魔法少女リリカルなのは~よくある転生記~   作:春夏冬 秋人

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第二十三話 だって私は■■だから 後編~俺、まだ出番なし~

 

 

 絶対に止める。

 ゲートに向かって走りながらクロノは決意する。

 これ以上次元震を起こさせればどのような被害が出るかも、わからないし。管理局執行官として放って置くわけにはいかない。

 だがそれも本当はただの建前だということにも気づいていた。もちろん建前も嘘ではない、偽らざる本心だ。だがただたんにもっと強く自分勝手な本音が存在しているということ。

「親子の時間をもう一度動かすのよ!!」

 そう言ったプレシアが――ひどく気に入らなかった。

(失った時間を・・・停まった時間をもう一度動かすことなっかできるものかっ!死んだ人が生き返るわけがない!!)

 クロノはいっそ憎しみと言っていい感情を乗せ心で呟く。

 死者が生き返るなんて認めない。

 失った『在ったかもしれない時間』は取り戻せない。

 世界はいつでもこんなはずじゃなかったことばかりだ。

 だからこそ僕達は『それでも』と前を向いて歩いて行かなくちゃいけない。失った者に胸を張れるように。

 (それなのに・・・取り戻してしまったら、僕は、僕達はどうしたらいい)

 幼少時に父を失いようやく折り合いをつけてクロノは今を生きている。

 父に誇れるように。

 母を支えるために。

 自分と同じように失う人を少しでも減らすためにクロノは管理局に入り執務官になった。だからこそプレシアの暴挙は許せない。

 クロノも自分のこの気持ちがなにから来ているかは理解してる。

 嫉妬。

 醜く醜悪な感情だ。

 だとしてもクロノは止められない認められない。自分は失って取り戻せないのに、自分以外の誰かが取り戻すのが我慢ならない。

 (嫌な人間だな僕は・・・)

 大人と同じ目線と立場で働いてるとしてもクロノは14歳、まだまだ子供だという

 ただそれだけの話だ。

 

 

 

‡  ‡

 

 

 

 時の庭園。

 全体的にどこか薄暗く不気味な雰囲気、雷まで常時鳴っているというのだからもうそこはどこかのゲームに出てくる魔王城を連想するなというほうが無理があるし、さらになのは達の目の前にいるのは動く鎧、侵入者や外敵を排除するようプログラムされたゴーレム。ここまで来るともうラストダンジョン以外の何ものでもない。

「ディバイィィン――バスター!!」

 しかしゲームはゲームでもRPGではなくSTG、もしくは無双する系のゲームだろう。

 転送されると同時に放たれた砲撃により、大量のゴーレムが吹き飛び密集地帯に穴が開いた。

「よし!いくぞ!!」

 クロノの号令と同時になのはがこじ開けた穴をさらに抉るように近接戦闘が得意なフェイト――道案内も兼ねてる――を先頭に突撃する。

 まさに某無双ゲームのように倒されていくゴーレム達。このゴーレム一応魔力量はAクラスでありそこらの魔道師だと苦戦は必至、しかもそれが大量にいるというのだからすさまじい程の戦力のはずなのだが・・・。

「あはっ!どこに撃っても当たるから楽チンなの!あははっ!なんか楽しくなってきたっ!!」

 最高にッ!ハイッ!てやつなのーーーーッッ!!!とか叫びながら馬鹿みたいな魔力にモノを言わせて砲撃を撃ちまくるバイオレンス少女のせいでひどく簡単になっていた。これだけ大量にいるなら何処に撃っても必ず当たる、そして当たれば被害は甚大。実は1対1よりも多対多といった戦闘の方が向いているなのは、もう扱いや性能が戦術兵器のそれである。

