MIDNIGHT ~Phantasy Star False~ 作:Libby博士
――236番艦へ向かうキャンプシップに乗り込み、レヴィはぼんやりと天井を見ている。
元々キャンプシップは四人用だ。
研修生の時なんかは乗車席に生徒が鮨詰め状態で入れられていたが、レヴィは当たり前のように荷物置き場のより狭いスペースしかいさせて貰えなかった。
今はそんなキャンプシップの中に一人で座っているから、横になって寝られるくらいの自由度はある。
それにブリーフィングルームの方まで行けば素振りできるくらいのスペースもあるし、荷物に余裕があれば簡易的な椅子を持ち込んであそこに座るのもいいだろう。
あそこに置いてある自販機はレヴィにとって意味が無いとはいえ水を出せば紅茶が飲めるし、あの空間に椅子と机を標準搭載してくれないものかとずっと考えているが、少なくともレヴィの意見で採用されることは100%ない。
「はぁ……」
ため息。人とコミュニケーションを取ることは滅多にない。レヴィの口から出る声は独り言かため息ばかりだ。
――わたしはここにいる。確かに生きている。
それなのに、わたしの中に眠る憂鬱はずっと、この人生がつまらないと言い続けている。
早く殺したい。
アークスみんな殺して、わたしが一番になって、そうして……
そうして、早く死ねれば……
「間もなく、当艦は着艦姿勢に入ります」
合成音声のアナウンスがキャンプシップの中に響く。
レヴィにとって無人は気が楽だった。リスクがあるとは言われるが、有人より安いし、何より操縦席に居ないから嫌がらせをされない。シップからシップに移動するだけならパラシュートも要らないし、一番心地いいまである。
このまま一生裏任務で殺すべき人間のストックが残ったままで、それを殺し続けて、それでお金を貰える人生なら、それはレヴィにとって一番楽な人生だろう。
それを選ばないレヴィはある意味強くて、ある意味弱い。
アークスという名札さえ捨てればもっと楽になれることなど分かっているのに、
自分の欲のためにわざわざ楽になる方を選ばないのだから。
キャンプシップの着艦完了のアナウンスを聞いた後、レヴィは舟から降りる。
すれ違う学生や研究者に当たり前のように睨みつけられながら、レヴィは返事をすることも無く、睨み返すことも無く、ただ下を向いて歩いた。
目的地の近くまではバスで移動する必要があるが、このクライアントは良心的なのでいつもタクシー代をくれる。
相手がレヴィのような出来損ないの嫌われ者だとは知らずに、優良な仕事人という裏任務のサイトに貼られたたった一つの称号だけでタクシー代なんかを押し付けるのだ。
どちらにせよ、相手はどう頑張ってもレヴィが裏任務をしていることを探知できない。裏任務のサイトのシステムが元々探知出来ないように構築されている上、レヴィ自身が厳重にデータを管理しているのもある。
たとえ尾行してもレヴィだと誰も分からない。
裏任務の時は監視カメラにも載らないようにしているし、フォトンがないから探知も引っかからない。
端末含めレヴィそのものが外部からのハッキングや探知には滅法強く、それこそフォトナーでもなければレヴィを見つけることは出来ないだろう。
裏任務のレヴィは"わたし"でもなく、"L"でもなく、無名だ。無名は誰でもなく、そこにレヴィの自我は無い。レヴィは誰でもない方がいい。誰からも注目されない方がいい……
「……」
呼び寄せたタクシーがやってきたのを見て、レヴィは足早に乗り込む。
周りからの視線が鬱陶しく感じた。草だってざあざあ揺れていたらうるさいのだ。人からの目線が鬱陶しく感じることはそれと何も変わりない。皆殺したら、あれもきっと静かになる。
レヴィの心は和らぐ。
――研究所を爆破した後に、この船ひとつをハッキングして、マザーシップとの接続を切って、管制装置を狂わせて、そうしてから全員殺してしまおうか。
老若男女関係なく……
そんな風に思っていると、窓からみすぼらしい格好の子供が見えた。
昔のレヴィくらいやせ細っていて、レヴィと同じように服なのか布なのか分からないものを着て、小さく
あんな子供はレヴィだけではない。
孤児院は学園地区のここにもあるが、孤児院が見捨てるような子供も僅かだが存在するし、捨てられたらみんなああなる。
そこから這い上がれるかどうかは本人次第なのだ。
