開店前の阿佐野店。
浜谷はクレーンゲームとメダルゲームの動作確認をしていた。
その時だった。
帽子にサングラス、スマホを片手にした一人の配信者が店内へ入ってくる。
「今日はこのゲームセンターを検証しまーす!」
「開店前なので貸切でーす!」
浜谷は怪訝な顔をしながら言った。
「お客様、まだ開店前ですので開店後にお越しください。」
配信者は浜谷を無視して、配信をしながら歩き回る。
「なんでこんな時に限って、茂田さんも高村さんもいないんだろう。」
突然。
クレーンゲームのアームをガチャガチャと乱暴に揺らし始めた。
さらに。
メダルゲームまでガタガタと揺らす。
浜谷はすぐに駆け寄る。
「お客様。」
「危険ですので、おやめください。」
しかし配信者は笑いながらスマホを浜谷へ向ける。
「この店さぁ。」
「景品取れないように設定してるでしょ?」
「売り上げのことしか考えてない店じゃん。」
「金をむしり取るだけの詐欺店舗。」
その瞬間。
浜谷の表情が変わる。
「……ワレ。」
低い声。
一歩前へ出る。
「何に物抜かしとんじゃあゴラァ!!」
店内に怒号が響く。
「おのれのせいで他のお客様にも店にも迷惑かかっとんねん!!」
「ふざけんなボケェ!!」
配信者も負けじと言い返す。
「はぁ?」
「何ムキになってんの?」
浜谷は止まらない。
「迷惑行為ばっかりして!」
「ほんまやったら一発出禁なんじゃ!!」
「舐めてんのかゴラァ!!」
配信者は鼻で笑う。
「どうせこんな店――」
最後まで言わせなかった。
「知るかボケ!!」
浜谷はさらに一歩踏み出す。
「テメェのことなんざどうでもええねん!!」
「どこぞの馬の骨か分からんようなやつに、この店の何が分かんねん!!」
「分かったら、とっとと去ねやボケナスがぁ!!」
配信者は捨て台詞を吐き、その場を去っていく。
店内は静まり返った。
浜谷は肩で息をしている。
そこへ。
茂田が神妙な表情で近付いてきた。
「琉くん……。」
浜谷は我に返る。
「……すみません。」
「言い過ぎましたよね……。」
数秒の沈黙。
茂田は真顔のまま浜谷を見る。
そして。
「今のは流石に……。」
浜谷は青ざめる。
「はい……。」
茂田は親指を立てた。
「大優勝ニダ!!」
「……え?」
その瞬間。
配信者が帽子とサングラスを外した。
「お疲れさまでしたー!」
浜谷は固まる。
「……え?」
そこにいたのは。
細井だった。
「えええええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
奥では高村が笑い転げている。
「浜谷くん、怖すぎ!」
細井も苦笑いする。
「本当に怒るとあんな感じなんだ……。」
浜谷は状況が飲み込めない。
「えっ?」
「えっ??」
茂田が笑いながら言う。
「実は昨日のことニダ。」
⸻
前日。
閉店後の事務所。
お茶を飲みながら茂田がぽつりと呟く。
「そういえば。」
「琉くんって怒るのかな?」
細井は首をかしげる。
「いやぁ。」
「ナヨナヨしてるから怒らないんじゃないですか?」
高村が吹き出す。
「確かに!」
「いつもニコニコしてるもんね。」
茂田は腕を組む。
「ちょっと見てみたいニダ。」
高村はニヤリと笑った。
「じゃあ明日試してみようよ。」
「ちょうど開店前、茂田さんと細井ちゃんと私と浜谷くんだけだし。」
「ドッキリかけよう!」
細井も笑顔で頷く。
「面白そう!」
茂田も親指を立てる。
「決まりニダ!」
⸻
現在。
浜谷は頭を抱えた。
「そんな理由だったんですかぁぁぁ!!」
高村はまだ笑っている。
「期待以上だった!」
細井も苦笑い。
「浜谷くん、関西弁になると迫力すごいね。」
高村も笑いながら頷く。
「やっぱり関西の血が流れてるんだね。」
浜谷は大きくため息をついた。
「もう勘弁してくださいよぉ……。」
四人は大笑い。
開店前の阿佐野店には、笑い声だけが響いていた。