 チラッとカイナさんを見てみると、困ったように眉を下げながら苦笑いを浮かべていた。

 本当に苦労をかけてます。

 

 

「あまりお役に立てなくて申し訳ないです」

「いや謝るな。ちゃんと話してくれるだけクライよりマシだ」

「クライより……マシ……?」

「支部長、流石にその言い方はアルスくんに失礼ですよ」

「あ、ああ……悪かった、アルス」

 

 

 地味に傷つく言葉だ。

 なんだよクライよりマシって。

 まるでクライと共謀しているかのような言い方じゃないか。

 むしろ俺はクライからの千の試練を助けてあげているぐらいなんだぞ。

 結果的にだけどな。

 

 

「……探協も地脈の調査はしていると思うので結果が出てからだとは思いますが、大きく動くのであれば副クランマスターに協力の打診をしてください。余程のことがない限りは断られないはずです」

「ああ、感謝する」

「ありがとう、アルスくん。アルスくんも大変ね」

「……最近クライの気持ちが分かってきましたよ」

「!?」

 

 

 たしかに意図的に隠してる部分はあるけど、ある事ないこと邪智されていつの間にかこっちの功績になってることが最近本当によく増えた。

 クライはこんな感じで無理矢理レベルを上げられていったから慣れているかもしれないけど、俺は真っ当にレベルを上げているだけに自分の功績をでっち上げられているかのようで慣れない感覚だ。

 まあクライに関しては別に可哀想とは思わないし、むしろあそこまでの実績を叩き出してまだレベル8なんだとすら思うけど。

 

 とりあえず報告は以上だ。

 そろそろ万魔の城に戻らないといけないので、ガークさんたちに背を向けて支部長室を後にする。

 

 

「……アルス、お前、レベル8に興味はあるか?」

 

 

 それは、急な問い掛けだった。

 先程とは違う、緊張感のある声音。

 脈絡が無いため元々考えていたのか、それとも今の会話で琴線に触れた部分があったのか。

 いや、今の会話の何処に琴線に触れる部分があるんだよ。

 元々考えていたのかもしれないな。

 そして俺の答えも決まっている。

 

 

「興味はないですよ」

「ッ!? 理由を聞いてもいいか」

 

 

 理由。

 理由か。

 たぶんこれはクライ以外の全員が共通してるんじゃないかな。

 

 

「俺というか、俺たちは別にレベルに固執しているわけではありません。クライが———あのトレジャーハンターになるべく生まれた男が何を成し遂げるのか、それを特等席で見たいだけなんです」

 

 

 結局俺たちはクライに惹かれてトレジャーハンターをやっているに過ぎない。仮にクライがトレジャーハンターを辞めると言うのであれば、俺たちは何の躊躇もなくトレジャーハンターを辞める。

 それは疑いようもない事実だ。

 

 ……支部長室の外に人の気配を感じる。

 

 この気配は恐らく———『黒金十字』のスヴェンとヘンリクか。

 どうやらガークさんに用事があるようだが、話し声が聞こえて聞き耳を立てているのだろう。

 少しガークさんには話して欲しいこともあるし、一応隠しておこう。

 

 

「安心してください、ガークさん。クライがレベル9になれば俺もレベル8になります。そして近いうちにクライはレベル9になる」

「……それは予言か?」

「予言なんて曖昧なものじゃなくて確定した未来です。念の為聞いておきますけど、クライは今レベル9になる実績は足りているんですか?」

 

 

 ガークさんとカイナさんがお互いに顔を見合わせる。

 恐らく言っていいものなのかどうかを考えているんだろう。

 僅かな逡巡の後に、ガークが口を開く。

 

 

「今から言うことはアルス、お前にだから話すことだ。クライ含めて他言無用で頼む」

「分かりました。クライ含めた誰にも話さないと約束します」

 

 

 その返答に一つ頷くと、少しだけボリュームを抑えてガークさんが話し始めた。

 

 

「実の所クライの実績はレベル8の中でも圧倒的だ。実績だけ見るなら文句なしでレベル9になることはできる———が、アルスも知っての通りあいつは物事の解決速度が尋常じゃなく早い。早すぎる。俺も実際に関わっていなければ冗談としか思えないぐらいだ。そしてレベル9の試験に挑むためには、他の探索協会の支部長たちの承認がいる」

 

 

 ここまで言えば分かるな、とでも言いたげな目だ。

 しかしそこまで言われればたしかに分かる。

 

 

「他の支部長が承認しない、という訳ですか」

「何処の探索協会も自分のところからレベル9を出したいんだ。特にクライはレベル8になってから年数がそこまで経っていない。誰もが認めざるを得ない実績がない限りはまだ無理だろう」

