MIDNIGHT ~Phantasy Star False~ 作:Libby博士
「怯えないで! 俺は他の人みたいに君をぶったり、石を投げたりするつもりは無いよ。平気平気」
レヴィの目の前に立つ男は降参を示すように両手を上げ、彼女を見てウインクした。
レヴィは人と関わりを深く持ったことは生まれて一度たりともないが、少なくとも目の前のこういう男には不愉快という感情しか向けられなかった。
落ち着きのない、明らかに若そうで、チャラチャラとしていて、その場の空気だけで生きていそうな奴。レヴィから見たこの男の第一印象のひとつで彼女は非常に苛立った。
レヴィからすればもっと落ち着いた大人の方が良かった。
自分から見て何を考えているのか分からないくらい聡明で、落ち着きのあるゆったりとした、しかし堂々とした動作をしており、多少厳しくても己の中に信念と計画を持って行動している――ようは年上の壮年紳士くらいが心地よく感じた。
レヴィが求めたところで向こうから寄ってくる訳では無いが……とにかくこの会話は早急に終わらせたかったのだ。
「……人違い」
「いや、人違いじゃない! 俺は君に話があってきたんだ。その、今……時間空いてたりする?」
「……あいてない」
「じゃあ、いつ空いてるー?」
レヴィからすれば失笑ものだが、これはナンパと言うやつだろうと察した。
それ故にレヴィはもう男の返答を無視して足早に去ろうとしたが、彼女とすれ違う瞬間、男はボソリと小さく囁いた。
「人の名義を使って論文を発表してる事、バレたら嫌なんじゃないかな」
レヴィはその言葉に足を止めるしか無かった。
レヴィはいかなる犯罪も躊躇わない女だが、それが露呈することには非常に慎重になっていた。
「……脅迫?」
「君みたいな人間にはこう言うのが相応しいんじゃないかなぁ? そう、"交渉材料"っていうやつ!」
レヴィはキツく男を睨みつけてから、静かに言葉を紡いだ。
「……わたし、……何して欲しいと……言っている?」
独り言でもない会話だ。
あまり言葉がまとまらず、どう発音していいかも忘れてしまうほど彼女は人と話すのに慣れていなかったが、一応そういう内情を隠したつもりではあった。
「よし。じゃあ……ちょっとカフェでお話しよっか! ほら、あそこの」
「出禁。……あそこは」
レヴィは生まれてから一度も入店したこともない店の出禁をさも当然のように返答し、男は一瞬面倒くさそうに顔を歪めたが、すぐに痴呆の仮面を被ってわざとらしい動きで提案した。
「じゃあ俺が買ってきて……あそこのテラス席にでも居よう」
レヴィは男より先に歩き始めながら、一言呟いた。
「ディンブラ」
「ディン……? あぁ、……紅茶か」
レヴィは店の中に消えていく男を見ながら、カフェの外にあるフードコートのテラス席に座る。ヒソヒソと聞こえる陰口からゆっくりと意識を遠のかせ、ぼんやりと学園地区の空を見上げる。
本当ならロビーに行き、キャンプシップに乗ってすぐに74番艦に帰宅していたところだが、気分よく虐殺した後にとんだ邪魔が入った。
「はぁ……」
今一瞬別れたばかりだが、レヴィはあの男の顔を思い出すともう一回不愉快になった。
背丈も1.6メートル程で小さいし目も丸っこくて、人に愛されて生きてきたような雰囲気が漂っている。二十歳手前くらいの年齢だろう。
不愉快だ。こんな子供相手に〝交渉〟なんてバカバカしい。
レヴィは自分が最底辺の人間だと思っているからこそ自分より下の人間に対してもっと厳しかった。自分が最底辺であり、これ程苦しんで生きているというのに、この世で自分より下の人間など有り得てたまるものか。
自分より下の人間がのうのうと幸せに生きているのが許せない。
だから、死んで欲しい。
「お待たせ」
「……」
レヴィがじっとりと向けた目線は殺意に染まっており、緩やかに動かしていた手が鋭く固まると、男は慌てて仰け反る。
「いや、……わ、悪い話じゃないんだ。ホントに……」
男はレヴィにオーダーされた紅茶をテーブルに置き、恐る恐るレヴィへと近付く。
レヴィはため息をついて、控えめな様子で男の方をちらりと見た。
「早くして」
「忌み子の癖に……いや、……コホン」
レヴィの淡々とした言葉で男は我に返り、席に座り込んだ。
レヴィはぼんやりとどこか遠くの天井を眺めながら、男には興味もないといった様子で紅茶を一口飲む。
ディンブラではない……アールグレイだ。
「……茶葉が違う」
「あそこにはアールグレイしか置いてなかったんだよ?ごめんね?」
「はぁ……」
レヴィは足を組み替え、ひとつため息を吐いた。
どこか眺める以外にやることなど思いつきもしない。
会話をする気もない。
「論文に関しては、ルビィの妹の弱みを探したかったわけじゃなかったんだよ。ただ、偶然調査していたら君の痕跡が引っかかったんだ」
レヴィは自分の想定では有り得ないような内容の話題を聞くと男に少し体を向ける。
「うちのデータ班は優秀なんだよ?! 俺はその辺は全然なんだけど……へへへ」
「……」
「世間話は嫌いかな?」
「嫌い」
レヴィは一言だけの単純な言葉で返答すると、男は相槌を打ってからまた楽しそうに返した。
「だったら話は早くしないとね!
