午後の阿佐野店。
休日ということもあり、店内は子ども連れのお客様で賑わっていた。
浜谷はいつものようにクレーンコーナーを巡回している。
「手直しお願いしまーす!」
「はーい!」
景品を少し動かし、笑顔でお客様を見送る。
すると、小学校低学年くらいの男の子が浜谷の後ろをちょこちょことついて歩いてきた。
「お兄ちゃん。」
「はい?」
「名前なんていうの?」
浜谷は優しく笑う。
「浜谷だよ。」
男の子は首を横に振る。
「違う違う!」
「下の名前!」
浜谷は少し照れながら答えた。
「琉。浜谷琉だよ!」
「りゅう?」
「うん。」
男の子は何度も口の中で繰り返す。
「りゅう……。」
「りゅうお兄ちゃん!」
「そう。」
「りゅうお兄ちゃん。」
浜谷は思わず笑った。
そこへ男の子のお母さんがやって来る。
「すみません。」
「ご迷惑おかけしてませんか?」
「いえ、大丈夫ですよ。」
男の子は嬉しそうに浜谷を指差した。
「ママ!」
「このお兄ちゃん、りゅうっていうんだよ!」
「そうなんだ。」
お母さんも笑顔で浜谷に会釈した。
「ありがとうございました。」
親子はその場を離れていった。
しばらくして。
カウンターへ戻ると、細井がニヤニヤしながら待っていた。
「浜谷くん。」
「はい?」
「さっきの子。」
「ずっと”りゅうお兄ちゃん”って呼んでたよ。」
「そうなんですか。」
「可愛かったね。」
浜谷は少し照れ笑いを浮かべた。
そこへ茂田もやって来る。
「でも。」
「琉くんって珍しい名前ニダ。」
「名前聞かれること多い?」
浜谷は頷く。
「たまにあります。」
「あと。」
「漢字は何ですか?って聞かれることもあります。」
「確かに。」
「珍しいもんね。」
そんな話をしていると、再びあの男の子が走ってきた。
「りゅうお兄ちゃん!」
「はい?」
男の子は真剣な顔で尋ねた。
「りゅうって。」
「ドラゴンの”龍”?」
浜谷は笑いながら首を振る。
「違うよ。」
「王様の”王”って字に。」
「流れるって書いて。」
「琉。」
「へぇー!」
男の子は目を輝かせた。
「かっこいい!」
浜谷は照れくさそうに笑う。
「ありがとう。」
男の子は満足そうに頷くと、お母さんのもとへ戻っていった。
帰り際。
入口から元気な声が聞こえる。
「りゅうお兄ちゃーん!」
浜谷も大きく手を振る。
「また遊びに来てねー!」
「うん!」
親子は笑顔で帰っていった。
その様子を見ていた細井が笑う。
「今日はもう。」
「浜谷くんじゃなくて。」
「りゅうお兄ちゃんだったね。」
浜谷は苦笑い。
「ちょっと照れますね。」
茂田も微笑む。
「でも。」
「名前を覚えてもらえるって嬉しいことニダ。」
「お客様との距離も近くなるしね。」
浜谷は静かに頷いた。
「そうですね。」
「今日、すごく嬉しかったです。」
店内を見渡す。
楽しそうに遊ぶ子どもたち。
笑顔の家族。
その中に、自分の名前を覚えてくれた子がいる。
浜谷は小さく微笑んだ。
「また会えるといいな。」
その日も阿佐野店には、子どもたちの元気な声と笑い声が響き渡っていた。
そして、浜谷は今日も——
**“りゅうお兄ちゃん”**として、たくさんの笑顔を迎えていたのだった。