インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~ 作:kageto
土下座という行為はある種の暴力である。そんな話を聞いたことがある。
された側は土下座をしている相手を許さなかった場合、衆人が多ければ多いほど後の風聞が悪くなるらしい。する側はそれを見越して衆人の多いところをあえて選んで土下座することもあるらしい。
さて、何でこんなことを考えてるのかというとだ。
IS学園研究棟 専用アリーナ横情報処理管制室内休憩スペース
専用アリーナを見下ろすことのできる強化ガラスのはめられたこの部屋は、管制用の機材と情報収集及び処理用の機材で他のアリーナの管制室に比べてかなり手狭に思えるのだが、入り口横に休憩用のソファとテーブルが置いてある。室内の雰囲気に比べてかなりミスマッチだが、時期によっては先輩たちが此処に缶詰で作業することもあるらしく、その間の休憩用に持ち込まれたそうだ。
そんな休憩スペースには今、おろおろしている山田先生。麦茶のグラスを傾けながら視線は絶対零度の簪。茶請けに出されたクッキーをかじりながらも視線は同じく絶対零度の俺。そしてソファの横で見事な土下座をきめている倉持技研の主任だというおっさん。以上四人が、かれこれ五分は無言のまま時間が過ぎている。
事の発端は昨日の放課後。再会したばかりの鈴も交えて食堂で談笑し始めてすぐのことだった。山田先生が俺を探してやってきたので席を勧め話を聞くと、以前話があった専用機が明日(すでに今日だが)届くので放課後の時間を空けておいてほしいということだった。その上で、お流れになっていた起動実験を含めた情報収集や簡単な模擬戦闘を行うので、誰か一人連れてきてほしいという。
それならと、視線を鈴に向けると。
「日本の作った専用機の起動実験や、世界に一人しかいない男の操縦者の起動データ取りに、中国の代表候補生のあたしが参加していいわけないじゃない。場合によってはスパイ容疑かけられてもおかしくないんだから」
という言葉を賜り断念。頭を悩ませる事態になったのだが、はたと気がついた。
日本の代表候補生ならセーフじゃね?と。
そして夕食後、あの日以来の、のほほん簪部屋の扉を叩いたのだが、のほほんさんに格納庫にいるからといわれ再移動。
見つけた簪との会話がこんな感じだった。
「よう簪。ちょっといいか」
「一夏。どうしたの?」
「なんか明日、俺の専用機が届くらしくてさ。起動実験の後に軽い模擬戦闘するらしいんだけど、それにつきあってくれねぇ?」
「せんよう・・・き?」
「あぁ。この間初めて聞かされたんだけどよ。政府からの命令で専用機持てってことらしい。護身の為ってことらしいけどさ。どう考えてもデータ取りのモルモットだよな。迷惑千万だっての」
「えっ?一夏から頼んだんじゃないの?」
「は?ないない。だって俺IS興味ねぇし。パイロットマジ勘弁。それに男ってだけで専用機もらうって、ひんしゅく買い捲りだろ?人間関係壊すようなモノはいらん」
「私、一夏が政府に欲しいって言って、政府がそれを承認したって聞いたけど……」
「あ?だれに?」
「倉持技研の主任に。あ、倉持技研って一夏の専用機作った研究所ね」
「なんじゃそら。俺、IS業界抜けれる方法ないか模索するくらい興味ないのに、ねだらねぇよ」
「そんな……。倉持の人たちは『だから君の専用機の開発は一時凍結になった。すまない』って」
「なぁそれって。騙されたんじゃね?」
「ねぇ。私達怒ってもいいのかな?」
「いいと思うぞ。俺も腹立ってるし。簪は俺以上に怒って当然だ」
ダイジェストで語ると、そんな感じの会話がなされ、つい五分前にこの部屋に俺と簪が並んで入ってきた瞬間に、山田先生と一緒にソファに座っていた主任だという男はすべてを悟ったのか土下座。俺と簪はあっけに取られている山田先生を置いて自分達の分の麦茶を用意して今に至る。
ちなみに山田先生は俺達と土下座主任とを体ごと交互に見るもんだから、二つの丘が水風船のごとくばいんばいんとゆれている。簪の絶対零度はいつのまにか土下座主任から山田先生の水風船に移っている。そんな睨まんでも、五年以上の年齢差があれば、いつか大きくなるさ。鈴みたいに絶壁ってわけじゃないんだし。平均ぐらいはあるだろ。なんて考えるけど、口には絶対出さない。簪は根に持つタイプだ。後が怖い。
話を進めるために、わざとらしく大きな溜息をつく。土下座主任の肩が大きく跳ねた。
