BLACK LAGOON - ODDS - 作:たこ焼き 龍月
その日の午後は、雨のあとの湿気が事務所に居座っていた。
ロアナプラの午後は、たいてい何も起きない時間として始まる。港の方角から流れてくる潮の匂いに、機械油と煙草の残り香が混じって、事務所の空気はいつもより重かった。玲は、その重さを、湿度という数字に置き換えて処理していた。空気の重さに意味を見出す習慣を、玲は持っていない。ただ、湿気は書類の紙を波打たせるので、査定書の下に硬い板を敷いていた。
事務所には、玲のほかにベニーがいた。
ベニーは端末の前で何かの配線を弄っていて、時折こちらを見ないまま独り言のような相槌を打つ。玲はその存在を、雑音の少ない同席者として認識していた。ベニーは数字を扱う人間だから、玲が数えている間、無駄な言葉で数えを乱さない。この街で、それは希少な性質だった。
玲は、机の上に三枚の書類を並べて、それぞれの回収率を計算していた。
そこへ、ダッチが戻ってきた。
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ダッチは扉を開けた瞬間から、いつもと違う足取りをしていた。
玲は顔を上げなかったが、床を踏む音の間隔から、ダッチが二つのものを抱えて歩いていることを聞き取った。片手には、いつもの折り畳んだ新聞。もう片手には、封筒が二通。その二通を持つ手の位置が、普段より慎重だった。ダッチは、扱いに困るものを持つとき、それを体から少し離して持つ癖がある。
「玲。手を止めろ」
ダッチが、机の端に封筒を二通、並べて置いた。
玲は、計算の途中だった数字を頭の中で確定させてから、視線を上げた。二通の封筒は、質が違っていた。一通は上質な和紙に近い手触りの厚い封筒で、朱の判が押されている。もう一通は、無地の白い封筒で、封蝋の色が濃い赤だった。玲は、その二つの封筒を見た瞬間に、差出人の格の高さを二段階に分けて査定した。
「二件、依頼が来た」
ダッチが、椅子を引いて腰を下ろした。
「両方とも、うちを名指しだ」
玲は、二通の封筒を、順に手に取った。
「開けても」
「そのために置いた」
玲は、朱の判の押された封筒から先に開けた。中の文面は、丁寧すぎるほどの言葉で綴られていた。読み終えるまでに、玲の表情は一度も動かなかった。読み終えると、玲はそれを机に伏せて置き、もう一通を開いた。二通目は、より短く、より事務的な文面。玲は、それも読み終えると、二通を並べて机に置いた。
そして、しばらく黙って見つめた。
ベニーが配線から手を止めて、こちらを見ている。ダッチも、玲が口を開くのを待っていた。玲の沈黙は、いつも計算のための時間だった。この街の人間は、玲のその沈黙を、少しずつ待てるようになっていた。
「差出人を、確認します」
玲が、静かに言った。
「一通目は、三合会の張。二通目は、ホテル・モスクワ」
ダッチが、頷いた。
「そうだ」
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玲は、二通の封筒を、ほんの少し左右にずらして置いた。
「内容を、要約します。一通目、張からの依頼。ホテル・モスクワが管理する港湾の使用権について、バラライカ側に本当に譲る意思があるのか、その裏付けを取ってほしい。情報収集の依頼です」
玲は、二通目に指を移した。
「二通目、ホテル・モスクワからの依頼。張が陸路の開拓を口実にして、別の利権にまで手を伸ばそうとしていないか、その動きを調べてほしい。これも、情報収集の依頼です」
ベニーが、口笛を吹くような形に唇を動かしたが、音は出なかった。
「つまり、どっちも相手を疑ってるってわけか」
玲は、頷かなかった。頷く代わりに、事実を並べた。
「張が新しく開こうとしている密輸の陸路に、ホテル・モスクワが管理する港湾の使用権が絡んでいます。陸路と港湾は、繋がって初めて一本の輸送線になる。双方が、相手が自分を出し抜こうとしていると疑っている。その疑いが、二通の依頼になった」
玲は、そこで一度、言葉を切った。
「私たちは、その二つの疑いの、両方から名指しされました」
事務所の中に、短い沈黙が落ちた。
ダッチは新聞を畳み直しながら、その沈黙を煙草の火で埋めた。ベニーは椅子の背にもたれて、天井を見上げた。玲だけが、机の上の二通の封筒を、動かないまま見ていた。
「玲」
ダッチが、煙を吐きながら言った。
「両方受けたら、どうなる」
玲は、待っていた問いだった。
「計算しました」
玲は、机の引き出しから一枚の紙を取り出した。そこにはすでに、簡単な数式めいた走り書きがあった。ダッチが依頼を持ち帰る前から、玲はこの街の権力の配置を、常に頭の中で更新していた。だから、二通の封筒を読んだ瞬間に、計算の大部分は済んでいた。