レヴィは何も特別じゃない。普通だ。普通のみすぼらしい子供だ。普通のみすぼらしい子供が成長した、貧乏な心を持つ大人だ。
レヴィは普通だ。
普通なのに、わたしはわたしが一番この世の中で苦しんでいる人間だと思うずるい女だ。
だから人から嫌われるというのに……
段々憂鬱な気持ちに支配されていく。
殺したくても殺せないという現実がどうしようもなく彼女を苦しませる。
殺せない相手のことを考えるな。殺せる相手のことだけ考えろ。これから何十人も殺せるだろう。己の手で、己自身だけの手で。それで好きなだけ金を盗んで、機械も盗んで、好きなだけ建物を壊せるんだ。それの何が憂鬱なのだ。幸せで最高の一日にしかならないだろう。
自分は恵まれている。
人を殺せるのだから。
自分より恵まれたやつをみんな殺せる自分は恵まれている。
「はぁ……はぁ……」
――憎い。人が、わたしを苦しめる全てが、憎い、憎い、憎い、憎い……
「間もなく、目標地点に到達します」
「分かってるよそれくらいッ!」
口を噛み締め、ぎゅうと握り閉めた拳から血が垂れる。
早く行かないと。早く殺さないと。
早く殺さないと、もうみんな殺したくなってしまう。
目の前にいるやつみんな、抑えが効かなくなって殺してしまう。
そうして死刑にでもなったら、死ぬ前に
タクシーが止まった瞬間レヴィは端末を押し付けて直ぐに払い、乱暴に車のドアをこじ開けて降りる。閑静な街の中を進みながら目的地の研究所まで近付くと、ゆっくりと深呼吸をした。
「……殺したい……」
しかし、自身でもこんな苛立ちでまともに仕事が出来るわけもないというのはわかっている。
珍しく前を向いてキョロキョロと見渡すと、いい感じの場所に人がいるのを見つけた。
レヴィを見つけてすらいない、敵意の欠けらも無い相手だ。
「これは薬。ウォーミングアップというより、……そう、単なる精神安定剤に過ぎないの」
レヴィはコートの内側に手を伸ばし、ナイフを手に持ちながら何事も無く、近付いていくのも悟られないように通りすがる素振りを見せる。
そして、相手に背を向けた瞬間振り返り、レヴィは人間の腰を掴んで一気に路地裏まで投げた。
「~~!!ッ?!」
「へへ……」
声なんて聞こえない。雑音でしかない。
だってつまらないんだもの。ただの薬の悲鳴なんて聞く必要も無い。ただその鉄の臭いとぐちゃぐちゃの血肉に塗れて、レヴィはレヴィとしての自我を得たいだけ。タクシー代をくれる相手なんかよりよっぽど魅力的な、レヴィの心を甘やかしてくれるもの。
それはレヴィ自身が惨殺できる人間だけだ。
「気持ちぃなぁー……ふふっ……あはぁ……?」
割れた腹に手を入れてまさぐると、ゴツゴツとした骨の中に沢山のぐちゃぐちゃがあって、暖かくて気持ちがいい。
「はぁあっ……」
身体中に沢山血が付いてもこの黒いドクターコートは目立たない。
肌に付いた血は拭って、なんてことないように歩けばシミだらけのみすぼらしい服を着ている女になるだろう。
どうせわたしに近寄るやつもいないんだから――
レヴィは全身に血の匂いを漂わせており、手を拭ってからズボンをまさぐり財布を手に入れると、そのまますくりと立ち上がる。
その血だらけの顔をウェットティッシュで拭いて、なんとなく血の匂いを誤魔化そうと消臭スプレーを体に吹きかけて、リラックスした気持ちで歩き出した。
これで上手く仕事が出来そうだ――
レヴィは歩きながら端末で事前に渡された建物の施工図を開き、じっと眺める。
どこを柱としているか、どこを崩せば効率よく崩せるか、暗殺者というより解体業者だ。
レヴィは一応建築も材料さえあれば出来るし、ナベリウスに仮拠点を建てていた事もある故、此方側の知識がなくもない。
ただクライアントからは内部からの犯行だとバレないようにして欲しいという指定があった。
だからあまり上手に解体すると後始末である事がアークスの方にバレてしまう。
となれば必要なところは崩しながらも、敢えて下手くそに爆破させて破片でも飛び散らせたり、火災を起こしたりしてみようか……と黙々と計画を立てる。
「良し……」
解体予定の研究所に着くと、当然正面玄関ではなく裏口の方へと回り込む。
裏口の中でもさらに内、地下から潜り込める場所から侵入しようというわけだ。研究所だからか活気があるわけでもなければ人気も少なく、静かに歩いていれば誰にも注目されることはなく簡単に回り込んでいける。
