──それから僕の人生は一変した。
とりあえず同人サークルから始めようと二人で決める、名前は──8Q(えいきゅう)機関! 名前付けは僕、元ネタは無論永久機関から。8Qは「永久の当て字」だがこの幸せが長く続くことを願って! …という自分の細(ささ)やかな祈りから、美雨先生も「良いですね!」と笑ってくれた。
あの初対面の後に互いの連絡先を交換すると、僕らは平日にテレビ電話で、二人とも休みの日があれば対面出来るよう話し合って、近場のカフェに集まっては新作の段取りをする、忙しいけど自分にとって夢のような毎日を送っていた。
僕が小説のプロットを書いて美雨先生がそれを読んでキャラや情景を思い起こしながら挿絵を書く、そんな単純なやり取りだけど一昔前には
8Q機関は主にコミックマーケット出展や同人ショップでの販売、それをSNSで──大々的でなく、ひっそりとした──必要最低限に宣伝する活動としては細々としたものだった。僕自身有名になりたいわけじゃなくて、自分の小説を好きな人に見てもらうだけで良かったからこの形になった。美雨先生は何処か不満げであった…すみません先生! 幾ら先生の望みとはいえ、こんな奇跡の連鎖の流れで更に欲しがったら、僕がどうにかなりそうで怖いので!
因みに時任美雨の名前は別の呼称に差し替えられている(あくまでプライベートなので、商業用の名前を使っちゃダメなんだそうな)。まぁ美雨先生のネームバリューを使ったらそれこそ「おんぶに抱っこ」だから、僕も依存はない。
僕らは8Q機関として試しに色々なジャンルの小説を売り出して行った、そんな僕らの作品の評価は──良いものばかりではないが確実に好きな人が居る、そんな印象であった。挿絵は一級品でシナリオはスルメ(噛めばかむほど味が出る)とどっかのネット評論サイトに書かれていたが、僕はニヤリと笑ってそれを受け入れるも美雨先生は矢張り不服そうだった。
とはいえ売れ行きとしてはあまり芳しい成果は無かった、売れていたらそれだけ認知されているということで、僕も少し悔しい想いはあったが…美雨先生と共同で作品を作ったという事実は、そんな小さな辛さを掻き消していた。
鳴かず飛ばずが続く中、美雨先生は──とうとう奥の手を使うと言わんばかりに──独自のコミュニティを駆使して僕の小説を売り込む。お相手は──何とK4出版社の偉い人たちから、アニメ制作会社関係者だったり、ゲーム会社代表だったり、二次元界隈で名のあるヒトであったり様々。わぁお流石天才作家! 人脈のレベルが桁違いだ、その過程で僕もお歴々の方々と仲良くなれたし、まさか彼らからシナリオ制作とか頼まれるとは夢にも思わなかった。それだけでなく小説の校正や感想、改善案まで出してくれた! いやぁ光栄というか恐れ多いというか…普段だったら萎縮してしまいそうな人たちだけど、僕自身のレベルアップに繋がるなら真剣に受け止めさせてもらおう。ネットの感想もそうだが実際に見られていると感じながら書くのはスゴぶるやる気が出て良い! もっと楽しくなるような話を書きたいと思わせてくれる! それが一線級の人々であるなら尚更だ、これも美雨先生の人脈の賜物……!
──などと言いながらふと、僕は気づいた。
いつもの集合場所になったカフェの個室にて、自分の目の前で次の小説のプロットやアイデアを練っている女性──時任美雨先生、彼女は僕をこのステージまで押し上げてくれた。献身的に時に大胆に僕の支えになってくれた。
──何故? 僕は訝しむ。
だって彼女は僕の作品に惚れ込んで、僕の作品を世に知らしめようとしている。でもそれなら態々サークルなんて組まなくっても「僕を編集部に推薦」したり、そうじゃなくても「良い人がいますよ〜って方々に対して働きかけてくれる」だけでも有難いんだ。どうして目前に現れては僕と一緒に小説を書く流れになったのだろう?
