ある日の阿佐野店。
今日は、なんだか妙に混んでいた。
クレーンゲームコーナーには多くのお客様。
「すみませーん!」
「あ、はい!ただいま!」
浜谷が呼ばれる。
景品を手直し。
終わったと思ったら――。
「店員さーん!」
「はい!」
今度は反対側。
景品を手直し。
さらに。
「すみません!」
「ただいま!」
あっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
「今日めっちゃ呼ばれるな……。」
浜谷は忙しく店内を走り回っていた。
そんな中。
「店員さーん!」
「はい!」
浜谷が振り返る。
クレーンゲームの前に、女性二人組が立っていた。
一人は茶髪でミニスカートのギャルっぽい女性。
もう一人は、スレンダーな黒髪ロングヘアーの女性。
「これ、取り方教えて〜。」
「あ、はい!」
浜谷はすぐにクレーンゲームを確認する。
景品の位置。
アームの動き。
狙うポイント。
「これだったら、ここのアームを――。」
浜谷が狙う場所を指さす。
「ここに狙ってください!」
「ここ?」
「はい!そこにうまく当てれば動くと思います!」
「分かりました〜。」
「頑張りま〜す!」
「頑張ってください!」
浜谷はその場を離れ、再び巡回へ。
数分後。
「店員さーん!」
「はい!」
先ほどの二人組だった。
「位置戻して〜。」
「分かりました!」
浜谷は景品を確認し、位置を手直しする。
「はい、どうぞ!」
「ありがと〜。」
「いえいえ!」
再び巡回へ。
そして数分後。
「店員さーん!」
「はい!」
また二人組。
「もう一回、位置戻して〜。」
「はい!」
浜谷が筐体の中を見る。
しかし。
「……あ。」
先ほどよりかなりいいところまで来ている。
「この状態まで来たら、もう少しですよ!」
「ほんと?」
「はい。このアームで、ここをこうすれば――。」
浜谷が身振りを交えて説明する。
「多分いけます!」
「分かりました〜。」
すると。
「店員さん、そこで見てて〜。」
「え?」
「ちゃんと取れるか見てて!」
「……分かりました。」
仕方なく浜谷は、いつでも手直しできる位置で見守ることにした。
プレイ開始。
アームが動く。
「そこです!」
しかし。
景品が少し動き――。
アームの届かない位置へ。
「あー!」
二人が声を上げる。
だが。
浜谷はすでに動いていた。
「手直ししますね!」
すぐに景品を元の位置へ。
「ありがとうございます!」
「いえいえ。」
再度チャレンジ。
浜谷もその様子を見守る。
「そこです、そこ!」
浜谷が先ほど教えた通りに、アームが動いていく。
そして。
景品を捉える。
少しずつ動いて――。
「おっ!」
次の瞬間。
ゴトン!
景品が落ちた。
GET!!
「やったー!」
「取れたー!」
二人組が大喜び。
浜谷も笑顔になる。
「おめでとうございます!」
茶髪の女性が景品を取り出す。
そして浜谷を見る。
「店員さーん、ありがとう!」
「いえいえ!取れてよかったです!」
黒髪の女性も笑う。
「店員さんのおかげじゃん!」
「いやいや、最後はお二人の実力ですよ。」
すると二人が顔を見合わせる。
そして。
「店員さん――。」
「好き♡」
「……。」
浜谷の動きが止まった。
「……あ。」
顔が赤くなる。
「ありがとうございます……。」
二人は笑いながら景品を持って去っていった。
「またね〜店員さーん!」
「ありがとうございましたー!」
浜谷は二人を見送る。
「……。」
ちょっと嬉しい。
いや。
かなり嬉しい。
しかし浜谷は知らなかった。
その一部始終を――。
カウンターにいた細井が、しっかり見ていたことを。
しばらくして。
浜谷がカウンターへ戻ってくる。
「いやぁ、忙しいですね今日。」
「そうだね。」
細井はニヤニヤしている。
浜谷が気づく。
「……なんですか?」
「別に?」
「なんか笑ってません?」
「笑ってないよ。」
「絶対笑ってるじゃないですか。」
細井は浜谷の顔を見る。
そして一言。
「浜谷くん。」
「はい?」
「鼻の下、伸ばしてたね。」
「……。」
浜谷が固まる。
「伸ばしてませんよ!」
「伸ばしてた。」
「接客です!」
「『好き♡』って言われて顔赤くなってたじゃん。」
「見てたんですか!?」
「見えてたもん。」
細井は楽しそうに笑う。
浜谷は必死に否定する。
「いやいや!」
「そりゃ『好き』って言われたらちょっとは嬉しいじゃないですか!」
「やっぱり嬉しかったんだ。」
「……。」
浜谷はしまったという顔をする。
細井はさらにニヤニヤ。
「鼻の下がのび〜るくん。」
「誰がのび〜るくんですか!」
「浜谷くん。」
「即答しないでください!」
細井は大笑い。
浜谷は恥ずかしそうに売り場を見る。
「もう巡回行ってきます!」
「はーい。」
浜谷が逃げるようにカウンターを離れる。
その背中に。
細井がもう一度。
「のび〜るくーん!」
浜谷は振り返らない。
ただ。
耳だけが――。
少し赤かった。