今回は三人称です。
「モフモフしてていい?」
「それはあたしの部屋に来ないってこと?」
刃が檻の中のオレンジの大型犬――ということになってるアルフ――を見ながらの呟きにアリサは直ぐに反応する。
もともとなんとなく予想はできていたのだ刃は――
「だって俺コイツ見に来ただけだし」
あたしの家に遊びに来たわけじゃない。
でも、だからといって――。
(ここまで来て逃がすわけないでしょ)
ほとんど意地なのは分かってる、ほっとくのが一番だというのも分かってる。
「だいたい男の俺がおまえらの仲入ってどうすりゃいいんだよ?この前月村ん家に行った時もほとんど俺は猫と戯れてただけだし。ガールズトークには入れねーよ」
しかしそんなアリサの決意など察せるはずもない刃は今更なことを言い出だす。周りから見たら刃は十分アリサ達三人組と会話できてるから余計に今更だ。
「大丈夫よ。今日はゲームを用意してるわ、ボードゲームをね」
「嫌です。おまえと将棋やチェスして勝てる奴がいるかよ」
そう言って刃は周り――なのは、すずか、執事の鮫島――を見る。刃も含めてアリサの相手をするにはどうにも役者不足だ。
「誰が将棋やチェスをやるって言ってるのよ。ちゃんと運が絡むゲームを用意してるわよ」
「ほう・・・どんなゲームだ?」
「人生ゲームよ!」
「普通だな」
「普通だね」
「普通なの」
「人生ゲームの何が悪いのよ!」
「いやだって金持ちがゲーム用意したって言うから・・・なぁ?」
「ねぇ?」
「なのぉ?」
「あんたらねぇ・・・!」
わーきゃーと騒ぎ出す4人。
「さて、落ちもついたところだし・・・、後で行ってやるからしばらくもふもふさせろ」
なのはを即効で捕まえ頭をグリグリしているアリサに声を掛ける。
「ったく・・・しょうがないわねー。後でちゃんと来なさ――」
「だ、だめだよ!」
しかし答えようとしていたアリサを遮って返答したのはなのはだった。
「なんで?」
「ほ、ほらっ、その子怪我してるんだよね?だったらその・・・危ないかもしれないし・・・」
アリサの拘束抜けたなのはは頭を抑えながら慌てたように言う、そんななのはの姿に刃もアリサも怪訝な顔をする。アリサが止めるならまだしもなのはが止める理由が分からないのだ。
「危ないって・・・ふむ、まぁ見てろ」
そう言って刃は檻に近づいてアルフに手を差し出す。するとアルフは顔を近づけ臭いを嗅ぎ――舐めた。
「ほらどうだ」
「なんで自慢げなのよ」
「う~・・・でも、でも~!」
『大丈夫だよなのは、危険がないか僕が見てるから』
それでもまだ渋っていたなのはに檻の前にいるフェレット――ユーノがなのはに念話を飛ばす。
『でもほら・・・、ユーノ君弱いし・・・』
『あぐ・・・!』
悪気ないなのはの言葉に心を抉られるユーノ。好きな女の子に『弱い』と言われた男心は粉々に砕けた。
モニタリングしていたアースラ一同も同情の念が禁じえない。
『あんた・・・、容赦ないね」
『ふぇ?』
いままで黙していたアルフも今のには思うところがあったのかなのはに言うが、天然にそんなモノは通じない。悪気がなくタダ単純な事実なだけに性質が悪い
『まぁ、心配しないでも無関係の一般人には手を出す気はないよ。・・・フェイトも望まないだろうしね』
そういって顔を上げ空を見上げる。その目は何処か遠く、それこそ別の世界を見ているよう。
『さて、そんなことより・・・さっさと話を始めようじゃないか』
バニングス家自慢の庭に鎮座する巨大な檻、その中には男子小学生とオレンジ色の狼――刃とアルフが入っている。
刃は伏せているアルフの上に乗っかり顔を頭に伏せていた。
「・・・聞こえるか?聞こえてたら尻尾で俺のことを二回叩け」
できる限り小さい声で刃はアルフに話しかける。するとぽふぽふという軽い衝撃が起こり相手に自分の声が届いているのを確認する。
「今からする俺の質問にYESだったら2回NOだったら1回尻尾で俺を軽く叩け、わかったか?」
ぽふ、と一回叩かれる。
どうして刃はこんな回りくどくめんどくさいことをしているかというと。
『いったいなんでこんなところに?キミたちの間で一体何が――』