確か「それが面白いから」と言っていたが・・・幾ら先生のお眼鏡に適ったとはいえ、彼女自らが一肌脱ぐ必要は無い。何故僕にここまでしてくれるのか? それが疑問で仕方なかった。
・・・聞くか? でもこういうのは大抵秘めた感情があるから、下手に聞いて地雷踏みたくないし。どうするか? と──悩んでいた僕を知らずか美雨先生は軽い雰囲気で話しかけて来た。
「AZKI先生、ここの挿入絵はこんな感じで如何でしょ?」
「っえ、あぁ! そうですねー…僕のイメージではもっと躍動感があるかなぁと? もちろんこれだけでも最高ですがね!」
「成る程、じゃあ今にも走り出す形で行きましょか?」
「はい、お願いします!」
僕がそう言ってOKを出すと、美雨先生は浅く頷き筆を取った。・・・が、程なくして眉を顰めて唸り始める。
「どうしました?」
「いえ、このシーンは強敵から命からがら逃げてるじゃないですか? 躍動感つけたら確かに臨場感が出ますが…一枚絵で印象付けるほどなのかなぁ・・・と?」
美雨先生の言う通り、ゲームや漫画のイベントシーンで盛り上がるのは矢張り「敵に立ち向かう構図」や「戦いに勝利する」場面なので、自分の書いてほしい場面はその真逆、スカッとするどころか読者にストレスを与えることになる。でも僕の考えでは──?
「敵に背中を見せることで、主人公が今の状態では弱いのだと読者に認識させたいんです。そしたら未来に書くであろうお話に「深み」が生まれるんじゃないかと? 何だったらそれまでに主人公の師匠ポジションを作ったり、再戦した時に同じ構図にして「エモさ」を演出する…なんて? 美雨先生ならこれ以上言わなくてもですよね、すみません釈迦に説法でした・・・;」
「あぁ成る程! 理解しました! あはは…流石AZKI先生、お話作りのノウハウを掴みましたね! 私もまだまだですっ!」
僕は美雨先生が用意してくれた機会で出会ったお歴々方のアドバイスを元に、自分なりの話の骨組の作り方を語る。美雨先生は満足げに笑うが何処か恥ずかしそうだった。
「いえ、僕なんてまだまだで。自分が書きたいことって中々言語化と表現が難しいこともありますし、そう考えると創作者の皆さんは今も新しい心理描写や表現の技術を生み出し続けていってるのは、本当にすごいですよね? 今の僕にはとても届きそうにありません」
「そんなことないですよ! ちゃんと文章やキャラの表現も進化していっていますし、やっぱり私の目に狂いはありませんでした! 貴方ならいつか皆が面白いって言える作品を作れます!」
美雨先生の言葉はストレートで、どれも僕の心を満たすに十分な温かな光に満ちていた。でも──やっぱり僕には自信が持てなかったし、本物の天才が目の前に居るのに楽観的に見ることは出来なかった。だから──
「──そうでしょうか? 美雨先生は僕が中学生の頃から小説を執筆されていて、作家だけでなく挿絵に同人活動、作品がアニメ化したからってそれの監修もされているんでしょう? 天才──というか、僕には本来手の届かない高みにいる特別な人ってイメージです。美雨先生に比べたら僕なんて…」
僕はそんな──若干へりくだった──言い回しで美雨先生の名誉のために自分を下げる。しかし僕が言葉の最後尾を言い切ろうとした直前、言葉を被せるように美雨先生が急いで反論する。
「それは絶対に違います! 貴方は確かに私の文章の癖を真似ているかもしれません…でも! 私の胸を熱くする物語を書いているのは、世界で貴方唯一人なんです! こんな気持ち…自分自身初めてというか、今まで感じたことなかった! もっと貴方のお話を見ていたい、貴方の隣で──貴方の才能が大成するのを見ていたいと思わせてくれたんです!!」
