夏休み最初の週末。
ファンステージ原町中央店では、子ども向けの着ぐるみイベントが開催されることになった。
ファンステージのマスコットキャラクター、その名も**「ファンちゃん」**。
浜谷はイベント担当として、藤屋と大沼と一緒に準備を進めていた。
「今日はよろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。」
藤屋は小さく微笑み、大沼も笑顔でうなずく。
「楽しいイベントにしようね。」
浜谷も気合十分だった。
しかし、この時の浜谷はまだ知らなかった。
今日一番大変なのは、接客ではないということを。
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イベント開始五分前。
バックヤードの奥から、大きな着ぐるみ姿のファンちゃんが現れた。
子どもたちは大歓声。
「ファンちゃーーん!」
「かわいいー!」
ファンちゃんは元気いっぱいに手を振る。
浜谷は思わず笑った。
(中に入ってる人、大変そうだなぁ。)
その時だった。
ファンちゃんが浜谷の前を通る瞬間、小さな声が聞こえた。
「暑いニダ……。」
浜谷は思わず目を丸くする。
(えっ……。)
(今の声……。)
ファンちゃんの正体は、まさかの茂田だった。
「茂田さんだったんですか……!」
茂田は何事もなかったように手を振り、そのまま子どもたちの輪の中へ入っていく。
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イベントが始まる。
ファンちゃんが子どもたちと写真を撮り、ハイタッチをする。
藤屋は司会を担当し、大沼は列の整理をする。
浜谷も子どもたちを誘導しながらイベントを盛り上げていた。
順調だった。
しかし。
藤屋がマイクを持ち、大きな声で言った。
「それではみんな!」
「ファンちゃんと一緒にダンスを踊りましょう!」
浜谷。
「……え?」
ファンちゃんはノリノリで踊り始める。
大沼も笑顔で踊る。
藤屋も当たり前のように踊り始めた。
浜谷だけが固まる。
(えっ!?)
(聞いてない!!)
(ダンスなんて聞いてない!!)
子どもたちはみんな踊っている。
藤屋が笑顔で叫ぶ。
「浜谷くんも!」
「はい!?」
全員の視線が浜谷へ集まる。
逃げられない。
浜谷は見よう見まねで手を動かし始めた。
右?
左?
ジャンプ?
一拍遅れ。
また遅れる。
完全に置いていかれている。
それでも必死についていく。
その姿を見た子どもたちは大笑い。
「お兄さんがんばれー!」
「あと少しー!」
応援まで始まってしまった。
浜谷は顔を真っ赤にしながら踊り続ける。
⸻
ダンスが終わると、会場は大きな拍手に包まれた。
子どもたちは満足そうに帰っていく。
イベントは大成功だった。
控室へ戻ると、ファンちゃんが頭を外す。
中から現れたのは、汗だくの茂田だった。
「暑いニダ〜!」
全員が笑う。
浜谷は思わず言った。
「茂田さん!」
「ダンスあるなんて聞いてませんよ!」
茂田は悪びれる様子もなく笑う。
「言ったら逃げると思ったニダ。」
「ですよね……。」
そのやり取りに藤屋も思わず吹き出した。
普段は静かな藤屋が笑っている姿を見て、浜谷もつられて笑ってしまう。
大沼も笑顔で言う。
「でも、ちゃんと踊れてたよ。」
「途中からね。」
浜谷は苦笑いする。
「必死でした。」
⸻
閉店後。
片付けを終えた浜谷は今日一日を振り返っていた。
ゲームセンターの仕事は、機械を直したり接客をしたりするだけじゃない。
時には着ぐるみが踊り、
スタッフも一緒になって盛り上げる。
そんな一日もある。
「毎日、何が起こるか分からないなぁ。」
そうつぶやく浜谷の横で、茂田が笑った。
「だから楽しいんだよ。」
浜谷も笑顔でうなずいた。
「そうですね。」
今日もまた、ファンステージには子どもたちの笑顔があふれていた。