レヴィはそのまま単に歩きながら携帯を見ているようなフリをして、一度裏口を通り過ぎてその先に進みながら、端末で監視カメラのハッキングを行う。
監視カメラのハッキングなど30秒あれば十分だ。
直ぐにそれらを充電切れの機能停止にさせて止め、その間にそそくさと来た道を戻り研究所の裏口の方へ進む。そして敷地内の外側にある階段のハッチを開いた。
これは通常ダーカー襲撃時に使用するシェルターへの階段だ。大規模な市民避難用ではなく研究員向けのもので、小規模ではあるが備蓄もそれなりにあるようだ。栄養食品とか、毛布とか……
(隅から隅まで取っちゃおうかなぁ……折角だし……)
その考えに辿り着くと、すぐに頭の中で計画が立てられた。
シェルターの内部に着いた瞬間、周りを見渡して大きく分厚い研究所へと繋がる扉をちらりと見ると、次に範囲指定マーカーを取り出して倉庫へと向かう。
真っ当に扉を開けば音でバレてしまうため、扉の方の対処は時間がかかるからこういう時は順序立ててさくさくと処理していくのがいいだろうと考える。
「ふんふーん……ふふ……」
上機嫌な鼻歌と共に慣れたようにマーカーを置き、点を繋いで立方体を作るように囲んでから端末で操作をする。
彼女は陽気なまま自動分析して現れたリストの中を眺めて、とりあえず全部運ぶ設定にすると転送が始まった。それを見た瞬間また踵を返して扉に向かい、じっと眺めた。
焼き切るのも音が立つし、開く時に大きな音が鳴るのは見れば分かる。防犯対策と防災を併せ持ったオラクルの一般的な防護扉だ。特にダーカー因子とフォトンには敏感だが、生憎レヴィはそんなものを持ってはいないのでその方面で心配する必要はない。
となればレヴィのやることは思ったより単純で、ようは音が立たなければなんでもいいのだ。
セキュリティはハッキングで直ぐに無効にする。
慣れてしまえば容易いことで、アークス管制のハッキングの方がまだストレスを感じられるだろう。
「解除、……その後、融解」
切っても叩いても燃やしてもバレるなら溶かせばいい。それだけだ。
レヴィは顔の全体を覆う防護マスクに手袋を嵌め、一応飛沫防止のための防護ローブを着用すると懐から薬品を取りだした。
三重にも四重にも包装されたそれは所謂劇薬の、どんなものでもあっという間に溶かしてしまう液体だ。
包装を開け、周りを確認してから瓶の蓋を開けると瓶を投げつける。軽く割れない容器を使用しているため大きな音は響かない。
こんな地下でばら撒くことは危険だが、このようなシェルターは大体ダーカー因子汚染を最小限に抑えるため換気口や空気の循環機構が用意されていることが多く、飲んだり目に入れたりでもしなければ酷い被害は受けないだろう。
その薬品は吹きかかった部分をあっという間に溶かすと、じわじわと周りに染み込んで床まで抜いていく。
この薬品の面白いところはまた別にあって、こうやって広がっていくことによってどんどんと周りを溶かしていくのだ。
これを止める為には一酸化炭素が必要なのだが、それはこれから此奴にいくらでも降り掛かることになる。
レヴィは踵を返し、倉庫に転送し終えた範囲指定用のマーカーを回収すると分厚い靴に履き替える。
この靴も溶けにくいだけで溶けないわけではないから履き捨てていく必要があった。
ここも爆発させなければならないが、薬品が当たると意図しないタイミングで勝手に爆破してしまうためこの位置に置く爆弾だけは慎重に、そしていくつも層を作って外部からの刺激を加えないようにする必要がある。
そのために転送用のマーカーを部屋の扉の一番遠くの位置に設置すると、直ぐに厳重に包まれた爆弾が現れる。
再びマーカーを回収し、端末で爆弾の位置を改めて確認するとレヴィは早足で歩き出した。
さっさと毒沼と化した地帯を抜けて研究室に入らなければ面倒だ。
天井から降ってきた液体も防護ローブによって弾かれ、濡れた地面も履き替えた靴で通るとじんわりと熱くなるだけで済む。
通り抜けてからしばらく離れて、階段の目の前に来るとこれからは時間との勝負。
いそいそと靴を履き替えて、防護するための色々なものを脱ぎ捨てると研究所へと繋がる扉に耳を当てた。
そして、ゆっくりと深呼吸をしてからレヴィは集中する。
――大丈夫。薬品のある場所からはだいぶ離れた。それに防護服を境界線のように置いたからある程度対策は取れている。