「美雨先生…お言葉ですが僕は先生が思っているような人物ではありません。自分以外の才能ある人が妬ましい、周りの目はいつも自分を見下しているように見えて…そんな人々に対し正論で「対等」になるよう言い含み、結果嫌味やら皮肉に聞こえて溝を作って距離を置かれる。そんな──最低野郎なんですよ?」
──あぁ、またやってしまった。
美雨先生があまりに僕を美化して語るので、酷い言い方で
まぁやらかしたことに変わりはない、どうあれ今までと同じ「コイツ最悪だな」って苦い引き顔と怒りの溢れた罵倒雑言を投げつけられて終わるだけだ。これまでの夢の毎日と引き換えにだけど…でも悔いはない、正直これ以上は──
──などと、自分の中で自己完結していると。僕に投げつけられた言葉を受けて黙っていた美雨先生が、重い口を開いてはぽつりぽつりと語り始める。
「──私も、同じなんです。貴方と同じで…人を憎んで生きてきた」
「…っえ?」
突然の
「私は小学生の頃から何処か感性がズレていて、そのせいで周りと全然距離が縮まらないなんてしょっちゅうで。時々…どうして仲良くしてくれないの?! なんて怒ってみたら
「し、小学生で!? スゴ…ッ!?」
「あはは、運が良かったんですよ。でも…それが嬉しかったんです、学校で無理に人に合わせる必要がなくなったのもあるし、自分の「好き」を認めてもらえたことが。
社会人になっても物語を書き続けて、自分が誰かの「好き」の詰まった作品を評価する立場になって、そんな折にAZKI先生が書いた作品を見て…あぁ、
美雨先生の話を纏めると、美雨先生も僕と同じように周りと上手くいかず壮絶な子供時代を経験した様子。でも持ち前の「興味のあることへの行動力」で自分の道を切り開いてきたんだ、やろうと思っても中々出来ることじゃないので心から素直に尊敬する。そして…そんな彼女の人生に僕の作品が彩りを与えたのであれば、それこそこの道を選んだ甲斐がある! 本当に嬉しい!!
──いや、待てよ。それは良いんだけど
「それは、ありがとうございます。貴女に僕の作品をそんな風に想って下さったのは本当に光栄です! ただ…その、
ここまで来たらと僕は心を堰き止める疑問を訪ねた、すると返って来た言葉は
「えっ!? いやぁ・・・え、と・・・・・・す」
「す…?」
「──
・・・んん? えっと、すき? 好き? SUKI? すき焼き???
じゃなくって、いやあの茶化したいんじゃなくって! ホントに異性から好かれたことなんてないと言っても過言じゃない僕だから! しかも相手が憧れの美雨先生だなんて!? ・・・やっぱり幻聴に聞こえる、僕明日シぬのかな??
「・・・確認ですけど? 本当に?」
「はい」
「今も?」
「・・・・・・はいっ」
「嘘ぉ。・・・僕、こんなんですけど?」
「それを言ったら私だって・・・言いたいことも今まで素直に言えなかった小心者だし」
「そこまで言ってないですし、思わなくて大丈夫ですから!?」
なんてことだ、マジらしい。いや思えば初めて顔合わせした時も「貴女のファンです」って言っただけで泣いていたし、いやぁだとしても分からないって! 顔も見えない相手に好意を抱くなんて、美雨先生らしいというか──
──いや、僕もか。中学生という多感な時期に彼女の作品に出逢って、本当に救われた。あの時から僕も──彼女に
お互いに好き合っていて、それが今お互いに認知されて、気持ちも冷めていない。なら──僕は
「──じゃあ、
「・・・え?」
いきなりのプロポーズで、楽しいことに全力な美雨先生も流石に驚いた顔で固まってしまう。
そりゃそうだ…幾ら何でも早急すぎたか、気持ち悪いって嫌われたかな…あーぁ! やっぱり欲搔いたかなぁ~全くどうして僕は感情が昂ると早計になるんだよ…!
