星辰のクロスロード―地球と異世界、繋がる   作:嫉妬憤怒強欲

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※この物語はフィクションです。史実をもとにしている部分がありますが、実在の人物・団体名・国・地域とは一切関係ありません。


第0話「月の裏側」

 西暦1969年7月20日20時17分。

 

 月面まで、あと150メートル。

 着陸船「イーグル号」の狭いキャビンで、2人の男は立ち上がった状態で、互いの荒い息遣いを感じていた。

 船内には座席などない。彼らを支えているのは、ベルクロで床に固定された足元と、張り詰めた神経だけだった。

 

『1202アラーム』

 

 スピーカーから鳴り響く警告音が、ヘルメットの奥の鼓動を跳ね上げる。

 コンピューターがデータ処理の限界を超え、悲鳴を上げているのだ。

 船長ニールの視界に、月面の着陸予定地が飛び込んできた。

 だがそこは、自動車ほどの巨岩がゴロゴロと転がる、死のトラップだった。

 

(ここには降りられない――)

 

 ニールは瞬時に判断した。自動操縦を解除し、コントロール・スティックを握る右手に力を込める。

 マニュアル操縦に切り替え、時速数万キロで宇宙を旅してきた旅の終わりを、彼は自分の腕だけに委ねた。

 機体は岩場を飛び越え、さらに低空を滑空していく。しかし、それは同時に、命の灯火である燃料を刻一刻とドブに捨てることを意味していた。

 隣に立つバズは、窓の外を見るのをやめた。彼の役割は、ニールの「目」となり「脳」となることだ。計器盤の数字だけを凝視し、狂いのない正確な声でデータを読み上げ続ける。

 

「高度40フィート(約12メートル)、秒速2.5フィートで下降中……順調だ」

 

 バズの声には、恐怖の破片すら混じっていなかった。

 だが、彼の前にある燃料計の針は、すでにレッドゾーンに突入しようとしている。管制塔(ヒューストン)からは「燃料残り60秒」の冷酷な通告が届いていた。

 ニールの額から汗が流れ落ち、目に入るがそれを拭う暇さえなかった。

 手動操縦の排気噴射が、月の砂を激しく舞い上げる。

 窓の外は、視界を奪う灰色の嵐と化していた。地面がどこにあるのかすら分からない。

 完全に感覚が狂いそうな視界の中、ニールはただ、機体の水平を保つことだけに全神経を研ぎ澄ませていた。

 

『残り30秒』

 

 ヒューストンからの声が、頭の奥で響く。

 バズの口から、さらにデータが紡がれる。

 

「20フィート……10フィート……」

 

 その時、バズの視線が一つのランプを捉えた。

 着陸脚から伸びた長さ1.7メートルの細い金属センサーが、月の土壌に触れたことを示す青い光。

 

「接触光!」

 

 バズが叫ぶように言った。ニールは即座に、右親指でエンジン停止ボタンを強く押し込んだ。

 ドスン、という短い衝撃。激しく揺れていた機体が、嘘のようにピタリと動きを止めた。

 エンジンの轟音が消え去ったイーグルの船内は、耳が痛くなるほどの静寂に包まれていた。窓の外には、人類が誰も見たことのない、荒涼とした灰色の世界がただ静かに広がっている。

 

「ヒューストン……こちらイーグル、静かの海に舞い降りた」

 

 ニールがヒューストンへ向けて放ったその言葉は、三十八万キロメートルの宇宙空間を隔てた地球へと送られた。電波が届くまでの、わずか1.3秒の空白。2人はヘルメットの奥で、じっとその瞬間を待った。

 次の瞬間だった。

 

『――了解、静かの海!こちらでも着陸を確認した!』

 

 ヘッドセットのイヤホンから飛び込んできたのは、いつも冷静な交信担当デュークの、上ずった声だった。

 そしてその背景から、地響きのような音が漏れ聞こえてきた。それは、マイクの向こうにある宇宙管制センターから炸裂した、爆発的な大歓声だった。

 何十人もの大人たちが理性を忘れて叫び、拍手し、歓喜に震えている。何千、何万という機材とデータに囲まれた無機質な管制室が、一瞬にして人間の血の通った熱狂の渦へと変わったことが、そのノイズ混じりの音階から痛いほど伝わってきた。

