ある日の休憩室。
「ふぅ……。」
休憩に入った浜谷は椅子に座り、スマホを眺めていた。
特に見るものもなく、なんとなくショート動画を流していく。
料理。
動物。
お笑い。
そして――。
「ん?」
おすすめに、一組のアイドルグループのライブ映像が流れてきた。
最近流行っているらしい五人組。
浜谷はアイドルに詳しくないため、グループ名もメンバーの名前も知らない。
「へぇ。最近こういうアイドル流行ってんのか。」
なんとなく動画を見続ける。
まず映ったのは――。
黄色を担当している女性。
立ち位置や話し方を見る限り、どうやらリーダーらしい。
浜谷はその顔を見て首をかしげる。
「……ん?」
もう少し見る。
「え?」
髪型。
髪色。
雰囲気。
「なんか古坂さんに似てる……。」
かなり似ている。
すると黄色のアイドルがカメラに向かってポーズを決める。
『みんなの視線を設定しちゃうぞ!』
「……。」
浜谷は真顔になる。
「どういうことだよ。」
次に映ったのは、その隣にいた青色担当。
「……あれ?」
浜谷はスマホに顔を近づける。
「こっちは樋口さんに似てるな……。」
これまた似ている。
青色のアイドルが元気いっぱいに自己紹介する。
『シナモンよりも、みんなが大好き!』
「!?」
浜谷が思わずスマホを二度見する。
「この人もシナモン好きなんだ。」
顔だけじゃない。
まさか趣味まで。
「すごい偶然だな……。」
映像はセンターへ。
赤色を担当しているアイドル。
浜谷は一目見て呟く。
「これは川原さんに似てるな。」
同い年の川原。
顔立ちや雰囲気まで、どことなく似ている。
画面の中でセンターが笑顔を見せる。
『君に出会えた奇跡にありがとう!』
「……。」
浜谷は少し考える。
「確かに初めての同い年のスタッフだけど……。」
何か違う気もする。
続いて。
ピンク担当。
「……大沼さん!?」
思わず声が出る。
「めっちゃ似てるな……。」
そのアイドルは控えめな笑顔から一転、カメラに向かって決める。
『みんなを沼にハマらせるよ!』
「大沼さんはそんなこと言わないか。」
浜谷は笑う。
そして。
最後に映ったのは――。
緑色担当のアイドル。
「……。」
浜谷の表情が止まる。
もう一度見る。
「……細井さんだ。」
さらに見る。
「いや。」
「そっくりすぎるだろ。」
画面の中の緑色担当が満面の笑みを浮かべる。
『愛を100回転!』
「……え?」
浜谷が首をかしげる。
「パチンコ?」
なんなんだ、このアイドルグループは。
黄色は古坂。
青は樋口。
赤は川原。
ピンクは大沼。
そして緑は細井。
浜谷は五人が並んで歌う映像を見つめる。
「……。」
「原町中央にも阿佐野にも、そっくりな人いたな。」
偶然にしては出来すぎている。
しかし。
世の中には似ている人が三人はいるという。
「まあ、そんなこともあるか。」
ちょうどライブ映像が終わった。
その瞬間。
「わー!!!」
「うわぁぁぁ!!」
浜谷が飛び上がる。
「びっくりしたぁ!」
慌てて振り返る。
そこには――。
細井。
古坂。
樋口。
三人がニヤニヤしながら立っていた。
「何してるんですか!」
細井が浜谷のスマホを見る。
「何見てんの?」
「え?」
浜谷は反射的にスマホの画面を隠す。
古坂が目を細める。
「なんで隠したの?」
樋口もニヤニヤ。
「やましいものでも見てた?」
「違います!」
「そういうことじゃなくて……。」
三人が浜谷を見る。
「……。」
浜谷はスマホを握りしめる。
「いや、本当に何でもないです。」
細井が首をかしげる。
「ふーん。」
「浜谷くん、変なの。」
「変じゃないです!」
古坂は時計を見る。
「さぁて。」
「そろそろ仕事に戻ろうかな。」
「そうですね。」
古坂は立ち上がる。
そして何気なく呟く。
「クレーンゲーム、設定しないと。」
「!?」
浜谷が古坂を見る。
「……設定?」
「何?」
「いや……。」
古坂はそのまま休憩室を出ていく。
続いて樋口。
浜谷の横を通り過ぎながら――。
「シナモンよりも大好き。」
「!?」
浜谷が勢いよく振り返る。
「樋口さん!?」
「なに?」
「今なんて?」
「別に?」
樋口は笑いながら出ていく。
残った細井も立ち上がる。
「よーし。」
大きく伸びをする。
「お店、巡回100回転するぞー。」
「!?」
浜谷は立ち上がる。
「ちょっと待ってください!」
細井が振り返る。
「何?」
「……。」
三人の顔。
さっき見た五人組アイドル。
黄色。
青。
緑。
浜谷の頭の中で何かがつながりそうになる。
しかし――。
「……いや。」
「まさかな。」
細井が笑う。
「浜谷くんも休憩終わったらちゃんと戻ってきてね。」
「はい……。」
細井も休憩室を出ていった。
一人残された浜谷。
スマホを見る。
もう一度、先ほどの動画を再生する。
画面には五人組アイドル。
「……。」
浜谷は腕を組む。
「似てるなぁ……。」
そして。
もっと根本的な疑問にたどり着く。
「ていうか。」
「このアイドル……。」
「なんて名前なんだ?」
結局。
最後まで何も分からない浜谷なのだった。