君は今どこの研究所にも所属していない。オラクルで研究員として登録されてはいない」
「はぁ」
「だけど、アークスのデータベースから論文を散々探って、
レヴィは自分の行動が気に入らない相手に見透かされている事がとにかく不愉快だったが、ここは人目に付く場所だと考え、嬲り殺しにする事はやめておいた。
しかし、レヴィの苛立ちは次の男の言葉で吹き飛ぶ。
「……虚空機関の極秘機密データに興味があったりしない?」
ビクン、と分かりやすくレヴィの肩が跳ね、男の方に目が向いた。
「俺の名はディナン。アークス研究同好会のチームマスターで、虚空機関では総長のほとんど
「……側近?」
アークスにそんな概念はあっただろうか、なんてレヴィは首を傾げていると、ディナンはすかさず言葉を付け加える。
「ようは優秀な研究員ってこと。総長と一緒に実験用の惑星までついて行って、一緒に研究を進めたり……」
「分かった」
くだらない自慢話などは内容には関係ない。
レヴィはサッサとその話題を終わらせて、目の前のディナンと名乗る男の提案を聞きたかった。
「……それと、後は総長の……」
「その話、……時間無駄」
「……」
男は顔を顰め、レヴィを眺める。
レヴィはディナンの想像するような根暗で臆病な女ではない。
むしろ真逆の、心の中では騒がしく攻撃的な女だった。オマケに良心の欠けらも無い。
「……俺たちのチームは、今メンバーを求めてるんだよね。俺達の研究を手伝ってくれるような、知識があって、研究者としての魂があるものを」
「星の数程居る」
「虚空機関に所属しておらず、悪い事を許容できる、俺達の研究内容と類似した研究員は現状妹しかいないんだよね?」
「はぁ……」
「それで、勧誘しに来たんだよ。妹が俺達のチームを手伝う代わりに、虚空機関の極秘機密データの閲覧権限を得る。……どうかな?」
「……嘘の可能性は?」
レヴィがそう言うと、ディナンは待ってましたと言わんばかりに満面の笑みのようなものを浮かべてレヴィに向かって体を乗り出した。
「心配しないで! チームルームに実際の機密データ閲覧用端末があるんだよね! 管制の奴らが簡単に解析出来ないように総長が独自に繋いでくれたサーバーで管理されていて、俺がその情報端末を売り捌かない限り情報が外部に漏れることはないんだ」
ディナンの言う通り、通常であればオラクルのセキュリティ管理は完璧であり、情報端末を狙うのが普通でハッキングなどは無効に等しい。
しかし、レヴィというオラクルいちの実力を持つハッカーがいれば話は別なのだが……そのレヴィですら覗けない場所がディナンの持つ虚空機関の極秘機密データだった。
(ふーん……管制とは別のシステムで管理してるわけね……そりゃスパイウェアも簡単には通らないか……
虚空機関の上が直接管理してるからID偽装しても入り込むことも出来ないし……)
レヴィは頭の中でゆっくりと計画を組んでいった。
別にチームに入る必要なんてない。
チームルームに行って、証拠を見せろと言い、ディナンのIDとパスワードを入手するか、端末の中身を覗いてサーバーの脆弱性を発見しそのまま帰宅して家でハッキングすればいいだけ。
ディナンのアカウントを使う場合はチームにいる奴を全員殺して、目の前の男は監禁してレヴィと同じように軽い栄養摂取だけで生きられる生命にし、生体認証専用機にすればいい。
なんなら、人の脳を使った大型マグ……それを活用したフォトンアレルギーでも使える人工フォトンブラストにだって……
「だから、見学だけでもいいから着いてきて欲しいんだ」
「……」
レヴィはディナンの言葉に縦に頷いた。
彼女の口元は厭らしく釣り上がり、その瞳は極上の殺意に燃えている。
ディナンはその様子に一瞬レヴィを逮捕させようと警察に通報しようか迷ったが、ディナンは
――惑星リリーパの地下。
