この物語は、作者の望みのようなものが薄ら見える場合があります。現実的な流れであると思いますが都合の良い展開が続くので苦手な方はご注意下さい!
──自慢ではないが、私は売れっ子の小説家だ。
子供の頃から物語を書くのが好きで、よく自分で書いた童話を家族に見せていたし、国語のテストは80点以上で、全国区の俳句、短歌コンクールで入賞した経験があり平凡以上の文才を持っていたと思う。技術に磨きをと思い語学の専門学校も受けた。とまぁ──ここまで書いてなんだが、最初から小説家になりたい訳じゃなかった。そもそも──
──いや、何故そうなったかの理由は後で語るとして。とにかく私は小説家としてデビューしてから多くの作品を残して来た。ファンタジー、SF、サスペンス、群像劇…様々なジャンルを嗜んでは一定の評価を積み上げ、今では新刊を出す度話題に上がるほどの中堅どころに収まっている。自分で言っていたら世話ないが?
──執筆活動に勤しむ中、私の所に母校である中学校から「講演会」の依頼が舞い込んで来た。在校生徒たちに我が校の誇りから話を聞かせてもらいたいそうだが…正直言ってあまり良い思い出も無い学校なので、断ろうかと思い悩んだ。結局筆を置くこともままならないぐらい忙しいのに変わらない訳だからな? しかしまぁ──私も40代と良い歳なので、機会を貰ったと思いついでに自分の歩みを振り返ろうかと考えた。そのぐらいは構わない筈…良し、何を語ろうかと私は机に腕を置いて思案する。
「──…あぁ、そうだ」
私はそう零すと素早く机に広げた白紙の上にテーマを書き始めた、テーマは──
──愛する誰かに向き合え、だ。
・・・・・
──
・・・・・
──僕の人となりを一言で表すと──自信家、或いは勝ち気過剰。
僕は幼少期から蝶よ花よと育てられたからか、はたまた子供特有の万能感からか、何処から来るのか自身の考えに絶対のプライドがあり、他人がああ言えばこう言って自分を優位に立たせたい自尊心の塊だった。その所為で小学校ではまともに友だちが出来なかった。
中学校では流石に友だちが欲しかったからなんとか他人が形成したグループに入ろうと必死だった、相手の指摘には従順に従い怒られようとも愛想笑い、和やかな人となりを演じたつもりだったが──結果は最悪。ちょっとした周囲との不和が僕を再び孤独にした。
自分の凝り固まった性格を完全には治せずどころか──僕の価値観として──間違った意見を言う相手に面と向かって正しさを口から叩きつける。するとたったそれだけで「アイツに話し掛けるのは止めよう」みたいな空気になり皆自分以外の子と仲良くし始める。…うん。確かに言われた相手のことを考えてなかったし、我が儘に見えたりしたのかもだが、正しいことを伝えたら締め出されるなんて、世の中こんなに軟弱になったものかと思わず息を吐き出す。矢張り納得いかん! ・・・なんて、どうしても自分の意見を押し通したい子供だったのだろう。
──そんな僕を変えるきっかけは、僕を育てた両親から送られた。
中学校で自分の「悪癖」を治すに至らなかった僕は、それが悪化して自暴自棄になり毎日問題行動を起こしては周りに迷惑ばかりかけていた。母は学校から呼び出されては先生立会いの中僕の喧嘩相手とその両親に頭を下げていた、家庭では優しく温かな母の悲しい顔を見る度自分の仕出かしたことを痛感する。
家で母は父と共に僕の悩み相談を始める。父も喧嘩したことに対して怒るもそれ以上は追求しなかった。僕の心の内を吐露する度に両親は真剣な表情で僕に対して相槌を打ってくれた。
「友達が欲しい、ただそれだけなんだ。寂しいんだ…そのはずなのに、どうして僕の言うことを誰も聞いてくれないんだろう。そう思うとカッとなって抑えが効かずに口が乱暴になってしまうんだ。僕…分からないんだ、
そんな僕の「影」を垣間見せる言葉に、母は「貴方は昔から正義感があるから」と言い、父は「友だちは自分が否定されたと思っているかもしれない、自分がそんな言い方されたら嫌だろう?」と正論で諭す。だが──この時の僕は、そんな二人の言葉を全て呑み込むことが出来なかった。無言で顔を顰める僕に対し両親は困り顔で互いを見合うしかなかった。
──その翌日、帰宅した父から手渡された「紙袋に入った小さな長方形のアイテム」が僕の運命を変えた。
父親からのプレゼントなんて珍しいなと興味本位に袋を開けてみると…そこには派手な服装の少年少女が表紙に描かれた、一瞬ゲームかと勘違いしたがれっきとした「本」なのだそう。作者は──
「流行りの作家さんだそうだ、お前と同年代ぐらいだと聞いた気がする。それを読んで心の機微というものを学んでみなさい、それで共通の話題も出来るから話せる友だちを見つけてみなさい」
成る程、小説は人の心を表すと聞いたことがある。人が普段から何を考えているのか文章から理解出来るし、更に話題作ともなれば多少は読んだことのある人はいるかもしれない。人が何を望んでいるか分からず共通の話題のある友人が欲しい僕にはピッタリなのかも?
