ある日の阿佐野店。
浜谷は出勤すると、いつものように勤務表を確認した。
「今日は遅番か……。」
自分の名前。
茂田。
樋口。
高村。
一人ずつ確認していく。
そして、ふと気づいた。
「……あれ?」
もう一度見る。
「茂田さん。」
「ん?」
「今日、締めできる人いなくないですか?」
浜谷は学生アルバイト。
当然、一人で閉店作業をすることはできない。
このままでは締めスタッフがいない。
しかし。
茂田はまったく焦っていなかった。
むしろ――。
ニヤリ。
「ちゃんと呼んでるニダ。」
「呼んでる?」
「もうすぐ来るニダ。」
「誰ですか?」
茂田は答えない。
浜谷は首をかしげる。
しばらくして。
スタッフ入口から一人の男が現れた。
「お疲れ様です。」
浜谷が振り返る。
「……え?」
そこにいたのは――。
日村。
「日村さん!?」
「お疲れ。」
「なんでいるんですか!?」
茂田が笑う。
「今日の締めスタッフニダ!」
「日村さんが!?」
日村は阿佐野店で締めスタッフが足りない時には、原町中央店から応援に来ることがある。
浜谷が阿佐野に応援に来る前には日村が応援に来ていた。
「阿佐野にも来るんですね。」
「たまにね。」
「知らなかった……。」
浜谷は少し嬉しそうに笑う。
最近は阿佐野店への応援勤務が多い浜谷。
そこへ原町中央店で一緒に働いてきた日村が現れた。
なんとも不思議な感覚だった。
「阿佐野の最終兵器じゃないですか。」
「ナニソレ。」
日村が笑う。
「締めスタッフがいない!」
「どうする!?」
「日村さん召喚!」
「召喚って。」
その後。
カウンターでは、高村、日村、浜谷の三人が新しく届いた景品を開封していた。
段ボールから景品を取り出し、袋を剥いていく。
作業をしながら、高村が話題を振る。
「そういえば、お茶カワの映画見た?」
浜谷が顔を上げる。
「お茶カワですか?」
「そう!」
「いやぁ……。」
浜谷は苦笑いする。
「僕、お茶カワ知らないんですよね。」
「えー!」
高村が驚く。
すると。
隣で黙々と景品を剥いていた日村が顔を上げた。
「お茶カワはね――。」
「ん?」
突然、日村の解説が始まった。
「最初は――。」
「へぇ。」
「それで、このキャラクターが――。」
「そうなんですか?」
想像以上に詳しい。
浜谷は景品を剥く手を止めて日村を見る。
「日村さん、めちゃくちゃ知ってるじゃないですか。」
「知ってるよ。」
高村も笑う。
「詳しいよね。」
日村のお茶カワ講座は、しばらく続いた。
「なるほど……。」
浜谷は頷く。
「ちょっとだけ詳しくなりました。」
「映画も見れば?」
「そこまで行くかは分かんないです。」
「なんでよ!」
三人が笑う。
その時。
メダルゲームコーナーからエラー音が聞こえた。
浜谷が反応する。
「あ。」
インカムにも連絡が入る。
浜谷は立ち上がった。
「僕、見てきます!」
工具を持ってメダルゲームへ向かう。
エラー内容を確認。
扉を開ける。
「これは……。」
浜谷は内部を覗き込む。
原因になりそうな箇所を一つずつ確認していく。
配線。
センサー。
メダルの通り道。
「ここかな。」
部品を外して確認。
調整して、元へ戻す。
浜谷は一人で黙々と作業を進める。
その少し後ろ。
いつの間にか日村が立っていた。
しかし。
何も言わない。
浜谷の作業を、ただ見守っている。
浜谷はそれに気づかない。
「これで……。」
電源を入れる。
動作確認。
エラー表示が消える。
正常に動き始めた。
「よし!」
浜谷が小さくガッツポーズ。
そこで振り返る。
「うわっ!」
「日村さん!」
「オツカレサマデース。」
「いつからいたんですか?」
「ちょっと前から。」
「言ってくださいよ!」
日村は直ったメダルゲームを見る。
それから浜谷を見る。
「自分で直せるようになったね。」
「まあ、最近メンテばっかりやってますから。」
浜谷は少し得意げに笑う。
日村は静かに頷いた。
そして。
「成長したね。」
「……。」
浜谷が一瞬、黙る。
原町中央店。
まだメンテナンスのことをほとんど知らなかった頃。
分からないことがあれば日村に聞いた。
できないことがあれば助けてもらった。
その日村が今。
自分の後ろで作業を見守っていた。
浜谷は少し照れくさそうに笑う。
「ありがとうございます。」
日村も笑う。
「でも、無理はしないようにね。」
「はい!」
二人でカウンターへ戻る。
そこでは高村と樋口が作業を続けていた。
茂田が二人を見る。
「直った?」
「直りました!」
「琉くんが一人で直したニダ?」
「はい!」
浜谷が答えるより先に、日村が言った。
「ちゃんと直してたよ。」
浜谷は少し嬉しくなる。
「阿佐野の最終兵器に認められました。」
日村が浜谷を見る。
「だから最終兵器って何?」
茂田が笑う。
「ヒムは阿佐野の最終兵器ニダ!」
「茂田さんまで!」
浜谷も笑う。
原町中央店のメンテナンス担当。
そして時々――。
阿佐野店の締めスタッフ。
困った時に現れる男。
浜谷は日村を見る。
「やっぱ最終兵器ですよ。」
「違うから。」
その日の阿佐野店は。
いつもより少しだけ――。
原町中央店の空気が混ざっていた。