アークス研究同好会のチームルームは、この惑星に在中している。
キャンプシップが降下したあと、レヴィとディナンは早足で砂漠から地下へ向かっていった。
ディナンは非戦闘員らしく時々現れるダーカーに逃げそうになっていたが、その度にレヴィが武器を取り出してダーカーを見ることも無く撃ち殺していく様子を見ると顔が晴れていく。
「やっぱ妹はノーマルエリアには慣れてるんだねぇ〜! 何年も居たからかな? こんなにノーマルエリアに慣れているのは君だけだと思うよ! 誇っていい!」
ディナンからの皮肉にレヴィは返事をしないまま、ため息をついてダーカーを撃ち殺す。
つまらない的撃ち未満だ。
「それにしても、この辺普段はダーカーが居ないんだけど……最近はリリーパが騒がしいみたいで結構彷徨いてるんだよねぇ?、あっ知ってる? 君の姉がここで何やら面白い調査をして、リリーパ族からいたく
瞬間、ディナンの首筋に真っ黒い刃の先が突きつけられる。
レヴィはディナンから顔を逸らしたまま、淡々と呟いた。
「黙って」
「ははぁ。君の
レヴィはその刃で首を切り裂いてやろうかと考えたが、虚空機関の極秘機密データのことを考えてゆっくりと心を落ち着かせ、刃を下ろす。
「能無しの御託……」
レヴィは一言だけ言い返すと、また歩き始めた。
チームルームとなるシップのある場所なんか当然知らないが、相も変わらずレヴィはたどり着くことだけ祈っていると正しい道を的確に歩いていく。
ディナンはそんな彼女の揺れるコートと、風に乗って舞い上がるルビィと同じ金色の髪を見つめながら、……鬱陶しそうに顔を顰めた。
――レヴィとディナンがチームルームに辿り着くと、ディナンは機嫌を直しており足早にレヴィの前に躍り出て、チームルームとなる小型シップの扉を開ける。
チームルームの内部は防御はどこへ行ったかライブステージのように大きく船が展開されて奥の地下空間が丸ごと見えておりその薄暗い空間の内部にたくさんの機械が並ぶ。
スイッチや制御機構が光を放ち船の中で見上げるとある大きな電子掲示板には目標らしき「クローンの製作」という文字がでかでかと表示されていた。
人を見るとほとんどの人間がラフな格好をしていて、髪がボサボサだったり隈があったりと自分の身よりも研究を優先している人間が多かったようだ。
男女入り混じるこのチーム、構成メンバーはさっと見る限り16人程。
確実におかしいと思われる程の大きな設備を用意しクローンを作るなどという非合法に近い目標を掲げても上から目を付けられないのは、これほど人数が少ないからか。
レヴィはチームの状態を見てコミュニケーションが上手に取れるような研究者ならば、こんな所は楽園なのだろうな、と思った。
そうして辺りをキョロキョロとしていると、部屋の端に一際目立つ大きな実験ポッドがあり、レヴィはそこに注目した。
満たされる水の中に、人が入っている。
――光の透ける青空のような髪色に、ニューマンの長い耳。
瞳は閉じたままであるが、睫毛は長く鼻立ちもよく、完璧なバランスで整った顔の男だ。
首から下は煙に包まれて隠されていて、体型はよく見えないが……首は太く分かりやすく"男"という見た目をしていた。
「――?」
レヴィはディナンに話しかけられるその大声も聞こえず、ただその実験ポッドの中の人らしき何かを遠くから凝視する。
多分、彼らが作っているクローンのひとつなのだとレヴィは考えたが……その余りの美しさに惹かれ、思わず体がその方向に動き出すほどだった。
「妹!」
レヴィはようやくディナンの声に気づき、彼の方に振り返る。
「い、いや、ちがう……」
ディナンから何も言われていないというのにレヴィは突然言い訳のような言葉を並べ、見なかったふりをして顔を背けたが、思考の中でずっと視線を外したあの男の事ばかり考えていた。
(なんなのアレ。このチームが開発している魅了型集敵デコイ……?)
