休日の阿佐野店。
店内は多くのお客様で賑わっていた。
浜谷はクレーンゲームコーナーを巡回している。
すると、一台のクレーンゲームの前で苦戦している女性を見つけた。
何度もプレイしているが、景品は少しずつ動くだけ。
女性が浜谷に声を掛ける。
「すみません!」
「アームが届かない位置まで景品が行っちゃったので、置き直してもらえますか?」
「はーい!」
浜谷は景品を確認し、ルールの範囲内で初期位置へ戻す。
「こちらでよろしいですか?」
「ありがとうございます!」
女性は再び挑戦する。
しかし数分後。
「すみません。」
「また置き直しお願いします。」
「はーい!」
浜谷は笑顔で対応する。
さらに数分後。
「すみません……。」
「またお願いします。」
浜谷は苦笑い。
「大丈夫ですよ!」
再び景品を置き直す。
女性も少し申し訳なさそうだった。
「なかなか難しいですね。」
浜谷は景品をじっと見つめる。
(そろそろ少しアシストした方がいいかな。)
ルールの範囲内で景品の向きを少しだけ調整する。
そして女性に声を掛けた。
「この景品なんですけど。」
「重心がこの辺なんですよ。」
「なので、ここをうまく落とし口まで持っていくイメージで狙ってみてください!」
女性は真剣に頷く。
「なるほど!」
「やってみます!」
アームが動く。
景品を押す。
「おっ!」
少しだけ落とし口へ近付いた。
「あぁー!」
浜谷も思わず声を上げる。
「惜しい!」
「今のいいですよ!」
「あとちょっとです!」
女性も笑う。
「頑張ります!」
もう一度挑戦。
しかし。
あと一歩届かない。
「あぁぁぁ!」
浜谷まで悔しそうな顔になる。
「惜しい!」
「本当にあとちょっとです!」
いつの間にか二人とも夢中だった。
まるで一緒にプレイしているようだった。
浜谷はもう一度、景品をルールの範囲内で少しだけ置き直す。
「これならチャンスあります!」
女性は深呼吸をして百円玉を入れる。
アームがゆっくり動く。
景品を押す。
少し傾く。
さらに滑る。
「お願い……!」
浜谷も女性も景品を見つめる。
そして――
コトン。
景品が落とし口へ落ちた。
一瞬の静寂。
次の瞬間。
女性は両手を上げて叫んだ。
「景品取ったどーーー!!!」
店内に響く歓喜の声。
浜谷も思わず拳を握る。
「やったーーー!!」
二人で顔を見合わせ、大笑いした。
「ありがとうございました!」
女性は嬉しそうに景品を抱きしめる。
「こちらこそ、おめでとうございます!」
女性が帰ったあと。
巡回していた細井が笑いながら近付いてきた。
「浜谷くん。」
「自分で取ったくらい喜んでたね。」
浜谷は照れ笑いする。
「いやぁ……。」
「嬉しくなっちゃって。」
そこへ茂田も笑いながらやって来る。
「琉くん。」
「お客様の喜びを一緒に喜べる。」
「それが琉くんのいいところニダ。」
浜谷は少し照れながら頷いた。
「ありがとうございます。」
その日も阿佐野店では、一つの景品と、一つの笑顔が生まれていた。
そして浜谷は今日も、お客様と一緒に全力で喜ぶ店員だった。