檻の前に鎮座しているフェレット――ユーノ、そして
『正直に話してくれれば悪いようにはしない――』
どこからか聞こえてくる『念話』の主――時空管理局に自分とアルフに繋がりがあると悟られないためである。
『・・・話すよ、ここに転移した時にもう覚悟は決めてたからね。でも約束して欲しいフェイトを必ず助けるって・・・!』
悲鳴にも似た声を響かせアルフは懇願する。自分達の敵だった者たちにそしてなにより――この
そして語られる一連の事件の事情。
プレシア・テスタロッサ、フェイト・テスタロッサの母親にして今回の事件の黒幕。アルフの語ったことによると、フェイト・テスタロッサはこの母親から虐待を受けており、今回の犯罪行為を強要されていた。鞭で叩かれ電撃を浴びせられ、心と体に傷を負いながらも母親のために――また笑って欲しいという小さな願いのためにがんばってきたのだと。しかしその思いを逆に利用してプレシアはフェイトに犯罪行為を強要させていると。
『――聞いていたかい?なのは』
『うん・・・聞いてたよ』
アルフから話を聞いていた時空管理局の局員――クロノ・ハラオウンはなのはへと自らが所属する時空艦船から念話を飛ばす。
『僕達、時空管理局は館長の命があり次第任務をプレシア逮捕に変更する。・・・キミはどうする?』
『わたしは・・・、フェイトちゃんを一発ぶん殴らないと気がすまないかな』
アリサの部屋で人生ゲームに興じていたなのはは力強く念話を響かせた。因みにモニタニングしてるクロノ及びアースラの船員達の目モニターに映る、アリサ達に人生ゲームでボコボコにされて涙目になっているなのはの様子をはっきりと見ている。何人かが”八つ当たり・・・?”と思ったのは無理もないだろう。
『なのは、て言ったね?なんでそんなにフェイトに突っかかるんだい?そりゃ先に手出したのはこっちだけど・・・』
助けを求めたのにその答えがぶん殴るだと思わなかったアルフは慌てたようになのはに訊く。
『もちろんやられたらやり返すってのも理由の一つだけど・・・、そんなのよりむかつくからだよ・・・昔の自分を見ているようでむかつくの』
『昔の・・・自分?』
『一番辛かったあの時・・・、今よりももっとダメだった、『人』にさえなっていなかったあのときの自分を見ているようで・・・イライラするの』
幼少時代、ただただ家族の邪魔にならないためにいい子でいようとしたあの時代、『人』じゃなくて『人形』だった自分。
『あの時、あの人が教えてくれたように私が今度は教えてあげるんだ・・・口は喧嘩するためにあるんだって。自分の意思を伝えるためにあるんだって――』
――貴女は意思のある『人間』なんだよって。
そう教えてあげるとなのはは決意する。自分が助けられるとは思ってない、人は自分で助かるしかないのだから・・・だから、そのために手をかそう。
背中を押して。
手を退いて。
ぶん殴って。
手伝ってあげよう。
昔。あの時。自分がそうされたように。
『・・・まだフェイトに頑張れって言うのかい?』
『がんばらなくていい人なんていないよ。何時だって、どんな時だって、どれほどがんばってきていたとしても、『それでも』と頑張ることが・・・きっと大事なんだと思うの』
『あんたは・・・強いね』
『私は弱いよ・・・だからがんばってるんだ』
だからこそ
『フェイトを・・・頼むよ』
『まっかせなさい!』
人の心こうも動かせる。
「俺の出番はないかな」
ぽふっと衝撃、それはNOという合図。
今まで静かに聞いていた刃が言うと同時にそう返ってきた。
「俺にもして欲しいことがあるって?」
ぽふぽふ。
「テスタロッサ母とテスタロッサは高町達が捕まえるんだから・・・、俺にはその後にして欲しいことがあるってことか?」
ぽふぽふ。
二回、つまりは肯定。
そもそも魔法が使えない刃にアルフも救出を頼むつもりはない。いくら『異能』を持っているといっても魔導師相手はでは分が悪いと思っている。
だからこそ――刃に頼みたいのは救出後のこと。
「・・・大方隙見て逃げ出すから匿ってくれってところか?」
ぽふぽふ!
