インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~   作:kageto

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昔に書き上げてたぶんが消えたから、書き直したけど、展開はほとんど変わらないです。

本日2話目

残りあと・・・


Another Episode

 

 北欧の田舎。森と丘と数件の家と、小さな修道院だけのある村。

 

 風のそよぐ春の日、修道院の外に広げた敷布の上で、一人の修道女が、針仕事をしていた。

 

 バンドーで覆い隠されている髪は、生え際から、珍しい銀髪だというのが分かる。だがそれ以上に彼女を目立たせているのは、顔の左半分を隠す大型の眼帯だろう。修道服に似合わない黒革製のそれは、異質ではあるが、彼女に良く馴染んでいた。

 

 

『こんにちは。眺めの良い場所ですね』

 

 若干ぎこちなさのあるドイツ語でかけられた声に、彼女は顔を上げた。

 

 そこには東洋人の若夫婦が立っていた。

 

『私は一日の大半をここで過ごすのですが、何年たっても見飽きることはありません』

 

 彼女は針仕事の道具を脇に置くと、二人に体ごと向き直り、敷布に座るように促す。

 

『ドイツ語、勉強されたんですね。ぎこちないですが、綺麗に聞き取れます』

 

『そういっていただけると、勉強した甲斐があります』

 

 そういって、互いに黙り込んでしまう。

 

「ずっと、直接会って謝りたいと思っていました」

 

「あの日あの時、衝撃の出会いだったけど、シャルから言伝で聞いた言葉は、確かに俺に届いてたよ。謝罪は、充分に受け取っているさ」

 

 彼女、ラウラ=ボーデヴィッヒはあの日から全てを失っていった。

 隊長の地位を剥奪され、専用機を剥奪され、自身を特別足らしめる一因であった左目を剥奪された。そして、戸籍を剥奪され、軍を追われ、逃亡を防ぐために右足の腱も切られた。監視も兼ねてこの修道院に押し込められ、名もない一人の修道女となった。

 豊かな自然と、争いのない日常が、壊れ果てた彼女の心をゆっくりと繋ぎ直し、そこで初めて一人の人間としてこの世界に産声を上げたのだ。実験体でも兵士でもない。ただ一人の、どこにでもいる少女として。

 そして彼女は、自らの罪と向かい合った。兵士であった自分が死ぬきっかけとなった少年に、謝りたいと。そしてそれ以上に、礼を言いたいと。そう想い、願っていたのだ。

 

「あの時の俺たちは、自分以外のいろんなものに縛られて、もがいていただけなんだよ。俺が先に一歩抜け出して、お前は抜け出すのがちょっと遅かった。それだけ、それだけなんだ」

 

 すっと伸ばされた手に、頭を撫でられ、ラウラの瞳から涙がこぼれ出た。

 

 

 

 

 泣き止んだラウラと改めて向かい合い、一夏は気になっていた疑問を投げかけた。

 

「口調、変えたんだな。偉ぶっている感じがなくなった」

 

「ここに来て最初に矯正されました。こんな口調の修道女などいたら礼拝者どころか神すら逃げ出してしまうと言われてしまってな」

 

 急に昔の口調に戻ったラウラの言う通り、修道服姿には全く似合っておらず、少し笑えてしまった。

 

「今ではこの口調の方がしっくりくるんです」

 

「あってるよ。その方が、前の方は無理をしてたように感じたからさ」

 

 その話題を皮切りに、簪も交えて三人で、互いの近況や、他愛もない話で盛り上がる。

 

 あの日、出会い方が違ったらありえただろう光景が、確かにそこにあった。

 

 

 

 

 

 

「すまん。ちょっと手洗いに」

 

「でしたら案内をつけますね」

 

 ラウラに断って立ち上がると、修道院の方から一人の修道女が近付いてきた。どうやら彼女が案内役らしい。

 案内役の女性は、バンドーで目元以外すべてを覆っていて、素顔が分からないが、逆に釣り目がちな目ははっきりと見えていた。

 

 建物の中に入ってから、案内役に声をかける。

 

「簪に、直接会わなくていいんですか」

 

 一瞬、肩が震える。

 

「今日を逃せば、もう機会はありませんよ」

 

「私は、もう死んだ人間なの。会う資格もなければ権利もないのよ。私はそれだけのことをしてしまったのだもの」

 

「俺から言えるのは、今ここにいるのは、姉だった人と、妹だった人がいるだけです。その二人が会って話すことに、資格も権利も必要ない。それだけです」

 

 こうと決めたら一直線な人だ。だからこそあの時簪のために暴走して、今は自身を縛ってる。とても不器用な人だと、そう思う。

 

「まぁ、のほほんさんとうつほさんに許されることはないのだけは、事実として受け止めておいてください。俺からはそれ“だけ”です」

 

 それだけ言ってトイレに入る。戻りは大丈夫だからと伝えるのだけは忘れない。トイレ待ちされるとか恥ずかしすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 夕方になって、ラウラに別れを告げる。

 

「もう、会うこともないんですね」

 

「そうだなぁ。なんせ宇宙だからな」

 

 そういって三人で夕焼けの空を見上げる。

 

「さようならわが友よ。私はあなた方を決して忘れません」

 

「さよならだ。俺たちも絶対に忘れない」

 

 見送りに出てきたほかの修道女たちにも軽く頭を下げ、別れを惜しみながら歩き出す。

 

「簪」

 

「うん。わかってる。わかってるよ」

 

 簪が自身に言い聞かせるようにつぶやくと、身を翻して駆け出した。その先に居るのは、案内をしてくれた修道女。

 

「頼みが、あります。私の知ってる人が、ここに来るはずです。その人に伝言を、お願いします」

 

 修道女が小さく頷くのを見て、簪が続けた。

 

「あの事は、許してあげないけど、だけど、あなたからの愛情はわかってたから。私もちゃんと愛してたから、ありがとう。私のたった一人のお姉ちゃん。それだけです」

 

 言い捨てるように告げて、こちらに駆け戻ってきた。

 

「行こう。一夏」

 

 袖を引かれて歩き出す。後ろで崩れ落ちる音と、嗚咽が聞こえてくる。俺の手を引いて一歩先を歩く、小さい背中からも聞こえてくるのは聞こえないことにしよう。

 

 

 

 

 

「あいしてるよ。かんちゃん。私の大事な大事なかわいい妹」

 




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