MIDNIGHT ~Phantasy Star False~ 作:Libby博士
アークスはそんなオラクル船団に所属する組織のひとつであり、主にダーカーの殲滅を目的としている。
彼らはアークスシップを拠点とし、訓練学校を経て力を身に付け、戦うだけではなく一般市民を守る為にも活動している。
そんなアークスシップの中で二分化される造られし人類――戦う力を持たない市民と、戦う力を持つアークス。
では、アークスと市民を分かつ境界線はどこにあるのだろうか?
それは、
フォトンは無味無臭の空気そのもののようだが、様々な刺激を受けることによって状態や性質などが変化する、無限の可能性を秘めた素子だ。
そんなフォトンを扱う術を手に入れた人類は無敵だった。
今ではありとあらゆる機械にフォトンが使われ、万物にフォトンが存在することが当たり前であり、この世界で生きていくにあたりフォトンは切っても切り離せない関係にある。
そして、オラクルにおいてはどんな人間にもフォトン適正能力というものが存在している。
フォトンを吸収する力と、放出する力。
何よりダーカー因子を浄化する力だ。
アークスではフォトン適正能力が高い者ほど優秀とされており、高いフォトン適正能力を持つ者はより危険でより成果の高い任務を受けられる。
強いダーカーを狩り、沢山の市民を守り、ありとあらゆる敵性存在に立ち向かう彼らはいずれ英雄と呼ばれる存在になる……
「……」
――静寂の中。
カタン、と硬いローファーの足音が止まる。
アークスシップ臨戦地区、ショップエリア。
そこは一般市民が通常立ち入ることは出来ない、アークス専用の場所。
「見て、アイツって……」
「あぁ、あの子供みたいな背に湿っちゃいそうなくらい陰気な雰囲気……アイツがあの、"最弱"でしょ?」
「そうそう! ろくに戦うことも出来ないクズなんだから、さっさとアークス辞めればいいのに!存在してるだけでアークスが腐っていくわ」
カタン。
また、彼女は動き出した。
「本当に信じられない! あいつがあの……優秀なルビィの妹だなんて!」
1話 フォトンアレルギー*
――惑星ナベリウス 森林
辺りには原生生物とダーカーの死体が散乱し、血の匂いが包み込む。
その中心に、一人のアークスが立っていた。
"
遺伝子情報はどの血とも繋がっておらず、家族も無く、友人も無く、関わる人も無く――。
しかし"彼女の妹"と呼ばれ続ける。
澱んだ暗い韓紅色の瞳に、血と埃でくすんだ金色の髪。
背丈は大人とは思えないほど小さいが、やせ細っている訳ではなく、首から下は健康そうだった。
「はぁ、はぁ……」
荒い呼吸を繰り返し、ダブルセイバーを握り直すとレヴィは歩き出す。
ダブルセイバーの星の輝きはまるでヒルが血を吸うように刃に着いた血液を消し去ると、その輝きを鎮めた。
「足りない……」
一般的にノーマルと呼ばれるこのエリアはダーカーの出現もほとんどない、非常に安全な区域だ。
研修生の実習や、最終試験などにも使用される場所であり、ここにいるアークスはみんな新米のアークスか学生ばかり。
しかし、レヴィはこのノーマル区域しか立ち入ることは出来ない。
それは、レヴィがフォトンを扱うことの出来ない……史上最弱のアークスだからだ。
レヴィはフォトン適正のない普通の市民とは違う。
レヴィのフォトンアレルギーは、空気中から取り込んだ、もしくは体内のフォトンを放出することの出来ないフォトン放出障害だけではない。
空気中のフォトンや、フォトンを利用したあらゆる物が利用できず、おまけに体内に元々存在するフォトンもなく、エネルギーとして使われるフォトンも使えない。
そして、体内に無理やりフォトンを取り込もうとすると、拒絶反応が起きて体が麻痺してしまう
アークスどころか、オラクル船団に存在する人類としてすら彼女は致命的だ。
「……あ、……」
