インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~   作:kageto

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気が付けば3ヶ月。遅くなりました。

そして今日中にもう一話更新予定です。
予定というより宣言ですね。確実に更新します。

このひとり語りシリーズの番外編はこれで最後になりますが、次の話でこの話がなぜこのタイミングで入ってきたのかが分かるようになっています。

本当は前二つと、この話、そして次の話ま続けて更新予定だったのですが、ほんとに長くなってしまった。


番外編06話

 カランという軽快な音と共に入ってきた人影を見て、千冬は軽く手を挙げて招き寄せた。

 

「久しぶり、というべきなんだろうか」

 

「そうですね。お久しぶりです。織斑先生」

 

 入ってきた人物、布仏虚は曖昧な微笑みと共に千冬の横に腰かけた。

 

「まさか、かつての教え子と酒を飲む一番最初がお前になるとは思ってなかったよ」

 

「そうですね。私は先生の熱烈なファンというわけでも、一夏くんと特別仲が良いわけでもありませんでしたから」

 

 虚にグラスが出てきたところで、軽くグラスを合わせてから酒を飲む。

 

「だが今は一夏つながりだろう?五反田夫人」

 

 千冬のからかうような声に、虚は顔を赤くしながらも、グラスに口をつけることでごまかした。

 

「思い出話や、身の上話をしに来たわけでもないし、本題に入ってしまうか。何を聞きに来た?」

 

 虚には目を向けず、グラスを睨むように見つめて千冬は声を絞り出した。

 

「全てを。あなたが知る全てを知りに来ました」

 

「全て、か。長い、長い話になる」

 

 

 

 

 

 

 科学というものは発表されている技術と研究が進んでいる技術との間に大きな差が存在しているものだ。事の始まりは、ある男の欲望から始まる。

 

 

 文明開化がそこそこ昔の話になったころ、一人の男が経済界に姿を現した。すでに名前は忘れられ、文献にすら残っていないその男は、日本という国の発展に大きく貢献をし、そして密かにその財を蓄えていった。

 

 青年期が過ぎ、自身に老いを感じ始めたころ、男はある欲望に囚われた。まぁよくある話、不老不死だ。

 

 男は金に物を言わせて、不老不死に関するありとあらゆる情報を集めた。その中で男が一番興味を引いたのが、遺伝子科学と、そこから派生するクローン技術だった。

 

 その当時ですら夢物語に近かったクローンという技術を、金をつぎ込み、無理矢理に技術加速させていった。

 

 だが、ある程度研究が進むにつれ、男は個人での限界を感じ始めた。そこで男は、日本という国に目を付けた。クローンと遺伝子操作による優れた兵士の創造。世界進出に目を向け始めた日本という国はこれに飛びついてしまった。

 

 数えきれない失敗を重ね、クローンではないがある技術が生み出された。

 

 人格複写法。脳みその中身を全て、生まれて間もないまっさらな赤ん坊に上書きする、外道の技術だ。

 

 男はこの技術によって実際に若い体を手にした。幼年期の若い脳は、新たな技術をスポンジが水を吸うかの如く身に着け、研究をさらに進めていった。

 

 そして、遺伝子情報の部分的な改竄に成功してしまった。

 

 なぁ、お前は不思議に思ったことはないか?

 

 なぜ、織斑千冬は生身でISの装備を振るうことが出来るのか、と。

 

 私は、人格複写研究体参型、戦闘特化肉体対応人格、緊急特殊人格、名称『千冬』という。その男の生んだ技術の申し子だよ。

 

 私は第二次大戦を生き抜くために特殊に設定された人格体だ。

 

 幾千の冬をも乗り越えて生き抜くための人格、だから『千冬』。安直な名だろう?

 

 私は戦争を切り抜けるための戦闘技術と、残すべき科学技術の知識を詰め込まれた人格だった。

 

 戦後、政府と密かに合流した私は、男が戦死したことを知り、そして政府にモルモットとして捕獲されることとなった。私は多くの技術を引き出され、新しい体を用意された。私に研究を引き継げということだった。

 

 だが私には戦闘技術は豊富にあれど、科学は知識が殆どだった。

 

 故に、最低限しかない技術を持って、人格複写研究体壱型を蘇らせた。

 

 海外からもたらされる科学技術と、壱型が持つ知識によって、クローンの研究は再び進み始めた。

 

 研究が進む傍ら、壱型は自身の研究の恐ろしさを自覚してしまった。そして、全てを終わらせる計画を立てる。

 

 外道によって生まれたモノは、外道によってしか滅ぼすことが出来ない。そのような考えのもとに生まれたのが、一体の人格複写体だ。

 

 同時にヒトクローンの成功例が誕生した。

 

 壱型は研究に携わった全てを抹殺し、最後に、私の最後の人格複写を行った。

 

 壱型は、私と新たに生まれた人格複写体をそれぞれある家庭に紛れ込ませた。と言っても、私の方は壱型の協力者だったようだが。

 

 数年が過ぎ、複写人格が安定したころ、私は壱型の遺言とも言えるメッセージを見ることとなった。

 

 もう一体の人格複写体には、知識と技術だけを複写し、ベースとなる人格は複写していないこと。クローン成功体は成長を凍結し、保存してあること。そして、協力者であった私の両親により壱型自身が抹殺されていること。

 

 私はクローン体の凍結を解除し、家族として役所に届けさせた。

 

 ここまで話せばわかるだろう?

 

 織斑一夏はヒトクローン技術によって生まれた試験管ベイビーだよ。織斑夫人に妊娠の事実は存在しない。

 

 そして、もう一人の人格複写体こそ、篠ノ之束だ。

 

 幼少より優れ過ぎた知識と技術を持つ子供が、自然に生まれると思うか?

 

 壱型は優れ過ぎた知識を持つ子供が、世界というものに価値を見出さなくなることを予測していた。

 

 そして予測の通り、束は自身が世界の歩みを推し進めることとなった。

 

 だが、予想外の事態もあった。束の行動が早すぎたんだ。私は焦ったよ。壱型が予測していた展開に、一夏という存在は不可欠だったのだから。

 

 ん?一夏の役割?束の作る世界にいち早く適応することで、新しい世界の旗印になることだよ。一夏の成長ぶりの速さは目を見張るものがあっただろう?一夏はそういう風に作られているんだよ。

 

 話を戻そう。私は、幼馴染の親友という立場を使って、束の足を引っ張ることにした。期限は一夏がある程度成長するまで。

 

 そして一夏の高校入学を機として、私は束の枷を解き放った。

 

 あとは知っての通りだ。世界は束によって破壊され、再創された。

 

 このどさくさで、私は最後の使命を果たしてきたよ。日本政府でこの事実を知るものと、男の研究を知るすべてのものを抹殺すること。

 

 百何十年にも及ぶ男の不老不死の野望は終わりを告げたというわけだ。

 

 

 

 

 

「さて、と。長い話もこれで終わりだ。この事実はお前の胸の内にしまっておけ」

 

 千冬は氷の解けた酒を一気に飲み干すと、二人分の代金を置いて席を立った。

 

「そうそう、私の体はもう長くはもたなくてね。戦闘用に調整された代償だな。もう会うことはない」

 

「一つだけ、聞かせてください」

 

 虚の問いかけに、千冬は視線だけ返す。

 

「偽りの作られた関係であっても、あなたは一夏君を愛していたのですか?」

 

 

 

 

 

 

「何を当たり前のことを。あれは私の自慢の弟だ」




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