阿佐野店。
開店直後。
浜谷は景品補充をしながら、ふと細井の姿を目で追っていた。
カウンター。
クレーンコーナー。
メダルコーナー。
細井は店内を軽やかに歩き回る。
「いらっしゃいませ!」
笑顔。
「ありがとうございました!」
また笑顔。
小さなお子さんにはしゃがんで目線を合わせる。
常連さんには自然と会話を交えながら接客。
困っているお客様には真っ先に駆け寄る。
その姿を見て、浜谷は思わずつぶやく。
「すごいなぁ……。」
近くを通りかかった古坂が笑う。
「見惚れてるね。」
「はい。」
「細井さん、本当に接客上手ですよね。」
「だって。」
「接客が好きなんだよ、細井ちゃんは。」
浜谷は納得したように頷いた。
「なるほど……。」
昼過ぎ。
細井がカウンターへ戻ってくる。
浜谷は思い切って聞いてみた。
「細井さん。」
「ん?」
「接客で一番大事にしてることって何ですか?」
細井は少し考え、笑顔で答える。
「笑顔かな。」
「やっぱり。」
「でもね。」
「笑顔って、お客様だけじゃなくて、一緒に働くスタッフも笑顔にするんだよ。」
浜谷は真剣に耳を傾ける。
「私が笑ってたら、お客様も笑ってくれる。」
「スタッフも笑ってくれる。」
「だから私は笑ってる。」
浜谷は静かに頷いた。
その時。
クレーンゲームで困っている親子を見つけた細井。
「行ってくるね。」
「はい!」
細井はすぐに駆け寄る。
「どうしました?」
優しく話を聞き、景品を少しだけ動かす。
「これでどうかな?」
「ありがとう!」
親子は笑顔。
細井も笑顔。
その様子を見ていた浜谷は、小さくつぶやく。
「立てば接客。」
「座れば笑顔。」
「歩く姿は……。」
そこへ茂田が通りかかる。
「スタッフの鑑だね。」
浜谷は笑って頷いた。
「本当に、その通りですね。」
仕事終わり。
ロッカールーム。
荷物をまとめる細井に、浜谷が声を掛けた。
「細井さん。」
「ん?」
「今日一日、細井さんの接客を見てたんです。」
「えっ、見てたの?」
「はい。」
「お客様への話し方も。」
「困っている人への声の掛け方も。」
「全部勉強になりました。」
細井は少し照れくさそうに笑う。
「そんな褒めても何も出ないよ?」
浜谷は首を横に振る。
「僕。」
「細井さんを尊敬してます。」
細井は少し驚いた表情を見せる。
「え?」
「年上の後輩とか。」
「先輩とか。」
「そんなの関係なく。」
「接客では敵わないなって思いました。」
「細井さんは、僕にとってスタッフの鑑です。」
細井は少し黙った。
そして照れ隠しのように笑う。
「……そんなこと言われると照れるじゃん。」
浜谷も笑う。
「本音です。」
細井はニヤリと笑う。
「殴るよ?」
浜谷は慌てて両手を振る。
「一発だけですよ?」
「大丈夫。」
細井は拳を軽く握る。
「一発で仕留めるから。」
「だからそれ一番ダメですって!」
バックヤードには二人の笑い声が響いた。
今日も細井は、お客様に笑顔を届ける。
そしてその笑顔は、浜谷をはじめ、一緒に働く仲間たちにも届いていた。
まさに――
立てば接客、座れば笑顔、歩く姿はスタッフの鑑。