ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

14 / 92
ハロウィンは仮装の日

十月。

 

ファンステージ原町中央店では、毎年恒例のハロウィンイベントが始まった。

 

この日だけは、スタッフも制服ではなく、それぞれ思い思いの仮装をして接客をする。

 

出勤した浜谷は、更衣室の扉を開けた瞬間、思わず固まった。

 

「おはようございま……。」

 

目の前には、うさぎの耳を付けた茂田が立っていた。

 

「おつかれさまぁ〜ず!」

 

「今日はうさぎニダ!」

 

「……似合ってます。」

 

「でしょ〜?」

 

その隣では、高崎と武藤が黒い帽子にマントを羽織った魔女姿。

 

「おはよう、琉くん!」

 

「今日は魔女だよ〜。」

 

「すごいですね……。」

 

さらに藤屋は可愛らしい狐の耳としっぽ。

 

大沼は丸いかぼちゃの衣装。

 

相馬は少し照れながら猫耳を付けていた。

 

「これ、ちょっと恥ずかしいね。」

 

「でも似合ってますよ、相馬さん。」

 

「ありがとう。」

 

いつもとは全く違う事務所に、浜谷は思わず笑ってしまった。

 

 

一方、男性陣はというと。

 

山神。

 

「おぅ。」

 

いつも通り。

 

何も変わらない。

 

日村。

 

「オハヨウゴザイマス。」

 

こちらもいつも通り。

 

仮装ゼロ。

 

石村だけは黒い魔女の帽子を頭に乗せていた。

 

「これくらいで勘弁して。」

 

「石村さん、それだけなんですか?」

 

「十分だろ?」

 

本人は満足そうだった。

 

 

そして浜谷。

 

ロッカーから取り出したのは、黒い吸血鬼のマント。

 

「これ……着るんですか。」

 

茂田が笑う。

 

「もちろん!」

 

「今日は楽しんだもん勝ちニダ!」

 

浜谷は少し照れながらマントを羽織る。

 

鏡を見る。

 

(恥ずかしい……。)

 

(接客できるかな……。)

 

それでも売場へ出ると、子どもたちは大喜びだった。

 

「吸血鬼のお兄さんだ!」

 

「かっこいい!」

 

その言葉に少しだけ照れながらも、浜谷は笑顔で接客を続けた。

 

(意外と悪くないかも。)

 

そう思い始めた、その時だった。

 

 

「おはようございます。」

 

後ろから声が聞こえる。

 

振り返った浜谷は思わず絶句した。

 

「えっ……。」

 

そこにいたのは大野だった。

 

真っ白なシャツに真紅のマント。

 

顔には本格的なメイク。

 

牙まで付けた、本物さながらの吸血鬼。

 

まるで映画から飛び出してきたような完成度だった。

 

「すご……。」

 

浜谷は自分のマントだけの姿を見る。

 

そして大野を見る。

 

また自分を見る。

 

「なんか……。」

 

「僕だけ初心者みたいですね。」

 

大野は笑いながら言う。

 

「去年から少しずつ揃えてるんだ。」

 

「ハロウィン好きだから。」

 

「レベルが違いますよ……。」

 

その様子を見ていた石村が笑う。

 

「浜谷くん。」

 

「来年は期待してるから。」

 

「えっ?」

 

茂田も笑顔で追い打ちをかける。

 

「来年はもっと派手にするニダ!」

 

「えぇー!」

 

事務所は笑いに包まれた。

 

 

イベントは大盛況だった。

 

子どもたちはスタッフの仮装を見るたびに目を輝かせ、

 

写真を撮ったり、手を振ったりして楽しんでいた。

 

仮装をすることは少し恥ずかしかった。

 

でも、それ以上に子どもたちの笑顔を見ることができた。

 

閉店後。

 

マントを畳みながら浜谷は笑う。

 

「最初は恥ずかしかったですけど……。」

 

「楽しかったですね。」

 

茂田もうさぎの耳を外しながら笑った。

 

「でしょ?」

 

「イベントはスタッフも楽しむのが一番ニダ!」

 

浜谷は大きくうなずいた。

 

来年は、もう少し本気で仮装してみよう。

 

そんな新しい目標が、一つ増えたハロウィンだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。