そんな風に自分を内省していると、同じく恐るおそる聞き返す美雨先生。
「・・・逆に聞きますけど
「いやそれを言われると僕の方こそなんですが? 尊大で他人にカベ作りがちの捻くれた僕です!」
「いえAZKI・・・さんは、斜に構える感じですが誰に対しても誠実で優しくて、それが文章から滲み出ている故の世界観は目を瞠るものがあります! 自信を持ってください!」
「ありがとう! 美雨・・・さんも、自分の好きに真っ直ぐで何事にも挑戦していく姿勢がとても好きで! その楽しそうにお話を書いて行く、若しくは行動していく姿に救われた僕のような者も居るので、胸を張りましょう!」
「じゃあ付き合いましょう!」
「ハイ! 宜しくお願い致しますっ!!」
・・・・・少々の沈黙・・・・・
「…ふっ、ははは!」
「あはは! 何ですコレ? おもしろ~!」
「ですね! …じゃあ」
「はい──これからも」
──末永く、宜しくお願いします!
こうして紆余曲折を経て、似た者同士な僕ら──面皮図太く内面繊細──は晴れて恋人同士となった!
最高だ…こんなに本気で幸せを意識したことは今までの人生で無かった、ここから彼女──美雨さんへの感情は崇拝から「愛情」へと変わっていく。これからも僕は大好きな彼女と共に生きていく、そんな未来に
──愛して、いたんだ…!
・・・・・
──その後も僕は、唯只管に小説を書き続けた。
最初は美雨さんのため、待ってくれるファンの方たちのためと奮起した。とても充実していたと思う…だけどその内物足りなくなった、たったそれだけの気持ちが僕の順調な人生を傾けさせた。
正直実力の芽が出なくても良かったんだ、独りでも小説で自分の気持ちをぶちまけられるなら、面白可笑しく書けるならそれでも良いんだ。でも僕は…知ってしまったんだ、成功の味を。人はその輝きを放つ料理の魅力に抗うことは出来ない、だから──美雨さんのためと自分に言い聞かせて──次のステップに進んで行く。それは
美雨さんの伝手で知り合った創作関係者…小説やマンガ出版、アニメやゲーム制作、彼らの下で新作のシナリオ制作や原作提案などを手掛け、実力をつけてから新作の商業小説を売り出す。それらを…あれだけ拘っていたSNSでの宣伝制限を解禁して、より目立つように仕立て上げながらあらゆる人に僕の作品を見るように促す。結果は──上々と言える、皆僕の作品を読んで評価してくれた。それを受け良かった点をブラッシュアップして悪い点を「嫌なら見るな」精神で放置、磨き上げた僕の「尖った作家性」は衆目の視線を集めることに成功した。生臭い話だが本の売り上げと印税だけでも随分暮らしも豊かになった。都内に新築を建てて美雨さんと一緒に住めるぐらいには環境が変わった。
──だが、僕は止まることが出来なかった。隣に僕以上の「怪物」が居たからだ。
時任美雨は僕との同人活動を続けつつ、自身の作品で人々を魅了し続けた。彼女の書いた
彼女の背中に追いつきたかった、彼女の隣に立って堂々と共に仕事がしたかった。でも…実力が違い過ぎる、いや世界が違ったんだ最初から。僕が人生の全てを注ぎ込んで作品を創り続けても彼女の紡ぐ世界観の価値には到底及ばない、分かっているが書き続けるしか選択肢はなかった。だが──何時ものような
当然だ、僕は──
何故なら──彼女が居る現状に
…誓って宣うが僕は彼女さえ居れば何も要らない、その愛情だけは嘘じゃない──が、同時に
──そんなある日、僕の人生で三度目の「変化」を齎す一本の電話が。
「──えっ!? 爺ちゃんが危篤状態!?」