 

『おい、ここにいる全員、息が止まりそうで顔が真っ青になっていたんだ。やっと息がつけるよ。本当に、本当にありがとう!』

 

 地球からの歓声とデュークの弾んだ声は、狭く暗い着陸船のキャビンを満たし、冷え切った機体の壁を震わせた。

 ニールの口元に、小さな、だが確かな微笑が浮かんだ。

 バズは計器盤からようやく目を離し、大きく息を吐き出した。

 自分たちが成し遂げたことの重みが、通信機から溢れ出る地球の熱狂によって、初めて実感を伴って胸に迫ってきた。

 地球全体が、自分たちのために沸き立っている。しかし、2人はすぐに表情を引き締めた。

 通信機の向こうでジーンが管制官たちを制する鋭い声が、微かに聞こえたからだ。

 

(まだ、仕事は半分残っている)

 

 2人は互いに頷き合うと、地球からの歓声の余韻を背中で受け止めながら、次なるステップへ移行する。

 

 ニールは静かに胸のポケットへ手を伸ばした。

 そこには、NASAのフライトプランには一切記載されていない、厚手の防水紙でできた小さな封筒があった。

 表面には、大統領の直筆サインとともに、ただ一言、こう記されている。

 

『着陸成功の後に開封のこと(TO BE OPENED ONLY AFTER LANDING)』

 

 表向きは「仮眠のための船内待機」とされた時間。一般の通信回線が一時的にオフになったのを確認し、ニールは特製のナイフでその封印を破った。中から現れたのは、極秘の軍用暗号で打ち出された数枚の指令文書だった。

 

 

 着陸から約6時間。チェックリストのすべての項目に執念深くチェックを入れ終えたとき、2人の宇宙飛行士はすでに重い宇宙服に身を包んでいた。

 

「ハッチを開放する」

 

 ニールの声とともに、バズがレバーを回した。

 プシューという不気味な減圧音が消えると、四角い小さなハッチがゆっくりと外側へ開く。

 船内を満たしていた人工的な光の中に、月の本物の闇が滑り込んできた。

 それは、どんな夜よりも深く、光をすべて吸い込んでしまうような漆黒の闇だった。

 ニールは、狭い開口部から這い出るようにして、背中から外へと進み出た。

 1.7メートルの金属製のはしごを、一段、また一段と慎重に降りていく。

 120キログラムを超える宇宙服は、地球の6分の1の重力下では驚くほど軽かった。だが、その軽さがかえって、現実感を狂わせる。

 

「私は今、着陸船の脚の台座の上に立っている」

 

 ニールは一度足を止め、視線を足元に落とした。着陸ステージの円盤状の皿は、月の細かい砂の中に、わずか数センチだけめり込んでいた。その先には、何億年もの間、誰も踏みにじったことのない処女地が広がっている。

 

「梯子の一番下まで来た。今着陸船を離れる」

 

 彼は左足をゆっくりと伸ばした。宇宙ブーツの底が、月面の白い砂(レゴリス)を捉える。1969年7月20日、人類の歴史が、その一歩によって塗り替えられた瞬間だった。

 マイクのスイッチを入れる。地球で待つ、4億5千万人の人類に向けて、彼は静かに、だがはっきりとその言葉を紡いだ。

 

「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」

 

 通信機からは、再び地球からの小さな、地鳴りのような歓声が途切れ途切れに聞こえてきた。

 

 この時地球上の人類も、ブラウン管の前で抱き合い、涙を流した。人類の科学が、ついに前人未到の領域へ到達したのだ。

 

 バズもはしごを降り、月の塵の上に両足で降り立った。見渡す限りの灰色、遠くで湾曲する地平線、そして一切の音のない世界。バズはヘルメットの中で小さく息を呑んだ

 それは、美しくも容赦のない、死と静寂の世界だった。しかし今、その静寂を破って、2人の人間が確かにそこに立ち、等高線のない歴史を歩み始めていた。

 