そんなことを考えていると、ディナンが大きな声で「おーい!」とメンバーを呼んだ。
畏怖してしまいそうなくらい沢山の視線が一気にレヴィの方へと向かった。
ヒソヒソとさ程遠くない距離で顔を向かい合わせ口から矢を放つ。
やはりルビィの妹であるレヴィはある程度有名らしく、聞こえる妹という声に眉間を歪ませた。
「おー妹連れて来たか!」
「何々、新しい新入り?」
その次の発言で更に顔をしかめる事になるのだが。
「もしかして新しく入るって言ってた戦闘実践担当の子?」
「え?…なんで…入るって…言って…」
「あーごめんごめん! そう説明してたんだ!」
(は?)
レヴィの脳内に浮かんだのはただその一言だけだった。こいつは実質騙したようなもの。当然クソ男ディナンをきつく睨みつける。
すると周りからざわざわ、ざわざわと戸惑いの声がした。
「えー入らないの?」
「戦闘員居ないと困るとこあるよねーウチ」
ディナンは誠意を見せたいのかなんなのかレヴィに手を合わせ頭を下げる。
「ねーおねがい! 設備も貸すしハッキングが強いヤツもいるから情報も手に入るよ、虚空機関の研究員もチームにいるから総長のコネも使えるからさぁ!」
だがふざけた声色のせいで何も誠意を感じられない。しかし、多分入らなくては帰されないやつである。
ノーといったらメンバーからの冷たい目線が自分を撃ち抜くのだろう。わざわざ嫌な目線を当てられに行くのもまた面倒で、レヴィはため息をついた。
「…わかったよ……」
「やったー! ありがとー?」
何としてでもこのふざけた態度を取るゴミ共を殴りたいとレヴィは思うが、それをぐっと抑える。
「見せて。早く、……極秘データを」
これさえ見れば全員殺せる権利を得るのだ。
ディナンがチームルームの外にレヴィを誘導し、彼女がそれについて行く間、レヴィの頭はとにかくあの気に入らない者たちをどのようにして拷問するかばかり考えていた。
資材置き場の一角に置かれた情報端末を開き、ディナンがIDとパスワード、それから生体認証とロックを解除していく。
レヴィはそれを後ろから凝視し、内容を頭に叩き込んでいるとディナンから声がかかった。
「妹がログインする時は、カードキーを貸してあげるからそれにしてね」
レヴィは返事もせず、とにかく目の前の男の首を掻いて引きちぎる様子を想像していたが…
ディナンは極秘機密データが入ったファイルを開くと、レヴィに振り返って、彼女を静かに見つめた。
「アレ、……気になった?」
「……」
「実験ポッドに入ってた男」
レヴィはその言葉にビクリと肩が跳ね上がり、ディナンの事を血走った目で見つめる。
「……あれは、俺達チームの作っているクローン。
人格データはまだ搭載していないけど……それが完成すれば、アレは完璧で従順な研究員として働き、オラクルをひっくり返すことも出来る」
そんな大層な研究をこんな十数人程度のチームができるはずがない、とレヴィは心の中で見下しながら、ディナンを押し退けて極秘機密データに向き合った。
「あの実験ポッドのロックはこれと同じくらいのちょ〜険しいロックが掛かってるからね? それに、これだってこの場から動かしたら内部のプログラムを自己破壊して起動しなくなるようになっている」
「はぁ……」
ようは情報端末を持ち出すのもあの男を持ち出すのも不可能と言いたいのだろう。
レヴィは元より皆殺しにするかサーバーにハッキングするかというプランであり情報端末を盗み出すことなど考えていなかったからそれに関してはどうでもよかったのだが……
ふつふつと湧き上がっていた殺意があの人形と言われた男のことを思い出すとゆっくりと収まっていった。
極秘機密データの中身は、レヴィが簡単に眺めてもアークスの暗部そのものと言えるようなデータが丸ごと入っており、怪しい生物の情報や見たこともない惑星の実験データなど知らないことで埋め尽くされていた。