「二つの依頼を、両方とも受けた場合の、商会の生存確率を算出しました」
玲は、その数字を、報告書を読み上げる口調で告げた。
「四割を、切ります」
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ダッチの煙草の先で、灰が長くなった。
ダッチはそれを灰皿に落としてから、玲のほうを見た。
「四割か」
「三十八パーセント。前提の置き方によっては、もう数ポイント下がります」
ベニーが、椅子を戻して身を乗り出した。
「なんでそんなに低いんだ。ただの情報収集だろ。うちが集めた情報を、それぞれに渡す。それだけの話に見えるけど」
玲は、ベニーのほうへ視線を移した。ベニーの問いは、雑音ではなかった。だから、答える価値があった。
「情報収集だけなら、そう低くはなりません。問題は、二つの依頼が、鏡写しになっていることです」
玲は、二通の封筒を、今度は向かい合わせに置いた。
「張は、バラライカの本心を知りたがっている。バラライカは、張の本心を知りたがっている。私たちが張に渡す情報は、バラライカの手の内です。バラライカに渡す情報は、張の手の内です。どちらか一方に正確な情報を渡した時点で、もう一方への裏切りが成立する」
ベニーが、天井を仰いだ。
「あー……そうか。中立でいられないのか」
「中立という位置は、存在しません」
玲は、断定した。
「どちらにも同じだけ良い顔をした瞬間に、両方から『あの商会は、二枚舌だ』という評価を受ける。片方に肩入れすれば、もう片方から敵と見なされる。何もしなければ、両方から『名指しした依頼を無視した』と受け取られる。三つの選択肢すべてに、評価の低下が組み込まれています」
ダッチが、煙を吐いた。
「断るって手は」
玲は、その問いに、少しだけ間を置いた。
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その間に、事務所の扉が開いた。
入ってきたのは、レヴィだった。黒のタンクトップにカットオフのデニム、素足にサンダルという格好で、腰の後ろには二挺のカトラスが下がっている。レヴィは事務所の空気の重さを一瞬で嗅ぎ取ったらしく、扉のところで足を止めた。
「なんだ、辛気くせえな」
レヴィが、冷蔵庫からビールを取り出しながら言った。
「誰か死んだのか」
「まだ、誰も」
玲が、答えた。
レヴィは、玲のその返しに一瞬だけ眉を寄せて、それから舌打ちに近い息を吐いた。玲の言葉は、いつも冗談として機能しない。レヴィはそれを、この数か月で学んでいた。
ダッチが、レヴィに向かって二通の封筒を顎で示した。
「張とバラライカから、依頼が来た。両方、うち名指しだ」
レヴィが、ビールの栓を抜く手を止めた。
その名前は、この事務所の空気を変えるだけの重さを持っていた。レヴィは栓を抜き直してから、壁に背を預けて、ビールを一口飲んだ。
「厄介事の匂いしかしねえ」
レヴィが、そう言って、また舌打ちをした。
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そのとき、事務所の奥から、もう一人が姿を見せた。
ルマジュールだった。黒のパンツスーツに、左眼の眼帯。高い位置で結んだツインテールを揺らしながら、彼女は奥の休憩スペースから出てきた。どうやら、そこで昼寝でもしていたらしい。ルマジュールは、事務所の空気を読むより先に、レヴィの姿を見つけて表情を緩めた。
「姐さん、いつ戻って……」
そこまで言いかけて、ルマジュールは机の上の二通の封筒に気づいた。
正確には、封筒に押された朱の判と、封蝋の色に気づいた。ルマジュールの顔から、緩んだ表情が引いていった。彼女はまだ十代の少女だったが、フランスの非合法部隊で仕込まれた目は、封筒の格を一目で見抜いた。
「……三合会と、ホテル・モスクワ」
ルマジュールの声が、少し掠れた。
「両方? うちに?」
「そうだ」
ダッチが、短く答えた。
ルマジュールは、封筒に近づこうとして、途中で足を止めた。彼女の頭の中で、五本指の時代の記憶がちらついたのを、玲は彼女の一瞬の硬直から読み取った。ルマジュールは、頂点に立つ人間たちの卓に、下部組織の駒として着かされた経験を持っている。その卓で何が起きるかを、彼女は言葉ではなく体で覚えていた。
「やめといたほうが……」
ルマジュールが、そこまで言いかけて、口をつぐんだ。
自分がこの商会でものを言える立場かどうか、彼女はまだ測りかねている。玲は、その躊躇を、彼女の若さと立場の不安定さの積として観察した。そして、口を出さなかった。ルマジュールの躊躇は、査定の材料ではあったが、いま処理すべき変数ではなかった。