『——よし、表向きの儀式は終わりだ』

 

 インカムから、ヒューストンの最奥にいる高官の声が響く。

 それと同時に、あらかじめ計画されていた機材トラブルが発動した。

 

『……ザザ……ヒューストン、こちら……信号が……』

 

 ニールがわざとらしくノイズに声を混ぜる。

 世界中のテレビ画面が乱れ、通信が完全に遮断された。

 地球の何億人という観衆が息を呑み、回復を祈り始めたその瞬間、二人の「英雄」は「兵士」の顔へと戻った。

 

 ジー……

 

 電子音が鳴り、ヘルメット内のインカムのランプが青から不気味な緑色へと切り替わった。

 地球の一般回線から完全に孤立した、軍用の暗号化回線。

 

『イーグル、こちらヒューストン。一般向けの目隠しは完了した』

 

 フライトディレクターの冷酷な声が、2人の鼓膜を打つ。

 世界中のテレビには、いま、管制塔が意図的に流した激しいホワイトノイズと通信途絶(ロス・オブ・シグナル)のアナウンスが流れている。

 

『これより極秘ミッション“フェーズB”を開始する。通信回復まで残り38分。時間内に例の暗黒クレーターの“調査”を終えろ』

「了解。これより月の裏側(ダークサイド)へ向かう」

 

 

 二人は休む間もなく、着陸船から極秘に搭載されていた移動用ローバーを切り離した。

 表側の白い平原を蹴り、二人の宇宙飛行士は太陽の光が届かない境界線へと向けて加速する。

 クレーターの影が、底なしの闇となって二人を飲み込んでいった。

 地球が完全に隠れ、真の静寂が訪れる。もしここで事故が起きれば、助けは来ない。

 地球の誰も自分たちの死に場所さえ知ることはない。そんな恐怖を押し殺し、ニールとバズは互いの呼吸音だけを頼りに、漆黒の斜面を登りきる。

 やがて、二人の前にひときわ大きなクレーターが現れた。

 

「……ここか」

 

 二人はクレーターの縁から底を見下ろした。

 深い。

 太陽の位置が低いため、底の一部にはまだ光が届いていない。

 バズが慎重に降りていく。

 その途中だった。

 

「……待て」

 

 バズの声が響く。

 

「どうした?」

「そこだ」

 

 指差した先。

 月の砂に半ば埋もれた黒い塊があった。周囲の白い岩石とは、どこか形が違う。

 

「岩か?」

 

 ニールが近づき、しゃがみ込んで厚い宇宙服のグローブをはめた右手で表面へ触れる。

 硬い。だが、岩石とは違う感触だった。

 

「少し埋もれているな」

 

 ニールはその積年の塵をそっと横に払いのける。

 サラサラと音もなく銀色の砂が流れ落ちていき、黒い表面が現れる。

 

「……何だ?」

 

 さらに大きく砂を払ったその瞬間、ニールの手が止まった。

 砂の下から現れたものを見て、言葉を失う。

 

 そこにあったのは顔だった。

 人間の顔からは程遠い。

 左右に裂けた巨大な顎。前方に突き出た、獲物を噛み砕くためだけの不気味な面構え。

 凶暴な「捕食者」を連想させるような顔だった。

 

「これはいったい……」

 

 バズの声が、僅かに震える。

 

「分からないが、もう死んでいる」

 

 形だけを見れば、生き物の頭部に見える。

 だが、どんな生物なのかは分からない。

 乾燥した黒い表面。

 ところどころに、硬くなった組織らしきものが残っている。

 

 ニールが、その顎の周辺にこびりついた砂を拭った時、ヘルメットの中で生唾を飲み込む音が響いた。

 半開きになった顎の隙間から、何列にも重なり合ったカミソリのような牙が覗いていたのだ。

 その牙の一本一本には、かつて引き裂いた獲物のものだろうか、完全に乾燥して黒く変色した有機物の組織が、化石のようにこびりついていた。

 

