「どうやって拘束を・・・!」
そう言いながら駆け寄ってきた見張りの内の一人を無視してその背後――おそらく仲間に連絡しようと携帯を取り出した――もう一人の見張りに向けて、拘束を斬るのに使った小型ナイフを投げつける、とそれは男の携帯を持つ手の甲に深々と突き刺さった。
「ぐぁああ!」
「このガキっ!!」
年下のたった9歳のガキに仲間が傷つけられたのが気に入らなかったのか、怒声を上げて殴りかかってくる。
――遅い。
「ぐっ!?」
殴るために踏み出した男の右足の親指を思いっきり踏み抜く。
「うをぁっ!?」」
怯んだ隙に、踏み抜いた足を軸足に回転しその勢いを利用して膝裏を、所謂膝かっくんをするために蹴る。
「ぶひゅ!――ぁヵ・・・」
バランスを崩したところに服を引っ張ってやり地面に転ばせると同時に顔面、喉、肺を踏み潰し気絶させる。
あと一人――。
「な――」
面食らって動きを止めたもう一人の見張りに走る。途中で瓦礫を拾い片刃の短刀を作り出し、男の目の前に着いた時に急加速、前世でも使っていた独自の歩方で相手の視界から外れる。
「くそ――あ?」
おそらく俺を見失ったんだろう。気の抜けた声を漏らす男の真横に移動した俺はすれ違いざまに脚の腱を斬る。
「つあっ!あああああああ!?!?」
悲鳴を上げ倒れこむ男の首を一息に切断しようと――。
「「―――刃(くん)?」」
「わすれてた・・・」
一緒に捕まったバニングスと月村を思い出して男の首を斬るのをやめ、後頭部を柄の部分で思いっきり殴って気絶させる。
べつにあのまま殺してもよかったんだけど・・・、さすがにあいつらに見られたらまずいしな。残りのやつらも手足の一本くらいで放置するか。
「あんた・・・何物なの?」
「・・・・・・」
疑惑の視線と少量の期待の視線。前者はバニングス、後者月村。
前者は分るが後者は分らない・・・。
「おまえも知ってる・・・ただのダメ人間ですがなにか?」
「あんたっ――!」
「・・・人間」
「うるせーぞ・・・。せっかく見張り片付けたのに味方が敵の増援呼んでどうすんだ?人質にされる不安が癖になったか?」
「なん・・・!くっ・・・!」
「ほら、子供なんだから大人しくしてろよ」
「あんたも子供でしょうが・・・」
なんか憎まれ口を叩いているが俺は気にしない。
さて、とりあえずバニングスも黙ったし。
「俺はもう行くぞ」
「ちょっ!私達のも外しなさいよ!?」
踵返して帰ろうとした俺にバニングスが吼える。
その声に止まることなく俺は部屋を出た。
さて・・・帰るか。
嘘嘘冗談。帰らないよ?帰りたいけど・・・。
とりま俺を誘拐した奴らにお礼しなきゃね。
部屋を出た俺は外を確認する。
どうやらけっこう時間がたっているらしくそろそろ日が暮れようとしていた。
下を見るとそこには見張りは二人・・・か、とすると本陣に居るのは4人・・・いけるか?・・・気づかれる前に2人やれればどうにかって感じか。
子供の体じゃなかったらいけるのにな。あー帰りたい、すごく放っときたい、なんと言ってもめんどくさい。
けどそんな『感情』よりも
とりま上か下か・・・本陣がどこにあるかだな。
今ここは三階、この階には俺とバニングス達の気配しか感じられないからこの階じゃない・・・。
普通に考えれば上って事はないだろう、いざという時に人質が逃げやすい位置にいて自分達が逃げにくい場所に居るのはおかしい。また一階という線も薄い、人質から距離がありいざというとき人質として機能しずらいし、なにより自分達も危険だ。
故に消去法で2階のどこか・・・。
方針は決まった。武器を用意したら下に下りて奇襲・・・作戦もなにもねーな。
気配を消し武器を作るために瓦礫やガラスなどの『材料』がたくさんありそうな部屋に入る。落ちている『材料』を手に取り投げナイフ数本と先ほど作った短刀を一本作る。どっかの正義の味方みたいに想像だけで作れるならいいんだけどねー、この異能は『材料』が必要なんだよな・・・。『視』れば作れるわけじゃないし、そのかわり俺が作るのは贋作ではなく本物だけど。
そんなことを考えながら『武器』を作っていると、気配が一つ下から上がってきた。
