ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

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お盆戦争

八月。

 

世間はお盆休み。

 

ファンステージ原町中央店にも、朝からたくさんのお客様が来店していた。

 

開店前。

 

事務所では茂田が全員に声を掛ける。

 

「今日はかなり混むよ!」

 

「みんな、水分補給だけは忘れないようにね!」

 

「はい!」

 

浜谷も気合いを入れて売場へ向かった。

 

⸻

 

開店から三十分。

 

店内はあっという間に満員になった。

 

クレーンゲームには長蛇の列。

 

メダルコーナーも満席。

 

イベント受付にも人が集まる。

 

インカムは鳴りっぱなしだった。

 

『クレーン対応お願いします!』

 

『メダル補充お願いします!』

 

『景品補充お願いしまーす!』

 

浜谷は走る。

 

クレーン。

 

景品補充。

 

お客様対応。

 

またクレーン。

 

休む暇など全くない。

 

「はい!ただいま向かいます!」

 

汗だくになりながら売場を駆け回っていた。

 

⸻

 

そんな中。

 

普段はどこか落ち着いていて、

 

「おぅ。」

 

としか言わない山神の様子が今日は違っていた。

 

「石村!」

 

「メダル補充!」

 

「おぅ!」

 

「琉くん!」

 

「こっちお願い!」

 

「はい!」

 

「相馬さん!」

 

「両替機確認!」

 

「はい!」

 

山神は店内を歩き回り、次々と指示を出していく。

 

その動きには一切無駄がない。

 

浜谷は思わず見入ってしまう。

 

(山神さん……。)

 

(こんなに動くんだ。)

 

普段の穏やかな姿からは想像もできないほどのスピードだった。

 

⸻

 

昼過ぎ。

 

忙しさはさらに増す。

 

山神は浜谷の横を通りながら言った。

 

「琉くん。」

 

「水。」

 

「……え?」

 

「飲め。」

 

それだけ言うと、すぐ次のお客様のもとへ向かっていく。

 

浜谷は慌ててバックヤードへ戻り、水を一口飲んだ。

 

その瞬間。

 

「あっぶな……。」

 

自分でも気づかないうちに、何時間も水分を取っていなかったことに気付く。

 

(山神さん、ちゃんと見てくれてるんだ。)

 

浜谷は少し嬉しくなった。

 

⸻

 

夕方。

 

ようやく店内が少し落ち着き始めた。

 

スタッフ全員が疲れた表情を浮かべながらも、どこか達成感に満ちていた。

 

茂田が笑う。

 

「今年も乗り切ったニダ〜!」

 

石村も大きく伸びをする。

 

「今日は本当に忙しかった。」

 

高崎は笑いながら言う。

 

「足がもう動かないよ〜。」

 

その横で山神は、いつもの調子に戻っていた。

 

「おぅ。」

 

浜谷は思わず笑ってしまう。

 

「山神さん。」

 

「今日は別人みたいでした。」

 

山神は少し照れくさそうに笑う。

 

「お盆だけな。」

 

その一言に、全員が笑った。

 

⸻

 

閉店後。

 

静かになった店内を見渡しながら浜谷は思う。

 

一年で一番忙しい日。

 

その中心には、誰よりもテキパキと動く山神の姿があった。

 

普段は口数が少なくても、

 

本当に忙しい時に頼りになる。

 

それが、長年ゲームセンターを支えてきたベテランの姿だった。

 

浜谷は今日もまた、一つ大切なことを学んだ。

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