一石二鳥…なのだろうが、小説ねぇ? 文学的なイメージがあるが、手に持っているこれはそれとはかけ離れたRPGチックな話なのは想定出来る。現代的にアップデートされた小説なのだろうか? どんなものかと興味を惹かれて父に一応お礼を述べて早速冒頭だけ軽く読んでみる。
するとどうだ──引き込まれる! 独特の世界観、韻を踏むように掛け合いを興じる登場人物たち、それらから見え隠れするストーリーやバックグラウンドの壮大さ、どれを取っても一級品だ! ほんの数ページめくっただけの序盤でこの満足感とは…こんな傑作を僕と同年代の人が?!
「すげぇ…これは、すげぇ…!」
僕はそう呟きながら次へつぎへと頁を開いていく、そんな息子の様子を見て安堵した父と部屋のドアから顔を覗かせていた母は、満足そうに二人揃ってそのまま部屋を後にした。
──これが、後に「ライトノベル」と呼ばれる
・・・・・
──それから僕はのめり込むようにライトノベル…否! 小説というジャンルに
時に異世界を救う勇者の冒険譚、時に宇宙や怪奇に満ちたSF、サスペンス、時に日常を切り取った朗らかで静かな語り口! それらに囚われない作家性が爆発した尖った作品まで! ほぼ全てのジャンルとそれらに描かれた主人公たちの「物語」を見て来た!
最高だった…なまじ子供のころから語学力に覚えがあったからか、作者の伝えたいことがダイレクトに感じるようで、とても心地良かった! 結局友だちは数人しかに出来なかったけど…淋しくも不安にもならず、寧ろ期待以上の充足感を得た! 僕にとって小説とは友だち以上の安心感…居場所を齎してくれた!
例えるなら、そう──現実という誰しもが放り捨てられる砂漠地帯に現れる、水面に輝きを放ち揺蕩う湖のような! 凍えるような寒さに打ち拉がれながら雪の上を当ても無く彷徨う夜、仰ぎ見ると暗い空に煌めく星とそれを覆うオーロラのカーテンのような! そんな──絶望の中の「光」がそれにはあった!!
時に僕らに優しく微笑むヒロイン! 時に熱い血潮の親友、時に全てを預けられるカリスマのような語り口! そんな本の中に居る登場人物たちに──大丈夫、一人じゃない──と励まされるのだ!
そんな個性的な彼らから学んだことは──
でも…やっぱりその中でも目を引く面白さだったのは、最初に見た「時任美雨」先生の作品たちだった! 初めてライトノベルという作品に触れてから、勿論美雨先生以外の作家さんの作品も見て来た。だが…何かが違う、彼(女性、或いはサークルの可能性もあるが)の作品は矢張り文章に迸る感情とか、キャラがうん蓄を語る際に感じる作者のインテリジェンスが段違いだった。本当にライトノベルで良いんですか先生? 本格的な小説でも食べていけますよ絶対! そんな僕の心からの想いを余所に、美雨先生は次々とライトノベル作品を書いて出していった。しかもどんどん面白くなっていっている! 凄すぎる…!
