MIDNIGHT ~Phantasy Star False~   作:Libby博士

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2話 裏任務(1)

――物に埋め尽くされた小さな部屋で、レヴィは目を覚ます。

 

「ん……」

 

 ボサボサに跳ねた髪に、だらしない肉が丸見えの下着姿。しょぼしょぼと霞んだ目でぼやけた視界を見渡し、レヴィはなんとか体を起床モードに切り替えた。

 ぐう、と伸びをしてから立ち上がる。

 

 簡単な身支度だけを行ってから、レヴィは着替えることも無くキッチンへ向かった。

清潔なキッチンの収納棚を開けると数えられない量数の茶葉が並んでいる。

 

「今日はどれにしようかな……」

 

 レヴィは拒食症で、固形物を食べると吐いてしまう。飲み物もまともに飲めるものは少なく、とにかく生き延びる為に栄養剤の錠剤や注射だけで生きられるようにはしている。

 

 しかし紅茶は幸運にもレヴィにとって唯一まともに経口摂取できる食品であり、それ故に彼女は喜んで紅茶を沢山飲むことにした。

レヴィに食事を楽しむという気持ちは無いが、それまで捨ててしまえば周りがレヴィに言う"人でなし"に本当になってしまう気がしたから。

レヴィがそうまでしてしがみつかないと食事を取れないのは、幼少期にろくなものを食べられなかったからだという事はレヴィ自身よく分かっているが――何を食べても食べ物の味がせず、苦痛を味わうだけというのは生まれただけで酷い罰を受けていると、レヴィは考えた。

 

「はぁ……」

 

 紅茶の為の湯を沸かしながら、今日の白衣を決める。

 

 レヴィの給料の半分が溶けていると言っても過言ではない趣味の白衣コレクションは番号を付けて管理されており、色々なブランドの、安いものから高いものまでありとあらゆるサイズの白衣がレヴィが着るためだけに揃っていた。青やピンク、黒白、色も様々だ。

 

「今日は……Dの……4」

 

 レヴィはファッションにこだわりがある人間かと言われたら、別にそうでは無い。モデルになったつもりもなければ誰かに可愛いと言われたこともない。むしろ、醜いと言われたことの方が多かった。

 

 それでも何かに執着して、自分の中での"鎧"を作らないとレヴィは安心出来なかった。

剣としてアークスへの殺意を持ち、鎧として白衣を着て紅茶を飲む。

ただそれだけの話ではあるが、それだけで十分だ。

 

 レヴィはそのままの意味でサイボーグ。人工臓器を埋め込んで肉体を改造した人間。

フォトンを収めるべき器として機械を選んだキャストとは違う、フォトンを使わなくても活動できるように選んだ器がサイボーグだ。

肉を食べなくてもやせ細ることもなければ、己の意思なしに背丈が変わることもない。

そして、この体には見合わない量の力を発揮出来る。

 

 それがレヴィ。それが。"L"。

 

 ――白衣を羽織り、ボタンを閉めるとレヴィは改造を施した方の端末を出した。

 

 アークスで配布されている端末は一般的にはジェスチャーによって起動する完全なホログラフィックタブレットだが、研修学校で配布されている小型の実機型液晶端末を気に入ってそのまま使用しているアークスもいる。

 

 液晶端末は一世代目などの古いアークスが好んで使う携帯であり、研修学校で使われているのはいわゆる"お下がり"に過ぎないのだが、レヴィはこの実機型端末が好きだった。

 

 なにせ、ホログラフィック端末と違い実機型の端末はチップなどを搭載してアークスの管制に探知されない違法改造が出来る。

 レヴィはその中で展開式の実機型の、液晶型とホログラフィックの中間ともいえる投影型端末を使用していた。

*1

 

「ふふ……」

 

 この端末は格納された段階でも時間を確認することが出来、展開すれば直ぐに画面が開くようになっている。更にプロジェクターとして使用することにより、ホログラフィック端末と同じような使い方も出来る。

 レヴィにとってはこの器用貧乏さがもっとも丁度よかった。

 

 確認したのはレヴィの今日の()()()()だ。

 

「何、……最高の仕事じゃん」

 

 その内容は、学園地区にある研究所の爆破及び研究員の抹殺だ。

 依頼者は一応匿名だが報酬は前金。

 

 もちろん、こんな任務はアークス公式に依頼された訳もなく……()()()()()()()()、俗に言う"裏任務"のひとつだ。

 

