MIDNIGHT ~Phantasy Star False~   作:Libby博士

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6話 忌々しき世界、忌々しき人類(2)

 

 レヴィがリリーパに到着し、チームルームに入るとそこにはディナン一人だけが残っていた。

 確か前はディナンの親友の男が一人でいた気がした。

 アイツからは不愉快な目に遭わされた……とレヴィは過去の記憶を思い出して苛立っていると、ディナンから静かに声が掛かる。

 

「妹。今日はどうしたのかな」

 

「……襲撃された」

 

「襲撃?」

 

「被差別階級だから……、ガン付けられて、……ボロボロって訳、はぁ…」

 

 レヴィは服にまだ残る血液を見せてため息をついた。

 実際は返り血なのだが、一応レヴィはあちこちに痣があって見てくれはだいぶ痛々しい。

 しかし、ディナンはそんなことを考慮する男ではない。

 

「だから、任務をこなさず帰ったと?」

 

「……帰らなきゃ……死んでた、から」

 

「チッ……」

 

 ディナンはあからさまに顔を歪め、舌打ちをすると近くにあった酒瓶をレヴィの顔に向かって投げつける。深い茶色の瓶が割れ、中に残っていた酒がぶちまけられると共に割れた瓶の破片がレヴィの頭にぶつかり、額から血が垂れた。

 

「この出来損ないが……っ! この一日で総長と大きく差がつくんだよ! 今頃総長は既に端末を破棄して……ックソ! ふざけるな忌み子が! お前のせいで研究内容が……ッ!!」

 

「……虚空機関の極秘データベースは?」

 

「抜けたんだよ俺は! 虚空機関をっ!!」

 

「……は?」

 

 レヴィはディナンの言葉に目を見開き、肌に刺さった瓶の破片を抜くとぐっと握りしめた。

 手の中で粉微塵になった破片があちこちに手のひらに突き刺さり、離すと出血と共に落ちていく。

 

「研究員じゃないお前は知らないだろうがなァ! 虚空機関に所属してる奴は全員総長からの監視が入ってんだよ! 俺がクローンの人格制作を進めるためにはッ!! 端末も何もかも監視のない所でやらなきゃいけない……だから虚空機関から抜けたんだ! それは最初から決まってた事なんだよ!」

 

「ま、待って……だったら、わたしとの、契約は……」

 

「はぁああッ?! 誰が恒久的に権利を与えるなんて言ったんだ!! お前のような愚図が少しでも虚空機関のデータを見られただけ土下座して感謝する所だろうが!! ……オイッ!!」

 

 レヴィが困惑しながらディナンをよく見る。ディナンのテーブルの上にはファンシーな形の錠剤が転がっており、プルタブが空いたビールの缶が乗せてあった。

 いや、ディナンだけではない……

他のチームメンバーの席にも、同じ錠剤が入ったシートが……

 レヴィはあれを知っている。あれのことを裏任務で散々見ている。あれは……

 

「ッ……」

 

「土下座しろよこのクソ豚……早くッ!!」

 

 レヴィはディナンに肩を掴まれ、押し倒される。ナイフを構え、すぐにでもディナンの首に押し付けようとしたが、ナイフに反射した人形の姿を見てレヴィが一瞬躊躇った瞬間ナイフを奪われた。

 

(ふざけんなっ、……わたしが、あんな人形のせいで、こんな……っ!)

 

「テメェみたいなゴミを雇ってやってるだけ感謝しろよッ……俺らが! 俺らしかいないって分かるだろ?! 周りはテメェのこと誰も研究員として認めない……だから土下座して感謝すべきだろう!! ほら、……早く謝れッ……このクズ奴隷が!!」

 

「ゔッ!!」

 

 レヴィは髪を引っ張られ、無理やり地面に押し付けられる。

 ディナンはそれだけで満足したのか、ケラケラと笑ってレヴィから離れるとレヴィの端末を投げ飛ばし彼女の頭にぶつけた。

 

「次失敗したら分かってんだろうな?!」

 

「誰がッ、……メリットもないのに、こんな場所……!」

 

「あぁそうかァ、……なら、アレは二度と見られなくなるな?」

 

 ディナンは人形の方に視線を向ける。

 レヴィも釣られてあの人形を見つめた。

 

(あれのせいだ、あれのせいでわたしはこんなクソみたいなチームなんかに居座らされて、こんな目にあって、ふざけんな、人形なんかどうでもいい、抜けてやる、こんなクソみたいなチーム抜けて、ディナンを滅多刺しにして……!!)

