ある日の阿佐野店。
待望の人気景品が入荷した。
お茶カワの新作景品。
入荷前から問い合わせも多く、人気が予想されていた景品だった。
バックヤードでは、高村と浜谷が景品のタグ留めをしている。
「これで何個目ですか?」
「もう結構やったね。」
「まだありますねぇ。」
浜谷は床に座ったまま、次の景品へ手を伸ばす。
その時。
「いてて……。」
「どうしたの?」
「最近、膝痛いんですよね。」
高村が浜谷を見る。
「膝?」
「なんか曲げると痛くて。」
「いい整形外科紹介するね。」
「ありがとうございます。」
二十一歳にして整形外科を紹介される浜谷。
それでも手は止めない。
「よし、これで終わり!」
タグ留めされた景品は、そのまま樋口のもとへ。
「樋口さん、お願いします!」
「はーい!」
樋口がクレーンゲームへの展開を始める。
景品の位置を調整。
アームの動きを確認。
何度かテストプレイを行い――。
「よし!」
「できた!」
お茶カワの新作景品、展開完了。
さっそくお客様が集まり始めた。
浜谷も巡回しながら、その様子を見ている。
すると。
二人組の男性が、お茶カワのクレーンゲームの前に立った。
「……。」
なぜだろう。
浜谷は足を止める。
「なんか嫌な予感するな……。」
男性の一人がプレイ開始。
数手後。
ゴトン。
一体目。
「お、上手い。」
浜谷はそのまま巡回を続ける。
しばらくして戻ってくると。
ゴトン。
二体目。
さらに。
ゴトン。
三体目。
「……。」
浜谷の表情が変わる。
景品が少なくなり、男性が浜谷を呼ぶ。
「すみませーん。」
「はい!」
「これ、補充お願いできますか?」
「あ、はい!」
浜谷は景品を補充する。
「お待たせしました。」
「ありがとうございます。」
再びプレイ開始。
ゴトン。
「……。」
ゴトン。
「……。」
ゴトン。
浜谷の顔から、だんだん笑顔が消えていく。
「ちょっと待って。」
また補充。
そして。
また取られる。
浜谷は青ざめながら樋口のもとへ向かう。
「樋口さん。」
「ん?」
浜谷は小声で告げる。
「お茶カワ、乱獲されてます。」
「うそ!?」
樋口が目を見開く。
「まじ!?」
「めちゃくちゃ取られてます。」
「ええー!」
浜谷はクレーンゲームの方を見る。
「樋口さんが設定したので、そこは問題ないと思うんですけど……。」
樋口も不安そうに台を見る。
「うわぁ、最悪!」
「一旦、お客さんがいなくなったら設定見ます!」
「お願い!」
浜谷は再び巡回へ。
露骨に見張るわけにはいかない。
あくまで自然に。
別のクレーンゲームを確認して。
メダルゲームコーナーを通って。
また、お茶カワの近くへ。
チラッ。
まだ取っている。
「……すごいな。」
浜谷はしばらく様子を見る。
そこで。
あることに気づいた。
「ん?」
二人が取っている景品を見る。
同じキャラクター。
また同じキャラクター。
さらに同じキャラクター。
「……。」
浜谷の頭に、一つの可能性が浮かぶ。
(これ、まさか……。)
(転売ヤー?)
確証はない。
ただ単純に、そのキャラクターが大好きなのかもしれない。
浜谷には判断できない。
だからこそ、何も言わずに巡回を続ける。
その間にも――。
ゴトン。
ゴトン。
ゴトン。
「……。」
浜谷の顔が引きつる。
やがて。
十数体もの景品を手にした二人組は、満足そうにその場を離れていった。
「ありがとうございましたー……。」
浜谷はその背中を見送る。
そして。
すぐさまクレーンゲームへ。
「樋口さん!」
インカムで呼ぶ。
『はい!』
「お客さん離れました!」
浜谷は設定を確認する。
景品位置。
アーム。
各部の状態。
プレイ条件。
一つずつ確認していく。
「……。」
もう一度。
「……。」
問題ない。
樋口もやってくる。
「どう?」
「ちょっと待ってください。」
浜谷はさらに確認する。
そして――。
「……規定通りです。」
「え?」
「設定、問題ないです。」
樋口も確認する。
「ほんとだ……。」
二人で無言になる。
不正をされたわけでもない。
設定を間違えたわけでもない。
攻略不能な何かが起きたわけでもない。
浜谷は、十数体分空いた景品スペースを見る。
「……。」
そして静かに呟いた。
「あの人たち。」
「上手すぎただけだ……。」
樋口も苦笑い。
「それはどうしようもないね……。」
そこへ高村がやってくる。
「どうしたの?」
浜谷が振り返る。
「高村さん……。」
「僕たち。」
「景品を守れませんでした……。」
「何の話?」
樋口が吹き出す。
浜谷は空っぽになりかけた台を見つめる。
人気景品を守るため。
異変に気づき。
巡回し。
設定を確認した。
しかし――。
景品乱獲防衛隊、完敗。
相手が上手すぎる。
それだけは。
どうすることもできなかった。