「ごふっ・・・!」
暗く不気味な玉座の間。
まるで魔王でも居そうなその部屋の孤独の玉座に座るのはしかし魔王ではなく妙齢魔女。
プレシア・テスタロッサ。
今回の黒幕とも言える人物であり、さきほどアースラに向かって雷撃を落とした張本人である。
「だめね・・・次元魔法はもう体が持たない・・・」
自らが吐いた赤い血を見つめながら気だるげに呟く。
「それに・・・今のでこちらの場所も知られたでしょうし・・・」
時間がない。
周りに浮かぶジュエルシード――アースラを攻撃したのと同時にフェイトから奪った――を見つめながら決意する。不安ははあるし万全とは程遠いが・・・やるしかない。
「あの人形も・・・、フェイトももういらないわね」
もとあれはただの代わり・・・いや、代わりにすらならなかった不良品だ。使ってもらえただけありがたいと思うべきでしょう。ただそんな物に、そんな
慰めにもならなかった人形なんてもとよりいらない。
あの子以外誰も――。
孤独の玉座に座る魔女は思い出す。
あのとき、一番幸福だったあのときを。
花畑ですごす親子のひと時を――。
「あともうすこしよ――アリシア」
孤独の玉座で魔女は笑う。
娘は死に。
ペットは契約を果たし。
人形は棄てた。
もうここには誰いない、たった一人の孤独の玉座。
だがそれでも、『夢』を見て、追いかけていられる間は笑っていられる。
それが決して叶わぬ『悪夢』でも。
‡ ‡
「――エイミィ!座標位置特定はっ!?」
「っもうやってるよ!・・・捕まえた!糸はついたよっ!!」
「よし、でかしたエイミィ。リンディ艦長ッ!!」
「武装局員は直ちに転送ポートより出動!!任務はプレシア・テスタロッサの確保です!他局員は直ちに被害状況を報告して」
雷撃を撃たれたアースラは犯人確保のために慌しく、それでいて自分達の仕事を迅速に行っていた。
「損傷は軽微・・・問題ありません。武装局員モニター映ります!」
特大モニターに映るのは武装局員がプレシア・テスタロッサの居る玉座の間に突入するとこだった。
「あ・・・」
そしてちょうどそのときなのはが気絶から回復したフェイトを連れて帰艦した。
「おつかれさま・・・。そして、あなたがフェイトさん・・・?」
それに気づいた翠の長髪を後ろで括った美女――リンディ・ハラオウン艦長――が労いの声とともにフェイトに話しかける。
「・・・・・・」
しかしフェイトは俯いて答えない。
それはそのはずここは敵地であり、自分は謂わば敵軍に捕まった捕虜だ。
それがなくても今のフェイトは魔法を知ってたった一ヶ月の子に負けたという現実と戦うのに忙しかった。ちなみに戦況はよくない、気を抜けば泣きそうだ。
「・・・・・・・・・」
『なのはさん、母親が逮捕されるシーンを見せるのは忍びないわ・・・。彼女をどこか別の部屋へ』
『あ、はい・・・』
その様子を見たリンディは気遣ってなのはに頼んだそのとき――。
「総員玉座のまに進入、目標発見しました」
その場にいる全員の目がモニターに向かう。
そこには――。
‡ ‡
「時空管理法違反および、管理局艦船への攻撃容疑で逮捕します。武装を解除し投降してくさい」
「・・・・・・」
プレシアは動かずに武装局員達を見ている。いや、見下している。この程度者たちなど脅威にもならない。
「包囲しろ、逃げ道を塞げ!」
その様子を逃走する手段があると思った武装局員達はプレシアを包囲すべく動き、隠し通路などを封鎖するべく動く。その動きはよく訓練されており、誰の目から見ても優秀だと言わしめる程度の働きだった。
その証拠に、
「こっちにもなにかあるぞ!」
ひとつの隠し部屋を見つけたのだから。
「これは・・・」
その部屋は狭く、実験室ようであり、物置きのようであり、不気味な宝物庫のようだった。だがその部屋に入った局員はまるで死体安置所のようだと思った。
そしてそれは間違いではない。
この部屋の奥にあった――いや、居たのは一人の少女。
金色の長い髪、美しい白い肌、整った顔立ち。
その少女はフェイト・テスタロッサとまったく同じ姿をしていた。
正確には培養液に入っているほうが若干幼いが、そんなものは些細な違いは問題にはならない。問題なのはこの場所にフェイト・テスタロッサと同じ姿をした少女が居るということ。
「狂ってる・・・」
武装局員は思わず呟いた。
事前に彼女が何をした可能性があるのか、それを知らされていたからこそ出る言葉だった。
「私のアリシアに近づかないでッ!!!」
「ぐあああッ!!」
悲鳴のような叫びが聞こえると同時に紫電が走り、武装局員の意識は刈り取られた。
「う、撃てぇ!!」
培養液の前に転移魔法で現れたプレシアに武装局員が直射魔法を放つが、そんなものは効かない。すべてその身に届く前に障壁によって遮られる。
条件付オーバーSランク。
それがプレシア・テスタロッサの魔道師ランク。ただの武装局員ごときが超えられるような壁ではない。
ましてはここは彼女の城だ。条件を満たしていないわけがない。
「うるさいわ・・・」
放たれる紫電。
木霊する悲鳴。
アースラが誇る優秀な武装隊はただの一撃をもって全滅した。
‡ ‡
「いけない!局員達の送還を!!」
「っ了解!」
リンディの指示に即座にエイミィは座標を固定し局員達をアースラへと緊急送還する。
モニターには依然としてプレシアとアリシアが映っている。
プレシアは愛娘を抱くかのように培養液によりそい、わざとアースラの面々に聞こえるように話し始める。
「ああ・・・もうだめね、時間がない・・・。たった九個のジュエルシードでアルハザードにたどり着けるかはわからないけど、もう終わりにするの。この子を亡くした暗鬱な時間も、この子の身代わりの人形を娘扱いするのも。聞いていて・・・?」
(だめだ、聞かせちゃいけない見せちゃいけない・・・!こんな!こんな・・・!)
