とある午後の阿佐野店。
店内もひと段落し、浜谷、細井、茂田の三人はカウンターで一息ついていた。
何気ない雑談。
浜谷がふと思いついたように口を開く。
「そういえば。」
「お二人って座右の銘とかあります?」
茂田は迷うことなく答えた。
「なんとかなる!」
浜谷は笑う。
「茂田さんらしいですね。」
「結構その言葉に助けられてるニダ。」
茂田は笑顔で頷いた。
今度は細井。
「私は……。」
少し考えて笑う。
「『なんくるないさ』かな。」
「沖縄っぽいやつ!」
浜谷が笑う。
「意味はほとんど一緒ですね。」
細井は頷く。
「最後は何とかなるって思えるから好き。」
茂田も負けじと笑う。
「スペイン語っぽく言えば。」
「ケセラセラ。」
「なるようになる。」
浜谷は苦笑する。
「張り合わなくていいんですよ!」
「結局みんな同じ意味なんだね。」
三人で笑い合う。
少し間が空く。
細井が浜谷を見る。
「浜谷くんは?」
「座右の銘は何かあるの?」
浜谷は少し照れながら答えた。
「あります。」
「えっ?」
「パポローン・ロピンカコ。」
「……。」
一瞬、カウンターが静まり返る。
細井と茂田は顔を見合わせた。
「……ん?」
「何それ?」
浜谷は笑いながら答える。
「うちの母親が昔からよく言うんです。」
「『パポローン・ロピンカコ』って。」
細井は首をかしげる。
「外国語?」
「いや。」
「違います。」
「意味はないらしいです。」
「え?」
茂田も思わず笑う。
「意味ないの?」
浜谷は頷く。
「母親曰く。」
「意味がないからこそいいんだって。」
「落ち込んだ時も。」
「嫌なことがあった時も。」
「『パポローン・ロピンカコ!』って言えば。」
「なんか笑えて。」
「前を向けるらしいです。」
細井は吹き出した。
「何それ!」
「面白い!」
茂田も大笑い。
「確かに。」
「意味がないからこそ気持ち切り替わるのかもニダ。」
浜谷は笑顔で頷く。
「小さい頃から聞いてたので。」
「僕も落ち込んだ時、たまに心の中で言ってます。」
「へぇ。」
細井は感心したように頷いた。
その時。
店内から呼び出しのベルが鳴る。
「手直しお願いしまーす!」
浜谷は立ち上がる。
「行ってきます!」
歩き出した浜谷の背中に向かって、細井が笑いながら叫ぶ。
「パポローン・ロピンカコー!」
浜谷は振り返り、思わず笑った。
「それ今使う言葉じゃないですよ!」
カウンターには笑い声が響く。
意味なんてなくてもいい。
誰かを笑顔にできる言葉なら、それだけで十分。
阿佐野店には、今日も小さな笑顔があふれていた。