平日の夕方の阿佐野店。
店内は比較的落ち着いていた。
クレーンゲームの景品補充を終えた浜谷は、店内をゆっくり巡回していた。
すると、一台のクレーンゲームの前で、小さな女の子がじっと景品を見つめていた。
手には百円玉が一枚。
景品とお母さんの顔を何度も見比べている。
浜谷は優しく声を掛けた。
「どうしたの?」
女の子は少し恥ずかしそうに指を差す。
「これ……ほしい。」
そこには、小さなうさぎのぬいぐるみ。
「でも、一回しかできないの。」
浜谷は景品の位置を確認する。
(ちょっと厳しいかな……。)
しかし、お客様がルール範囲内であれば景品の向きを整えることはできる。
「じゃあ、少しだけ取りやすくするね。」
景品を規定の範囲で少しだけ動かす。
「これなら、さっきよりチャンスあるよ。」
「ありがとう!」
女の子は嬉しそうに笑い、百円玉を投入した。
アームがゆっくり動く。
景品を持ち上げる。
「がんばれ……!」
浜谷も心の中で応援する。
しかし。
コトン。
景品は途中で落ちてしまった。
「あぁ……。」
女の子は少しだけ残念そうに肩を落とした。
その時、お母さんが優しく百円玉を一枚差し出す。
「最後にもう一回だけね。」
「うん!」
二回目の挑戦。
アームが景品をしっかり掴む。
ゆっくり運び。
コトン。
景品口へ落ちた。
「やったー!」
女の子は飛び跳ねるほど大喜び。
ぬいぐるみを抱きしめながら、浜谷のところまで駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん!」
「ありがとう!」
満面の笑顔。
浜谷も思わず笑顔になる。
「おめでとう!」
「大事にしてね。」
親子は何度もお礼を言いながら帰っていった。
その様子を少し離れたところから見ていた細井が近付いてくる。
「また子どもに人気者になってたね。」
浜谷は照れ笑い。
「そんなことないですよ。」
「あるある。」
細井は笑う。
「子どもってね。」
「優しい人はちゃんと分かるんだよ。」
浜谷は少し照れくさそうに頭をかく。
「そうですかね。」
そこへ茂田も巡回から戻ってきた。
「琉くん。」
「はい。」
「優しさって教えられるものじゃない。」
「自然に出るものニダ。」
浜谷は静かに頷く。
「ありがとうございます。」
茂田は笑顔で続ける。
「景品を置き直ししたことももちろんだけど。」
「最後まで女の子と一緒に応援してたでしょ。」
「そういうところがお客様には伝わるニダ。」
浜谷は少し照れながら笑った。
「夢中になっちゃいました。」
細井も頷く。
「だから子どもたちが浜谷くんのところに集まるんだよ。」
「優しいお兄ちゃんって思われてるんじゃない?」
「そんな大したことしてませんよ。」
「してるしてる。」
ちょうど通りかかった古坂も笑う。
「浜谷くんの武器は、接客でもメンテナンスでもない。」
「その優しさ。」
浜谷は少し照れくさそうに笑いながら店内へ戻る。
巡回中、さっきの女の子が出口でぬいぐるみを抱きしめながら、もう一度こちらへ向かって大きく手を振ってくれた。
「お兄ちゃん、ばいばーい!」
浜谷も笑顔で手を振り返す。
「また遊びに来てね!」
その笑顔を見た細井は小さくつぶやいた。
「やっぱり。」
「ハートは天使(エンジェル)だね。」
阿佐野店には今日も、子どもたちの笑顔があふれていた。
そして浜谷の優しい心は、今日も誰かを笑顔にしていた。