「フェイトちゃ――」
この先を聞かせまいと、見せまいとフェイトを連れて飛び出そうとするなのははしかしフェイトの顔を見て止まる。
わからなかった。ここまで聞いたのならこれがどういうことなのかわからないはずがない。なのになのに――。
「フェイト・・・貴女のことよ」
最初になのはと会ったあの時と同じだった。
その目の強さは変わらない。
その目に浮かぶさびしそうな瞳もかわらない。
だから、彼女はしっかりと、
立って
見て
聞いていた。
「貴女は私のアリシアを生き返らせるための実験の失敗作。フェイト、あなたのそれは名前ですらないの。私が行っていた研究は使い間を超える人造生命体の生成・・・クローンの研究よ。その研究の名前がプロジェクトF.A.T.E。私は何もかも失ったあの時に誓ったの・・・絶対取り戻してみせるって・・・。だからこの研究を進め死者蘇生の秘術を成そうとしたわ、でも結果は見てのとおり失敗・・・。せっかくアリシアの記憶を植えてあげたのにできたのは、見てくれだけそっくりな役立たずの出来損ないのお人形。本物のアリシアを取り戻すまでの私が慰めに使うお人形。でも慰めにすらならなかった貴女はもういらないわ・・・貴女は私の娘なんかじゃないのよ。どこへなりとも消えなさい!!」
プレシアの吐く言葉を聞いた者たちは皆沈鬱な表情をしていた。
もうやめてしゃべらないで、これ以上あの子を追い詰めないで!!
「いいこと教えてあげるはフェイト・・・」
しかしそんな思いもむなしく決定的なまでに時間は止まらない、致命傷の言葉は吐き出される。
「貴女のことが大きら――」
「それは違うよ――
「――なんですって・・・?」
しかし致命傷なのはフェイトではない。
「私の・・・話を聞いてなかったの・・・?」
「・・・聞いてたよ」
そう、ちゃんと聞いていた。
耳を塞がず。
目をそらさず。
蹲らずに。
ちゃんと聞いていた。
「私はその子じゃないし、その子の代わりにすらならなくて。母さんは私が嫌いなんだよね・・・」
「・・・そうよ」
「・・・知ってたよ」
「っ!?」
もうその傷は乗り越えた。足掻いてもがいて苦しんで・・・、それでも私は答えを見つけた。
「鞭で打たれて、魔法を撃たれて、罵声を浴びせられて、冷たい目で見られて、褒められない。・・・知ってたよ、母さんが私を見ていないこと」
「・・・な、ならどうして」
「だって私は母さんの娘だから」
「・・・・・・」
プレシアは恐怖した、理解できなかった。どうしてそんな言葉を言える?棄てた母親対して、ここまでひどいことを言った自分に対してまだ尚自分を母だと呼べる神経がわからない、娘だと言える感情がわからない。
どうして笑えるのかがわからない。
怖い――いや、もういっそ気持ちが悪い。ナンダコレハ?作り物だから?いや違う、私の目的は叶わなかったが・・・。記憶を植えつけたクローンを生成する研究自体は成功していた。私にとっては失敗作だが、研究内容としては十分成功と言える。
彼女はたしかに人間だ。
私にとっては人形だが、分類学上彼女は間違いなく人間だ。
製作者に絶対の忠義や愛情を持つといった人形は作っていない、そんなものはプログラムしていない。
「母さんが私を鞭で打っても、母さんが私に魔法を撃っても」
「・・・やめなさい」
気持ちが悪い。
「母さんが私に罵声を浴びせても、母さんが私を冷たい目で見ても」
「やめて・・・」
その声で、その顔で。
「母さんが私のことを大嫌いでも」
「やめなさいって言ってるでしょッッ!!!」
その目で私を見ないでッッ!!!
