蛇足その2ですので、読まなくても小説本編には影響ありません
前のIFルートよりもバッドエンドに近いので、その点だけは閲覧注意でお願いします
[※ep.1 遭難地点 からの派生]
灯り一つない夜の森、それは土地勘のないわたしが彷徨い歩くには危険すぎる場所だった。モンスターに追われ、崖から転落したわたしは、痛みに蹲る。
さらに、喉の渇きがわたしを苛む。エルフィンからもらったリンゴで、多少腹は膨れたが、水分の摂取は十分ではなかったらしい。死ぬことがないとは言っても、喉の渇きは辛い。
水を探したくても、モンスターが居て探せないし、そもそも崖から落ちたせいで方向感覚を失い、どっちから自分が来たかさえ、もはや分からない。
喉が渇いて、喉が渇いて、苦しい。
まだ、エーリアスに来てから一日も経っていないのに。まだ、何もしていないのに。
どれくらい、そうして蹲っていたのだろうか。
太陽が昇って、降りてを何度か繰り返した頃。お腹の痛みはなくなっていた。これはやっぱり、夢なのかもしれない。
目を開けると、そこはやはり都会の喧騒の中で、わたしは人間だった。
どこかぼやけた人影、読めない看板。まるで夢の中のような辻褄の合わない世界ではあったが、ここには渇きも痛みもなく、ただ安らぎだけがあった。
日が昇りつつあるエルフィンランドの世界樹教団本部、その入り口前の石畳の上でネルは眠気まなこを擦っている。いつもはこんな時間に入り口で誰かを待つようなことはしないのだが、直前まで見ていた夢が問題だった。
誰かが朝早くにやってくる。
そんな啓示で目が覚めて、ネルはここにいた。
朝早くから仕事を始めるパン屋の煙突より、白い煙が燻っている。その様子をネルがぼーっと眺めていると、見知った顔が誰かを担いで歩いてくるのが目に入った。
「あれ?司祭長もだった?」
ちょこんと小首を傾げてネルに問いかけたのは、世界樹教団の特別司祭であるキャロットである。その言葉から、彼女も何か啓示を受け取ったのだろうと理解し、ネルは入り口の扉を開け放つ。
「私も入ってしまって大丈夫でしょうか……」
背が小さすぎて気が付かなかったが、キャロットの背後にはもう一人妖精がいたようで、背伸びをして顔を出しながらネルに尋ねてきた。
妖精なので同じエルフィンランドの住人なのだろうが、ネルには見覚えのない顔である。しかし、特別な問題がなければ追い返す理由もなく、ネルは黙ってその妖精を迎え入れた。
教団の奥までたどり着くと、キャロットは抱えていた少女を下ろす。もう1人の妖精と同じように小さな身体だったが、外観の特徴から、ネルにはその少女が精霊か幽霊のように見えた。
「眠る幽霊ですか……寝ているフリではないですよね……?」
ネルが触っても、つねっても、幽霊は目を覚ます気配がない。
「今朝、太陽が昇る直前にこの子を探しに行って欲しいって誰かに夢で頼まれちゃったんだ。それで、精霊の山に行ったらこの子達が……」
「先に辿り着いてはいたものの、私では抱え上げる力が足りなかったので助かりました。ありがとうございます」
キャロットの説明に続いて、薄紫色の髪、白と紫を基調とした衣装を身に纏った、見知らぬ妖精が頭を下げて感謝を伝えた。
「それにしてもこの子、何の幽霊なんだろう?」
キャロットが口に出した疑問は、ネルの頭の中に浮かんだものと同じだった。
「あの、司祭長。私は世界樹教団に所属していませんが、たまにこの方を見に来ても構いませんか?」
「構いませんけど、お名前を聞いてもいいでしょうか?」
見知らぬ妖精のお願いに、ネルは質問を投げかける。
「はい、ヨミと申します」
妖精、ヨミは教団本部内で居心地の悪そうに身を縮ませながら、そう名乗った。
「分かりました。出入りの際は司祭に一声かけてください」
ヨミという名前にネルは聞き覚えがある。昔話に出てくる存在と同じ名前だ。ただ、名前については偶然一致することもあるだろうと、ネルは聞き流した。続いて、ネルは運搬作業を終えたばかりのキャロットに顔を向ける。
「キャロット、お疲れ様です」
「この子もずっと森の中で寝続けていたら可哀そうだからね!啓示があって良かったよ!」
ネルが労うと、キャロットは朝早くに起こされたはずなのに、いつも通り元気に答える。
「この子が起きたら教えてよ。ネル司祭長。それじゃあ、私は朝の仕事があるから」
そう言って、キャロットは朝霧の中に消えていった。
「ヨミ、あなたはどうします?」
ネルが尋ねると、ヨミは悩んでいるのか、暫く黙り込んだ後に口を開く。
「しばらく、この方の近くに居させてください」
「はい、分かりました。私は朝のミサの準備があるのでこれで」
最終的に、眠る幽霊の近くにはヨミだけが残された。部屋から出ていく直前、振り返ったネルの目に、その幽霊の頭を優しく撫でるヨミが映った。
眠りに着く前からこの二人は仲が良かったのでしょうか?