「僕も──書いてみたい! 心躍る世界を…絶望の中に光る「希望」の物語を!」
切っ掛けは多分、そんな平凡な「憧れから」だったと思う。我ながら子供だなぁとは思うが成長し社会人となっても
勢いそのままに僕は、ネットの小説投稿サイトで自分なりの小説を投稿。最初こそ素人だからか話題にならなかったが…それでも、下手だなぁとか勿論面白いとか素直な感想を聞いていると、もっと面白いの書いてやると心の内に燃える「火」に薪が
だが今まで友だちが居なくとも平気だったのは、確実にライトノベルを始めとした小説が側に居てくれたから。だから──自分の作品も
結果は──佳作が一つ! ん〜まぁ悪くないだろう、これが主人公なら行き成り大賞取ってそこからトントン拍子に…なんだろうが、事はそう上手く運ばないものだ。というか佳作でも十分すぎる、正直嬉しい! 自分の実力を評価してもらえただけでも良しとしよう!! そう思いながら僕は次の小説のアイデアを頭の中で練っていく。
この頃が何を考えることもなく、小説に楽しく向き合えていた時期だった。それが──あんなことになるなんて、誰が予想出来ただろうか?
・・・・・
──佳作を取って何週か経った頃、僕のもとに一本の電話が鳴る。携帯を耳と口元に近づけると、聞こえたのは男の話し声だった。
『私K4出版の者ですが、先日の佳作を拝見した弊社の作家が貴方と話がしたいと言っておりまして、宜しければこちらで対談の準備をさせて頂ければと…如何でしょうか?』
K4出版…美雨先生が作品を出している出版社か! 確かに偶然K4出版主催の小説コンテストに応募して、佳作賞取ったけども…まさか声を掛けて頂けるなんて、身に余る光栄だ! 僕は──色々気になることはあるが──これも経験と思い、二つ返事で承諾する。
気になる対談相手は誰なのか、それとなく聞いてみるも──どうやら当日まで名前は出せないほどのビッグネームのようだが、そんな些細なことどうでも良いと言わんばかりに僕の鼓動は高鳴り、思考は濁流のように止まらず「対談相手予想」を思い描き盛り上がっていた。
うん、冷静じゃないのは認める! めっちゃ興奮してる! 僕はこの時点で物語にある「運命の出会いの前触れ」のような雰囲気を感じ取っていた! これから何かが起こる予感がして──収まりが付かなかった!
──そして対談当日。
僕は指定された住所(K4出版本社)へ赴く。そこはガラス張りの高層ビル…なのだが、ここで本当にただ事じゃないぞと、感覚が麻痺していた心が気付いて立ち尽くす。いや本社なのは分かっていたんだけど、しょーじき半信半疑だったので頭がポカンとして現実感が掴めない。
気を取り直して僕はK4出版本社の中へ入っていく、受付を通り案内された部屋へ向かう。そうして部屋のドアをノックし、返事が返って来たことを確認する。
「──失礼します」
僕はそのまま丁寧にドアを開けて部屋の中へ進み出る。すると──白基調の部屋と机、数人分の椅子の内2席に座る人たちが居た。おぉ! ホントに居る!! 遅れてしまったが僕もそのまま席に着く。
「──急な申し出に出向いて頂きありがとうございます、あ。私ここの編集者で、今は彼女の担当となります」
「ど、どうも」
緊張しながら頭を下げる僕に対して慣れた様子で社交辞令を混ぜた挨拶を交わす男の声が響く。電話越しに聞いた声だ! 水色のカッターシャツを着た壮年の男性はK4出版の編集者! なら隣に居るのが対談相手か…その容姿は白のブラウスに黒のスカート、そして長い黒髪の「女性」だった。この人が僕との対談を望んだ作家さんだろうか…?
「でまぁ、お察しのとおり彼女が貴方を此処に招待した張本人です。本来ならこのようなことはしないのですが、彼女が貴方の作品を見てどうしてもお話が聞きたいと──」
「(・・・今更だけど、怪しくね?)」
編集者さんの言葉に、渦中に入り漸く冷静になった僕はこの状況に対して疑問を抱き始める。いや出版本社である以上そんなことないだろうが…僕の作品を見てファンになったってこと? やけに話が出来すぎているような…ドッキリ? まぁ例え嘘でも失うモノなんてないし?