 

「――」

 

 

「わたしは、〜〜わたしはッ!!」

 

 その瞬間、レヴィの頭の中に巡ったビジョンに彼女は口が止まった。

 あの人形と話が出来たら、目が開いたら、そんな風に考えて、甘く話しかけていた時のことを思い出した。

 

「わたしは〜〜ッ……!!」

 

 レヴィは起き上がるとディナンを思い切りぶん殴る。

 ディナンの体は壁に吹き飛び、クレーターを作るが、直ぐに自己修復システムによって壊れた壁は直されていく。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 その一撃でディナンは気絶したらしく、茶髪の癖毛が壁に垂れながら項垂れると、レヴィは人形の方に向けてよたよたと歩き出した。

 

「っ、わたしは、……わたし、は……うぅぅぅ……」

 

 レヴィは人形の入った実験ポッドにしがみつき、彼を見上げた瞬間目が緩む。

 

「うぅぅッ、………うぅぅゔっ……なんで、なんでわたしばっかり、……わたしばっかり……!」

 

 こんなことを言ってもなんの意味もない。

 そのために人を殺して、オラクルを弄んでいるというのに、レヴィは弱いまま命もない偶像に縋り付くだけだ。

 

「うゔぅっ、ふッ、ゔぅ゛、ゔぅ゛……ひぐっ、……ゔぅ……たすけて……」

 

 レヴィは声を押し殺し、ただ泣き喚いていた……

 

 そんな時、一瞬視線を感じレヴィは顔を上げる。

 

 ディナンじゃない。明らかに前方から、……ポッドの中の人形からの視線だったはず。

 しかし、レヴィがどれだけ声をかけて、どれほど叩いてもうんともすんとも言わず、目を開けることもなかった。

 

(気の所為……?)

 

「っ、ひぐっ、ゔっ、……、はぁ、はぁっ、……、はぁ、……っ」

 

 都合のいい幻覚か、単なるデジャブだろう。

 レヴィはそう処理して、人形の横に寄り添い目を閉じる。

 今の心の拠り所は、この人形だけだ……




――ボロボロで酒臭い体のまま目覚め、レヴィはため息を着く。
 ディナンはまだ寝こけており、ゆっくりと伸びをして立ち上がると歩き出した。
 確かこのチームルームの外に噴水がついていたはず……
 レヴィがチームルームから出て彷徨いていると、植物を培養している温室の中に噴水が見えた。
 そこへ向かい、服を脱ぐとそのまま噴水の中に入った。

 温度調節された生ぬるい部屋の中で水を浴び、血が固まった汚い体を流していく。
周りを囲む花や草に囲まれながら裸体を晒して水浴びする姿は、傍から見れば何かの妖精のようにも見えた。
 とはいえ、目は死んで濁ったような暗い瞳をしているが……
 水に濡れると手入れのされていない髪も艶を持ち、傷と痣だらけの肢体は露が滴り、妖艶に仕上がっていた。

「……」

 レヴィは噴水から出たが素足のままぺたぺたと歩き、あらぬ方向へ進んでいく。

「タオル忘れた……」

 チーム用の船に豪華な風呂などあるわけもないだろうが、災害時の備品くらいはあるはずだ……なんて事を考えてレヴィは備品置き場の資材を漁る。
 試験管や注射器のような消耗品や、見たこともない薬品、それに……悪趣味で破廉恥な道具とかも。

(あいつら、わたしが居ない間になにやってるワケ……? いや、毎日呑んだくればっかの場所じゃこんなものか……)

 奴らは二次会と言って掃けていくものだから夜中にはほとんど人が居なくなるが、仮にパーティなどで大盛り上がりしてチームルームで寝るようなことがあればこういうものにも使い道ができるのだろう。
 レヴィは恐る恐る箱の中を探ってみると、特有の柔い感触が手にあたりそれを掴んで持ち上げてみる。