ノーマル区域のボス出現エリアに到着すると、レヴィは近くにあるテレパイプに目を向ける。
一般のアークスなら、あのテレパイプからボスのいる場所へ移動するが、彼女はテレパイプすら使用できない。
テレパイプを使用しようとするとエネルギーとしてのフォトンの流れが止まってしまう。
だからレヴィの体では起動することすら出来ず、レヴィにとってあれは単なるガラクタに過ぎないものだった。
キャンプシップから降下する時のテレプールすら使えない為、レヴィはわざわざ安全な場所の地上までキャンプシップを自分で操縦して降ろすし、それが不可能ならパラシュートで降下する始末だ。
となれば、レヴィがここからボスのいる場所に行くための方法は限られる。
「んしょ……」
近くの木の上に登り、辺りを見渡す。
この縄張りを仕切るボスが近くにいるため、周りの原生生物は警戒してこの辺りには近づいてこない。
それを確認するとレヴィは木から木へと移るように飛び移り、ぐんぐんと進んでいくと視界が明るくなっていった。
森の中の開けた大きな空間には重い足音が響く。
そこには森林のボス、ロックベアがゆっくりと歩いていた。
普通のロックベアは倒す必要も無い。
アークスに討伐依頼の出るロックベアは……ダーカー因子によって、凶暴化している。
「良いね、……フフ、でも、あんただってすぐに倒してあげる」
レヴィが普段人前で見せる仏頂面の仮面は外し、にやりと口角を上げ、武器を構える。
彼女はアークスが一般的に使用するテクニック、フォトンアーツ、クラススキルを使えない。これらは全てフォトンが元になっているから。
つまり、レヴィにはクラスなんてないようなもの。
ロックベアが彼女に振り向いた瞬間、地面を蹴って飛び上がる。
レヴィはダブルセイバーをその体躯に突き刺し、柄に掴まると黒いコートの懐から鉛玉の拳銃を取り出した。
「ふふっ」
硝煙の匂い、響く銃声。
そして玩具を捨てるように乱暴にその拳銃を投げると、ダブルセイバーを引き抜く。
吹き上がる鮮血と共にロックベアが体を大きく動かし、振り回される前にさっさと飛んで距離を取る。
ロックベアの大振りな動きは簡単に避けられて、隙だらけの足元に突っ込み、レヴィの小さな体は狭い隙間を潜りながらロックベアの柔い肉に刃を通した。
股ぐらを裂いたまま通り抜け、レヴィは投げ捨てた拳銃を拾う。
振り返ってロックベアの目に向けて二発撃つと、当然のようにヒットした。
別に、それはレヴィのこの拳銃が必中の造りをしているわけでも、レヴィが凄腕のガンマンという訳でもない。
単にレヴィは賭けただけだ。
適当に顔に向けて撃ったって、目に当たる僅かな可能性に。
しかし、こうなればレヴィにとってはもう飽きたも同然。
「つまんないなぁ」
目を潰されてあらぬ方向を突き進んで背を向けたロックベアの脳天にダブルセイバーを吹き飛ばし、突き刺すと、その大きな図体が前へ倒れ込んだ。
周りのアークスはレヴィが全く戦えない、草むしりをしているだけのアークスだと思い込んでいるが、それは間違いだ。
レヴィは戦うことは出来る。
しかし、レヴィの体のせいで危険だと判断され、このアークスにおいて昇格が許されていないのだ。
もちろん差別により顔一つで跳ね返されることもあるが、重なる要因のひとつにしかなり得ない。
「ふふ、……ふふっ」
レヴィはダブルセイバーを抜き、ふらふらと歩くと迷わず決まった道を進んで行った。
帰りのキャンプシップへの道ではない。
いわゆる危険なベリーハード区域に繋がる道だ。
本来ノーマルで出撃しているアークスはこの領域に踏み込むことはできない。
それは、区域を分かつ境界線に近づくと探知されて警告が発せられるからだ。
オペレーターがついていれば当然警告の通信も入る。
では、レヴィがなぜその入ることの出来ない領域に近づいているのだろう?
