夏休み。
阿佐野店は、朝から家族連れで賑わっていた。
浜谷は店内を巡回しながら、景品の位置を整えたり、お客様対応をしたりと忙しく動き回っている。
その時だった。
メダルコーナーの近くから、小さな泣き声が聞こえてきた。
「うわぁーん!」
転んでしまったのか、小さな男の子が泣いている。
浜谷はすぐに駆け寄った。
「大丈夫?」
男の子は涙をこぼしながら頷く。
「痛かったね。」
浜谷はポケットから子ども用のシールを一枚取り出した。
「頑張ったから、ご褒美。」
男の子は涙を拭きながらシールを見る。
「……!」
さっきまで泣いていた顔が、少しずつ笑顔に変わる。
「ありがとう!」
「どういたしまして。」
男の子は元気よくお母さんの元へ戻っていった。
──しばらくして。
クレーンゲームの前を歩いていると、小さな女の子がじーっと浜谷を見ている。
浜谷もその視線に気付いた。
目が合う。
浜谷は笑顔で手を振った。
「ばいばーい!」
女の子も嬉しそうに、小さな手を一生懸命振り返す。
お母さんも笑顔で会釈した。
浜谷も軽く頭を下げる。
それだけのやり取りだった。
でも、それだけで自然と笑顔になれた。
さらにその後。
ベビーカーに乗った赤ちゃんが、浜谷をじーっと見つめていた。
浜谷も立ち止まり、赤ちゃんを見る。
数秒。
見つめ合う。
浜谷が――
ニヤッ。
すると。
赤ちゃんも――
ニヤッ。
「きゃっきゃ!」
思わず笑い声を上げた。
その様子を見たお母さんが笑う。
「あら。」
「お兄さんに遊んでもらってるの?」
赤ちゃんは嬉しそうに、
「あーう!」
と返事をした。
浜谷も思わず笑顔になる。
「よかったら、シールどうぞ。」
お母さんは驚きながら受け取る。
「ありがとうございます!」
「ほら、可愛いシールもらったよ。」
赤ちゃんはシールを見つめながら、ニコニコ笑っている。
浜谷もつられて笑う。
「ばいばーい!」
赤ちゃんとお母さんが手を振る。
その一部始終を見ていた細井が、思わず吹き出した。
「ねぇ。」
「子ども好きすぎない?」
茂田も笑う。
「泣いてる子泣き止ませて。」
「手振って。」
「赤ちゃんとも遊んで。」
古坂も苦笑する。
「みんな浜谷くん見つけると嬉しそうだもんね。」
茂田は腕を組み、うんうんと頷いた。
「決めた。」
「今日から琉くんは――」
少し間を置いて、
「阿佐野ん坊将軍。」
「えぇ?」
浜谷は苦笑い。
「そんな将軍います?」
細井は即答した。
「いる。」
「今ここに。」
その瞬間も、小さな男の子が遠くから手を振る。
「お兄ちゃーん!」
浜谷も笑顔で手を振り返した。
「また遊びに来てね!」
細井は肩をすくめる。
「ほら。」
「やっぱり阿佐野ん坊将軍じゃん。」
浜谷は照れながら笑う。
「違いますって。」
「殴るよ?」
「一発だけですよ?」
「安心して。」
細井はいつもの笑顔で言う。
「一発で仕留めるから!」
「将軍の扱いじゃないですよ!」
バックヤードには大きな笑い声が響いた。
今日も阿佐野店には、子どもたちの笑顔があふれていた。