出勤途中。
浜谷は空を見上げた。
「……青い。」
雲ひとつない青空。
夏の日差しが眩しい。
「今日は気持ちいいな。」
自然と笑顔になった。
阿佐野店へ到着。
「おはようございます!」
「おはよう!」
開店準備をしている細井に声を掛ける。
「細井さん。」
「ん?」
「今日、天気めっちゃ良かったですよ。」
細井も外を見る。
「あー、見た見た。」
「すごい青かったよね。」
「ですよね!」
気持ちのいい一日の始まりだった。
しかし。
午後。
店内が混み始めた頃だった。
一人のお客様が、少し険しい表情で浜谷のもとへやって来る。
「ちょっと。」
「はい。」
浜谷は笑顔で対応する。
だが、そのお客様は不満を口にした。
「このクレーンゲーム、いくら使っても取れないんだけど。」
浜谷は狙うべき位置を説明する。
しかし、お客様の不満は止まらない。
「こんなにお金入れたのに取れないとか詐欺じゃん。」
「取らせる気ないんだったら最初から来なかったわ。」
浜谷は事情を聞き、込み上げてくる言葉を押し殺しながら、何度も頭を下げる。
「申し訳ありません。」
「申し訳ありません。」
「バカみたいだな、この店は。」
お客様は最後に一言残し、その場を離れていった。
浜谷はその場に立ち尽くす。
(なんでそんなこと言われなアカンねん…。)
(バカみたいだなって普通店員に言うか……?)
(こっちが言いたいわ……。)
朝見た青空とは対照的に、心はどんより曇っていた。
休憩時間。
バックヤードで一人、お茶を飲む浜谷。
いつもの元気がない。
細井が隣に座る。
「……気にしてる?」
浜谷は苦笑いする。
「はい。」
「ちょっと落ち込んじゃいました。」
細井は静かに頷く。
「真面目だからね。」
「でも。」
「ちゃんと謝ったんでしょ?」
「はい。」
「じゃあ、それでいい。」
浜谷は少し驚く。
そこへ茂田もやって来る。
「琉くん。」
「接客してるとね。」
「褒められる日もあれば、怒られる日もある。」
「どっちも仕事の一部。」
浜谷は黙って聞く。
「今日のことを次に活かせば。」
「今日のお叱りも無駄じゃない。」
「失敗じゃなくて経験になる。」
浜谷はゆっくり頷いた。
「……はい。」
「ありがとうございます。」
営業終了後。
店の外へ出る。
夕方の空は、朝と変わらず青く広がっていた。
浜谷は空を見上げて、小さく笑う。
「朝は青いお空。」
「昼はブルーな気持ち。」
「でも。」
「最後は少し晴れました。」
細井は笑顔で言う。
「また明日頑張ろ。」
茂田も頷く。
「今日より明日。」
「それで十分。」
「はい!」
浜谷は大きく返事をした。
青い空は変わらない。
少し曇った心も、仲間の言葉があれば、また晴れていく。
そんな一日だった。