MIDNIGHT ~Phantasy Star False~ 作:Libby博士
――次の日、14時。
チームメンバーの奴らが用意したキャンプシップに乗り込む時間だが、レヴィはその場にいたどのアークスよりも大きな荷物で、端末を見つめながら立っている。
レヴィは他のアークスよりも劣った特性を持ち、自分の犯罪の露呈には非常に慎重になる……それ故、今回も自分の作戦で進むつもりだ。
「……まずは」
レヴィはメモした通りのパスワードを入力し、キャンプシップの内部に入る。
それを確認してチームメンバーがこのキャンプシップにウイルスを送り付けるのだろうが……それは既にすり替え済みだ。
あの後レヴィは器を眺めるついでにウイルスの中身を覗いてみたが、キャンプシップの自動操縦システムに侵入し遠隔で行き先の進行ルートを操作するという形だった……がしかし、それだと幾ら管制ぐるみでレヴィにオペレーターが付けられないイジメをされているとはいえ、見つかれば直ぐに遠隔操作されていることも、その発信元もバレて終わりというのは見え見えだ。そもそも、レヴィはフォトンが使えないから宇宙空間に出る任務には赴いたことがない…
「よし」
だから、レヴィはウイルスをすり替えキャンプシップの自動操縦システムには介入させずキャンプシップに伝達された任務内容を誤認させ、自動操縦に行き先を変更させることにした。
それももちろんこのキャンプシップに情報を入力し、搭乗してアークスカードを読み取った段階で行われるレヴィのお手製で……おまけにチームの方には"キャンプシップを操縦して目的地まで辿り着かせるミニゲーム"までしっかり用意している。
「アイツらが望んでやった事なんだから、こういうことされても文句言えないよね」
レヴィは大荷物の中身を開け、服を脱ぎながら呟く。
彼女は管制からブラックリストに入れられており、アークスカードをレヴィの本名義にしたままで任務を受注すると支援も通信も入らないしオペレーターも付かない、別名義で受けてもオペレーターがレヴィの顔を見るだけで即切りするなんていうのはいつもの話だが、たまにオペレーターの中でもわざわざレヴィの担当官として一瞬入り込んで、"イタズラ"していくやつがいるのだ。
ブラックリストなど味方殺しや犯罪、不法侵入などが"バレた"アークスにしか適用されないというのに……
アークスに入隊してからの初任務の時点で既にブラックリストに入れられているアークスは多分オラクルの歴史の中でレヴィ一人だけだろう。
――だから逆に殺人も犯罪もなんでも無問題ってことですが?
「んしょ……」
レヴィが纏うのは宇宙活動用の重苦しい宇宙服……といっても、普通アークスはフォトンによって肉体が守られているため生身で活動が出来るからか、この宇宙服はコスプレ用のちょっと本格的に作られた子供服を改造したものだ。
レヴィは宇宙服のヘルメットについた垂れたうさぎの耳のような大きな装飾の、丸っこくてしっぽも付いた子供のような姿でキャンプシップをうろつく。
サイズが少し不足しているのか太もも丈しかないので、内側に胸が窮屈な白のボディスーツを着て酸素ボンベを背負った。
「はぁ〜あ、イジメられちゃったぁ。あはぁ。わたしかわいそーぉ、ふふっ、あはは、きゃははははっ!」
レヴィはわざとらしくキャンプシップで呟くと、くすくすと笑い出す。
オペレーターのイタズラでキャンプが踵を返して何もせず帰還したり、またまた高難易度の領域に入れられ、その責任をレヴィに負わせ酷く叱責し、艦橋でレヴィを殴り倒した後に罰金として金銭を要求したり……まあ、そういう悪い事はたまにあるのだが、今回も管制はそのパターンの一つとして受け取り、完全に無視するだろう。
ダークファルス【巨躯】の因子が強く残る領域にダーカー因子浄化能力のないレヴィを送るという……殺人にも相当する嫌がらせとして。
今回のオペレーターになるはずだった相手は見たこともない新人のようだが、レヴィにとってはどうだっていい。
道を歩くただの市民だって、店に入れば居る店員だって、強さを誇るアークスだって、みんなみんなオラクルに生ける人類ならレヴィにとってはゴミで敵でいくらでも殺していい存在だ。
そして、最後の準備としてキャンプシップのコクピットに向かい、手動操縦用の操縦桿に細工をする。