「足の引っ張り合いという訳ですね」

「身も蓋もなくいえば、そういうことだ」

 

 

 所謂(しがらみ)ってやつだ。

 そういう政治系はうちだとシトリーの管轄だからよく分からないが、ガークさんも苦労しているらしい。

 それにしてもガークさんはクライのことを、クライ関係のことで下手なことを言う怖さを全く分かっていないな。

 何せガークさんがクライをレベル9に上げたいなって思ってしまった時点で、それは確定的な未来に変わってしまうんだから。

 

 これからガークさんとカイナさんは多忙になるだろう。

 クライのレベルが上がるということは、その分巻き込まれる規模が大きくなるということ。

 今でこそゼブルディアの中で済んでいるが、これがレベル9、レベル10ともなってくれば世界規模へと変わってくる。一支部長が抱えていい問題ではなくなってくるのに、探協に所属しているハンターのため責任はガークさんへと波及するだろう。

 

 どうしよう、ガークさんよりもその処理に付き合わされるカイナさんがとても可哀想に思えてきた。

 カイナさん優しくて仕事もできる良い人なんだけどな。

 うちで言うところのエヴァ的ポジションだ。

 何とかしてあげたいが、どうしようも無い。

 

 そんなもどかしそうか表情を全面に出してしまっていたからか、ガークさんが訝しげにこちらを睨みつけ、カイナさんも困ったように眉を下げてしまった。

 

 

「……どうしたの、アルスくん。なんか凄い可哀想な人を見るような目で」

「いえ、ちょっと未来が見えてしまったのでつい……」

「!? ……何を見た」

「何と言えば良いのかな……あーまあ、一応なんですけど、クライは間違いなくレベル9になりますよ——いや、せざるを得ない状況になると思います。そしてその後処理をメインでするのはガークさんたち探協になるので……まあ、言ってしまえばこうやってのんびり話すのは最後になるのかなぁって……」

「!?」

 

 

 言い方は難しいんだよな。

 明確なことではないんだけど、クライならレベル9になるというよりはレベル9にせざるを得なくなったという状況の方がしっくりくる。

 というか今までがそうだった。

 

 

「これからゼブルディア一国で収まらない問題がいくつも出てきて、全員が四苦八苦しながら対応を行うことになるでしょう。未知のことにあたふたしながらも全員が協力して対処を行い、だいたいの道筋が見えようか———というところで、いつの間にか現れたクライが根本から全てをあっさりと解決。そんな状況がいくつも続き、最早誰もが納得せざるを得ない程の実績を叩き出して、満場一致でのレベル9になる。そういう未来を見てしまいました」

「…………」

 

 

 その光景が安易に想像できるのか、ガークさんとカイナさんは僅かに目を見開く程度でなんとも言えない表情をしていた。

 信じたくないけど、有り得そうだもんな。

 俺もそう思う。

 仮にレベル9に上がる試験がレベル10相当の宝物殿だったとしても関係ない。

 

 少し与太話が過ぎたかもしれないな。

 スヴェンたちのこともあるし、ここら辺でお暇するとしよう。

 

 

「それではガークさんに来客が来ているみたいなので、俺はこれで失礼します———スヴェン、もう良いよ」

「……チッ、やっぱり気が付いていやがったか」

「!! スヴェン、来ていたのか!」

 

 

 踵を返してスヴェンとヘンリク———だったか? と顔を合わせる。

 聞き耳を立てていたのか横髪に僅かな癖が残っていた。

 何度かボリューム落としていた時があったし、どうやら扉に耳を押し付けて聞いていたらしい。なんか想像したら面白い。

 

 とにかく俺の話はもう終わったので、そろそろ宝物殿へ向かうとしようか。

 ガークさんとカイナさんに手をヒラヒラと振りながら支部長室を出ようとしたところで、肩に手を置かれてしまった。

 当然といえば当然だが、スヴェンだ。

 

 

「……待てよアルス。お前は俺たちの気配に気がついていたはずだ。何故隠した?」

「何故と言われてもなぁ……」

 

 

 何故隠したと言われても、ガークさんが気配に気が付いたら、俺が聞きたかったクライのレベル9に足りない部分について聞けなくなるから、というだけの理由だけど、それを言うとクライがよく言われているように煽りと捉えられかねない。

 なんと言おうか言葉を迷っていると、スヴェンからさらに質問が飛んできた。

 

 

「聞き方を変えるぞ。今の話を俺たちに聞かせて、どうなるんだ?」

「……さぁ、どうなるんだろうね」

 

 

 いや、本当にどうなるんだろう。

 やめてよそんな目で見るの。

 ジッと見つめてくるスヴェンの視線に耐えかねた俺は、隣にいたヘンリクに目を向ける。

 まさか視線が向けられると思ってなかったヘンリクはビクッと肩を震わせて、ワタワタと視線を右往左往している。

 

