十月。
ファンステージ原町中央店では、毎年恒例のハロウィンイベントが始まった。
この日だけは、スタッフも制服ではなく、それぞれ思い思いの仮装をして接客をする。
出勤した浜谷は、更衣室の扉を開けた瞬間、思わず固まった。
「おはようございま……。」
目の前には、うさぎの耳を付けた茂田が立っていた。
「おつかれさまぁ〜ず!」
「今日はうさぎニダ!」
「……似合ってます。」
「でしょ〜?」
その隣では、高崎と武藤が黒い帽子にマントを羽織った魔女姿。
「おはよう、琉くん!」
「今日は魔女だよ〜。」
「すごいですね……。」
さらに藤屋は可愛らしい狐の耳としっぽ。
大沼は丸いかぼちゃの衣装。
相馬は少し照れながら猫耳を付けていた。
「これ、ちょっと恥ずかしいね。」
「でも似合ってますよ、相馬さん。」
「ありがとう。」
いつもとは全く違う事務所に、浜谷は思わず笑ってしまった。
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一方、男性陣はというと。
山神。
「おぅ。」
いつも通り。
何も変わらない。
日村。
「オハヨウゴザイマス。」
こちらもいつも通り。
仮装ゼロ。
石村だけは黒い魔女の帽子を頭に乗せていた。
「これくらいで勘弁して。」
「石村さん、それだけなんですか?」
「十分だろ?」
本人は満足そうだった。
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そして浜谷。
ロッカーから取り出したのは、黒い吸血鬼のマント。
「これ……着るんですか。」
茂田が笑う。
「もちろん!」
「今日は楽しんだもん勝ちニダ!」
浜谷は少し照れながらマントを羽織る。
鏡を見る。
(恥ずかしい……。)
(接客できるかな……。)
それでも売場へ出ると、子どもたちは大喜びだった。
「吸血鬼のお兄さんだ!」
「かっこいい!」
その言葉に少しだけ照れながらも、浜谷は笑顔で接客を続けた。
(意外と悪くないかも。)
そう思い始めた、その時だった。
⸻
「おはようございます。」
後ろから声が聞こえる。
振り返った浜谷は思わず絶句した。
「えっ……。」
そこにいたのは大野だった。
真っ白なシャツに真紅のマント。
顔には本格的なメイク。
牙まで付けた、本物さながらの吸血鬼。
まるで映画から飛び出してきたような完成度だった。
「すご……。」
浜谷は自分のマントだけの姿を見る。
そして大野を見る。
また自分を見る。
「なんか……。」
「僕だけ初心者みたいですね。」
大野は笑いながら言う。
「去年から少しずつ揃えてるんだ。」
「ハロウィン好きだから。」
「レベルが違いますよ……。」
その様子を見ていた石村が笑う。
「浜谷くん。」
「来年は期待してるから。」
「えっ?」
茂田も笑顔で追い打ちをかける。
「来年はもっと派手にするニダ!」
「えぇー!」
事務所は笑いに包まれた。
⸻
イベントは大盛況だった。
子どもたちはスタッフの仮装を見るたびに目を輝かせ、
写真を撮ったり、手を振ったりして楽しんでいた。
仮装をすることは少し恥ずかしかった。
でも、それ以上に子どもたちの笑顔を見ることができた。
閉店後。
マントを畳みながら浜谷は笑う。
「最初は恥ずかしかったですけど……。」
「楽しかったですね。」
茂田もうさぎの耳を外しながら笑った。
「でしょ?」
「イベントはスタッフも楽しむのが一番ニダ!」
浜谷は大きくうなずいた。
来年は、もう少し本気で仮装してみよう。
そんな新しい目標が、一つ増えたハロウィンだった。