息を潜め様子を伺う。
「ふう・・・、とりあえずあのガキどもを使って交渉すれば・・・そこからが本番だな、まぁそれでも一段落はつける。・・・でもあの男信用できんのかね?なんか変なこと言ってるしよー・・・。まぁつえーのは確かなんだけど・・・だからこそ気味がわりーつーか・・・」
ふむ・・・どうやら交渉に使うために人質を連れにきたみたいだな・・・、今俺が居なくなっていることがバレるとめんどい。・・・やるか。
「しかし独り言が多いな俺・・・やっぱ緊張してんのか・・・な?――ぁ・・・」
――ドサ。
背後から後頭部を殴り気絶させる。
でもこれだけだと後が心配なので両足の腱も斬っておく。
よし、コイツが下から来たって事は本陣は下であってるだろうし、本陣に居るのは後3人。うまくいけばもう一人はいけるか・・・?いや、やめとこう、ここはさっさと突入すべきだな。早く帰りたいし。
階段を下り2階に着く。
ふむ・・・たしかにここであってるらしい、人の気配がする。気配のある方へ近づき部屋の中を覗き見る。
予想どおり部屋には3人。テーブルを囲み座っている、奥に一人テーブルを挟んで左右に2人。
・・・奥の奴、俺を襲った奴だな。たぶんこの中で一番強い。
深呼吸を一つ、ナイフを取り出し機を計る。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・なぁ、アイツ連れてくんの遅くねーか?」
「たしかにそうだな・・・もしかして手ー出してんじゃ・・・」
「・・・は?いやいくらなんでもそれはないだろ。まだガキだぞ?」
「いや、実は俺アイツがロリの違法物買ってんの見たことあんだよな・・・」
「・・・マジかよ」
「ああ」
「ちょっと・・・これから付き合い方考えねーとな」
「だな・・・。人としてダメだろ」
「アンタはどう思う?」
「べつに・・・ただ」
「ただ?」
「誘拐している奴が人としてなど語れるのか?」
「・・・・・・くっははは。いやいやまったくごもっとも」
「ふん・・・」
左右の男達の会話にいきなり振られた奥の男は、笑う右側の男にくだらなさそうに一瞥くれてから黙る。
「くははは。ってもこっちも予定が詰まってんだいいかげんお楽しみも終らせていただかねーとな」
そう言った左側の男は席を立とうとする。
――今。
「ぬっ!?」
「ぐあっ!?」
「いぎっ!?」
二人命中。奥の男には避けられたが、それは予想どおりもともと当たると思ってない。
すぐさま左側のバランスを崩した男に肉薄する。
「ぎゃあああああああああ!!」
「な――」
右足を一閃で切断。夥しい血と悲鳴を上げ男は倒れる。
しかしそんなモノはどうでもいい、すぐに次の獲物――右側の男――に刃を走らせる。
「っめんな!クソガキ!!」
しかしこれは避けられる――予想どおりに。
「ぐおっ!?・・・っこの――!?いね――」
「・・・上だ!!」
「うなっ!?」
――遅い!!
一回転して遠心力を利用し踵を顔面に叩きつける。
「ぶ――がぁ・・・」
ナイフ投げて相手の視界をそらしその間に頭上をとる。けっこう無理したけどその甲斐あって一人潰せた。つってもおそらくここからが本番。
痛む足を無理に稼動させて着地と同時にその場を跳び退く――。
ゴガッッッッ!!!!
一瞬前まで俺がいた床にクレーターが出来上がる。
まったくコイツほんとに人間かよ!?拳でクレーター作りやがったぞ!?
「・・・貴様は何物だ?あの夜の一族の護衛か?」
「あー?夜の一族?なにそれ、腹黒少女ならいっしょに捕まったけど?あと護衛ではありません」
「・・・なんにせよただの子供ではあるまい?」
「いやいや、素行不良なクソ餓鬼だよ。ついつい刃物を振り回したくなるお年頃ですよ?」
「食えない餓鬼だな」
5メートルの距離を開けそんな軽口を叩き合う。
やばい、どうにも分が悪い。身体能力に差がありすぎる・・・文字どうり子供と大人の差だ。
殺すならまだしも・・・、これは勝たなくちゃいけない。
まぁ・・・身体能力の差とかいつものことだ。
経験までは負けてない。
前世の経験なめんなよ?