 その時、通信が入った。

 

『ニール、状況を報告しろ』

 

 アームストロングは顔を上げた。

 

「………生物の死骸と思われるものを発見した」

 

 短い沈黙。

 

『生物?』

「ああ。少なくとも、地球の生物じゃない。確認できたのは一体の頭部だけだ」

 

 ニールは胸のカメラのシャッターを何度も切った。フラッシュの白い光が爆発するたび、影の中に潜む無数の牙が不気味に浮かび上がり、まるで怪物が一瞬だけ笑ったかのような錯覚に陥る。

 

「ニール……」

「どうした?」

「まだあるぞ」

 

 バズの呟きでニールが振り向く。

 クレーターの縁から差し込んでいた太陽光が、ゆっくりと底へ伸びてきていた。

 影が後退していく。

 まず、先ほど発見した死骸の首元が現れた。

 続いて、胴体。さらに腕らしきものが、砂の中から姿を現す。

 

「……一体分、埋まっていたのか」

 

 ニールが呟きにバズは答えなかった。

 その視線は、さらに奥へ向けられている。

 

 光が伸び続け、少し離れた場所に黒い塊が浮かび上がった。

 岩石のように見える。

 しかし、それもまた、死骸だった。

 さらに光が広がっていき、一つ、また一つと影の中から、次々と黒い輪郭が浮かび上がる。

 

 十体。二十体。

 太陽の光がクレーターの底へ届くにつれ、その数は増えていった。

 

『ニール、バズ、何が見えている?』

 

 司令部から通信が入るが、すぐには答えられない。

 さらに奥まで光が届く。

 そして――二人は、初めてクレーターの底全体を見渡した。

 そこには、無数の死骸が横たわっていた。

 どれも、地球上の生物とは違う。

 しかし、それ以上のことは分からない。

 二人はただ、その光景を見つめていた。

 

「……確認した」

 

 ようやく、ニールが口を開く。

 

「多数の死骸がある」

『数は?』

「分からない。とんでもない数だ」

「ライトを点けるぞ」

 

 バズがそう言い、宇宙服の強力な探照灯をクレーターの底へと向けた。鋭い光の束が闇を切り裂いた瞬間、2人は息を呑み、その場に凍りついた。

 

「……信じられん」

 

 ニールの口から、驚愕の吐息が漏れた。

 無数の死骸の向こう、灰色の砂と巨岩に囲まれた断崖の斜面から、何かが突き出していた。

 最初は岩石の一部に見えたが、違う。

 

 バズの声が、恐怖で微かに震える。光の中に浮かび上がったのは、星の光すら吸い込むような、漆黒の巨大な建造物の先端だった。

 

 二人は真空の静寂の中、ゆっくりと漆黒の建造物へと近づいていく――。

 近づくほど、その大きさが分かってくる。

 黒い表面と滑らかな曲面。

 直線と曲線が組み合わされた、複雑な構造。

 月面の岩石とは明らかに異なっている。

 

「いったいだれがこんなものを…」

「さあな。少なくともこいつらじゃないだろう」

 

 ニールが周囲を見渡すと、そこらかしこに無数の死骸が転がっていた。

 虫のようでもあり、爬虫類のようでもある、地球の進化の歴史には絶対に存在しないおぞましい「謎の生物」の死骸が何千、何万と積み重なり、建造物を取り囲むようにして死に絶えていた。

 

 建造物になにかあるのだろうか。

 再び建造物を確認するが、一切の繋ぎ目がなく、入口らしきものはない。

 窓もないが、その一部に大きく抉られたような損傷があった。

 裂けた部分の奥は暗く、外からでは何も確認できない。

 

「中に入れるかもしれない」

 

 バズの言葉に、ニールは腕時計を確認した。

 

「残り時間は?」

『予定より八分超えている』

 

 ニールは建造物を見上げた。

 そして、ゆっくりと首を振る。

 

