ある日の阿佐野店。
カウンターでは、浜谷と茂田が話していた。
「そういえば琉くん、最近原町行ったニダ?」
「この前行きましたよ。」
「どうだった?」
「やっぱり落ち着きますね。阿佐野も楽しいですけど、原町は原町でホーム感あります。」
「琉くん原町所属だからね!」
「忘れないでくださいよ!」
そんな他愛もない話をしていると。
「おはようございまーす!」
古坂が出勤してきた。
「おはようございます!」
「おはようニダ!」
古坂が時計を見る。
「あ。」
時刻は午後一時。
週末恒例――。
スマイルタイム。
各店舗でスタッフの笑顔を撮影し、事業部のグループチャットへ投稿する時間だ。
すると茂田が、何かを思いついたように笑う。
「いいこと考えた!」
「?」
「今日は原町メンバーで撮ろうよ!」
浜谷が笑う。
「お!いいですね!」
古坂もすぐに乗る。
「撮ろ撮ろ!」
現在は阿佐野店にいる三人。
しかし三人とも、原町中央店で働いた経験を持っている。
せっかくなら今日は、この三人で。
古坂がスマホを準備する。
「じゃあ並んでー。」
茂田が浜谷を見る。
「琉くん、センターで!」
「いやいやいや!」
浜谷は笑いながら手を振る。
「茂田さん行ってくださいよ!」
「琉くん真ん中!」
「いやぁ、僕なんかが……。」
そう言いながら。
浜谷は――。
しっかり真ん中へ移動する。
古坂が笑う。
「浜谷くん、まんざらでもないじゃん!」
「せっかく言っていただいたので!」
「嬉しそうニダ。」
「そんなことないですよ!」
顔はちょっと嬉しそうだった。
古坂が近くの景品を見る。
「あ!」
「せっかくだから、お茶カワの景品持って撮ろうよ!」
「いいですね!」
三人はそれぞれ、お茶カワの景品を手にする。
茂田。
浜谷。
古坂。
浜谷は二人に挟まれ、堂々のセンター。
「じゃあ撮るよー!」
その瞬間。
浜谷の頭が猛烈な勢いで回転を始める。
(待て。)
(普通に笑顔で撮るだけでいいのか?)
浜谷には、一つの謎のポリシーがあった。
スマイルタイムでは、何かしら気を衒う。
普通の笑顔だけでは終わらせない。
何かする。
必ず何かする。
(どうする。)
(変顔?)
(いや、スマイルタイムだ。)
(ポーズ?)
(普通すぎる。)
(お茶カワを頭に乗せる?)
(落としたら怒られる。)
撮影まで、あと数秒。
浜谷は必死に頭を張り巡らせる。
そして――。
閃いた。
「撮りまーす!」
古坂がスマホを構える。
「はい、スマイル!」
茂田と古坂が笑顔を作る。
その二人の間。
浜谷は――。
片目を閉じた。
パシャ。
撮影終了。
「撮れた!」
三人はすぐに写真を確認する。
そこには。
お茶カワの景品を持って笑う茂田。
同じく笑顔の古坂。
そして二人の間で――。
一人だけウインクしている浜谷。
茂田が写真を見た瞬間、声を上げる。
「かわいー!」
浜谷も写真を覗き込む。
「お。」
さらに拡大。
「……。」
自分の顔をじっと見る。
そして。
「なんか今日。」
「ビジュアルいいな。」
古坂が吹き出す。
「自分で言う!?」
「いや、今日なんかいいですよ!」
「ウインク成功してるニダ!」
「ですよね!?」
浜谷はすっかり満足げ。
古坂は笑いながら写真を見る。
「これ投稿しよ!」
「お願いします!」
その日の事業部グループチャットには。
『阿佐野店 スマイルタイム 』
の文字とともに、一枚の写真が投稿された。
茂田。
古坂。
そして。
二人の間で、片目を閉じる浜谷。
原町で働いた三人が。
今、阿佐野店で一緒に笑っている。
そんな何気ない一枚。
ただし浜谷にとって一番重要だったのは――。
「いやぁ。」
「今日の俺、盛れてるなぁ。」
「まだ言ってるニダ!」
スマイルタイムで気を衒う。
そのポリシーは。
今日もしっかり守られたのだった。