用意した端末を座席のヘッドレストに置き、ソフトを起動するとカメラと共に手の形をしたコントローラーが投影される。
実体を持ったフォトンの塊であるこのコントローラーはもちろんレヴィが触れた瞬間エラーで消えてしまうため、なるべく距離を取って位置調整すると、自身が持っている端末と接続した。
これで、キャンプシップを手動操縦モードに切りかえ、宇宙空間に出たあとも端末を通じてキャンプシップを遠隔で手動操作出来る。ハッキングより安全なやり方だ。
自動操縦のキャンプシップが目標の宙域に到着したことを告げると、レヴィはキャンプシップを手動操作に切り替えてからコクピットを出る。
扉の近くに命綱を繋ぎ、搭乗口を開いた。
【巨躯】との戦跡が濃く残る危険な宇宙空間の中、レヴィは酸素ボンベの容量と、命綱の長さに気をつけながら、端末越しに操縦し、キャンプシップの位置を調整していく。
破損したアークスシップの残骸やファルス・アームの欠片……あちこちに漂う瓦礫を避けながら、集めては収集ポッドに入れ、キャンプシップと往復する。
レヴィは完全に復活したダークファルス【巨躯】と本格的に戦うことは無かった。底辺アークスだから、ダークファルスと戦う権利はない。
アークスとしてのレヴィは、皆が言う通りの最弱であり、最底辺であり、いつも一人で任務に出て、オペレーターの補助なく子供でもできるような任務しか出来ない。
それでも、レヴィの中に渦巻く殺意と、恨みと憎しみは本物であり、強きアークスになるためアークスという名札に意地でもしがみついていた。
いつか本当に、どんなアークスよりも強くなれるように、レヴィはその剣を握る。
ゲームもしない、ショッピングにも行かない、レストランで食事もしないし、映画も見ないし、童話も見ない……
娯楽を知らない彼女はずっと、トレーニングか任務をして生きるだけの日々だ。
それでもいつか、願いが叶う日が来たら……レヴィはレヴィの望むように、人として"死ねる"のだろう。
彼女は遠くの美しい銀河を見て、目を細めた。
収集ポッドに積まれた荷物がちっぽけに見えて、カラリと一つ嘲笑うと、任務を終えキャンプシップの中に戻っていく……
自分は所詮人未満なのだと思いながら、重りのような苦しい服を身にまとったまま、キャンプシップの床に寝転がった。
他のアークスならこんなこと、しなくて済むというのに――
――惑星ウォパル、
「……」
長身のニューマンのように見える男は静かに微笑み、モニターをジッと観察する。
ふんわりと交差された空色の髪に、ウォパルの水面のような薄い青の瞳。
緩む口元は卑しく微笑み、モニターから振り返るその様子は男であるディナンですら見目麗しく雄々しいと分かるほど、浮世離れした格好良さを持っていた。
そして何より、彼を示すのはあの雫のような形をした青いタトゥー……
「総長……」
「あぁ、……どうやら、最良の結果を得る事が出来たようだ」
その言葉に研究員達は湧き上がり、口々に賞賛を始める。
虚空機関の総長……ルーサーは、感情の読み取れない目で彼らを眺めており……ディナンは、彼らのトークを無視してルーサーを見ていると彼と目が合った。
「……おや。どうしたのかな? ディナン君」
「いえ、……今一度、総長様はオラクルを率いるに相応しい能力を持っていると感じまして」
確かに顔はいいと思うが、ディナンはあのルビィの妹とは違ってルーサーに求めるのはそんなちゃちなものではなかった。
ルーサーの脳だ。その頭脳の全てを収める器を作り、そこに収めるべき知識を収め、そしてオラクルを掌握する。フォトナーをこの手に収めるのだ。
「フフ、……今のアークスは三英雄によって支えられる身。僕は所詮科学者として、技術レベルを押し上げるだけさ」
謙虚な口振りをしているが、ディナンは裏でルーサーが何をしているのか大体把握していた。
処世術にも程がある……心の中でそう呟きながら、彼の人格データはほとんど書き換えるべきだという考えはさらに強まった。
今のルーサーのクローンとなる器は数ヶ月以上何も手を加えていないため、データに変化はないはずだ。あとディナンにとって必要なのはもうひとつのステップ……
「ここまで貴方様に着いてこられたこと、誠に感謝しております。総長様」
虚空機関を脱退する事だ。