とある日の午後の阿佐野店。
浜谷はクレーンゲームコーナーを巡回していた。
すると、一台のクレーンゲームの前で古坂と樋口が何やら真剣な表情で作業をしている。
「何してるんですか?」
古坂が振り返る。
「新景品の設定だよ。」
「ちょうど今やってるところ。」
浜谷は興味津々で二人の手元を覗き込む。
景品の向きを少し変え。
アームの強さを確認する。
景品をほんの数センチ動かす。
「ここかな。」
「いや、もうちょっと。」
樋口も細かく調整する。
「この角度の方がいいかも。」
浜谷は感心する。
「めちゃくちゃ細かいですね。」
古坂は笑う。
「設定ってね。」
「難しすぎてもダメ。簡単すぎてもダメ。そのちょうどいい塩梅を探す仕事なんだよ。」
「へぇ……。奥深いですね。」
調整が終わる。
「じゃあテストプレイ。」
古坂がテストスイッチを押す。
アームが景品を掴む。
少し動く。
しかし、あと少しで取れそうだが、取れない。
「惜しい。」
樋口が頷く。
「いい感じ。」
もう一回。
今度は景品がさらに落とし口へ近付く。
「うん。」
「これくらい。」
「取れそうだけど、一回では取れない。」
「よし!完璧だ!」
樋口は満足そうに笑った。
浜谷は景品を見ながら言う。
「取れそうだけど、取れない。絶妙な塩梅があるんですね。」
古坂は頷く。
「そう。」
「『もう一回やれば取れそう!』って思ってもらえるくらいが理想。」
「もちろん。」
「取りにくすぎるのはダメだけどね。」
樋口も続ける。
「設定次第で景品の印象も変わるからね。」
「特に人気景品は設定に神経使うね。」
浜谷は真剣な表情で頷いた。
「奥が深い……。」
古坂がニヤリと笑う。
「琉くん。」
「やってみる?」
「えっ?」
「クレーンゲーム設定。」
浜谷は慌てて首を横に振る。
「いやいや!」
「僕には無理ですよ〜!」
「まだ見てるだけで精一杯です。」
古坂と樋口は顔を見合わせて笑う。
「最初はみんなそう言うんだよ。」
「そのうち覚えるよ。」
浜谷は少し照れ笑い。
「いつかできるようになりたいです。」
古坂はクレーンゲームを見ながら微笑んだ。
「大丈夫。」
「接客もメンテナンスはもう完璧じゃん。」
「設定も少しずつ。」
樋口も頷く。
「一歩ずつだね。」
浜谷は大きく返事をした。
「はい!」
クレーンゲームの設定は、お客様には見えない仕事。
でも、その絶妙な”取れそう”を作るために、今日もスタッフたちは何度も何度も調整を繰り返していた。
そして浜谷はまた一つ、ゲームセンターの奥深さを知るのだった。