「わたしあんなのと戦ってよく生きてたなー・・・」

「ま、魔道師の実力は魔力量ではき、決まらないんだ・・・!」

「なのはに魔法教えたのって実はジュエルシード落とすより最悪な失敗だったんじゃ・・・」

「もうあの子一人でいいんじゃないかい?」

 各々がトリガーハッピー(なのは)が笑いながらゴーレムを爆殺してるのを見て恐怖覚える。

 (絶対にこの子を敵に回しちゃいけない)

 なのは以外の全員の心が繋がった記念すべき一瞬である。

 だがしかしやはりラストダンジョンというべきか、なのはが大量に蹴散らしたはずゴーレムはその数を減らすことなくなのは達の行く手を阻む。倒されても斃されてもそれこそ湯水のごとくそこらから新たなゴーレムが沸いてくる。

「キリがないな・・・」

 小さくクロノは呟く。自分達が通れる穴だけ抉じ開け無理やり突破しているが、後ろから攻撃されるし当たり前のように追いかけられる。それはつまり挟み撃ちにされているということであり、止まった瞬間に包囲されて自分達はやられてしまうということ。だがそれでも奥に行けば行くほど敵の密度は増えるためどうしても足は鈍くなる。

 だが手がないわけではない。

「駆動炉を止められればゴーレム達の生成もとまります」

「・・・・・なら、ここから二手に分かれよう。なのはとフェイトとアルフは駆動炉を、僕とユーノはプレシアのもとへ向かう」

「ユーノ君とクロノ君だけで大丈夫なの?」

「この程度相手なら僕一人でも突破できるよ」

 そういったクロノは魔力を練り一つの魔法を発動させる。

「スティンガースナイプ!」

 瞬間、水色の閃光が駆け抜けた。

 それは螺旋を描きながら次々とゴーレムを貫いていき、気づけば回りのゴーレム達はあらかた沈黙していた。

「クロノくんって強かったんだ・・・」

 魔法制御にはそれなりに自信のあったなのはもここまでの制御はできない。なにせクロノはなのはのように高威力の魔法で力任せに焼き払うのではなく、そこまで威力のない射撃魔法のたった一発を操作して周りのゴーレムを撃破したのだ。まさしく熟練の技であり付け焼刃では到底真似できない『本物』の技である。

「少なくとも君達と一対一で遅れは取らないよ」

「みたいだね。じゃあ私たちは駆動炉に向かうよ」

 アルフがそう言って駆動炉がある方へと向かい、なのはもその後に続き、

「・・・・・・」

 フェイトもクロノを一瞥してから追いかけていった。

「かっこつけてたけど、本当に大丈夫なの?」

「・・・正直ちょっときついだろうね」

 なのは達が行ったのを確認してからユーノは心配そうに訊くと帰ってきた答えはなんとも頼りない苦笑だった。

「はぁ・・・ま、それならしょうがないね、僕がサポートするよ。背中は任せて――敵の攻撃は雫も届かせはしないよ」

「ただのフェレットもどきだと思ってたんだけど。道中で君が見せた防御魔法は頼りにしてるよ」

 ここまで突破できたのはなのはのおかげだが、全員が無事怪我一つ無く(・・・・・・)ここまでたどり着けたのはユーノが敵の攻撃を防いでいたからだ。

 ユーノも決してただ守られてるだけの男ではない、むしろその魔法は誰かを護るために特化されている。

「さて――行くよ!」

 護りたいモノのため男二人は戦場を駆け抜ける。

 

 

 

‡  ‡

 

 

 

「うおりゃぁぁ!!」

 気合を乗せたアルフの鉄拳がゴーレムの顔面を文字通り破壊する。

 駆動炉まであともう少しというところでなのは達は足止めを食らっている。

 敵がここに来てさらに増えたということと、

「ごめんフェイトちゃん・・・、魔力切れそう」

「え・・・?」

 調子に乗ったバイオレンス少女のガス欠のせいだ。

 おまけに。

「あの大型私だけで倒すの・・・?」

 目の前には5メートルくらいはありそうな巨大なゴーレム。このゴーレムは大型というのもありバリアが他の個体よりも堅く、さらに肩についているブラスターの一撃はなのはのディバインバスターに匹敵する。