「っ、う……」

 どう見ても''女性が一人でする時に使うアレ"だ。レヴィの家にあるものよりかは少し小さい……が、まあ売られているものにしては平均的なものだろう。

「さ、最低すぎだし……」

 レヴィは慌てて手を離すとまた備品を探り、酒や菓子箱が出てきて苛立っていく中、なんとか目的の携帯トイレやフェイスタオルが入った箱を見つけると、直ぐに取り出して体を拭き始める。
 レヴィにとってのタオルは一種類のみ。
 バスタオルは使わないし、そんな高級タオル知りもしないが……彼女の小さな背丈なら一応フェイスタオルだけでギリギリ拭き取れないくらいだ。
 ビチャビチャになったタオルを絞って髪を拭い、まだ濡れ髪のままぼんやりとチームルームの方を見つめる。
 ディナンが起きていたら困るというのは分かっているが……レヴィは服も着ずにチームルームに入っていった。

「……」

 夜中のチームルームは静寂に包まれている。
 レヴィは気絶したまま眠ったディナンの顔を隠すようにタオルを被せると、人形の方に向かっていった。最早日常となった、人形を眺める時間……
 レヴィは先程までの痴態がまたこの人形に見られていると思うと、また恥ずかしくなる。

「あんた、目覚めた時このこと覚えてたら容赦しないからね……っ」

 レヴィは意味もなく人形に言葉を投げてから、背後のタオル被りのディナンをチラリと見たあと、実験ポッドの近くにある端末を開いた。

「えーっと、名前、名前は……、……クローン001…そりゃそうか」

 このクローンに収まるべき人格の名前を知りたかったのだが、生憎それは書いていない。
 レヴィはこの人形に関する他の情報を見ていくも、精神的なデータはこれから作るところ故に身体的なデータしか載っていなかった。

「191cm? すっごくおっきい……♡体重は89kg……重っ♡
い、いや、身長から見れば当然かぁ……このグラフはえーっと……今日心臓が一回だけ動いてる? ふーん……」

 レヴィは真横にこの人形が立っているイメージでどんどんと想像していく。

「筋肉パラメータが最大、腕も長いし手も大きい……あっ、目、目の色……目の色はAの02……? Aの02って何色……?」

 気になっている部分を探るも、具体的な色彩のデータは乗っておらずため息をついて呆れた。
 しかし、目を閉じたままの状態でもレヴィの頭の中でクローンの体型はある程度予測でき、改めて横に並び立った時のイメージをしてみる。

「……こういう感じ、……そう、この辺に胸があって、この辺にお腹があって……」

 レヴィは空をなぞりながら、真っ暗な視界の中で人形を象っていく。視界に彼の割れた腹筋が広がり、視線を上げれば目を閉じた無の顔が見えて、視線を下ろせば……
男性の脚が……

「〜〜ッ!!」

 レヴィは思わず顔を赤くし、なんとかイメージを振り払うもより具体的になったその人形の形はレヴィの中に染み付いて、そして、信じられないほど端麗な大男の、雄々しい様を想像すると体が熱くなった。

「うぅ〜ッ、これ以上、醜態を重ねる訳にはいかないのに、……でも、でもっ……!
ムカつく、……こんな、人形の為にわたしが、わたしがなんで……」

 そう言いながらもレヴィの行動は完全に狂っていた。

「ふざけないで、わたしは、わたしはアークスなの、気に入らないやつ全員ぶっ殺して、最強になるの、だからっ、だからぁ……」

彼は命もないというのに、レヴィは自分がたかだか人形の男一人にここまで掻き乱され、心も体もぐちゃぐちゃになってしまっているという事実を思い出すとまるで彼から"見られている"ように感じ恥ずかしくなった。

「だから、こんなのになんか、執着しない、……わたしっ、わたしは、殺すの、みんな、みんなぁ……」

 レヴィは普段から男に発情し尽くす変態女ではない。
 この人形がレヴィを惑わせているのだ。
 その顔がレヴィのドストレートなタイプであり、大きな体はまるで従うべき雄であることを教えこまれているかのように、レヴィはこの男を見ると性的に興奮していた。

「もうっ、この、コイツ、……うぅぅううっ……!!」

涙も醜態も見せて尽くして、レヴィはこの人形が目を覚ますことがある意味怖くなった。
だが、それ以上に彼に対する興味はますます膨らんでいく……
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