電話の相手は実家に居る母、数年前から病院通いの祖父の世話をする祖母をサポートするため彼らの暮らす田舎に住んでいる。だが…今年になって祖父の容態が急に悪化し、入院して体調が戻るように治療を繰り返していたが…とうとう医者から回復の見込みがないと連絡を受けたらしい。
『数か月前は普通に話せていたんだけど、今は話し掛けても唸るだけで…もう戻らないんだって現実見せられちゃった』
「母さん…辛かったね、僕も休みをもらってそっちに戻るよ。婆ちゃんと…
『そのことなんだけど──
お父さんはそっちで仕事があるから無理だろうし、
「え、いやでも──」
母の突然の申し出に僕は困惑を隠せなかった。母の言うことを聞いて県外の実家に赴くということは、この幸せの絶頂とも言える現状を
ネットで小説投稿出来る今、何処だろうと場所を選ばないのでは? そう思われているであろうが…様々な業界から引っ張りだこな美雨さんとサークルのやり取りするには都内の方が何かと都合が良いのだ。まして美雨さんに小説を続けたまま不便な田舎まで来てほしい…何て言える筈がなかった。あまり噂になっても困ると思って、家族に美雨さんのことを伝えていなかったのも悪手だったかも…と僕は少し後悔する。
「……ごめん、ちょっと考えさせて。実は同棲している相手が居て」
『えぇっ!? その…恋人さん? その人と一緒に来てくれると私も嬉しいんだけど』
「忙しい人だから、どうなるか分からないんだ。ホントにごめん…せめて相手に相談する時間をください」
『…分かった。また電話するから、ゆっくり考えてね?』
母に遅すぎる近況報告と共に美雨さんと話し合いたいという旨を伝えると、母は了承してそのまま通話を終えた。
…僕はこの時、悔しさと
追い縋るしか出来なかった彼女や彼女の世界から、分不相応であった自分がそれでもと食い下がった光景から…解き放たれるかもしれない。そんな
──だが、方法はある。
この状況を脱しつつ彼女と共に歩む方法、それは──
時任美雨という名誉を捨ててでも僕に愛を見出し、
それでも──今まで様々な奇跡を見て来た僕だから、今回も何か視えない力で彼女が僕の望みに賛同して一緒に添い遂げることも…有り得るかもしれない。そう自分を鼓舞しながら家に帰って来た僕は、何時ものようにリビングの机で小説のアイデアを捻り出そうと顔を顰める美雨さんに背中から声を掛けようとする。
──そんな僕の考えを余所に、美雨さんは僕に気付いていない様子で独り言ちる。
「来週は新刊の打ち合わせでK4出版に行かなきゃだし、アニメの現場視察に漫画の今後の展開について作画の人と意見を擦り合わせなきゃだし、今月AZKIさんと同人活動する余裕あるかなぁ? う~ん何とか時間を作りたい、家事や料理も彼に任せっぱなしだし? 今週の土曜に無理やり…あっ、ゲーム制作の人たちとこれからの確認もしなきゃだった。そういえばサイン会何時だったっけ? むぅ~~…!」
「──…っ!」
彼女の口から次々に羅列される今後の予定、これだけでなく小説の執筆や各方面へのシナリオ制作もある。とてもじゃないが──
もし彼女に「別れたくないから付いて来てほしい!」と言うなら、彼女は間を置かず「行きましょう!」と口にする筈。だがそれは…きっと彼女の一生をガラリと変えて、辛い環境に押し込めてしまうだろう。僕は頭に浮かべた「慣れない家事育児に奔走する美雨さん」を、それでも愛おしいと思いながらも…結局、それを選ぶことは出来なかった。そんなことをしたら──僕の愛した美雨さんを消してしまうかもしれない、それは耐えられない。僕が愛したのは
「(そうか…そうだよな)──美雨さん」
