ある日の阿佐野店。
今日も店内には、茂田の声が響いていた。
「おつかれさまぁ〜ず!」
スタッフが退勤すれば。
「シーユーアゲイン!」
何かをお願いするときは。
「頼むニダ!」
そして了承するときは。
「OK冷奴!」
浜谷はそんな茂田を見ながら、ふと思う。
「……。」
茂田には、とにかく口癖が多い。
おつかれさまぁ〜ず。
頼むニダ。
シーユーアゲイン。
OK冷奴。
挙げればキリがない。
「僕もそろそろ……。」
浜谷は小さく呟く。
「何か対抗できる口癖、欲しいな。」
別に対抗する必要はない。
しかし浜谷の中では、なぜか対抗戦が始まっていた。
しばらくして。
浜谷がお客様の対応をしていると、少し離れたところから別のお客様に呼ばれる。
「あ、すみません!」
しかし目の前の接客はまだ終わっていない。
浜谷はインカムを入れる。
「茂田さん。」
『はいニダ!』
「すみません、こちら接客中なので、あちらのお客様お願いしてもいいですか?」
『OK冷奴!』
「お願いします!」
茂田がお客様のもとへ向かう。
浜谷もそのまま接客を続けた。
数分後。
「ありがとうございました!」
対応終了。
浜谷がカウンターへ戻る。
ちょうど茂田も接客を終え、戻ってきた。
「お疲れ様です。」
「終わったニダ!」
「ありがとうございました。」
その瞬間。
浜谷の頭に電流が走る。
(……待て。)
(今じゃないか?)
新しい口癖。
茂田に対抗するため、密かに考えていた言葉。
(カマすなら今だ……!)
浜谷は茂田を見る。
そして。
「産休先生!」
「……。」
茂田が止まる。
「ん?」
浜谷はもう一度。
「産休先生!」
茂田は首をかしげる。
「先生じゃないよ?」
「……。」
浜谷の顔が一気に赤くなる。
「いや!」
「産休とサンキューをかけてるんです!」
「サンキュー?」
「そうです!」
「だから産休!」
茂田はまだ納得していない。
「じゃあ先生は?」
「……。」
痛いところを突かれた。
「先生は……。」
「語呂です!」
「語呂?」
浜谷は必死に説明する。
「茂田さんの『OK冷奴』って、OKって意味ですよね?」
「そうニダ!」
「それと同じです!」
「『産休先生』で『サンキュー』ってことです!」
「なるほどニダ。」
茂田は少し考える。
そして笑う。
「いいじゃん!」
「これから使っていって!」
「お!」
浜谷の顔が明るくなる。
「かしこまりこ様!」
「!!!!」
茂田の目が見開く。
「何今の!?」
「え?」
浜谷は逆に驚く。
「かしこまりこ様ですか?」
「それ最高!」
「え?」
「かしこまりこ様!」
茂田がすぐに復唱する。
浜谷は首をかしげる。
「あれ?」
「僕、前から使ってませんでしたっけ?」
「聞いてないニダ!」
「そうでした?」
茂田はすっかり気に入った様子。
「かしこまりこ様!」
「いい!」
「これ使うニダ!」
浜谷は困惑する。
「ちょっと待ってください。」
「今日僕が推したかったのは『産休先生』なんですけど。」
「かしこまりこ様!」
「そっち!?」
茂田は楽しそうに繰り返す。
「かしこまりこ様!」
「めちゃくちゃ気に入ってるじゃないですか!」
浜谷が一生懸命考えた、
「産休先生!」
しかし。
その直後、何気なく放った――
「かしこまりこ様」
が、茂田の心を完全に射抜いてしまった。
「琉くん!」
「はい!」
「これ補充お願いニダ!」
浜谷は胸を張る。
「かしこまりこ様!」
茂田も笑顔で返す。
「かしこまりこ様!」
「なんで茂田さんも言うんですか!」
新たな口癖が二つ誕生した阿佐野店。
果たして「産休先生」は定着するのか。
それとも。
「かしこまりこ様」にすべて持っていかれるのか。
それはまだ――
誰にも分からない。
「じゃあ琉くん、頼むニダ!」
「かしこまりこ様!」
「最高!」
浜谷は笑いながら売り場へ向かった。
「……産休先生も使ってくださいね!」
「OK冷奴!」
「そこは産休先生でしょ!!」