 どうやら前回の訓練場のことで少しだけ怖がられているみたいだ。

 悲しい。

 若干傷心したままそろそろ大丈夫かな、と思って視線を前に戻すと、いつの間にかスヴェンは何かを考え込むように視線を下げていた。

 この反応はこの反応で予想外なんですけど。

 

 

「……ガーク支部長、アルスとここでどれくらい話してた?」

「どれくらい、というのは難しいが、『白狼の巣』について報告を受けていたからそれなりに時間は経っている」

「それでは俺たちが来る前にクライはここに顔を出しに来たか?」

「クライ? あいつが来るわけないだろう。クライの代わりにアルスが報告に来ているんだぞ」

「そう……だよな……」

 

 

 ガークの答えを聞いて再び黙ってしまうスヴェン。

 さっきから一体何だって言うのだ。

 ブツブツと何か言っているが、ヘンリクが何だとか魔法か何かなのかとか言っているけど、俺に心当たりは全くない。

 

 

「なにか気になる事があるなら聞くぞ、スヴェン」

「……そう、だな。話すだけ話してみるか……」

 

 

 なんか気になる話を始めたから俺も少しだけいることにした。

 スヴェンはダメならダメって言うと思うし。

 

 

「さっき俺たちはクランハウスでクライに会ったんだが、ヘンリクはどうもクライのことが気に食わないみたいでな。レベル8なのは分かっているがほら……」

「ああ、なるほどな。たしかにクライの言動は飄々としているし、何よりあの見た目だ。とてもレベル8には見えん」

 

 

 レベル8どころかトレジャーハンターにも思えない風貌だけどな、とガークさんの相槌にツッコミを入れる。

 

 

「元々良い感情は無かったみたいなんだが、昨日アルスと模擬戦をやったこともあってな。思わず口に出してしまったみたいなんだよ」

「……なんて言ったんだ?」

「なんでこの人がレベル8で、アルスさんがレベル7なんだろう、だ」

 

 

 見た目だけならヘンリクに限らず誰だって思うだろうよ。

 特にクライとよく比較される人物はアークだが、実力で見るならアークがレベル7でクライがレベル8なのはマジでおかしいと思うよ。

 実績的には仕方の無いことだけどさ。

 

 

「その言葉がクライに聞こえていたみたいでな。いつもみたいに「うんうん、そうだね」とか言った後に、「そういえばガークさんが何か依頼したがってるみたいだから行ってみたら? もしかしたらアルスもいるかも〜」とか何とか言われて、俺たちも時間があったから来たわけだが、そうしたら……だ」

「……人を共犯者みたいに言うのはやめてくれ」

 

 

 なんでそうなるんだよ。

 たしかに言いたいことは分かるよ。

 ヘンリクが俺とクライを比較して貶した直後に、見ようによってはその俺がクライをべた褒めしている場面に出会ったということなのだろう。

 それも、俺が隠してしまったことによってスヴェン達に見せつけるかのように———。

 

 ……これを神算鬼謀のレベル8が仕組んだとか、やる事が小さすぎるだろ。ただの嫌がらせじゃねぇか。

 ただこうなるとこっちがどれだけ弁明しようと、また誤魔化してるんだろ、とか言われて受け入れて貰えないだろう。

 ここ最近よく起きるようになった障害の一つだ。

 

 ただなるほど、ガークの依頼を受けに来たということは、次の千の試練はスヴェンたち『黒金十字』に降りかかるわけだ。

 でも今の流れだとクライのイメージが『そんな小さいことで報復してくる器の小さいヤツ』になってしまわないか……?

 いや別にクライだけが思われるなら最悪どっちでも良いけど、付随して俺も小さいヤツだと思われてしまうかもしれない。

 プライドが高い訳では無いが無い訳でもないので、一応言っておくか。

 

 

「なあスヴェン。勘違いされるのも困るから言っておくけど、その件とこれからの件は全くの無関係だからな」

「……急に何を言っているんだ」

「だからこの後ガークさんからの依頼で何が起きたとしても、クライが報復しようとした訳ではないってこと———」

 

 

 そこまで言って、気が付いた。

 これって完全に千の試練のことを暗喩してる人になってるんじゃないか?

 というかなってるよな。

 クライからの報復行為だと捉えられないようなことが起きるって、俺言ってしまっているよな。

 

 失敗した。

 何よりも慌てて止めてしまったことが何よりの失敗だ。

 これから千の試練を受けさせられると分かったスヴェンの肩が、ワナワナと震え始める。

 

 

「……あの、今言ったことは無しにしてもいい?」

「!! できるかあああぁぁぁ!!!」

 

 

 ……ですよねぇ。

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