 レヴィはアークスの公認の任務は端の残り物の誰も手に取らないような簡単な任務しか出来ないが、裏任務に関してはプロフェッショナル。この任務もクライアントは匿名だが、大抵アークス公式の研究所を破壊しろだの表の世界の不都合な著名人を消せだの言ってくるのは黒い噂が多い虚空機関(ヴォイド)だろう。

 

 都合いいことに裏任務ではレヴィもL以外の名前を使って任務を受けているし、顔合わせなどしない限りクライアントがこちらが誰であるかも気づかない。そして、気づいたとしても差別してくる相手は少ないのだ。ようは、仕事さえこなしてくれれば誰でも良くて、彼女はその仕事をこなせる人間だから。

 レヴィは最弱のアークスだが一応裏社会ではできる人間の方だと思っていた。

 

 アークスとしてではない仕事の方が稼げているし優秀だと分かっているものの、それでもアークスという名札に執着する理由はもちろん、レヴィの目標は最強のアークスになることであり、そのためにはアークスであるまま強いアークスを殺す必要があるからだ。

 

 ダーカーはフォトンがないと倒せないが、アークスはフォトンがなくても倒せる。

 わざわざ不利なダーカー殺しなどという部分で比べるより、アークスを皆殺しにしてナンバーワンでありオンリーワンのアークスになる方がレヴィにとってはよっぽど早かった。

 

 ――わたしより弱いアークスがわたしを最弱だと笑っても、わたしにとってはどうでもいい。

 最終的には三英雄も、六芒均衡も、そしてわたしの姉も、最強だって言われるなら誰だって殺すし、そのためならどんな代償だって支払ってみせる。

そのための人殺しの仕事だ。

 

 

「フフ、研究所の爆破の前にどうやって資材を持ち出すか……だなぁ」

 

 レヴィは様々な殺人道具を取り出し、内側に大量のポケットを増設したコートにそれらを詰めながらぼんやりと考え込む。

 

 彼女はその鬱陶しい体質のせいで研究者としても全く登録できない。フォトンの有無など書類とにらめっこの研究者には必要ないというのに、フォトンがない人間の研究は役に立たないから、価値がないから、そんな理由で人の名義を奪わないと論文も出せない上、誰かの物を奪わないと研究者として研究道具だって揃えられない。

 

 クライアントである虚空機関(ヴォイド)だって、レヴィを研究者だとは認めてくれない。

 

 レヴィが彼らにとっての穢多非人(えたひにん)であるだけで、彼女は全ての権利を失っていた。生きる権利でさえも。

 しかし、人として当たり前の権利を失っているというのなら、手に入れる方法は簡単だ。

 

――奪えばいい。

 

「まずは下準備から……かな」

 

 レヴィは端末を開き、新しくレンタルの倉庫を購入する。

 内部容量はなるべく大きめのもので、外部からの送受信が可能なものだ。

パスワードをかけて此方は準備OK。

 

 あとは転送用の範囲指定マーカーを持ち運んで、通信妨害ウイルスを何時でも作動できるようにすれば資材の持ち出し自体はできる。

 

 アークスの通信はマザーシップと密接に繋がっており、マザーシップの海の分体を利用して通信が途絶しないようにしているらしいが……、この特製ウイルスはネットワーク回線単位で妨害出来るため、アークスシップ全体を妨害するというようなことは出来なくても、建物一つ程度なら余裕である。

 

 あとは順序を間違えなければ大丈夫だ。

 

 そして何より一番大切なのは、レヴィの愛武器。

 

 レヴィが一応見た限り創世器(そうせいき)らしいがアークス公式のデータベースには登録されていない。

 厳密に言えば、研究所のデータベースには載っていたがそこでは使()()()()()()()()()と記載されていた。

 それが何故今使えるのか理解できないが……理解する必要も無い。

 

 創世器(そうせいき)なんか元から意味不明の塊みたいなものだから、今のレヴィにそれを考える余裕はなかった。

 さて、行くとしよう。

 

 仕事、任務、殺戮、狩り……名称はなんでもいいが、レヴィからしてみれば一番適切なのは強盗だろう。

 

 

*1
既に倒産したとある企業によって作られた、アークス公認ではない携帯端末。

アークス公認になり標準装備される事で端末は大稼ぎすることが出来るため、こうやって全く違うような形の便利な携帯端末を作ることによって金稼ぎを狙う企業も多いが、これに関しては器用貧乏な性質から採用されることはなく、その企業が倒産したあとは設計図のリークによって技術者による無法地帯と化した端末になっている。

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