そんな僕の疑心暗鬼を余所に、女性作家は僕の顔を見ると眼にキラキラを放ちながら話掛け始めた。
「あ、あの! AZKI先生ですよね!」
AZKI(アズキ)とは僕のペンネームだ、そうですけど…と勢いに呑まれて小声になる僕に対して、女性は嬉々とした様子で続ける。
「先ずは佳作受賞おめでとうございます! 作品拝見させてもらいました! もう最高でした!! 主人公がまるで自分を見ているようで、それでいて臨場感溢れる場面描写とキャラの個性のぶつかり合いが、粗削りではあるんですけどすごく…すっごく惹かれてしまって! 私AZKI先生のファンになってしまいました!!」
「あ、ありがとうございます…えっとぉ…?」
「
…ん? 編集者さん? 今何て言った?? 美雨先生って…言ったよな??? この人が…目がシイタケ状態で鼻息を荒げる、僕にマシンガントークしてるこの人が!?
「すみません、先生はいつもこんな調子なので。改めて此方は「時任美雨」先生です、佳作が決定した貴方の作品を先生が拝見したところ、是非話がしたいと言って聞かず、終いには先生の何時もの我儘…んんっ! 失礼、提案でAZKIさんとの対談を望まれた次第です。申し訳ありませんが彼女にお付き合い下さい。ぁあ…私は打ち合わせがあるのでこれで、先生…30分だけですからね? 延ばしても一時間でお願いします!」
そう一通り言うと編集者は僕と美雨先生を残して部屋を去ってしまった…!?
おい…嘘だろ、
というか美雨先生…女性だったのか!? 男心くすぐるような話が得意だからてっきり男性なのかと…!!? えぇ…マジか、この人が僕と同い年ぐらいで、僕が中学の頃から作家として才能を発揮していた天才だと??!
落ち着け…何かホントに主人公みたいなトントン拍子になってるが、これが事実として「わーいみうせんせいにみとめてもらえてうれし~!」なんて喜べるわけないだろ!? 棚から牡丹餅どころか高級菓子と紅茶入りボトルが一斉に降って来たような絶対的幸運だぞ?! 0円で優雅なティータイム楽しめるわッ!!? 誰が読めるんだこの展開恐れ多すぎるわ!! 一生使っても払いきれねぇよこんなのッッ!!! どうすんだこの状況…!!?!?
有り得ない状況と再度跳ね上がる心臓を落ち着かせるため息を整える、僕は対面座席に座る美雨先生を見遣る。彼女はニンマリと満面の笑みを浮かべて同じく僕に視線を返すのを見てまた跳び上がる心臓。ひ、ヒエェ…ヤバイ、し、心臓が保てないっ、正に恐縮の極みだよ!!?
そんな僕は何とか現状を受け入れ平静になると、美雨先生と互いに簡単な挨拶を済ませてから、早速本題に入る。どうも感想を直接言うために此処に呼びつけた訳でもないようだ。
「実は──こんなの書いて来たんです!」
そう言って美雨先生はバッグから一枚のA4サイズ用紙を取り出し見せる、用紙にはキャラがポーズを取りながら格好つける一枚絵が。小説で言うと所謂「挿絵」のような様相だが…デッサンのことは正直解らないが、上手い。キャラが活きいきとしてとても感情移入出来るし、この一枚で場面やキャラの情報が瞬時に理解出来る、やっぱり絵や映像は情報を言葉なく分からせてくれる。…ん? というかこのキャラは…!?