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事務所の空気が重くなったところへ、最後の一人が入ってきた。
ロックだった。買い出しの帰りらしく、紙袋を抱えている。ロックは、事務所の全員が黙って一点を見ていることに気づいて、紙袋を机の端に置いた。
「何かあった?」
ロックが、尋ねた。
ダッチが、三度目になる説明を、今度はロックのために繰り返した。ロックは話を聞きながら、二通の封筒に視線を落とし、それから玲のほうを見た。
「両方受けたら、生存確率が四割を切るって?」
「三十八パーセントです」
玲が、訂正した。
ロックは、その数字を聞いても、玲のように顔色を変えないままではいられなかった。彼は、一度天井を見上げてから、視線を戻した。そして、玲が予想していた方向のことを言った。
「なら、両方に、正直に話すのはどうかな」
ロックが、静かに切り出した。
「うちは、両方から依頼を受けた。だから、どちらか一方に肩入れはできない。それを、両方に正直に伝える。事情を隠さずに話せば、張もバラライカも、少なくともうちが誠実だってことは理解してくれるはずだ」
玲は、ロックの言葉を、最後まで聞いた。
そして、一拍の間を置いた。
「その正直さは、二つのリスクを同時に生みます」
玲が、静かに言った。
「一つ。正直に『両方から依頼を受けた』と伝えた瞬間、張はバラライカが同じ商会に依頼したことを知る。バラライカも、張が同じことをしたことを知る。あなたの正直さが、双方に相手の動きを教える情報漏洩になります」
ロックが、口を開きかけた。
玲は、それを待たずに続けた。
「二つ。正直に『どちらにも肩入れできない』と伝えることは、双方に『あの商会は、こちらの依頼に本気で応える気がない』という評価を、同時に与えます。誠実さの表明は、この場合、両方への裏切りの表明と、同じ形をしています」
ロックは、反論の言葉を探して、見つけられなかった。
彼は、玲の言葉が間違っているとは思わなかった。ただ、その言葉が世界のすべてだとも思えなかった。ロックは、正直さが通じた瞬間を、この街で何度か見てきた。だが、その瞬間を数字で説明する言葉を、彼は持っていない。ロックは、いつものように、その平行線の前で口をつぐんだ。
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「あなたの言葉は、綺麗です」
玲が、続けた。声のトーンは、最初から最後まで一定だった。
「ですが、再現性がありません。正直さが通じた事例を、あなたは覚えている。私は、その事例が、何回の試行のうちの一回だったかを問います。分母を見ない誠実さは、担保のない債権と同じ響き方をします」
ロックは、その言葉に、静かに首を振った。
「玲さん。俺は、その分母の中の一回に、意味があると思ってる」
「意味の有無は、査定しません」
玲が、答えた。
「私が査定するのは、確率だけです」
二人の間に、短い沈黙が落ちた。
その沈黙を、ダッチが煙草の煙で断ち切った。ダッチは、玲とロックの平行線が、これ以上どちらにも動かないことを知っていた。この二人は、いつもここで止まる。そして、決断を下すのはダッチだった。
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「玲」
ダッチが、煙草を灰皿に押し付けた。
「断る道はあるか」
玲は、その問いに、正面から答えた。
「断ることは、できません。張もバラライカも、この街の頂点に立つ人間です。名指しの依頼を断った商会は、両方から『使えない』という評価と、『こちらの依頼を軽んじた』という評価を、同時に受けます。断ることの生存確率は、両方受けることより、さらに低い。二十パーセント台まで落ちます」
ダッチが、椅子の背にもたれた。
「じゃあ、選択肢はねえってことか」
「選択肢は、あります」
玲は、そこで初めて、机の上の走り書きを、ダッチのほうへ向けた。
「両方受ける。ただし、どちらにも完全な情報は渡さない。双方に、相手の手の内を明かさない範囲で、当たり障りのない事実だけを渡す。損失を、最小化する動き方です。生存確率は上がりませんが、下がり方を、緩やかにできます」
レヴィが、壁から背を離した。
「そりゃ、両方に中途半端な仕事をするってことだろ。両方から嫌われる道じゃねえか」
「嫌われることと、殺されることは、別の確率です」
玲が、答えた。
「私が最小化しようとしているのは、殺される確率のほうです。嫌われる確率は、この依頼を受けた時点で、すでに固定されています」