「がんばって!フェイトちゃん!!」

 かわいらしく応援してくる、白いアホの子の方を先に粉砕してやろうかとまじめに考えながら、ブラスターの一撃を回避する。

「アルフ!こっち手伝えない!?」

「あと20秒待って!そしたらこいつら片付けてそっち行くから!!」

 二十秒。なんだそれだけかと思うかも知れないが戦闘において二十秒は長い、しかも今は間抜けな足手まといをかばう為、敵の注意をこちらに集めるためにわざとフェイトは相手に身をさらしながら飛んでいる。今の自分があの砲撃を耐えられる道理はない、さっきまで自分は全力全開の真剣勝負をしてきたばかりなのだ、はっきり言って魔力が心もとないのはフェイトも同じである。

 そして飛び続けることキッカリ二十秒、

「バリア――ブレイク!!!」

 ただのゴーレムを殲滅したアルフが相手のバリアに触れそのプログラムに割り込みを掛け破壊しようとする。

「アルフさん!」

 しかし敵のバリアが強固のためすぐには破壊できない。ブラスターの砲門がアルフに向けられなのはが悲鳴にもにた声を上げ――バリアが砕けると同時、砲撃は無常にも発射された。

 

 

 

『Scythe Slash』

 

 

 

 だが砲撃は届かず雷光のごとき速度で黒衣の死神はその鎌をもって大型ゴーレムを切り伏せた。

「ありがとうアルフ」

「ご主人様を助けるのが使い魔の役目ってね」

 予定どうりだといわんばかりに微笑みあっている二人を唖然として見るなのは。

 合図を出したそぶりもないし、ましてや事前打ち合わせなんてやっていない。それなのにあそこまで息を合わせられることが正直羨ましかった。

 以心伝心、阿吽の呼吸。あれが本当にパートナーと言える関係であることをなのはは目で見て理解した。

「先に行くよ?」

「あ、まってよフェイトちゃん!」

 呆然としていたなのはは慌ててフェイト達を追いかけた。

 

 

 

 そしてたどり着いたのは駆動炉へと続く直通のエレベーター。

「このエレベーターに乗って行けば駆動炉につく」

「うん。じゃあフェイトちゃんはここまでだね」

「あとはあたし達にまかせておくれよ」

 エレベーターを守護していたゴーレムを殲滅したフェイトはなのはとアルフの言ったことが一瞬理解できなかった。

「お母さんのとこ、行きたいんでしょ?」

「・・・行きたいけど、魔力が切れそうなんじゃないの?」

 なのはの魔力が切れたというから駆動炉を封印するのは自分がやるのだとばかりフェイトは思っていた。

「うん?切れそうだけど・・・駆動炉を封印してプレシアさんに一撃ぶち込んで逃げるだけの魔力はとってあるよ」

「え・・・?でもさっき・・・」

「あそこで撃ったらプレシアさんに撃つ分がなくなりそうだったから」

「・・・・・・」

 人の母親をなんだと思ってるんだろうとフェイト軽く思ったけどすぐに自業自得かと思い直した。

 (骨は拾ってあげます母さん)

 そしてあっさり見捨てた。

 (非殺傷だからたぶん死にはしないはずだから・・・)

「じゃあもう行くね」

「フェイトも急ぐんだよ!あの執務官が向かってるからね!」

「うん・・・」

 そんなことを考えてる間になのはとアルフはエレベータに乗っていっってしまった。

「さて・・・急ぐよバルディッシュ!」

『Yes sir!』

 

 

‡  ‡

 

 

 

