朝。
原町中央店。
自動ドアが開く。
「おはようございます!」
元気よく出勤してきた浜谷。
しかし。
事務所の空気が少しおかしい。
石村、高崎、藤屋、川原。
みんなが一斉に浜谷を見る。
「……。」
「……。」
誰も何も言わない。
浜谷は首をかしげる。
「……?」
(あれ?)
(なんかやったっけ、僕。)
高崎が石村を見る。
石村が藤屋を見る。
藤屋は苦笑い。
誰も口を開かない。
みんなそそくさと事務所を後にする。
浜谷は少しずつ不安になる。
(え……。)
(最近、阿佐野店ばっかりだったから……。)
(みんな怒ってる?)
(嫌われた……?)
何とも言えない空気が流れる。
そこへ。
「おつかれさまぁ〜ず!」
茂田が事務所へ入ってきた。
「おはようございます!」
浜谷は元気よく挨拶する。
茂田は一瞬固まった。
「……琉くん?」
「はい!」
「どうしたんですか?」
浜谷は笑顔。
茂田はシフト表を見て、もう一度浜谷を見る。
「琉くん……。」
「今日は。」
少し間を置く。
「阿佐野店の応援ニダ……。」
「……え?」
浜谷の笑顔が固まる。
頭の中で今日の日付とシフト表が高速で回り始める。
数秒後。
「しまったぁぁぁぁぁ!!!」
事務所中に浜谷の声が響いた。
「今日、阿佐野店だったぁぁ!」
両手で頭を抱える浜谷。
石村たちは一斉に笑い出す。
「だから誰も言い出せなかったんだよ。」
高崎も笑う。
「めちゃくちゃ堂々と出勤してきたから。」
川原は肩を震わせる。
「普通に打刻しようとしてましたもんね。」
藤屋は冗談っぽく言う。
「いてはいけない男がやって来た!」
浜谷は顔を真っ赤にした。
「恥ずかしい……。」
「完全に勘違いしてました。」
茂田は苦笑いしながらスマートフォンを取り出す。
「ちょっと阿佐野店に連絡するニダ!」
数分後。
電話を終えた茂田が戻ってくる。
「今日は向こうも何とか回るみたい。」
「せっかくだし。」
「今日はそのまま原町中央店で働こう。」
浜谷はホッと胸をなで下ろした。
「本当にすみません……。」
茂田は笑う。
「次から気を付ければ大丈夫。」
石村も笑顔で言う。
「たまにはこういう日もある。」
高崎はニヤリ。
「でも今日の主役は浜谷くんだったね。」
「勘弁してください……。」
浜谷は照れ笑いを浮かべながら、いつもの持ち場へ向かった。
仕事が始まれば、さっきまでの恥ずかしさもどこへやら。
今日も浜谷は、お客様のために店内を走り回る。
――ただ一つ。
その日の夜。
浜谷はスマートフォンのカレンダーに、大きく予定を書き込んだ。
『勤務店舗、前日に確認!』
これ以降。
出勤前には必ずシフト表を確認するようになった浜谷だった。