改めて相対する男を見る。
スキンヘッドにサングラス灰色のジャケットに黒のTシャツにジーパン、もろ不審者だな・・・、それにがっしりとした生半可打撃は効果ないほどには鍛えられてそうな肉体。でも勝てる目はある。
「ふん!」
巨体が一息に距離を詰めその拳が振り下ろされる、当たったら痛いので飛び退いて避けると同時に俺はナイフを二本投擲。
「甘いな」
当然の如く避けられるがそれはべつにいい、どうせ追撃防止の牽制だ最初から当たる期待はしていない。
「ッシ!」
「ぬ!」
直ぐに相手の視覚外に移動し死角から一閃、しかしやはりこれも当たらない。
「ふむ・・・なかなかに強い。貴様本当に子供か?いや、人間か?」
「コンクリに素手でクレーター作れるやつに言われたくねーな。それにそのいい方だとまるで人間以外のなにかが居るみたいに聞こえるぜ?」
距離をとって仕切りなおし・・・。体力差があるから長期戦にしたくないんだけどな・・・一撃、どうにか一撃入れられれば。
「・・・ほんとうに貴様は何も知らないのか?自分が何を助けるために戦ってるのか知らないのか?」
「あー?どういうこどだ?・・・というか誤解があるようだが俺は別に誰かを助けるためになんざ戦わねーぞ」
「ぬ?・・・ふん照れるな照れるな、貴様の歳だと恥ずかしいかもしれんが――『誰かのために戦える』それはとてもすばらしいことだ。――ただしそれが化け物のためでなければな」
・・・おい盛大に勘違いされてないか俺?というかこいつは何を言ってんだ?
人は自分の以外のためになんか動けねーし、人に他人は救えない。ただ勝手に助かるだけだろ。
まぁそんなことはどうでもいい。
今コイツ何て言った?まるで――。
「貴様が助けようとしている子供達その中の黒髪のほう、あれは――
「・・・・・・」
「夜の一族といってな。貴様も聞いたことくらいあるだろう?夜を統べ太陽を天敵とする血を吸う不死身の化け物――吸血鬼」
「・・・・・・」
「まぁ、信じられないのも分る・・・だがおまえも心当たりくらいはあるんじゃないか?たとえば――異常なほど身体能力が高いとか」
「・・・・・・・・・」
「おまえが今必死に助けようとしたのは化け物だ。しかし知らなかった貴様は悪くない、それどころか被害者だろう。化け物が人間と同じ場所で暮らし学ぶなど怖気が走る」
「・・・・・・・・・・・・」
「真実を知ってショックだろう?安心しろ貴様が退くならば俺とて手出しはしない・・・、いや?いっそ俺の仲間にならんか?貴様ならきっと凄腕のハンターに――」
「・・・なるほど。化け物――ね」
男がなにか言っているがもう俺の耳には聞こえない。
心当たり、ああなるほど納得だ実に納得だ。男の言うことはきっと確かだろうあいつは吸血鬼、人間じゃあない。
「――だからどうした?」
「――なに?」
「まったく。クソくだらねーこと言いやがって。化け物だ?どうでもいいよ、そんなこと」
「――どうでもいい?」
「ああ、どうでもいいな。そもそもあいつらを助けるために戦ってんじゃない、
「――勘違い?」
「
「何を――」
「まずそこを勘違いしているおまえはダメだ。吸血鬼よりも先に化け物なのは人間だぜ?それを理解してから殺せよ」
「――何を言っている!?」
「さぁね・・・、自分で考えろ」
走る。今までよりも早くただ直線に。
「ふん!まぁいい――貴様は化け物に毒されていたというだけだ!!」
もちろんそんなものは直ぐに捕捉されカウンター餌食だ。
メキィッッッ!!!
盾にした腕から嫌な音と焼けるような痛みが脳髄に響く。
どうでもいい気にするなどうせ予定どうり、繋がってさえいればそれでいい!
盾にした腕を軸に回転、もう片方の腕で男の洋服の袖を『材料』掴む。
「ぐあああ、あ、あ、あ、あ、あ!?!?」
アイアンメイデンのように服の内側を無数の刃物が貫く!
さらに半回転、折れた腕を叩きつけるようにジーパンの裾に叩きつける。
「ギイイイィィっっ!!??」
ジーパンの内側も上半身と同じように貫かれ、赤い色が滲みだす。
「ゴブァッ!?」
たまらず膝を折る男の顔面に渾身の膝を叩き込んだ。
ふう・・・。つ、疲れた・・・。
あーしんど・・・もう帰りたい・・・、つか帰る。
っと帰る前に言いたいことがあったんだよ、あぶねーなぁ。
「――吸血鬼美少女とか萌えるだけだろうに」
血だるまになり倒れ付す男にそう言ってから俺は帰路に着いた。
あー明日病院行かなきゃ・・・。というかなんか忘れてる気がする。
「まさかアイツ本当に一人で帰ったの!?」
「・・・刃くん明日覚悟しててね。・・・ふふふふふふ」
その後月村姉や高町兄に助け出された二人にこっぴどくお仕置きされたのはまた別のお話。