「私が母さんの娘であることには変わりがありません」
「あ――あああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!うるさいッッ!!黙りなさいッ!!気持ちが悪いのよ!!私は貴女を棄てたのよ!?どうしてそんな風に言えるの!?どうしてそんな目で私を見れるの!?どうしてそんな風に笑えるの!?貴女は娘じゃない!!アリシアじゃない!!!人形なのよ!?!?」
気持ちがわるい気持ちが悪い気持ちが悪い気道が悪い!!こんなもの今まで自分は娘と扱ってきたのか?なんだこれはなんだこれはナンダコレハ!?
「私はフェイト・テスタロッサ。私は私のために生きていて。私はプレシア・テスタロッサの娘です。母さんがなんと言おうとどう思おうと、この答えは変わりません」
自分は誰で
自分は何のために生きていて
自分は何なのか
この答えは既に得た。
今ならフェイトは胸を張っていえる――これが私ですと。
「・・・・・・もういいわ、もうたくさんよ。貴女なんか知らないわ・・・。私達はこれから旅立つの・・・、忘れられた都アルハザードヘ!そこでアリシアを蘇生させ!私達の――親子の時間をもう一度動かすのよ!!邪魔は――させない・・・!」
プレシアがジュエルシードを起動させモニターが白く染まり、そのまま映像は途切れた。
「クロノ君!?」
映像が途切れると同時走り出そうとしたクロノをなのはが呼び止める。
「僕が行って止めてくる!」
瞬間、強い揺れがアースラを襲う。
「次元震です!中規模以上・・・まだまだ強くなります!このままだと次元断層が・・・!」
「時間がない・・・僕はもう行く。ゲート開いて!」
局員悲鳴に近い報告に焦り飛び出そうとするが、
「私も行きます・・・」
「フェイトちゃん・・・?」
「何を言ってるんだ共犯者の君を連れて行けるわけがないだろう・・・!」
今は一刻を争う、審議の余地もないわがままに付き合っている暇はクロノにはなかった。
「指示には従います。母さんを捕まえるために全力を尽くします。・・・私は、もう一度母さんに会ってちゃんと話さなくちゃいけない――話がしたいんです!お願いします!!」
それでもと頭を下げ必死にフェイトはお願いする。
今ここで行かなかったら私は絶対に後悔することになると思ったから。
「私からもお願いします!ついでに私も連れて行ってください!!」
なのはが続くように頭を下げるとそれを皮切りに、
「あたしからもお願いするよ!あとフェイトが行くならあたしも行く、足手まといにはならないよ」
アルフが。
「僕からもお願いします!それと僕も連れて行ってください、サポートなら役に立つはずです」
ユーノが。
次々と頭をさげ懇願する。
「そうは言ってもだな・・・」
プロとして一般人であるなのは達や共犯者であるフェイト達を連れて行くわけには行かない。間違った判断ではないし、当然の判断だが、こうも一斉に頭を下げられるとこちらが悪いような気がしてくる。
だが、やはり連れて行けない。戦力は確かに欲しいがそれでも彼女達を危険な目に合わせるわけにはいかない。たとえそれが今更だったとしてもだ。
「わかりました・・・」
「艦長ッ!?」
そう考えていたからこそリンディが了承したことが信じられなかった。
「落ち着きなさいクロノ。私達に選択肢はないのよ、ここで断っても彼女達は勝手に行ってしまうわ。武装局員が動けない現状彼女達を止められる人はこちらにはいません。ならこちらの目の届く範囲で行動してもらうのがもっとも安全な選択よ」
リンディも行くことに賛成なわけではない。たしかにフェイトはもう一度話すべきだとは思うが、それ以上にもうプレシアには会わせたくないとも思っている。なのはにいたっては一般人だ、やはりここまで巻き込んでおいて今更だが、それでも行ってほしくはない。
「ありがとうございます。リンディさんがOK出してくれなかったらスターライトブレイカーで強行突破しなくちゃいけないところでした」
笑顔で言うなのはを見てリンディは止めなくてよかったと心底思った。
「・・・僕の指示には絶対にしたがってもらうよ」
「「「「はい」」」」
なのは達の威勢のいい返事にクロノは不安になった。
(この人たち・・・絶対言うこと聞かないんだろうな・・・)
決戦前なのにクロノは胃が痛くなってきた。
「今、会いに行くからね・・・母さん」
さてはて二十二話です。
ここまで書いてまだ無印が終わらないのはどうなんだろうと作者は思いながら書いています。しかも主人公が三話も出てきていません。ついでに次回も出てこない予定です。主人公ェ。
しかし近況報告というか書くことがなんにもない・・・。このGWもとくに何もせずに過ごす予定ですので・・・。我ながらつまらない人間だなぁ・・・と思いながら動かないだめ人間です(笑)
あとがきってなに書けばいいのかやっぱりわからない。