レヴィはアークスに支給されている携帯端末を取り出した。
支給されている、といってもレヴィはその端末を何十台も持っている。
ただ、基本持ち歩くのは二台のみだ。
一般的な何も手を加えていない検査や身分証明のために使用する端末と、ジャンク品を基盤から調整して大改造、最早一部の半導体と外装しか使い回していないような普段使いする端末だ。
レヴィが取り出したのは後者、まさに改造した携帯端末の方。
彼女の持つピンク色に光るディスプレイの壁紙は真っ黒で、ロックは面倒だからロック画面ごと削除した。
特徴的なロゴのアイコンがいくつも並ぶ中、レヴィはその中のひとつのソフトを開く。
真っ黒な画面にキーボードが出現すると、木に寄りかかり素早く打ち始めた。
あっという間にデータが書き換わる。
レヴィの偽名で登録されたパーソナルデータや、アークスのクエスト出撃者に関する情報、現在地点などが、ハッキングによって変化していった。
レヴィはいつも、この時点で自分のパーソナルデータを死亡として書き換えておく。 *1
そうして死亡しておけば帰還命令が出ているのにアークスシップに帰ってきていないとか、行方不明だから探すとか、そういうどうでもいいことはされなくて済むからだ。
アークスからしてみれば、レヴィはいつも死んだかと思えば命からがら帰ってくる弱い人間にしか見えないのだろう。
アークスはオペレーションに相当の人員を割いているが、レヴィのオペはいつも人工音声。
レヴィのような雑魚アークスのオペをしたいやつなんて誰もいないから、AI任せだ。
――でも、こうやってハッキングされるのも全て彼らの責任だ。
データが簡単に改竄できるように作られているのも悪いし、わたしを侮って目を離すのも悪い。
生粋のハッカーでもない単なるエンジニア如きに書き換えられるデータなんて、あってないようなものだし――
「……あ」
ノーマル区域とベリーハード区域の境界線に、ひとつの武器が落ちていた。
それは境界線の向こう側で戦闘していたアークスが落としたものだろう。
レヴィはそれを拾ってよく眺めてみることにした。
ウォンド。法撃の職業テクターが使う武器だが、テクニックが出せなくてもこの素晴らしい鈍器のような見た目は振り回すだけでダメージを与えられる。
「……幸先、いい」
レヴィはウォンドを携帯し、歩き出した。
彼女がここに来たのはより強いエネミーを求めて、……というのもあるが、主目的は違う。
この不気味で不思議な惑星、ナベリウスの研究だ。
それはレヴィが研究者故の行動……いや、彼女は具体的にどこかのラボに所属しているわけでも、アークスの中で研究所と呼ばれている
偽名を使って論文を出したり、廃棄された研究所の器具を盗んで研究している、強いて言えば荒くれ者の研究趣味人間だ。
研究者と言うと、フォトンやダーカー因子などのエネルギーを研究する奴だとか、新しい進化したアークスを造ろうとする奴だとか、実験生物を作る奴だとか……とにかく、多岐にわたって存在している。
その中でもレヴィの研究内容は、「フォトンがなくても最強のアークスを造ること」。
つまり、彼女自身が最強になるための研究をしているという訳だ。
このアークスシップはフォトンが無ければ存在すら許されない。
レヴィは名前を見られるだけで店を追い返されるし、真っ当に任務をこなしまっすぐ帰還しようが報酬を支払われないのはよくある事で、道を歩いているだけでも陰口三昧。
不当な差別を受け続け、地獄のような日々を過ごしてきた。
しかし、それも己が最強になれば全て終わる。
全てのアークスをねじ伏せて、殺し尽くして、
そうすれば、フォトンがなくたって差別などされない。
こうやって今もひとりで、名前を隠してつまらない人生を送るだけのつまらない人間を辞めることが出来る。
「そのために……協力してもらうよ。アークスも、ダーカーも、この世界も、みんな……」
――わたしは最強の人造人間になる。
自分の肉体を改造して、作り替えて、その先に……わたしは、フォトンやダーカー因子なんて関係なく、全部ねじ伏せるだけの力を手に入れるのだ。
――惑星リリーパ "アークス研究同好会"チームルーム
「マスター! 見つかりましたよ」
パーマを掛けた茶色の髪に、気取ったような伊達メガネを付けた白衣の男。
男はかけられた声に振り向くと、にんまりと笑顔を浮かべた。
「へぇ、ついに見つかったんだ。ダークウェブでサイボーグ研究の論文を探してた子」
「はい、……これはとんだ代物です」
十数名程の小規模なチームは、そのひとりの声にわらわらと集まり画面を見つめる。
「あぁ、……なるほど――"妹"ね」
「こりゃたまげたな。いや、……逆に、当然かもしれない。生き抜くためには、こうするしかないんだから」
「して、マスター。どうするの?」
マスターと呼ばれた、アークス研究同好会のチームマスター……茶髪の男は、表情を変えず、笑顔のまま答えた。
「当然、連れてくるよ。相手があのルビィの妹、……"L"なら、手荒な扱いをしても許される」
「鉄砲玉を確保して、我らの目標の為の頭脳まで手に入れる……やはりマスターは、天才です」
「だろう?もっと褒めてくれたっていいんだぜ」
男は伸ばした手を、チーム用の小型シップのシンボルアートが表示されているモニターに向けて掲げた。
"クローンの制作"
そして、近くの液体で満たされた大きな容器には、特徴的な見た目をしたニューマンのような男が保存されていた。