ようこそ!ゲームセンター『ファンステージ』へ!   作:君脇玲

141 / 144
景品乱獲防衛隊

ある日の阿佐野店。

 

待望の人気景品が入荷した。

 

お茶カワの新作景品。

 

入荷前から問い合わせも多く、人気が予想されていた景品だった。

 

バックヤードでは、高村と浜谷が景品のタグ留めをしている。

 

「これで何個目ですか?」

 

「もう結構やったね。」

 

「まだありますねぇ。」

 

浜谷は床に座ったまま、次の景品へ手を伸ばす。

 

その時。

 

「いてて……。」

 

「どうしたの?」

 

「最近、膝痛いんですよね。」

 

高村が浜谷を見る。

 

「膝?」

 

「なんか曲げると痛くて。」

 

「いい整形外科紹介するね。」

 

「ありがとうございます。」

 

二十一歳にして整形外科を紹介される浜谷。

 

それでも手は止めない。

 

「よし、これで終わり!」

 

タグ留めされた景品は、そのまま樋口のもとへ。

 

「樋口さん、お願いします!」

 

「はーい!」

 

樋口がクレーンゲームへの展開を始める。

 

景品の位置を調整。

 

アームの動きを確認。

 

何度かテストプレイを行い――。

 

「よし!」

 

「できた!」

 

お茶カワの新作景品、展開完了。

 

さっそくお客様が集まり始めた。

 

浜谷も巡回しながら、その様子を見ている。

 

すると。

 

二人組の男性が、お茶カワのクレーンゲームの前に立った。

 

「……。」

 

なぜだろう。

 

浜谷は足を止める。

 

「なんか嫌な予感するな……。」

 

男性の一人がプレイ開始。

 

数手後。

 

ゴトン。

 

一体目。

 

「お、上手い。」

 

浜谷はそのまま巡回を続ける。

 

しばらくして戻ってくると。

 

ゴトン。

 

二体目。

 

さらに。

 

ゴトン。

 

三体目。

 

「……。」

 

浜谷の表情が変わる。

 

景品が少なくなり、男性が浜谷を呼ぶ。

 

「すみませーん。」

 

「はい!」

 

「これ、補充お願いできますか?」

 

「あ、はい!」

 

浜谷は景品を補充する。

 

「お待たせしました。」

 

「ありがとうございます。」

 

再びプレイ開始。

 

ゴトン。

 

「……。」

 

ゴトン。

 

「……。」

 

ゴトン。

 

浜谷の顔から、だんだん笑顔が消えていく。

 

「ちょっと待って。」

 

また補充。

 

そして。

 

また取られる。

 

浜谷は青ざめながら樋口のもとへ向かう。

 

「樋口さん。」

 

「ん?」

 

浜谷は小声で告げる。

 

「お茶カワ、乱獲されてます。」

 

「うそ!?」

 

樋口が目を見開く。

 

「まじ!?」

 

「めちゃくちゃ取られてます。」

 

「ええー!」

 

浜谷はクレーンゲームの方を見る。

 

「樋口さんが設定したので、そこは問題ないと思うんですけど……。」

 

樋口も不安そうに台を見る。

 

「うわぁ、最悪!」

 

「一旦、お客さんがいなくなったら設定見ます!」

 

「お願い!」

 

浜谷は再び巡回へ。

 

露骨に見張るわけにはいかない。

 

あくまで自然に。

 

別のクレーンゲームを確認して。

 

メダルゲームコーナーを通って。

 

また、お茶カワの近くへ。

 

チラッ。

 

まだ取っている。

 

「……すごいな。」

 

浜谷はしばらく様子を見る。

 

そこで。

 

あることに気づいた。

 

「ん?」

 

二人が取っている景品を見る。

 

同じキャラクター。

 

また同じキャラクター。

 

さらに同じキャラクター。

 

「……。」

 

浜谷の頭に、一つの可能性が浮かぶ。

 

(これ、まさか……。)

 

(転売ヤー?)

 

確証はない。

 

ただ単純に、そのキャラクターが大好きなのかもしれない。

 

浜谷には判断できない。

 

だからこそ、何も言わずに巡回を続ける。

 

その間にも――。

 

ゴトン。

 

ゴトン。

 

ゴトン。

 

「……。」

 

浜谷の顔が引きつる。

 

やがて。

 

十数体もの景品を手にした二人組は、満足そうにその場を離れていった。

 

「ありがとうございましたー……。」

 

浜谷はその背中を見送る。

 

そして。

 

すぐさまクレーンゲームへ。

 

「樋口さん!」

 

インカムで呼ぶ。

 

『はい!』

 

「お客さん離れました!」

 

浜谷は設定を確認する。

 

景品位置。

 

アーム。

 

各部の状態。

 

プレイ条件。

 

一つずつ確認していく。

 

「……。」

 

もう一度。

 

「……。」

 

問題ない。

 

樋口もやってくる。

 

「どう?」

 

「ちょっと待ってください。」

 

浜谷はさらに確認する。

 

そして――。

 

「……規定通りです。」

 

「え?」

 

「設定、問題ないです。」

 

樋口も確認する。

 

「ほんとだ……。」

 

二人で無言になる。

 

不正をされたわけでもない。

 

設定を間違えたわけでもない。

 

攻略不能な何かが起きたわけでもない。

 

浜谷は、十数体分空いた景品スペースを見る。

 

「……。」

 

そして静かに呟いた。

 

「あの人たち。」

 

「上手すぎただけだ……。」

 

樋口も苦笑い。

 

「それはどうしようもないね……。」

 

そこへ高村がやってくる。

 

「どうしたの?」

 

浜谷が振り返る。

 

「高村さん……。」

 

「僕たち。」

 

「景品を守れませんでした……。」

 

「何の話?」

 

樋口が吹き出す。

 

浜谷は空っぽになりかけた台を見つめる。

 

人気景品を守るため。

 

異変に気づき。

 

巡回し。

 

設定を確認した。

 

しかし――。

 

景品乱獲防衛隊、完敗。

 

相手が上手すぎる。

 

それだけは。

 

どうすることもできなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。