「え、もしかしてこのキャラ…僕の作品の?」
「はい! AZKI先生の佳作作品のキャラを
「いや──最高です! 本当にこんな…分不相応というか、ありがとうございます!」
「とんでもない! 私はAZKI先生の作品に感銘を受けただけです、素敵なキャラクターを生み出して頂き…ありがとうございます! ふふっ…他にも書いてて、次は──」
美雨先生は自身の作品の表紙や挿絵も自分で描くほど絵の才能がある、更に文才もあるんだから正に天才なんだが、その美雨先生が僕のキャラを一つ描いてくれるだけでも相当の
「こ、こんなに!? いやぁ…余程気に入って頂けたようで、恐縮です」
「アハハ! 喜んでもらえて良かったです! でですね…先生さえ良ければこれからも描いていきたいと思っていて、もし可能なら──先生のこれからの作品に私の挿絵を使って頂ければと!」
「あ~良いですねぇそれは──…え、美雨先生? それって所謂
「単刀直入に言うとそうなります、私たちでサークル立ち上げて皆にAZKI先生の名前を広めてしまいましょう! 今日お話に来て頂いたのはその確認のためなんです!!」
彼女は──遠い景色を見るような眼で──僕を見つめながら嬉々として勧誘する。
本音としては、ここまで
見る限り挙動不審に慌てふためいていたのだろう、僕の様子を受けて美雨先生は言葉を付け足す。
「正式な商業小説でなくとも、同人でもなんでも構いません、ただ私はAZKI先生の世界を広げるお手伝いがしたいと思いまして!」
「ちょ、ちょっと待ってください!! …ぁあの、お気持ちはありがたいのですが美雨先生、お仕事がお忙しいのでは? それは流石に抵抗があると言うか…お話は大変ありがたいのですが!!」
「大丈夫です! 自慢じゃないけど私結構な速筆ですので、AZKI先生とやり取りしながら新刊の作業をするのは不可能ではない筈です!」
「いやだからって、そうまでして僕のような三流とどうして組みたいなどと、先生のお時間を無駄に割くぐらいなら、僕は…!」
今を時めく人気作家たる時任美雨先生、彼女の新刊作業の邪魔になるぐらいなら、ファンとしてその提案を受け入れることは出来ない。それでも──天才は朗らかな笑みと楽しそうな口調で言ってのける。
「だって──
別に世界目指そうとかそういう話でなくって、私は先生の作品を…こう、もっと見たいというか! 少しでも価値を理解してくれる人を増やしたいというかっ! ご迷惑なのは重々承知なのですが、宜しければ!!」
面白いから──彼女は確かにそう言って捲し立てるように矢継ぎ早に言葉を並べ立て終えると、頭を下げて僕をサークルに招致しようとする。
それらから感じたことは、彼女は面白いとか楽しいとか思ったことに一直線で、実現しないと気が済まないと言ったまるで──
特別な才能の持ち主たちは「思い立ったが吉日」を体現する人たちばかりなのだろうか? 僕の脳裏に美雨先生が視界一杯のハートマークに埋まりながら笑顔を浮かべる、そんな映像がふと過ぎる。こんな僕のために雲の上の存在と思っていた彼女が目を向けてくれている、それだけで──僕は涙が出そうなくらい喜びが弾けそうだ。
──思えば、僕は小心者だった。
友だちに僕の理想を押し付けて、僕自身は皆と向き合わずただ的射る意見で皆を黙らせていた。怖かったんだ…
だから誰にも認めてもらえなかった、大人になったから解るが隣に人が居てくれる安心感は何者にも代え難い。僕も友だちをもっと作れたらと何度後悔したことか! それでも──こうして捻くれながらも生きていられたのは、僕の隣に「物語」が在ったから。心が圧し潰されそうな時、自分を見失った時、人生における様々な場面で物語が語り掛けて来るんだ──
そんな僕と物語の懸け橋に成ってくれた時任美雨先生と彼女の作品たちには、本当に感謝してもしきれない。まだ状況は飲み込め切れて居ないが──彼女が僕を求めてくれるなら、断る理由はない!
「──僕は、美雨先生の大ファンなんです。中学の頃から…いや、例え大人になった今知ったとしても貴女や貴女が創った作品の虜になっていたでしょう。
そんな僕が造った石の破片のような作品を、貴女は原石だと言ってくれた! こんなに嬉しいことはないっ! もう死んでも良いと思えるとても夢見心地な状況ですが、更に貴女自身が僕の原石磨きを手伝ってくれるのなら…こんなに心強いことはない! 此方こそです美雨先生…僕で良ければ! 宜しくお願いします!!」
そんな彼女に負けないように、僕なりの「大好き」を美雨先生に劣るなけなしの表現力で紡いでいく。すると…何と、美雨先生の目から
「せ、先生!? 美雨先生大丈夫ですか!!?」
「…ご、ごめんなさい。いきなりの提案で鬱陶しがられるんじゃないかって思って、実際ちょっと怖かったんですけど。…フフフ! まさか私のファンだったなんて! 確かに文章が私と似てる部分があるから、そうなんじゃないかとは…思って、たんですけどっ。我ながら勢い余ってというか、直情的だったかなぁって…!」
「落ち着いて下さい先生! 大丈夫ですから!! えぇっとポケットティッシュ…!」
美雨先生のポロポロ流れ落ちる涙を拭おうと、僕はおたおたしながら懐からティッシュを取り出し対応する。
こうして──何の因果か、僕は憧れの天才作家と
・・・・・
──それが、自分も予想だにしない