とすこし強めに肯定の意が返ってくる。
「なるほどね・・・答えはNOだ」
ぽふ!!
今まで一番強く刃の背に一回尻尾で叩かれる。
「いてーよ。・・・まぁ聞け。ちゃんと理由がある」
ぽふ・・・ぽふ。
しぶしぶといった感じで二回叩かれる。
「よし。まずおまえらが無事に逃げられたとして、俺が匿ったとしよう、その場合おまえらはとうぶんの間俺の家からは出られない。なぜなら時空管理局がおまえらを探すからだ」
捕まえた犯罪者が脱走したのだ、捜索に出ないわけがない。
「それに高町がいる」
刃と同じ学校に通っている時空管理局側の魔導師、この存在はとてもやっかいである。見つかれば連絡されるだろう。
「それで運良く高町がこちら側についたとしよう。今度はお前達に居場所がない・・・というより生きていけない。お前たちには戸籍――この世界に存在している公的な証みたいなもの――がない。学校には通えないしバイトもできない、もちろん就職もできない」
数年匿うことはできてもずっと匿うことはできない、
しかしそれだけではない、今言った理由のほかのもいくつかある。その中で一番の理由それは――。
「本人が手を伸ばさないとな――決めるのはテスタロッサだ」
手を伸ばしたら助ける。
数日前八神に言った言葉である。
ぽふ、ぽふ。
二回衝撃、アルフはしぶしぶだが承諾した。
裏を返せばそれはテスタロッサが本人が手を伸ばせば掴んでくれるということだから。
「んじゃ・・・そろそろ行くか」
刃はアルフから下りて普通の音量でそう言って檻を出て、アリサの部屋へ向かう。
(まぁその他にも、気が乗らないっていう理由もあるんだけどね)
刃はアルフの話に気が乗らなかった。いや正確には気に入らなかった。
――フェイトは悪くない。
――フェイトは無理やりやらされてるだけ。
――悪いのは全部プレシアだ。
(そんなわけねーだろ)
フェイトは悪くない・・・、そんなことはない。なにせフェイトは自分の意思でやっている。プレシアの命令があるとはいえ拒否できたはずだし逃げようと思えば逃げられた。それはアルフと二人だけで地球にやってきていることを考えれば十分可能だ。
刃も情状酌量の余地がないとは思わない。だが同時にまったく悪くないわけではないとも思っている。
(だってアイツは自分でやることを選択したんだから)
どんな理由だろうと『選択』には責任が生じる。
だから――気にいらないし、気が乗らない。
(でも――それでも、俺はあいつが手を伸ばしたら掴むんだろうな)
自分でもらしくないと思いながら広い家を歩く。
せめてゲームで位は自分らしく人生をまっとうしようか、そんなことを思いながら扉を開け部屋に入っていった。
それぞれの思いを胸に――決戦の日がやってくる。
はてさて19話。無印はそろそろ大詰めですね。
予告しておくと次話はおそらく主人公出てきません。
それでいいのか主人公・・・。
最近オリジナルの方で長編を一作書いています、無謀にも大賞に応募する気です。まぁ落ちたらこちらの方に乗せるので楽しみにしないでいてください(笑)
後書きで書くことがなくなってきた・・・まぁ、いいか。