ある日。
阿佐野店に新しい景品が入荷した。
箱を見た瞬間、浜谷の目が輝く。
「うわっ!」
「このヒーロー!」
「懐かしい!」
子どもの頃、テレビにかじりついて見ていた大好きなヒーロー。
思わず箱を抱きしめそうになる。
古坂が笑う。
「そんなに好きだったの?」
「はい!」
「毎週欠かさず見てました!」
その日、古坂が景品を展開し、新景品コーナーへ並べた。
浜谷は嬉しそうに何度も様子を見に行く。
「絶対人気出ますよ!」
しかし。
一週間。
二週間。
景品はほとんど減らない。
そして一か月後。
バックヤード。
茂田が売上表を見ながら腕を組む。
「うーん。」
「この景品、ちょっと売上取れないニダ。」
古坂も頷く。
「どうします?」
「在庫消化かな。」
その言葉を聞いた浜谷は慌てて立ち上がる。
「待ってください!」
「このヒーローは絶対まだいけます!」
「子どもの頃、本当に人気だったんです!」
茂田は浜谷の表情を見る。
少し考えてから笑った。
「琉くんがそこまで言うなら。」
「あと一か月だけ様子を見るニダ。」
浜谷の顔が明るくなる。
「ありがとうございます!」
しかし。
さらに一か月が過ぎても状況は変わらなかった。
売上は伸びない。
バックヤード。
樋口が資料を見ながら口を開く。
「茂田さん。」
「これ、在庫消化に回しますね。」
茂田は静かに頷く。
「よろしくニダ。」
その会話を聞いた浜谷は肩を落とした。
「そんなぁ……。」
茂田は浜谷の隣へ歩み寄る。
「琉くん。」
「確かに思い入れの強い景品かもしれない。」
「でも。」
「ゲームセンターで働いている以上、一つの景品を私情だけで残しておくことはできないニダ。」
浜谷はうつむく。
「そうですけど……。」
「これはやっぱり……。」
茂田は優しく続ける。
「実際に売上が取れていない。」
「それが現実ニダ。」
「もう、どうしようもない。」
浜谷は小さく頷く。
「……はい。」
茂田は少し笑った。
「でもね。」
「琉くんがこの景品を大好きだったことは分かった。」
「だから。」
「この景品のことは忘れないであげて。」
浜谷はゆっくり顔を上げる。
「……そうですね。」
数日後。
そのヒーローは在庫処分コーナーのクレーンゲームへ移された。
取りやすい設定になったクレーンゲームの中のヒーローは心なしか少し寂しそうだった。
浜谷は悲しそうに、その台を見つめていた。
すると。
一人のお客様が立ち止まる。
「あっ!」
「これ懐かしい!」
「昔好きだったんだよなぁ!」
浜谷は思わず振り返る。
お客様は百円玉を入れ、一回で景品を獲得した。
「やった!」
「取れた!」
嬉しそうに景品を抱えて帰っていく。
それを見た浜谷は自然と笑顔になった。
その後も。
「懐かしい!」
「これまだあったんだ!」
そんな声とともに、景品は次々と旅立っていく。
そして。
最後の一個。
クレーンゲームの中には、あのヒーローが一体だけ残っていた。
浜谷は静かに見つめる。
「君も。」
「また誰かの思い出になるといいね。」
少しだけ寂しく。
でも、どこか嬉しそうに微笑む。
「君のこと忘れないよ。」
ヒーローは最後の一人を待つように、静かにクレーンゲームの中で佇んでいた。