レヴィは、その返しに、また舌打ちをした。
だが、今度の舌打ちには、反論の色は薄かった。レヴィは玲の割り切り方を好まなかったが、その割り切りが、命の話をしているときだけは筋が通っていることを、認めざるを得なかった。レヴィは、ビールの残りを飲み干して、缶を握り潰した。
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ダッチが、長い息を吐いた。
事務所の全員が、ダッチの言葉を待っていた。ダッチは、玲の走り書きを一度手に取って、それから机に戻した。彼は、数字を完全に理解したわけではない。だが、玲の数字が、これまで外れたことがないことは知っていた。ダッチが玲を勧誘したのは、まさにその実績のためだった。
「両方、中途半端にやるしかねえ」
ダッチが、決断を下した。
「片方に全部賭けて外したら、うちは終わる。両方に薄く付き合って、生き残る目を残す。玲の言う通り、下がり方を緩やかにする。それでいく」
誰も、異議を唱えなかった。
ロックは、まだ何か言いたそうな顔をしていたが、口を開かなかった。彼は、自分の提案が数字の前で退けられたことを、受け入れていた。ただ、その受け入れ方には、まだ納得しきれない部分が残っていた。ルマジュールは、事務所の隅で、二通の封筒を遠くから見ていた。レヴィは、潰した缶をゴミ箱に投げ入れた。
「決まりだ」
ダッチが、立ち上がった。
「玲、動き方の詳細を詰めろ。ロック、お前は張の店との窓口を用意しとけ。ベニー、ホテル・モスクワ側の通信の準備だ。レヴィは、いつでも動けるようにしとけ」
全員が、それぞれの持ち場へ動き始めた。
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事務所が動き出した中で、玲だけが、机の前に座ったままだった。
玲は、二通の封筒を、もう一度並べ直した。朱の判と、赤い封蝋。二つの卓。玲は、その二つの卓に同時に着くことの意味を、頭の中で座標に置き換えていた。二つの卓は、互いに引力を持っている。片方に近づけば、もう片方から遠ざかる。その間で、どこに立てば損失が最も小さくなるか。玲は、その最適解を探す作業を、呼吸のように始めていた。
ルマジュールが、いつの間にか、玲の机の近くに立っていた。
彼女は、何か言いたそうにしていたが、言葉を選びかねているようだった。玲は、ルマジュールの気配を認識しながら、視線は封筒に落としたままだった。
「あんた」
ルマジュールが、ようやく口を開いた。
「本当に、これで生き残れると思ってんの」
玲は、封筒から視線を上げた。
「思っていません」
玲が、答えた。
「私は、生き残れると思うことと、生き残る確率を上げることを、区別しています。いま私がしているのは、後者です。前者は、私の仕事ではありません」
ルマジュールは、その答えに、言葉を詰まらせた。
彼女は、玲のような答え方をする人間を、この街に来てから初めて見た。五本指の時代、彼女の周りにいた人間は、みな「大丈夫だ」か「終わりだ」のどちらかしか言わなかった。玲は、そのどちらでもない場所から話していた。ルマジュールは、その場所の冷たさに、少しだけ気圧された。
「……変な女」
ルマジュールが、小さく呟いて、玲の机から離れた。
玲は、その呟きを、査定の対象にはしなかった。ルマジュールの評価は、いまの計算に影響する変数ではない。玲は、また封筒に視線を戻した。
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窓の外で、ネオンが灯り始めていた。
ロアナプラの夜が、また一つ始まろうとしていた。この街の夜は、昼よりも多くの数字を動かす。取引が動き、金が動き、人が死に、そのすべてが玲の帳簿の上で、確率として更新されていく。玲は、二つの卓の間に立つ自分の位置を、その帳簿の上に静かに書き込んだ。
損失を、最小化する。
それだけが、いまの玲の仕事だった。二つの卓の、どちらに義理があるわけでもない。どちらに勝ってほしいわけでもない。玲は、ただ、商会が生き残る確率が最も高くなる位置を探して、そこに立つ。感情は、その計算に入らない。入れれば、誤差が増えるだけだった。
玲は、査定書の下に敷いた硬い板を、少しだけ動かした。
湿気で波打った紙を、几帳面に整えてから、玲はペンを取った。二つの卓に着くための、最初の一行を書き始める。その手は、迷わなかった。事務所の喧騒も、遠くの銃声も、玲の手を止めなかった。玲は、ただ数え続けた。数えている間だけ、この街の狂気から、わずかに距離を置いていられた。
二つの卓に着く商会の、最初の夜が、静かに更新されていった。