涙が出そうな自分を抑えながら、声から感情を出さないように気を付けながら彼女の名前を呼ぶ。はい? と驚きつつ後ろを振り返る美雨さんに僕は──
──
「──別れよう。僕は作家を辞める、サークルも解散しよう」
彼女のこれまでに、そして何より自分自身の「愛」に報いるために──
・・・・・
──勿論、彼女は泣きじゃくってそれを否定した。
嫌だ、イヤだと子供のように我儘を言い僕に暴言を捲し立てる。どうして? 私が何か悪いことしましたか? 一方的にそんなこと言われるなんて思わなかった! …など。
一番キツかったのは「AZKIさんの世界が見れなくなるのは、絶対に許せない!」だった。この時の言葉を僕は──
──その日、衣服等最低限の荷物と共に僕は飛び出すように家を出ていった。
──
…ぁあ、そうだ。罪悪感はある。同時に解放感もある。
──でも、それでも本当に願ってしまった。今までのように…上手くいくなら。
僕は──彼女に、傍に居て欲しかった…僕の隣でいつまでも微笑んで欲しかったんだ…!
──ざぁざぁ降りの雨は、乾いた僕の目に染み渡る。まるで僕の代わりに泣いてくれているようだ。
──あぁ、何処で間違えた? 家族と縁を切れと? 切ったところでこの苦しみから解放されない、これで良かったんだ。僕は──
「──そうだ、そうだよっ! 僕はっ…逃げたんだ! 彼女から…僕自身の幸せから…っ!」
──目先の栄光に執着し、現実に打ち拉がれ、勝手に心をすり減らしていった「彼」は、自棄になりそれでも明確な真実を投げつける。それを受け取る者は──もう、誰も居ない。
そう、彼は…頭が真っ白になっただろう。
思うように立てず…覚束ない足を止めて、遠くから見える白い二つの光を見つめる。
「──そうか、これで…良かったんだ」
──瞬間、彼の身体は宙を舞った…!
・・・・・
──AZKIの母校の体育館、壇上。
講演会の終わりが迫る中、最後の挨拶を含めて司会を務めていた教師から「生徒たちに今伝えたいこととは?」と聞かれた私は──美雨さんの名前を伏せつつ──
「──
彼は何処で何を間違ったのだろう?
しんと静まり返る体育館、体育座りで悲痛の沈黙に口を紡ぐ生徒たち。その様子を見遣ると「現AZKI」は、気を取り直すように重い口で綴る。
「…いや、すまない。君たちを責めたい訳じゃない、ただあれだけの奇跡を体現した兄を横で見ていると…こんな結末はあんまりだと、神さまに文句を言いたくなってしまうんだ。幸せの絶頂から不幸へ転落など…そんな運命なら
…昔から兄は能力は平凡的なのに「運」だけは良かった、お世辞にも丸っきり善人とは言えないひねくれ者…いや、自分の捻りで相手を傷付けさせまいと周囲と距離を置いていた「臆病者」だったが、それでも私にはたった一人の兄で…尊敬していたよ。
だから──私は、兄の意思を引き継いで小説家になったんだ。持ち前の文才も有ったし「二代目AZKI」として小説を出して結構稼がせてもらっている、それは後悔していないし充実している、私もお話を観たり書いたりが好きだったから」
二代目AZKIの話が長引きそうと思ったのか、職員がステージ脇から何か口にして伝えている。それを聞き届けた二代目AZKIはお題の「今伝えたいこと」の纏めに入る。
「──結論を言うとだ、君たちの周りに居る誰かは君が思っている以上に追い詰められていて、今も苦しみに苛まれているだろう。それは自分が生まれた時から背負っている
だから──少しで良い、隣に居る大切な人に顔を向けて、声を掛けてあげるんだ! もし余計なお世話だと言われても、君がその人に何気ない言葉を掛けられる時間は限られているかもしれない、明日にはそれが出来なくなることだって有り得るんだ! 私は──深い後悔を十字架として背負っている、だから君たちは…手遅れになる前に、思いの丈をぶつけてでも! その人に寄り添い続けてあげてください。そうすれば…例え仲が悪かったとしても、その人は君の言葉に耳を傾けてくれることだろう。
