ある夏の日の阿佐野店。
浜谷はいつものようにバスから降りた。
「……ん?」
降りたところで、いつもと違う光景に気づく。
阿佐野店の近くに人が集まっている。
屋台らしきものも並んでいた。
浴衣姿の人。
家族連れ。
子どもたち。
遠くから祭囃子のような音も聞こえてくる。
「祭り?」
どうやら今日は、地域のお祭りが開催されているらしい。
「こんなのやってたんだ。」
浜谷は少し眺めてから、阿佐野店へ入った。
着替えを済ませ、売り場へ。
カウンター付近に古坂がいた。
「古坂さん。」
「ん?」
「外、なんか祭りやってますね。」
「やってるね。」
「今日だったんですね。」
古坂が思い出したように言う。
「なんか夜になったら、花火上がるらしいよ。」
「え、花火?」
「うん。」
「なんで?」
「わからない。」
「……。」
浜谷は古坂を見る。
「なんのお祭りなんですか?」
「それもよく知らない。」
「知らないんですか!」
「祭りやってるなーってくらい。」
「そんなもんですかね。」
浜谷は気になった。
地域のお祭り。
しかも夜には花火まで上がるらしい。
それなりに大きなイベントなのではないか。
しばらくして。
バックヤードで大澤を発見。
「あ、大澤さん。」
「何?」
浜谷は外を指さす。
「あれって、なんのお祭りですか?」
「……。」
大澤が少し考える。
「わからない。」
「大澤さんも!?」
「なんか毎年やってるよ。」
「毎年やってるのに知らないんですか?」
「知らない。」
「誰なら知ってるんだ……。」
謎は深まるばかり。
さらにしばらくして。
「おはようございまーす。」
細井が出勤してきた。
浜谷がカウンターにいると、細井が話しかけてくる。
「浜谷くん。」
「はい?」
「なんか祭りやってたね。」
「そうなんですよ!」
浜谷は食いつく。
「細井さん、あれってなんなんですか?」
「わからない。」
「細井さんもか!」
「え、知らないよ。」
「古坂さんも大澤さんも知らなかったんですよ。」
「じゃあ誰も知らないんじゃない?」
「そんなことあります?」
祭りは確かに開催されている。
人もたくさんいる。
屋台もある。
夜には花火まで上がるらしい。
しかし。
阿佐野店のスタッフは――。
誰もよく分かっていない。
「まあ、いいか。」
浜谷は考えるのをやめた。
その後。
浜谷はいつものようにクレーンゲームコーナーを巡回していた。
今日は普段より少しお客様が多い。
やはり祭りの影響なのだろう。
「ありがたいな。」
そう思いながら歩いていると。
「……ん?」
床に何か落ちている。
浜谷が近づく。
「ポップコーン……。」
拾ってゴミ箱へ。
さらに進む。
「……わたあめ?」
割り箸に少し残ったわたあめ。
浜谷は無言で回収する。
そして。
「あ。」
今度はベンチの下。
飲みかけのジュース。
「……。」
浜谷はそれを見つめる。
「祭り帰り、マナー悪いって……。」
外で買ったものを持って店内へ入り、そのまま置いていったらしい。
ポップコーン。
わたあめ。
ジュース。
祭りの痕跡が、なぜか阿佐野店のあちこちに残されている。
浜谷はゴミを回収しながらため息をついた。
「楽しむのはいいけど、ゴミくらい捨ててくれよ……。」
しかし。
悪いことばかりではなかった。
夕方になっても、阿佐野店には普段より多くのお客様がいる。
祭りへ行く前に寄る人。
祭り帰りに寄る人。
子どもにせがまれてクレーンゲームを遊ぶ家族。
いつもの夏の日より。
ほんの少しだけ――。
売り上げが良かった。
カウンターへ戻った浜谷。
古坂が言う。
「今日ちょっと売り上げいいね。」
「祭り効果ですかね。」
「かもね。」
細井も外を見る。
「夜、花火上がるんでしょ?」
「らしいですよ。」
大澤もやってくる。
浜谷は改めて三人を見る。
「結局。」
「ん?」
「あれ、なんのお祭りなんですか?」
「……。」
古坂。
細井。
大澤。
三人が顔を見合わせる。
そして。
「わからない。」
「わからない。」
「わからない。」
「誰も知らない!」
浜谷がツッコむ。
外では今日も。
よく分からない祭りが盛り上がっている。
阿佐野店にはゴミが増えた。
お客様も増えた。
売り上げも、ほんの少し増えた。
そして夜には。
花火が上がる――らしい。
ただし。
なんの祭りなのかは、最後まで誰も分からなかった。