現状ディナンが極秘機密データに関しても、あの人形に関しても嘘をついているとは思えない。
レヴィは大きなため息をついて頷くと、普段はさほど使っていないアークスから支給された純正の携帯端末の方から通知が届く。
私達のチームに入りませんか、というデフォルトのメッセージが書かれたアークス研究同好会からのチーム招待メールだ。
レヴィは無言のままそれを受領し、データに向き合って情報端末にしがみついた。
他のアークスのようにフォトンチェアを呼び出すことも出来ないから、立ちすくんだまま――
***
――数時間後。
ディナンはいつの間にか居なくなっていて、昼も夜も分からないその場所でレヴィがようやく情報端末から離れるとチームルームはしんと静まり帰っていた。
目の前の景色がぼんやりと揺れ、頭痛に襲われる。
どう考えても過集中のし過ぎ。デジタル時計は夜中の三時を示す……
レヴィは誰もいないチームルームの中に入ると、迷わず早足である場所に向かった。
「う、……」
レヴィは自分が比較的視力はいい方の部類だと勝手に思っていたが……間近に近付いて見るとその魅力は明らかに倍増していた。
【挿絵表示】
日が落ちる前見た実験ポッドのあの男。
ポッドの透明なガラス面に手を置き、静かに耳を近づける。
呼吸もまだしていない、彼らの言う通りの人形がそこには浮いていた。
レヴィはあちこちとポッドを眺めてから、無謀にもボタンに触れた。
すると彼の体を覆っていた靄がほんの少しだけ晴れ、骨の浮いた大きな肩周りと、そして太くて長い手の指先が見える。
その瞬間、レヴィは慌ててボタンを押して戻し、顔を真っ赤にして離れた。
バクバクと喧しい心臓に心を震わせながら、偽りと本物が重なる目の奥にしっかりとその男の顔を焼き付けて、ただ眺め続けていた。
奥底から殺意とは違う何かが沸き立つ……
「はっ、……は、わ、わた、し」
レヴィはゆるゆると浮くそれを見るために机に差してあった椅子まで持ってきて、まるで取り憑かれたかのようにその人形を眺めた。
ポーっと、ぼんやり遠くに何か新しいビジョンのようなものを感じる。
レヴィの小さな手がすっと腹を滑り込むと、それが何処を目指したかスカートの中に入り込んだ。
「……はっ?」
――わたしは、今、何を。
取り返しのつかなくなる寸前でレヴィは我に返り、慌てて辞めようとすると椅子が傾いて体が振り落とされた。
「いっ……たぁ……!」
尻もちをついて床に落ち、軋む体を撫でるとゆっくりと立ち上がった。
目も開けていないと言うのに人形に見られていたようで恥ずかしくなって、慌ててチームルームから出ていく。
帰りのキャンプシップまでの道をいそいそと走り抜けて、船内に体を収めた瞬間大きなため息をついた。
無造作に床に座り込み、レヴィは高鳴る胸を抑えて顔を赤く火照らせる。
サイアクだ……なんて思いながらも、レヴィはその原因があのディナンとかいうクソ男でも他のどの気に入らないチームメンバーの奴らでも無いことを察していた。
「……、ちがう、……ちがうのっ」
レヴィの脳は完全にあの人形に支配されていた。
指は独りでに動き出し、体は劣情を抑え込むように捩れ、恍惚とした表情で不埒な行為に耽る。
あの指に撫でられたらどうなるのか、あの爪が自分の肌を引っ掻いたら、あの手のひらが自分の胸元に触れたら、掴んだら、そして、あの唇が自分の首に噛み付いて、唇を重ねたら……
(こんなこと、考えたらダメなのに、変なのに……)
そう考えつつもレヴィは熱を晴らす為にその行為を辞められず、甘く浅く晴れるまでひたすらにかの人形に縋り続けた。
己の内側にある欲望を晴らすのは簡単な事だが、誰かにそんな欲望を感じることは初めてで。
全てが終わると、レヴィはぼんやりと天井を見上げながら、生温く易しい快楽に浸っていた。
その感覚はまるでマッサージのようで、彼女の心に溜まった鬱憤が晴れていく……
「はぁぁ……」