大丈夫。十中八九
むしろ誰一人として生かしてはいけない……
分厚い扉の向こうから、機械の音だけが聞こえる。
どれだけ頑張っても人の声は聞こえず、その機械よりもずっとずっと小さな、何枚も壁を跨いだ先で何かを話しているような声が聞こえた。
しかし、それだけ分かればレヴィにとっては十分だ。
「……」
扉に手をかけ、音を立てぬようにゆっくり開ける。
真っ白な研究室。こんなラボが手に入るかもしれないと研究室への志望を出した時のレヴィは考えていたが、実際は無能な研究員の1人という肩書きすら許されない。
「よし」
小さな声で呟いてから、機械を見渡した。
元々どんな研究室かは知らされていないが、名前も知らないような機械ばかりが並んでおり、レヴィの分野とは全く違う方向の研究をしているようだ。
レヴィが訪れた部屋はどうやら備品が置かれているようで、壊れてもいないが稼働もしていない機械や、箱に入ったままの試験管などが無数に広がっている。
扉の前にさえ立たなければたとえこの部屋の扉が開こうがレヴィの存在は視認できないほどだ。
「ふーん……いいものばっかじゃん」
小声でそう呟いてから、部屋の四隅に転送用のマーカーを置いておく。
これは使い捨てだ。
先程見かけた箱の中に転送用のマーカーの換えがいくらでもあったから、この四個程度失ったところで彼女からすれば何も痛くない。
ただまあ、爆破させて殺すだけじゃなくて少しくらい自分の手で殺したいものだ……とレヴィは心の中で呟いた。
部屋の排気口を探し、飛んでしがみつき蓋を外すとダクトの方に入り込む。
内側から閉めて、一呼吸してから端末のボタンを押すと先程のようにまた荷物が送られ始めた。
この研究所は地下一階と地上二階の三階建て。
ダクトの中を通りながら部屋をチラチラと覗いて、とりあえず地下一階の分を細かく確認する。
地下はメインの研究設備はないらしく、人は少ない。
しかし地下にいると爆破しても生き残る可能性はある……
(一旦確認か……)
レヴィはそのままの姿勢で数十分階段を眺めて、地下と地上の人の出入りを確かめた。
地下は六人ほど居るが、地上との往復はなく、また地上から人が来る様子もない。
研究室の中にある情報端末でデータをやり取りしているから人を呼び寄せる必要は無いみたいだ。
これなら監視カメラの偽造だけすれば余裕だろう。
端末を取り出して監視カメラのハッキングに特化した独自ソフトを起動し、キーボードを投影させて素早く作業を始めた。
当然ただの監視のためだけに数十分を無駄にするわけなどない。
この間に全ての監視カメラの映像を録画して、偽造用のダミー映像を作っていたのだ。
といっても作成自体はほぼ人工知能任せだが、監視カメラの記録を辿り、現在の情報も見ながら、相手にバレないようにデータを作らせる部分に関しては一応レヴィが手を加えているところだろう。
一気にダミーデータへ差し替えると怪しまれるため、一部屋ずつ殺して、一部屋ずつ仕掛けていかないといけない。
今の人間の動きから、この先彼らがどのように行動するのかを人工知能が計算し、既に紡ぎあげているのだ。
だからレヴィが部屋に降りる前にカメラを止めて、ダミーデータに差し替えることで映像は"もしそのまま何事もなく時間が経過していたら"といった想定のものになる。
裏社会ではこの手のものはほとんど当たり前で、数十年前は監視カメラを破壊したり、高い金で貴重なハッカーを雇い、ハッキングしてデータを抹消するのが主流だったが今はもう違う。
となればもちろん対策は採られている訳だが……レヴィは対策用のソフトウェアも見た上で、1から言語を変えてプログラムを作り直し、ハッキング、データ収集、偽造データ作成、そして実際のカメラへの改竄まで全て対策を採られていないやり方にしている。
レヴィはこのデータを配布しないし、奪われないようにしているから、一人だけの独壇場だ。
彼女は敢えて一個全く別のやり方の、同じ役割のソフトを作り出して匿名で配布し使わせる……なんて事もしているくらい、自分の使うソフトウェアには非常に慎重で、そしてどんな相手にも優位を取れるようになっている。
そのおかげで今生きられている。
他人と協力するつもりもないからこれらの自作ソフトを誰かに分け与えるつもりもない、知識もあるからメンテナンスで誰かを頼ることも無い、セキュリティも万全で誰も構想を覗けないから対策も取れない。