 時の庭園の最深部に魔女は静かにそのときを待っていた。

「もうすぐ・・・もうすぐよアリシア」

 うわ言のようにアリシアの入ったポットにすがりつきただ静かに時をまつ。

『いいえ、貴女はもう終わりですプレシアテスタロッサ』

 しかしそんな夢から覚まさせるようにプレシアの脳に声が響いた。

「貴女は管理局の・・・」

『アースラの艦長リンディ・ハラオウンです。次元振は私が抑えています、駆動炉も――』

 リンディの言葉を遮って何かを破壊するような音が響き時の庭園を揺らした。

『――たった今封印しました』

「そのようね・・・」

『そして貴女の元には執務官が向かっています』

「それが・・・?」

『・・・っ!あなたは本当にアルハザードがあると――御伽噺が実在していると本気で思っているのですか?』

「ええ、アルハザードは存在する。次元と空間のその狭間にたしかに道は存在するのよ!!」

『・・・そこでなら失った人が取り戻せるとでも』

「思っているわ!!いいえ絶対に取り戻す・・・こんなはずじゃなかった世界を私は認めない!!」

 

 

 

「――ふざけるな!!誰だってこんなはずじゃなかった世界を必死に足掻きながら生きているんだ!アンタの身勝手に無関係の人間を危険に晒して、巻き込んでいい権利なんて無い!誰にもない!!」

 

 

 

 扉を破壊し粉塵とともに現れたクロノは怒りを隠そうともせず怒鳴り込んだ。

「執務官だ!おとなしく武器を捨て投降しろ!!」

「うるッッさいッッ!!」

 紫電が走る、武装局員を一掃した魔法が確かな悪意を持ってクロノへと走る。

「させないッッ!」

 しかし届かない。紫電は翠色に阻まれて霧散した。

「っゴホッ!ガハッゴホッ!」

 病に冒された体はこれ以上の魔法行使をよしとせず、強制的にとめる。

(時間が無い・・・)

 手のひらについた自らの血をみてタイムリミットの短さを痛感する。

(この程度の魔力量で足りるかはわからないけど――)

 

 

 

「母さん!!」

 

 

 そこまで考えてプレシアの思考は寸断される。

 アリシアと同じ声。

 アリシアと同じ顔。

 しかしアリシアではなく、アリシアとは決して違う表情を浮かべる私の■■。

「何しに来たの・・・?消えなさいと言ったはずよ・・・」

「母さんに話があったからきました」

 嫌悪感と苛立ちそして恐怖が混ざり合ったプレシアの淀んだ目で見据えられてもフェイトは決して怯まなかった。

 真っ直ぐと受けとめ。

 見返した。

「・・・私にはないわ。消えなさい」

「いいえ消えません」

「ッ消えろと言っているで――」

 

 

 

「母さんは何で私を創ったか覚えていますか?」

 

 

 

「何を言っているの・・・?」

 本当に、今更何を言っているか理解できなかった。

 自分がフェイトを創った理由などアリシアを生き返らせるために決まっている。私はたしかにそう言ったはずなのに何をいきなり――。

「私が聞いているのはアリシアを創ろうとした理由ではありません。思い出してください、あの花畑で過ごした日アリシアが――ううん、姉さん(・・・)が母さんに何てお願いしたのかを」

「なにを――」

 ――言っている?

 そう続けることをプレシアはできなかった。

 フェイトが何を言ってるかは理解できなかったがいつのことを言っているのかは理解できた。あの日あの時まだまだ幸せな時間があった日だ、こんな日常がずっと続いていくと信じて疑わなかったあの日だ。

 そしてあの日確かにアリシアにお願いをされた。

「――まちなさい」

 誕生日に妹が欲しいと(・・・・・・・・・・)