全ての人が隣人に対し、心を開いて気軽に声を掛け合える。
二代目AZKIが自身の心の全てを静かに、それでいて力強く唱えると壇上でゆっくりと深く礼をして「講演」の終わりを示した。その後──誰とも言わず立ち上がり大きく両手を叩いて賛辞を送った、スタンディングオベーションである。
・・・・・
「──ふぅ、一区切りか」
私がそう言いながら体育館の外に出ると、曇り空から雨粒がぽつぽつと滴り落ちていた。もうすぐ大きな雨が来る、そんな予感をしながら傘を差して早々に帰ろうとする。教員方が最後に挨拶をと寄って来たが遠慮してもらった、そんな気分にはなれなかったのだ。私が兄の変化に気付けていれば…兄は──
「──おぅい! 何しけたツラしてんだ愛する弟!」
私が俯きながら考えに耽っていると、曇天の世界に似つかわしくない能天気な声が響いた。
顔を上げて見遣ると、
「うるさいな、態々来なくて良いって言っただろうに」
「でも、嬉しいだろ?」
「そうだよ、嬉しいよ! 全く…しんどいなら来なくて良かったんだぞ?」
「
「なんだよ、それ! はは…帰ろうか」
「あぁ、帰ろうぜ!」
まともに動かなくなった兄の身体に多少の罪悪感を感じながら、それでも──
──僕らは、寄り添いながら
──あとがき(長文、興味ない方はブラウザバック!)
まともに小説を書いたのは…半年以上前か、それから色々変わって新作は全然手が付けられていませんが、取り敢えず私は元気です!
正直今まで「忙しくて書く時間無いよ~;;」って言えてたのは、自分の我儘だったんだなって痛感しています。何だかんだ暇で趣味に生きていれたんだなぁ~って? 人って・・・
艦これ関連の新作を楽しみにされている方、こんな良く分からないオリジナル(何気に初めて)になってしまい、誠に申し訳ないです。これは自分にとって「どうしても書いて置きたかった」お話なので、何度目か分からない作者の我儘にお付き合い頂きありがとうございます。
近況について──某SNSで書いた通り、身内が亡くなり何処へ向かえば良いのか分からなくなっていた自分は今までやって来た好きなこと──艦隊これくしょんや他の好きなジャンルに対しても「何故こんなに夢中になってやっていたのか?」という、当たり前に感じていたことでさえ分からなくなってしまい、何にも手が付けられない状態でした。
それでも好きだったゲームやらアニメやらを再プレイしたり見返したりして、少しずつ「意味」を解釈し直して来ました。まだまだ時間はかかりそうですが…今は、ちょっと艦これをやりたい気分になって来ました。うんだからって春夏秋冬イベントはまだしも、それ以外のイベントを矢継ぎ早にもって来られても出来ませんからね! せめてレア装備は常設任務報酬にしてもらえませんか運営さん・・・!?
最後に──僕は今まで自分の実力以上の人生を歩むのだろうと、心の奥底に漠然かつ傲慢な思い込みがありました。でもそんなことはありませんでした。ちっぽけな僕には何も変えられないと思い知らされました。こんなこと言っている時点で格好つけているのでしょうが、そんな自分も現実にぶつかりながら無意識を鍛え直している途中なので、その合間に小説を書きたいと思ってますので対戦宜しくお願いします! などと言ってみたりw
艦これ新作も気長にお待ち頂ければと思います、それではご閲覧ありがとうございました~!