おまけに、他者から改竄の為に何かしらのソフトを使っているという情報以外の何も与えないようにする。
(完璧だ、わたし――天才だ、わたし……)
レヴィはドヤ顔で自分の完璧さに入り浸りながら、真下の部屋の監視カメラを切り替える。
そして、懐から毒針を取り出した。
致死性のものでは無い。この量なら、単に痺れて、喉が焼けるほど痛くなって動くことも喋ることも出来なくなるだけだ。
この位置から飛ばして当たるのは三人程度だが、半分潰せればあとはどうにかなるだろう。
ドンパチする奴しか持たない鉛玉のアンティーク品の銃を構え、慎重に確認する。
銃にはサプレッサーも仕込んであるから安心だ。
(落ち着いて呼吸をして……うん、大丈夫)
レヴィは色気もない下ろしたままの髪を僅かに揺らし、丸い割に潤いもないガサガサとしたマメだらけの手で毒針を持つ。
しっかりと当てる為に息を止め、じっと見つめると、手首を動かし一瞬で針を飛ばした。
一人目に着弾する前にもうひと針飛ばして、素早く蓋を開けると針を構えながら降下する。
「ッ?」
蓋を開けた時点で一人目には着弾済み、降りた時点で二人目にも着弾済み、そして降りた瞬間に三人目にも直接刺して、今度は銃を構え人の見えた方向を撃つ。
この辺はもう、祈りの領域だ。
"当たるように願う"だけ。そして、実際それは当たる。
「奪えるやつだけ奪ってしまおうか……」
レヴィは死体となって倒れる研究員のあちこちのポケットに触れたが、メモ書きの紙程度しか入っていない。
研究所で仕事中だから財布がないのは当たり前かもしれないが、一縷の望みに掛けてみた訳だ。結果は失敗に終わったが。金の面に関しては休憩室やロッカーを探さないとダメだ。
しかし機械や道具は山ほどある。
取捨選択の機会になったら奪った金でもう一個倉庫を買ってしまえばいいだけだから、ここにあるものは全て盗んでもOK。
だが、地上にあるものはさすがに半分くらいは残さないとバレてしまうかもしれない。
とはいえここにあるのはレヴィがあまり触れない分野……資料をパッと見た限り地質学らしいし、分析するためのスキャナーやコンピュータは有り難いが地面掘りのマシナリーなどは特に要らないから、その辺を残しておくのがいいだろう……。
レヴィはそんな風に思考を終えたあと、死体を壁に投げて、内側の機材達を紙の研究資料丸ごと倉庫に移送させようとする。
「……ん」
しかし研究資料には移送制限がかかっており、手運びでないと移動出来ないようだ。
タイトルを見た所惑星ウォパルなどという知らない惑星に関してのものだったが、どちらにせよレヴィにとっては興味もないものだ。
範囲外にある死体のところに適当にばらまいてから機械だけを転送させ、部屋にロックをかけてから天井に飛び再び排気口からダクトの中に入る。
(あとは、これの繰り返し……)
地上でも2階でも特に変わらない。
レヴィは最後に生き残った奴だけ存分に嬲り殺しにしたが、それ以外は作業くらいの感覚で殺して、奪える範囲のものは出来るだけ奪って、爆弾を仕掛けまくってから……
全部爆発させる。
――レヴィはさっと血と硝煙の匂いを払い、帰路を早足で進む。
今日はよく稼げた。
報酬はもちろんだが、研究員達も結構な高給取りで金も本当に美味しい。まあ半分くらいは購入した倉庫代に消えたのだが、その中にあるものを好きなだけブラックマーケットにでも流せば十分な金が手に入るだろう。周りの鋭い目線も陰口も今は関係ない。
だってわたしは今日50人以上の人を殺したんだよ? わたし一人で。
こんなに爽快で、こんなに楽しいことがあるのに、なんで他の人間のつまらない悪口なんか聞いて受け止めてやる必要があるのだろう?
(邪魔だし……皆殺してしまおうか……)
しかし、周りには無配慮で居られても、目の前に現れた相手にはどうも避けることは出来ない。
――レヴィの行く手を阻むように現れたのは男だった。
整った白衣を着ておきながら、度の入っていない伊達メガネと、ボサボサの茶髪の頭。どう見ても似合っておらず白衣を纏うべきものに必要な清潔感と知性に欠けたダサ男だ。
「君が、……ルビィの妹かな?」
「……何」
キッと強く睨みつけ、手を緩やかに形づくり――レヴィは、相手を殴り倒す準備をして、静かに声を発した。