「貴女まさか・・・、だから、自分は娘だとでも?アリシアの妹だとでもいうつもり?」

「そうです」

 少しの揺らぎもみせないその声と瞳を見て聞いて、プレシアは心底嫌悪した。

「ふざけないでちょうだい・・・!」

 確かにあの時私は妹をプレゼントすると約束した。だが、それは貴女なんかじゃ――。

「私はなにがあろうと母さんの娘です。だから母さんの役に立ちたい、だから母さんの望みを叶えたい、だから母さんに――笑って欲しい」

 貴女・・・なんかじゃ・・・。

「母さんが戦えというなら戦います、母さんが集めろというなら集めます、母さんが姉さんを生き返らせたいなら協力します。いまこの場で時間を稼げと言うのなら――」

 後ろにいるクロノ達にバルディッシュを構え、

「――稼ぎます」

 迷い無く、確かな自分の意思でもって言い切った。

「フェイト・・・」

 杖を向けられたクロノは小さく呟く。

 こうなることは予想していた、むしろならない方がおかしいとさえ思う。だがそれでも実際にこうなると心苦しいものもある。

 (やはりこうなるか)

 だがやっぱり納得するほか無かった。

 

 

 

「・・・もういいわ」

 

 

 

 プレシアの呟きにそこに居る全員が視線を向ける。

「・・・言ったでしょう?貴女なんか知らない。私はこの数のジュエルシードでたどり着けるかはわからないけど・・・私はもう行くわ」

 プレシアの周りにあるジュエルシードの輝き増していく。

 そして――

「母さんッ!」

 次元震に耐えられず、プレシアのいた場所が崩れる。

 (これでいい・・・)

 不快な浮遊感を感じながらプレシアは思う。そもそもアルハザードがある場所は次元の狭間、時間と空間が砕けたそこに現れる道の先にある。故に一度次元の狭間――虚数空間に落ちなければならない。

 ありとあらゆる魔法をキャンセルする魔道師にとっては地獄に等しい空間、その先に魔法の最奥たる世界があるというのだからなんとも皮肉なものだ。

(これでようやく・・・)

『Blitz Action』

「間に合ってッ!!」

 しかし愛しい母がそんな地獄に落ちようとしているのを黙って見ている娘はいない。少なくとも母を愛しているならば、手を伸ばさずには居られない。

「・・・・・・離しなさい」

「いや・・・です!」

 伸ばした手は母の手には届いたがしかし心には届かない。だが娘も諦めない。

 たとえ娘だと認められなくても、『それでも』私は貴女の母の娘なのだ。

 離さない。

 離してなんかやらない。

 さんざん自分を都合のいいように扱っていらなくなったら即ポイするなんて許さない。創ったのなら、形だけとはいえ娘として扱ったたのだ、その責任は最後まで取らせる。それが『母親』が『子』をこの世に産み落とした罪滅ぼし(・・・・)であり罰だ(・・・・・)

「どうしても離して欲しいのなら、私も一緒に行きます」

 プレシアは歯噛みする。

 ああこれも自業自得かと。

 (人形として扱いきれなかった私の落ち度ね)

 気づいていた、本当は気づいていた。

 たとえ愛せなくとも。

 たとえ嫌悪してても。

 

 

 

 フェイトは自分の娘だと、私はあの子の母親なのだと。

 

 

 

 ならば死者蘇生などという幻想(あくむ)に捕らわれず、今目の前にいる娘をちゃんと見るべきだと人は言うだろう。事実私の使い魔であるリニスは私にそう指摘した。

 だがそんなことできる訳が無い。

 知ってしまったのだ、アリシアは生き返る可能性があると。

 それを知った私はその幻想(あくむ)を振り払うことなどできはしない。

 (いや、違うのかもしれないわね)

 その細い、今にも折れてしまいそうな腕で必死に自分を引き上げようとしている姿を見て思う。

 (ただ怖くて、辛かっただけ・・・)

 アリシアの代わりとして創った事実が、私の娘だと思えてしまうことが。

 アリシアはもういないということが。

 フェイトと幸せに暮らすということが。

 (だから私は逃げた。目をそらして決して向き合わないようにしてきたんだわ)