「……これ以上は無理だ」

『了解。サンプルを回収しだい、帰還準備を開始せよ』

「了解」

「また来る機会があるなら、その時だな」

 

 

 バズは腰のツールホルダーから採取器具を取り出す。

 サンプリング用の高硬度チタン製プライヤーと、密閉式の特殊コンテナを手に持ち、横たわる一体の死骸に一歩踏み込み、その口元へと手を伸ばした。

 

 グローブの指先が、乾燥してひび割れた唇に触れる。

 月の絶対零度に冷やされたその質感は、驚くほど硬く、そして微かにザラついていた。

 まるで、獲物の肉を効率よく削ぎ落とすために進化した、肉食獣の皮膚そのものだった。

 プライヤーの先端で、半開きになった顎から覗く、最も鋭利な一本の牙を挟み込む。

 

「いくぞ」

 

 力を込めた。手応えは硬い。

 バズがじりじりと手首を捻ると、静寂の世界に、宇宙服のヘルメットのガラスを伝って「ミシ……ミシ……」という不気味な振動が響いてきた。

 

――パキィン。

 

 大気のない月面で、音の代わりに強烈な衝撃波がバズの手首を叩いた。

 折れた牙がプライヤーに挟まれたまま、宙に浮く。

 

「回収した!」

 

 バズはすかさずそれを特殊コンテナへと放り込み、厳重に蓋をロックした。コンテナのインジケーターが緑色に点灯し、内部が完全に密閉されたことを示す。

 

 その瞬間、切断面の奥で淡い光が一瞬だけ走った。

 

 だが、安堵したのも束の間だった。

 牙を引き抜かれた怪物の顎が、ほんの数ミリ、重力に逆らうようにしてカチリと微かに動いた気がした。

 

「――っ、バズ!離れろ!」

 

 ニールが悲鳴に近い声を上げ、バズの宇宙服の背中を強く引っ張った。

 二人はもつれ合うようにして、怪物のミイラから数メートル後ずさりする。

 ライトの光を向けた先、怪物は先ほどと変わらず、ただの干からびた死骸のまま沈黙していた。

 関節が乾燥で強固に固まっていたものが、牙を折られた衝撃の余波で、わずかに噛み合わせがずれただけかもしれない。

 しかし、二人の背中には冷たい汗が文字通り吹き出していた。

 

「……帰るぞ。地球へ」

 

 コンテナを抱え直すと、二度と後ろを振り返ることなく、着陸船「イーグル」の待つ光の世界へと、重い足取りで跳ねるように走り出した。

 

 

 月着陸船が月面を離れる。

 白い大地が、少しずつ遠ざかっていく。

 ニールは窓から月を見つめていた。

 やがて、月の裏側は視界から消えていく。

 

 1969年7月24日

 アポロ11号の司令船「コロンビア」は、猛烈な勢いで地球の大気圏へと突入した。窓の外は摩擦熱による数千度の炎で真っ赤に染まり、激しいG(重力)が3人の宇宙飛行士の体に容赦なくのしかかる。

 

「……こちらコロンビア、すべて順調だ」

 

 ニールの声は、極限のGの中でも冷静さを保っていた。しかし、その視線は足元に厳重に固定された、例の特殊コンテナに向けられていた。

 

 

 大気圏を突破し、3つの巨大なパラシュートがパッと開いた。司令船は衝撃と共に、ウェーキ島近海の北太平洋へと着水した。

 

『着水成功。繰り返す、着水成功!』

 

 ヒューストンの管制室が歓喜に沸き返る中、回収部隊のヘリコプターが荒波を乗り越えて近づいてくる。

 

 

 司令船のハッチが開けられ、宇宙服に身を包んだ三人が姿を現した。

 地上から歓声が上がる。

 人類史上初の月面着陸。

 その偉業を成し遂げた宇宙飛行士達の帰還を、世界が祝福していた。

 

 

 三人は救助員たちに案内されるまま、米海軍の航空母艦「ホーネット」の甲板に特設された、移動式隔離施設へと歩いていった。

 その手元には、月から持ち帰ったコンテナがあった。

 

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