そんな疑問も、世界樹教団と王国の管理業務に追われるネルの中で、すぐに薄れていった。
眠る幽霊が目覚めぬうちに、月日はただ進んで行く。その間、妖精王国での反乱などの大事件もあり、ネルはその存在を完全に忘れてしまっていた。
「あれ?この子どこかで会ったことあるわよ……?」
エルフィンが眠り続ける小さな少女を見つけて、声をあげ、ようやくネルは思い出した。
「以前からここで眠り続けている幽霊ですので、教団内で遊んでいる時にでも見つけたのでは?」
ネルがそう尋ねると、エルフィンは首をひねって考え込む。
「確か……山の方で見つけて、リンゴをあげたはずよ。食べ物を分けることなんて滅多にないから、ちゃんと覚えているもの!」
エルフィンの言葉はそう言うと、幽霊の顔を覗き込む。
「前に合った時は、かなり辛そうな顔をしていたけど、今は幸せそうに寝ているわね。でも、この子はいつになったら起きるのかしら」
そのエルフィンの質問に、ネルは答えられなかった。
やっぱり『人間』の幽霊なんて歪な存在、成立しなかったよ……可哀そうだから眠らせておこう、というエンド
適当に産み出された挙句に、機能不全で長い眠りに叩きこまれた主人公を見て、あるエルダインは激怒してくれそう
バッドエンドに見えますが、自我が書き換わったわけではなく、寝ているだけなので、夢に関する特別な使徒が近くに来れば、いつかは目覚めるかもしれません
そういう意味では前のエンドBよりは救いがあると言えるのかも……そんなビターエンドです
このIFはヨミを出したくて書いたようなものになります
メインストーリー シーズン1部分を終えないと出しにくいキャラ(ベリータなど)もいますが、ヨミは長期的に考えてもIF以外に出せません
何故なら、今の原作情報から『人間』の幽霊に対する振る舞いが全く分からないからです……
以前に後書きで書いた、主人公と混ぜるな危険の使徒中でも、ウイは主人公が安定した時期に登場させることで何とか話に混ぜ込めた一方、ヨミは本当に無理です
好きな使徒だけに辛いですが、出せばほぼ確実に、後で設定崩壊する気がします
ちなみに、キャロットも、面倒見が良すぎてそこで話が停滞してしまうため、扱いにくい使徒として、出せていない状況にあります
IFルートとしては書きやすいんですけどね……
また、台詞を書くのが大変な使徒もいて、リムやシオンなどが該当します
台詞のエミュが出来ていない気もしますし、彼女たちが出てくるだけで同じ文字数書くのに1.5倍くらい時間が掛かるしで大変ですが、好きなので出したいという気持ちで書いています
本当はシオンの初登場はep.7の予定だったのですが、その時は台詞が書けなくて断念しました
設定上出しにくい、台詞を書くのが大変、キャラが同時に多く出すぎると書き分けが困難。そんな理由で出せていない使徒が複数います。その使徒が好きな人には本当に申し訳ない……
そんな感じで書いていますが、もうしばらくお付き合いいただければ幸いです