夜。
浜谷のアパート。
大学の授業とアルバイトを終えた浜谷は、自宅へ戻ってきた。
「ただいまー。」
もちろん返事はない。
一人暮らしの部屋は今日も静かだった。
郵便受けを開けると、一通の封筒が入っている。
差出人は――母。
「……なんで今の時代に手紙やねん。」
思わず一人でツッコむ。
苦笑いしながら封を開ける。
中には、便箋が数枚。
母らしい、丁寧な字が並んでいた。
⸻
『琉へ。』
『元気にしていますか。』
『大学の勉強は頑張っていますか。』
『アルバイトでは、みんなに迷惑をかけていませんか。』
『体調には気を付けて、大学もアルバイトも頑張ってください。』
『また帰ってきたら、家族みんなで一緒にご飯でも食べましょう。』
『母より。』
⸻
浜谷は読み終えると、小さく笑った。
「相変わらず心配性やなぁ。」
便箋を丁寧に畳み、机の上へ置く。
少し考えてから、引き出しを開ける。
便箋とペンを取り出し、静かに椅子へ腰掛けた。
「たまには手紙もええか。」
ゆっくりと書き始める。
⸻
『お母さんへ。』
『元気にやっています。』
『大学もちゃんと通っています。』
少し考えてから、続きを書く。
『アルバイトでは、本当にみんなによくしてもらっています。』
原町中央店。
そして阿佐野店。
働く仲間たちの顔が自然と頭に浮かぶ。
ペンは止まらない。
『今は原町中央店と阿佐野店の両方で頑張っています。』
『最近はメンテナンス担当になって、メダルゲームの修理や調整も任せてもらえるようになりました。』
『最初は分からないことばかりでしたが、少しずつできることが増えてきました。』
『原町中央店には同い年の子が入ってきました。』
『追い越されないように、僕ももっと頑張ります。』
『阿佐野店では面白い皆さんと毎日楽しく働いています。』
『本当に良い人たちばかりで、毎日いろんなことを教えてもらっています。』
『毎日忙しいですが、とても充実しています。』
最後にペンを止める。
少しだけ考え、ゆっくりと書き足した。
『心配しなくても大丈夫です。』
『大学もアルバイトも、どちらも全力で頑張っています。』
『また帰ったら、いろんな話を聞いてください。』
『琉より。』
書き終えた浜谷は便箋を丁寧に封筒へ入れた。
「よし。」
窓の外を見る。
夜風が静かにカーテンを揺らしていた。
スマートフォンですぐに連絡が取れる時代。
それでも。
一文字一文字に思いを込めて書く手紙には、画面越しでは伝わらない温かさがある。
浜谷は封筒を大事に机の上へ置き、小さく微笑んだ。
「明日、出しに行こう。」
思いの丈をペンにのせた一通の手紙は、きっと故郷にいる母のもとへ届く。
そして、その手紙を読んだ母もきっと、安心して笑ってくれるのだろう。
気付けば100話になりました!
ここまで読んでくださった皆さん、本当にありがとうございます!
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