「なんでそんなすぐばれる嘘を吐きますかね」
「それはそのぅ」
「考えなかったんですか?専用機持ちは競技イベントには優先して出場されるらしいじゃないですか。俺と簪がそこで会うのはわかりきったことでしょうに。それともそんなことも考え付かないような残念人種しかいないんですか?倉持技研って言うところは。頭がよくて腕がよくてもそんな当たり前の、常識の部分が残念だと、経営者は常に胃が痛いんでしょうね」
「そんな言い方はないだろうっ!」
「……もう頭上げるんだ」
ガバッと頭を上げて反論しようとした土下座主任に簪が冷たい言葉を投げると、音が出る勢いで再び土下座モードに移行した。
「そんな仕事もまともに出来ないようなトコロの作った機体、乗る気が起きないですね。本当にちゃんと仕上がってるのかすら疑わしい」
「何を言うっ!ちゃんと完璧に仕上がっているからこうして今日持ってきたんだ。確かに更識君に嘘をついた件は我々に完全に非があるが、それと仕事の仕上がりに関しては話が違うだろう!」
怒鳴りつけてくるが、土下座状態だと威厳のかけらもないな。
「そこでそれを関係ないって言えるから駄目なんですよ。あなたは部品を作ってる下請けが『お宅に納品する部品よりも我々の会社の実績にもなって興味のそそられる仕事を見付けたから、お宅の仕事はキャンセルで』なんてほざいたら、もう仕事下ろさないでしょ?信用できないんだし。そういうことですよ。やりかけの仕事を投げ出して別の仕事に飛びつくような、職人としても研究者としても三流以下のところの仕事を信用する訳ないじゃないですか」
「ぐっ」
「それに、どうせお宅が完全に作ったわけじゃないんでしょう」
「なっなぜっ?」
はっ。やっぱりな
「あの外道兎が俺の乗るだろうISの製作に手を出さないわけがないんだよ。本気で不本意だが、アレに気に入られてるからな。織斑千冬の弟ということで。何年の付き合いだと思う。ざっと十年だぞ。それなりに性格は理解してるさ」
まったく迷惑しかかけてこない。あの兎め。
「ふんっ。まぁいいさ。どうせお宅らは今後まともな仕事が来ないだろうしな」
「ど、どういうことですか」
いまだにおろおろとしていた山田先生が会話に入ってきた。おびえた様な小動物チックな眼が心に癒しをもたらしてくれる。本気でお持ち帰りしようかなぁ。
「簡単なことですよ。各国国家代表ならびに候補生の専用機の製作はそれぞれの国の企業が行っていますよね」
「はい。専用機はその国の技術の塊ですから、他国に依頼することはありません」
「ですよね。そして日本の量産機である打鉄は国の工場で作られて、コアの残り数の関係上これ以上の製作はほぼありえないと」
「そうです。つい先週授業でやったところです」
「以上を踏まえて、今後企業がIS関係で製作を行うのが、専用機の製作と各種武装の製作です。打鉄の専用追加武装はこれ以上出ないと、こちらも授業で聞きました。あとはどこの国の機体でも使える完全汎用の武装。これはどこの企業であっても目新しいものなんて出来ないそうですね。既存の応用。どこの企業でも変わりなく作れる」
「極端ではありますけど、間違ってないです」
「そして専用機。国家代表も代表候補生も、同じ日本の代表候補生の機体製作を投げ出すような企業に依頼すると思いますか?」
「しない……ですね」
「他の候補生にはすでに連絡して話してある。専用機製作を投げ出されたって」
「こういうことです。日本の代表の人たちからの依頼はもうない。いっときは汎用武装の依頼が海外から来るでしょうけど、狭い業界です。話はあっと言う間に広がるでしょう。そうなればそっち方面の依頼も来なくなって終了です」
と、いうわけでだ。
「信用のない企業の関わった機体に乗る気もないので、機体ごとお引取りください。専用機は他の企業に改めてお願いすることにします。国もそれくらいのわがままは聞いてくれるみたいですし、最低でも学園にいる間乗ることになる機体なら、いくつか注文をつけたいので」
そう言って簪を伴って席を立つ。山田先生に専用機に関しては明日改めて決めましょうと言って部屋を出た。
「一夏。スカッとした?」
「おう。言いたいこと言ったからな。簪はどうよ?」
「スカッとした。一夏がボロクソ言ってくれたから」
「口悪いなぁ」
「いいの」
「そっか。うっし。のほほんさん誘って食堂でデザートでも食いながらだべるか」
「うん」
感想お待ちしてます。
あと、誤字脱字を見かけたら教えてください。
それとたぶん次はシャルの話になるとおもう。