 結局のところ似たもの親子だったということだ。互いが互いを恐れ目をそらし向き合わず、すれ違った末に歪んでしまった。

 そんなよくある親子問題。

 でも一つだけ違うことがあったとすれば。

「・・・このままだと貴女も落ちるわよ?」

「構いません」

「そう、でもダメよ。貴女は生きなさい」

「母さん!?」

 『母』はどうしても『娘』を愛せなかったということ。

「どうして・・・っ!」

 フェイトは振り払われた腕を再度伸ばしながら叫ぶ。

 しかし――。

 

 

 

「――だって私は母親だから」

 

 

 

 手は届かない。

 

 

 

「――愛とかじゃなくてごめんね」

 

 

 

「母さんっっ!!」

「ダメだッッ!」

 身を乗り出し落ちていく母とせめて一緒に行こうとするフェイトをクロノが羽交い絞めににして押さえつける。

「母っ・・・さん!母さんッ!!!!」

「君はッ!生きろって言われたんだろッッ!プレシアは『母』としてキミに生きろって言ったんだッッ!なら娘の君は生きなきゃダメだッ!!」

 暴れるフェイトを怒鳴りつけながらクロノは穴から遠ざかる。

 (母親だっていうならプレシア・テスタロッサ、アンタは生きなきゃダメだろう!!ふざけるなよ!残された子はどんな思いをすると思ってるんだ!!!)

 やがて落ち着いた・・・いや放心フェイトを見てクロノは憤る。命はそもそも自分のものだけではない、関わりを持った人のためにも死ぬことは決してしてはいけないのだ。

 幼少のころ父を亡くしたクロノは知っている、肉親を失うというのがどれほど哀しいかを、どれだけの絶望かを、幸い自分にはまだ母が居た。母を護るのだと思い支えにした自分はどうにか立ち直れた。

 だが彼女にはだれもいない。

 自分にはまだ母が居た、だが彼女は頼るべき肉親が一人もいない。

 そう思うとどうしてもやりきれなかった彼女のために何かしてあげたいと思った。

「・・・ここも時期崩れる。脱出しよう」

 しかし今はそんなことを考えてる時ではない、心苦しいが悲しんでる暇は今は無い。生きるためにはここを早急に離れなければならない。

「――大丈夫、です。哀しいけど、辛いけど――答えは得ました。私はやっぱり(・・・・・・)母さんの娘です(・・・・・・・)

 しかしクロノの心配とは裏腹にフェイトは自分の足で再び立ち上がった。泣くのは後だ今は脱出しよう、母さんは生きろと言った。ならば生きよう。私はプレシア・テスタロッサの娘だ。胸を張れ!前を向け!母さんはこんな私を娘だと認めてくれたんだから!!

 母さんがなんて言おうと関係ないと言ってもやはり不安だったしこうして認められるのはうれしかった。

 (今はそう思わないと・・・立ち上がれないから)

 そうしてフェイトは自分の足で、自分の意思で歩き出した。

 生きると決めた。

 プレシア・テスタロッサの娘――フェイト・テスタロッサとして。

 こうして後にPT事件と言われる事件は幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし人生は続く。

 故に少女は歩き続ける。

 ――誇りをもって生き続ける。

 




さてさて二十三話。そろそろ無印も終わりが見えてきました。
というか次で無印編終わりです。
そしてようやく我らが主人公も登場します。うん事件終わってから登場してもね・・・まぁ仮にも主人公であり語り部(おい)なんだから最後くらい締めてもらわないといけませんね。



いやいやさてさて6月です。英語で言うとシックスムーン(嘘)
作者的に6月というのはなかなか感慨深いモノがあります。なにせ誕生月ですからね、なんとなくのらりくらりとまた一年生きてしまいましたがなんとなく実感がわきません(笑)
まぁそれでも一応めでたいということで、自分よオメデトー!!




リアルで祝ってくれる人がいなさそうなのでここで自分を祝うゲスな作者でした。
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